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127.噴水事件 2

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「なにその顔。本当なんだからね。これまでだって、あたしはリリーとローズマリーにいじめられてて。今日は、気持ちいいな、って噴水に居たら、突然突き飛ばされて落ちちゃったの。あたし、本当にびっくりして怖かったけど、頑張って歩いて来て」 

「バケツの水を被ったのではなく、噴水に落とされてずぶ濡れになった、と」 

「うん、そう・・・あたし、ほんと怖かった」 

 思い出しても、と瞳を潤ませ訴える激烈桃色さんに確認するように言った先生に、激烈桃色さんが震えながら言い募る。 

 そうすると、長くきれいな桃色の髪が雫を含んだまま肩から流れ落ち、何ともいえずきれいな情景を生んだ。 

 

 可愛い。 

 本当に物語の場面を見ているよう。 

 

 そんな激烈桃色さんの可愛さに私は思わず見惚れそうだったけれど、周りはそんな様子は皆無で、むしろ白々しいと言わぬばかりの目で激烈桃色さんを見るその口元は、歪んでさえいる。 

「そんな話、誰が信じるというんだ」 

「だって本当なの。信じてウィリアム」 

「無理だ」 

 そんな何とも言えない空気のなか吐き捨てるように言ったウィリアムに、激烈桃色さんは潤んだ瞳を向けて縋ろうとするも、その腕を完璧に避けたウィリアムが激烈桃色さんに向ける瞳はとても冷たい。 

 

 こ、ここにも絶対零度が! 

 

 こんなウィリアム見たことないと思っていると、激烈桃色さんがその標的をアーサーさまとパトリックさまに変更した。 

「いいもん、ウィリアムなんてもう知らない。ねえ、パトリック、アーサー。ふたりは、あたしを信じてくれるよね?ね、護ってくれるって言ったもんね」 

「信じるわけが無い」 

「君を護ろうなど、思ったこともない」 

 身を寄せ・・・ようとして、それには失敗したものの、めげることなく甘く囁くように言った激烈桃色さんに、けれどふたりの態度は素っ気ない。 

「なんでよ!?おかしいでしょう三人とも!ここは『大丈夫だったかい?もう大丈夫だよ。よく頑張ったね』ってアーサーが言って、パトリックは優しくあたしの頭を撫でてくれて、ウィリアムは労わるように上着を掛けてくれるところでしょう!?」 

 すると、先ほどまでの殊勝さをどこかに置き去った激しさで激烈桃色さんが地団駄を踏んだ。 

 いつものように高く膝をあげているけれど、びしょ濡れなのが功を奏して、スカートがひらひら巻き上がることは無い。 

 そんな場合ではないのに、私はそのことに安心した。 

 けれど当然のように水飛沫は飛んで、みんな魔法で防御していることにも気づかない様子で激烈桃色さんは暴れ続ける。 

 

 この先、どうなるのかしら。 

 

 物語とは違う展開となっていて、この先はどうなるのか気になった私はパトリックさまを見るけれど、積極的に動くつもりは無いらしくただ私に笑いかけてくれた。 

 

 ああ、安心しますパトリックさまの笑み。 

 

 そんな風に私がほっこりしている間も、激烈桃色さんは私やリリーさまが悪いと叫び続け、ウィリアムやパトリックさま、アーサーさまに助けを求めては冷たい視線を浴びている。 

 

 強いです、激烈桃色さん。 

 パトリックさまに加えてウィリアムまでもが見せる、あの絶対零度にも屈しない、どころか立ち向かっていけるなんて最強です。 

 

 思っていると、先生が重い溜息を吐いた。 

「はあ。マークル。お前は、あくまでも噴水に落とされて濡れた、と主張するんだな?」 

「だってそうだから!」 

「分かった。悪いが皆、付き合ってくれ。あの噴水で実験をしよう」 

 このままでは激烈桃色さんが納得しない、と判断したらしい先生が、そう言って教室を出ようとする。 

「あの、先生。このまま歩いては、益々周りを濡らしてしまうのではないでしょうか。それに、早く乾かさないと風邪をひいてしまうかも」 

 その濡れた理由はともかく、現実にずぶ濡れの激烈桃色さんを見て私が言えば、先生も頷いてくれた。 

「そうだな。だが、濡れているこの状態がひとつの証拠だからな。乾かすわけにはいかない」 

 そう言って先生は、激烈桃色さんに何かの魔法をかけた。 

 すると、その身体が透明の膜のようなものに包まれたのが見て取れる。 

「風魔法のひとつだ。これで周りは濡れないし、簡単に風邪をひくこともない」 

「すごいです。先生」 

 初めて見る魔法に、私は思わずうっとりした声を出してしまった。 

「ローズマリー。このくらい、僕も出来るよ。まあ、あの女相手に使うつもりなんか無いけれど」 

 すると、すぐ近くで不機嫌な声がしてパトリックさまが私の肩を抱き寄せる。 

「ウェスト、お前なあ。俺に張り合ってどうすんだよ。ったく・・・しっかし、こんなお前を見て、ポーレットじゃなく自分に夢中なんだ、なんて。マークルはどうして思えるんだろうな」 

 心底、本当に、つくづく不思議だ、と呟いて、先生は激烈桃色さんを促して歩き出した。 



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