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83.婚約者と<食べさせ合いっこ>なのです。
しおりを挟む「ほら、ローズマリー。この海老、凄く美味しそうだよ」
「はい。本当にとてもおいしそうです」
森で踊っている海老、という言い方はおかしいのかもしれないけれど、本当にそのように見える海老は、とても楽し気でおいしそうだった。
なるほど。
それで、踊る、なのでしょうか。
海老も私の心も踊る、なんて。
「ローズマリー?何か楽しいことを思いついたなら、僕にも教えて欲しいな」
海老を見つめてひとり悦に入っていた私は、パトリックさまに問われて顔をあげた。
「楽しいことと言いますか、こちらの楽し気な海老を見ていますと私の心も踊りますので、それで”踊る”とメニュウ名に入っているのかな、と」
「ああ、確かに!そう思うとしっくりくるね」
うんうんと頷いたパトリックさまが、何故か気まずそうな顔になる。
「どうかなさいましたか?」
「いや、僕は、海老は魚じゃないよな、まあ貝もあるから魚介ということか、なんて捻くれたことを考えていたのが恥ずかしくて」
「それも確かなことではありませんか」
パトリックさまは、論理的な考え方が得意だから、と私が言えばパトリックさまが苦笑した。
「まあ、観点の違い、かな。でも僕には無い発想だったから、目から鱗な思いではあるよ。ということで食べさせてあげる。はい、ローズマリー。あーんして」
「え?いえ、あの。何がどうして”ということ”で”あーん”になるのか判らないのですが。それに、その”あーん”というのは」
流石にこの場所でその食べ方は、と断ろうとすると、パトリックさまがにっこりと笑った。
「ローズマリーは、僕だけが好きなんだよね。僕も、ローズマリーだけが”好きだ。だったら、お互いに食べさせ合いをするものなんだよ」
え?
確かに私はパトリックさまだけが好き、で、パトリックさまも私を好き、だと言ってくださるけれど。
そうしたら、そういうこと、になるのかしら?
「だからまず、僕から。ほらローズマリー、あーん」
楽しそうなパトリックさまに、フォークごと、ぷりぷりと見事な海老を差し出され、私は引き寄せられるように身を乗り出した。
「おいしいです!」
そして、その海老のおいしさに感激する。
「そんなに?」
「はい!パトリックさまも、是非!」
海老のおいしさに感激し高揚した私は、パトリックさまに望まれるまま、今度は私がパトリックさまに海老を差し出す。
「ほんとだ、美味しい。それに、ローズマリーが食べさせてくれたから、いっそう」
すると、パトリックさまはそう言って本当に幸せそうに笑った。
「ふふ。同じ海老ですよ」
「あれ。ローズマリーは、僕が食べさせても自分で食べても、同じ味にしか感じてくれないの?」
「それは」
「ほら、試してごらん」
拗ねたように言うパトリックさまも可愛い、と見惚れていた私は、再び差し出されたフォークをまた口に含んでしまう。
パトリックさま、あざと可愛すぎます!
断れません!
「僕は、ローズマリーが食べさせてくれた方がより美味しく感じるよ。今度はそのステーキがいいな。特別な炭で焼いているそうだよ」
違うかどうか試す、ということなら、自分でも食べてみる必要があるのでは?と思いつつ、私はパトリックさまに言われるまま、結局全種類の料理をひと口ずつ食べさせ合ってしまった。
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