98 / 136
97.続続 一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。
しおりを挟む「お父様とお母様も相変わらずねえ」
呆れたようにおっしゃるカメリアさまの声もどこか優しく、部屋に和やかな空気が流れる。
『伴侶馬鹿は遺伝か』
『ローズマリーの伴侶は、執着型なのですね』
ウエハースさんとアップルパイさんの言葉に、カメリアさまの瞳が輝いた。
「まあ、わたくしとお話が合いそうね!」
「あ、あの。それで、わたくしがお菓子を作ってもよろしいのでしょうか?」
何とか話を元に戻そうと私が言えば、フレッドお義父さまが優しく微笑んで頷いてくださる。
「ローズマリーがいいなら、構わないよ。だが、かなり面倒なのではないか?どのくらいの数が必要なのだ?」
『土地神様と、おれたち精霊が31だ』
『土地神様は人間と同じ大きさのお菓子でいいけれど、わたしたち精霊には小さいのがいいの、です』
フレッドお義父さまの問いに答えたウエハースさんとアップルパイさんに、私は納得して頷いた。
「さきほどのクッキーも、大きかったですものね」
言ってから、公爵家の許可無く勝手にクッキーをあげてしまった、と謝った私に、気にしなくていい、とフレッドお義父さまは笑ってくださった。
『それでね、あの。お菓子は、すっぱくて甘いのがいいのです』
『土地神様はともかく他の奴らは本当にぐったりしているから、さっきみたいな菓子だと咀嚼できないと思う。その辺りも考慮してくれ』
「注文多いな、お前等」
『うるさいぞ、伴侶馬鹿』
すっぱくて甘いの、とうっとりして言ったアップルパイさんが、パトリックさまの言葉にぴくりとなり、すかさずウエハースさんが言い返す。
言い合ってはいるけれどぎすぎすした感じはなく、アップルパイさんも恥ずかしそうにしている、という感じで知らず微笑みが浮かんでしまった。
「それでは、レモンゼリーなどいかがでしょうか?」
『ローズマリーが、それがいい、と思うのなら、それがいいの、です』
『おれたちの為に、ローズマリーが考えて作ってくれる、というのが一番だ』
提案すると、アップルパイさんもウエハースさんも、そう言って笑ってくれる。
「それで。その作った菓子は、どうやって運べばいいんだ?」
すごいです、パトリックさま。
私、そこまで思い至りませんでした。
パトリックさまの発言を、流石と思いつつウエハースさんとアップルパイさんを見れば、ふたりとも、ことん、と首を傾げた。
『もちろん、おれたちが転移させる。運んでもらう必要はないぞ?』
そうして当たり前のようにウエハースさんが言うには、テーブルに作った菓子を並べて置いておけば、自分たちが来て転移をさせる、ということらしい。
「では、ローズマリーがそちらへ行く必要も無いか?」
『ああ、無い・・・そうか、伴侶馬鹿はそれが心配だったのだな。安心しろ。ローズマリーを菓子と一緒におれたちの世界へ連れて行って、そのまま帰さない、などということは絶対にしない』
ウエハースさんの言葉に、パトリックさまは心底安心したご様子で、その全身から力が抜けたのが判った。
それほどに案じてくださっていたのだ、と私は嬉しくパトリックさまに笑いかけ、ウエハースさんとアップルパイさんに視線を動かす。
「では、作るのは明日として、約束のお時間だけ決めますか?」
そうすれば安心、と私が言えば、ウエハースさんがそれも否定した。
『いや。出来た、とローズマリーがおれたちを呼んでくれればいい』
「え?ええと、それはどういう?」
ここで呼んだからと言って、聞こえるものなのかしら?
そう思い聞けば、アップルパイさんが私の肩に乗り、嬉しそうな微笑みを向けてくれる。
『さっき、わたしたちにお菓子を食べさせてくれたでしょう?だから、わたしたちは、どこにいてもローズマリーがわたしたちを呼ぶ声が聞こえるようになったの、です』
「そうなのですね。では明日、お菓子が出来上がりましたら、おふたりをお呼びするようにします」
こくりと頷き答えれば、ウエハースさんが満足そうに私を見た。
『楽しみにしている。頼むぞ、ローズマリー』
『よろしくお願いします』
そう言って、ウエハースさんとアップルパイさんの姿が消える。
「聖獣の次は精霊か」
「お手数をおかけすることになり申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」
呟くように言ったフレッドお義父さまに頭を下げると、頭を優しく撫でられた。
「手数なのはローズマリーだろう。厨房も材料も好きに使えるよう言っておくから、心おきなく励むといい」
「そうよ、ローズマリー。大変だけれど、頑張ってね」
「わたくしも、出来ることは手伝うわ!」
「よろしくお願いしたします」
フレッドお義父さまとロータスお義母さま、それにカメリアさまの言葉にもう一度礼をした私の手が、ロータスお義母さまに握られる。
「では早速、厨房へ行きましょう。材料や器具の確認が必要でしょう?・・・って、パトリック。何をしているの?」
私の手を引き、歩き出そうとしたロータスお義母さまが、私の反対の手を握るパトリックさまに目を向けた。
「何、とはまた随分な。俺も一緒に行くに決まっているでしょう」
「大丈夫よ、パトリック。わたくしも行くから。貴方は、明日の分の仕事でも前倒しでしておくといいわ」
パトリックさまと繋いだ手を、ぐい、とカメリアさまに引き寄せられ、私は思わずたたらを踏む。
「姉上」
「王都に居るときは、領地経営のことより国の政務の実務研修に励まざるを得ないのだから、領地に居るときは領地のことをしっかりと学びなさい」
カメリアさまの言葉に、私はパトリックさまの忙しさを思い頷いた。
「パトリックさま。お忙しくていらっしゃるのに、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「そんなことは、まったく無いよローズマリー。領地のことはもちろん学ぶけれど、君と過ごす時間も俺には大切で有意義だ」
パトリックさまは本当に優秀で、学園での成績も素晴らしいし、アーサーさまの側近としての実力も高い評価を受けていると聞く。
そのうえ領地のことも学ぶのだから、いくら優秀なパトリックさまとはいえ大変だろうと思う。
それでも。
「わたくしも、パトリックさまと過ごせる時間がとても大切で大好きです。なので、パトリックさまがお仕事をされている間にわたくしが厨房で役目を果たせば、それだけパトリックさまとのお時間が取れるのかな、パトリックさまも無理しないでわたくしとの時間を作れるのかな、と思うのです。わたくしの、わがままなのですけれど」
パトリックさまと一緒の、ゆっくりとした時間を少しでも多く持ちたい。
その願いのままに言えば、パトリックさまは片手で顔を押さえ、上向いて何か呻くような声を発せられた。
「あの、パトリックさま?」
わがまま過ぎて呆れられたのかも、と思ったけれど、そういう風ではない。
「凄いわ、ローズマリー!一撃必殺ね!」
そしてカメリアさまは何故かはしゃぐようにおっしゃられ、フレッドお義父さまとロータスお義母さまは、満足そうに頷かれている。
「いい嫁をもらったな。これなら、パトリックも張り切って働いてくれるだろう」
「ええ、本当に。ウェスト家は安泰ですわ」
いえ、あの。
カメリアさま、一撃必殺とは、どういう意味でしょう?
そして、フレッドお義父さま、ロータスお義母さま。
そう言っていただけて嬉しいです。
嬉しい、のですが。
理由が、少しも判りません。
思いつつ、私は上向いたままのパトリックさまを当惑の思いで見つめた。
0
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!
飛鳥井 真理
恋愛
入園式初日に、この世界が乙女ゲームであることに気づいてしまったカーティス公爵家のヴィヴィアン。ヒロインが成り上がる為の踏み台にされる悪役令嬢ポジなんて冗談ではありません。早速、回避させていただきます!
※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。
※連載中も随時、加筆・修正をしていきますが、よろしくお願い致します。
※ カクヨム様にも、ほぼ同時掲載しております。
貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない
白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております)
「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」
私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。
····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。
しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。
もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。
*n番煎じの悪役令嬢モノです?
*誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。
*不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。
加筆によりR15指定をさせていただきます。
*2022/06/07.大幅に加筆しました。
一話目も加筆をしております。
ですので、一話の文字数がまばらにになっております。
*小説家になろう様で
2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。
魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!
蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」
「「……は?」」
どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。
しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。
前世での最期の記憶から、男性が苦手。
初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。
リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。
当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。
おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……?
攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。
ファンタジー要素も多めです。
※なろう様にも掲載中
※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか〜
ひろのひまり
恋愛
生まれ変わったらそこは異世界だった。
沢山の魔力に助けられ生まれてこれた主人公リリィ。彼女がこれから生きる世界は所謂乙女ゲームと呼ばれるファンタジーな世界である。
だが、彼女はそんな情報を知るよしもなく、ただ普通に過ごしているだけだった。が、何故か無関係なはずなのに乙女ゲーム関係者達、攻略対象者、悪役令嬢等を無自覚に誑かせて関わってしまうというお話です。
モブなのに魔法チート。
転生者なのにモブのド素人。
ゲームの始まりまでに時間がかかると思います。
異世界転生書いてみたくて書いてみました。
投稿はゆっくりになると思います。
本当のタイトルは
乙女ゲームに転生したらしい私の人生は全くの無関係な筈なのに何故か無自覚に巻き込まれる運命らしい〜乙女ゲーやった事ないんですが大丈夫でしょうか?〜
文字数オーバーで少しだけ変えています。
なろう様、ツギクル様にも掲載しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる