天の斎庭 ~そらのゆにわ 天空神の溺愛に、勘違い神官は気づかない。え!?俺生贄じゃないの!?~

夏笆(なつは)

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6.|玉《ぎょく》

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「あれ?もう何ともない」 

 佳音の胎内で存在を主張して蠢いていた何かは、然程の時を経ずにその動きを止め、佳音は苦しみから完全に開放された。 

「しかし苦しかったろう。分かっていたのだが、すまない」 

「いや、全然。ちょっと拍子抜けした」 

 心底申し訳なさそうにシライは言うけれど、もっと長く続くものと覚悟していた佳音は、あっけらかんとそう言った。 

 

 それに、なんか生きているし。 

 

 あの苦しみの果てに自分は逝くのだと思っていた佳音は、ゆったりと自分を抱き込んだままのシライを見あげる。 

 

 なんか、ほんとに大きいな。 

 

 同じ男として羨ましい限りだ、と見つめればシライが困ったように眉を寄せた。 

「今度はなんだ?先ほどまでのきょとんとした目も可愛かったが、今は何かオレに物申したいことがあるような目をしている」 

「ああ。シライは本当に大きいなって思って。俺なんか完全にすっぽりじゃないか」 

 初対面から思い知らされていたけど、と佳音が言えばシライがふっと笑う。 

「なれば、このようなことも出来る」 

「わあっ」 

 不意に抱き上げられた佳音が声をあげれば、シライは悪戯が成功した子どものように笑い声をあげた。 

 一見ふざけた態度に見えるものの、シライの目には苦しさを堪えた佳音を案ずる色があり、それを嬉しく思った佳音はシライの行動にのることにする。 

「こんなことして、すぐにばてるんじゃないのか?」 

「うむ。初めてだからな。絶対にばてないかは分からないが、落としはしないから案ずるな」 

「え!?初めて!?」 

「おうよ。このようなこと、佳音以外しようとも思わぬ」 

 あっさりと言い切ったシライに、佳音は何とも言えない気持ちになった。 

「それで、どうして落とさないって分かるんだよ?」 

「オレが佳音を落とすわけないからだ」 

「その自信、どこから!?」 

「いいから落ち着け。落としはしない。絶対に」 

「本当だな?わざと落としたりするなよ?」 

 言いつつ佳音がシライの首にしっかりと抱き付けば、シライは益々嬉しそうに笑う。 

 そうして部屋を横切り行きついたのは、先ほど使用人と思しき人達が入って来たのとはまた違う引き戸。 

「ここは?」 

「湯殿だ」 

 言われてみれば脱衣所のように見えなくもない、がこの広さは、と思う佳音を抱き上げたまま、シライは奥へと向かう。 

「ひえええ」 

 そこは確かに脱衣所で、棚にはこれまた見事な籐の籠が置いてある。 

 ここで寝られるほどに広い、と驚き目を瞠る佳音に、シライに指示された使用人と思しきひとりが佳音にこの場所の説明をしてくれた。 

 曰く、ここには湯殿の他ご不浄や洗面台も揃っていて、もちろんいつでも利用していいとのこと。 

 そしてひとつひとつの扉を開け、丁寧に使い方までもを教えてくれる。 

「わあ。ご不浄も見た事ない造りで凄いし、洗面所も凄い。ご不浄と思えないほど清潔で排泄物流せるとか是非村でも真似したいし、流しは井戸から汲まなくても水が出るなんて労働の軽減に物凄く貢献しそう」 

 いつでも使っていいと言われても誰に伝えることも出来ないし、何よりこの一回だけなのだろうと残念に思いながら言えば、嬉しそうにシライが佳音へ手を伸ばす。 

「さあ。では、湯あみをしようか」 

 そう言って楽し気に佳音の衣に手をかけたシライに、佳音は飛び上がらぬばかりに驚いた。 

「おっ、俺!俺、ご不浄行ってから!」 

 何とかシライの手を逃れた佳音であったけれど、そのご不浄前で待ち構えていたシライに掴まってしまうことなど、最初から決まっていたに決まっているのである。 

 

 

 

「もう、身体は何ともないか?」 

「うん。それは、平気」 

 着ていた衣をシライ自ら脱がしたのみならず、身体の隅々までもをシライに洗われてしまった佳音は、とてつもなく恥ずかしいうえに神への不敬ここに極まれり、と広い湯船に沈み込みたい気持ちでいた。 

  

 今だって、こんな状態だし! 

 これ、生贄に対する態度じゃないだろ! 

 

 心地よい湯に浸かっている佳音の背に感じるのは、鍛えられているのが分かる広い胸。 

 もちろんそれはシライのものであり、佳音は神を背もたれに湯船につかっている状況に眩暈さえ起こしそうなのに、当のシライは上機嫌で佳音の腹を優しく撫でる。 

「苦しい思いをさせて悪かった。しかし、佳音がこの場に馴染むに必要な処置だったのだ。許せ」 

「馴染む?」 

「ああ。佳音に飲ませたのは、特殊なぎょくだ。これにオレの精を注ぐことで完全に馴染む」 

 うっとりと言うシライに、佳音はくるりと振り向いた。 

「シライの精を注ぐって?」 

 湯あみが済めば今度こそ生贄としての役目を全うすると思っている佳音が不思議そうに問えば、シライが優しくその肩から腕にそっと手を滑らせる。 

「それも知らぬのか。だが問題無い。オレに委ねていればいい」 

「んっ。何だかよく分からないけど、よろしくお願いします?」 

 身体を滑るシライの手にあがりそうになる声を何とか堪えながら、佳音は首をかしげつつそう言った。 

 

 

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