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135.百年前からの確執と負債
しおりを挟むあけまして おめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
~・~・~・~・~・
「それにしても、ウェスト公爵家は素晴らしいですね。この学園都市で経済援助をされているなんて」
ポーレット侯爵家も自領では行っているけれど他領ではと言えば、パトリックさまがああと呟いた。
「それはあれ、百年前の戦役の影響だよ。負けちゃったからね。王家直轄のこの地の整備を請け負わされたんだ。で、その後も何かと手を入れているわけ。まあ、義務だよ」
「始まりは義務だったかもしれませんが、現在の経済援助の在り方はウェスト公爵家の意志なのではありませんか?そうでなければ、あれほど住み心地の良さを追求されることはないかと」
義務ならば、要は器だけ用意すればいいという家も多いなか、きちんと手を加え住人のことを気に掛けているウェスト公爵家は素晴らしいと言い募れば、パトリックさまがじっと私を見る。
「面倒だと思わない?そういうの」
「面倒。何故ですか?」
「だって、要は負債だから。これ以外にもノース公爵家とは未だに確執があるし、その影響で王妃陛下の覚えも悪い。百年前の戦争が今も尾を引いている部分も多いんだよ」
「確かにその辺り、私は不勉強でした。我が家は、余り百年前の戦争について触れないものですから」
父も母も、歴史上の話として我が家の立ち位置について説明はしてくれたけれど、そこに感情が乗ることは無かった。
「この先、ローズマリーにはそういう面でも苦労させると思う」
「次代を担うパトリックさまに嫁ぐのです。それ相応の覚悟はあります」
百年前の戦争の負債については確かに不勉強だったけれど、ウェスト公爵という大家に嫁ぐ覚悟ならとっくにしていると私が言えば、パトリックさまが真剣な目で私を見る。
「護る領地は広大、王家との仲は微妙。そんな家でも?」
「もちろんです。ウェスト公爵家が広大な領地を見事な手腕で収めていらっしゃることは有名ですし、王家との仲の微妙さで言えば、最早私が旗頭になっていて申し訳ないくらいです」
テオとクリアのことで王家に秘密を持つことになった私が言えば、パトリックさまがふっと笑う。
「旗頭、って」
「だってそうでしょう?建国史にまで及ぶ不敬と言われそうなのですから。疫病神と言われても仕方ありません」
「随分麗しい疫病神だ」
楽しげにくすりと笑いさえするパトリックさまに、私は眉間に皺を寄せた。
「わたくしは本気で言っています。笑っている場合ではないのです。沈み行く船かも知れないのですよ?」
「ローズマリーと共に沈むのなら本望だけど、沈まないように頑張ろうね」
「はい。疫病神などと真に言われないよう努力します」
誰も不幸になどならないように、と私が力強く頷けばパトリックさまも真顔になる。
「大丈夫だよ。疫病神どころか我が領では女神扱いなんだから」
「それは、土地神さま方のお蔭でしかありません。何より期待外れと言われるのが一番怖いです」
人の評価が一転するなど一瞬だ、と私は身震いしてしまった。
「ローズマリーなら心配ないと思うけど、その気構えはいいね。ローズマリーとならよりよい未来が拓けると、改めて思うよ。この街の事業のことも反対は無いようだし」
「ありません。本当に素晴らしいことだと思って。それでですね、パトリックさま。今の施設に加えて、子どもを預かるような施設を作ることは可能でしょうか?」
「子どもを預かる施設?」
前のめりになった私の問いに、パトリックさまが不思議そうに首を傾げた。
はう。
そんな幼げな仕草と表情も素敵です。
大好き。
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