天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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14.後朝

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 ああ、もう朝か。 

 今日って雨なのかな。 

 何か、薄暗い。 

 

 微睡みのなか、雨なら外の掃除は出来ないな、と思いつつ寝返りを打とうとした佳音は、その寝具の肌触りがいつもと違うことに気づいた。 

  

 それになんか窮屈だし、枕が。 

 

 なんかこの枕あったかい、と目を開いた佳音はそのまま固まった。 

 目の前で、神の造形としか思えない美丈夫が静かな寝息を立てている。 

 

 あ、シライは天空神様だった。 

 

 何となく気安い感じがしてしまっているが、シライは間違いなく神であったと思いつつ、佳音はその天空神にしっかりと抱き締められた状態、しかもその腕を枕に眠っていた現実に気が遠くなった。 

 

 神様と共寝して、腕枕してもらうとか神官にあるまじき・・・って。 

 俺もう神官じゃない、ってシライが言ってたよな。 

 だったらいいのか? 

 

 うーん、と悩みつつも、佳音は顔を洗うべく寝台を抜け出そうとして、まずシライを起こさないように気を付けながらそっとその腕を外そうと試みたところ、何故か余計に強く抱き締められる結果となった。 

 

 抱き籠と間違えているのかな。 

 あれ抱いて眠ると心地いい、って言うから。 

 それにしても、寝顔まで麗しいうえに男っぽくもあるとか、ほんと腹立つ。 

 

「俺にも分けろ、この美丈夫」 

 思わず呟くもシライが目覚める気配は無い。 

 仕方がないのでそのまま見つめていると、まるで笑うのを我慢しているかのようにシライの口元が微かに動くのが見えた。 

「ん?もしかして起きてる?」 

 言ってみるも、シライは反応しない。 

「シライ?」 

 指先で、触れるか触れないかくらい頬をつつくも瞼は持ち上がらない。 

 しかし、シライの身体が僅かに強張るのを感じて佳音は確信した。 

 

 起きてんだろ、この狸! 

 揶揄うってんなら、揶揄い返すまで! 

 見てろよ、俺の演技力。 

 

「シライ・・・ねえ起きて。お願い。俺をひとりにしないで」 

「っ!」 

 俺は役者、となり切って甘い声でシライの耳元に佳音が囁いた途端、腕に抱いた佳音ごと、シライががばっと跳ね起きた。 

「どうだ!驚いたうえに気持ち悪かっただろう!これに懲りたら、狸寝入りなんて・・・・っ」 

 揚々と言いかけた佳音は、爛々と輝くシライの瞳に絶句した。 

 

 あの目。 

 昨日の晩も見たような。 

 

「朝から可愛いことを言っていると思って聞いていれば。そうか、昨日のあれでは足りなかったか。奇遇だな、オレもだ」 

「え?いや、そんな。俺はもうお腹いっぱい」 

「オレの精で、か?」 

 男臭い顔で言ったシライに腹を撫でられ、佳音は身震いする。 

「あ」 

「オレが着せた衣を、オレが脱がせるというのも一興だな」 

 そういえば、着た覚えの無い寝衣をきちんと着て寝ていた、と佳音が気づいた時、その寝衣は既に大きく胸元をはだけられ、素肌に焦らすようにシライの手が添えられていた。 

「あ、あの」 

 

 これは。 

 またこれからする、ってことかな。 

 なら、洗浄しないと。 

 

 一晩経ったのだし、と焦る佳音の頭を、シライがぽんぽんと撫でる。 

「昨夜が初めてだったのに、その翌朝からまた強いるような無体はしない。安心しろ」 

「え?しないの?じゃあ、なんではだけさせたんだ?」 

「仕置きだ」 

「お仕置き」 

「ああ・・・本当に抱きたくなるから勘弁してくれ。いいからほら、顔を洗おう」 

 きょとんとする佳音を本気で押し倒しそうになったシライが、そう言って思い切ったように佳音の寝衣の前を勢い良く合わせて素肌を隠し、寝台にぐるりと張り巡らされている、紗を幾枚も重ねた帳を小さく開いて鈴を鳴らす。 

「シライ。俺、してもいいよ?洗浄しないといけないんじゃないのかな、とは思っていたけど」 

「っっっ!!慣れたら昼夜問わず思い切り抱き潰してやるから覚悟しておけ!」 

 何とか理性を保って言った言葉を不思議そうに聞き、またも理性を挫くような事を言う佳音に、シライこそは言葉が通じないのか、本当に抱き潰すぞと声を荒らげた。 

 

 
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