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97.続続 一撃必殺といい嫁の関係の謎、なのです。

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「お父様とお母様も相変わらずねえ」 

 呆れたようにおっしゃるカメリアさまの声もどこか優しく、部屋に和やかな空気が流れる。 

『伴侶馬鹿は遺伝か』 

『ローズマリーの伴侶は、執着型なのですね』 

 ウエハースさんとアップルパイさんの言葉に、カメリアさまの瞳が輝いた。 

「まあ、わたくしとお話が合いそうね!」 

「あ、あの。それで、わたくしがお菓子を作ってもよろしいのでしょうか?」 

 何とか話を元に戻そうと私が言えば、フレッドお義父さまが優しく微笑んで頷いてくださる。 

「ローズマリーがいいなら、構わないよ。だが、かなり面倒なのではないか?どのくらいの数が必要なのだ?」 

『土地神様と、おれたち精霊が31だ』 

『土地神様は人間と同じ大きさのお菓子でいいけれど、わたしたち精霊には小さいのがいいの、です』 

 フレッドお義父さまの問いに答えたウエハースさんとアップルパイさんに、私は納得して頷いた。 

「さきほどのクッキーも、大きかったですものね」 

 言ってから、公爵家の許可無く勝手にクッキーをあげてしまった、と謝った私に、気にしなくていい、とフレッドお義父さまは笑ってくださった。 

『それでね、あの。お菓子は、すっぱくて甘いのがいいのです』 

『土地神様はともかく他の奴らは本当にぐったりしているから、さっきみたいな菓子だと咀嚼できないと思う。その辺りも考慮してくれ』 

「注文多いな、お前等」 

『うるさいぞ、伴侶馬鹿』 

 すっぱくて甘いの、とうっとりして言ったアップルパイさんが、パトリックさまの言葉にぴくりとなり、すかさずウエハースさんが言い返す。 

 言い合ってはいるけれどぎすぎすした感じはなく、アップルパイさんも恥ずかしそうにしている、という感じで知らず微笑みが浮かんでしまった。 

「それでは、レモンゼリーなどいかがでしょうか?」 

『ローズマリーが、それがいい、と思うのなら、それがいいの、です』 

『おれたちの為に、ローズマリーが考えて作ってくれる、というのが一番だ』 

 提案すると、アップルパイさんもウエハースさんも、そう言って笑ってくれる。 

「それで。その作った菓子は、どうやって運べばいいんだ?」 

 

 すごいです、パトリックさま。 

 私、そこまで思い至りませんでした。 

 

 パトリックさまの発言を、流石と思いつつウエハースさんとアップルパイさんを見れば、ふたりとも、ことん、と首を傾げた。 

『もちろん、おれたちが転移させる。運んでもらう必要はないぞ?』 

 そうして当たり前のようにウエハースさんが言うには、テーブルに作った菓子を並べて置いておけば、自分たちが来て転移をさせる、ということらしい。 

「では、ローズマリーがそちらへ行く必要も無いか?」 

『ああ、無い・・・そうか、伴侶馬鹿はそれが心配だったのだな。安心しろ。ローズマリーを菓子と一緒におれたちの世界へ連れて行って、そのまま帰さない、などということは絶対にしない』 

 ウエハースさんの言葉に、パトリックさまは心底安心したご様子で、その全身から力が抜けたのが判った。 

 それほどに案じてくださっていたのだ、と私は嬉しくパトリックさまに笑いかけ、ウエハースさんとアップルパイさんに視線を動かす。 

「では、作るのは明日として、約束のお時間だけ決めますか?」 

 そうすれば安心、と私が言えば、ウエハースさんがそれも否定した。 

『いや。出来た、とローズマリーがおれたちを呼んでくれればいい』 

「え?ええと、それはどういう?」 

 

 ここで呼んだからと言って、聞こえるものなのかしら? 

 

 そう思い聞けば、アップルパイさんが私の肩に乗り、嬉しそうな微笑みを向けてくれる。 

『さっき、わたしたちにお菓子を食べさせてくれたでしょう?だから、わたしたちは、どこにいてもローズマリーがわたしたちを呼ぶ声が聞こえるようになったの、です』 

「そうなのですね。では明日、お菓子が出来上がりましたら、おふたりをお呼びするようにします」 

 こくりと頷き答えれば、ウエハースさんが満足そうに私を見た。 

『楽しみにしている。頼むぞ、ローズマリー』 

『よろしくお願いします』 

 そう言って、ウエハースさんとアップルパイさんの姿が消える。 

「聖獣の次は精霊か」 

「お手数をおかけすることになり申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」 

 呟くように言ったフレッドお義父さまに頭を下げると、頭を優しく撫でられた。 

「手数なのはローズマリーだろう。厨房も材料も好きに使えるよう言っておくから、心おきなく励むといい」 

「そうよ、ローズマリー。大変だけれど、頑張ってね」 

「わたくしも、出来ることは手伝うわ!」 

「よろしくお願いしたします」 

 フレッドお義父さまとロータスお義母さま、それにカメリアさまの言葉にもう一度礼をした私の手が、ロータスお義母さまに握られる。 

「では早速、厨房へ行きましょう。材料や器具の確認が必要でしょう?・・・って、パトリック。何をしているの?」 

 私の手を引き、歩き出そうとしたロータスお義母さまが、私の反対の手を握るパトリックさまに目を向けた。 

「何、とはまた随分な。俺も一緒に行くに決まっているでしょう」 

「大丈夫よ、パトリック。わたくしも行くから。貴方は、明日の分の仕事でも前倒しでしておくといいわ」 

 パトリックさまと繋いだ手を、ぐい、とカメリアさまに引き寄せられ、私は思わずたたらを踏む。 

「姉上」 

「王都に居るときは、領地経営のことより国の政務の実務研修に励まざるを得ないのだから、領地に居るときは領地のことをしっかりと学びなさい」 

 カメリアさまの言葉に、私はパトリックさまの忙しさを思い頷いた。 

「パトリックさま。お忙しくていらっしゃるのに、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」 

「そんなことは、まったく無いよローズマリー。領地のことはもちろん学ぶけれど、君と過ごす時間も俺には大切で有意義だ」 

 パトリックさまは本当に優秀で、学園での成績も素晴らしいし、アーサーさまの側近としての実力も高い評価を受けていると聞く。 

 そのうえ領地のことも学ぶのだから、いくら優秀なパトリックさまとはいえ大変だろうと思う。 

 それでも。 

「わたくしも、パトリックさまと過ごせる時間がとても大切で大好きです。なので、パトリックさまがお仕事をされている間にわたくしが厨房で役目を果たせば、それだけパトリックさまとのお時間が取れるのかな、パトリックさまも無理しないでわたくしとの時間を作れるのかな、と思うのです。わたくしの、わがままなのですけれど」 

 パトリックさまと一緒の、ゆっくりとした時間を少しでも多く持ちたい。 

 その願いのままに言えば、パトリックさまは片手で顔を押さえ、上向いて何か呻くような声を発せられた。 

「あの、パトリックさま?」 

 わがまま過ぎて呆れられたのかも、と思ったけれど、そういう風ではない。 

「凄いわ、ローズマリー!一撃必殺ね!」 

 そしてカメリアさまは何故かはしゃぐようにおっしゃられ、フレッドお義父さまとロータスお義母さまは、満足そうに頷かれている。 

「いい嫁をもらったな。これなら、パトリックも張り切って働いてくれるだろう」 

「ええ、本当に。ウェスト家は安泰ですわ」 

 

 いえ、あの。 

 カメリアさま、一撃必殺とは、どういう意味でしょう? 

 そして、フレッドお義父さま、ロータスお義母さま。 

 そう言っていただけて嬉しいです。 

 嬉しい、のですが。 

 理由が、少しも判りません。 

  

 思いつつ、私は上向いたままのパトリックさまを当惑の思いで見つめた。 




 
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