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69.続 <悪役>?なのに、甘やかされています。

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「あ、あの、パトリックさま。何かお話があるとのことでしたが」 

 久しぶりに訪れたパトリックさまの部屋。 

 私はいつものソファで、いつものようにパトリックさまの膝に座った状態で、お行儀悪くもケーキや紅茶をいただいている。 

 しかも、パトリックさま手ずから。 

 流石に、餌付けされているようで嫌です、と言ったのだけれど、上機嫌のパトリックさまには私の訴えなど聞こえてもいないようだった。 

 しかも、いつもパトリックさまのお傍で仕えているロバートさんまで、今日は記念日ですからね、なんて嬉しそうに言ってパトリックさまを止めてもくれないので、いったい何の記念日なのか尋ねたら。 

『本日は<ローズマリー様が大勢の方の前で、パトリックさまはわたくしのもの、宣言をされた日>でございます』 

 と、真顔で答えられてしまった。 

 ロバートさん情報速過ぎです。 

 そして、パトリックさま。 

 それを嬉しそうに聞かないでください。 

 何だかいいことのように言われていますけれど、それって見方によっては物語における婚約者の嫉妬、に当たるのではないでしょうか。 

 いえ、肝心のパトリックさまが喜んでくださっているので、断罪に繋がったりはしなさそうですけれど。 

「ローズマリー。クッキーも食べる?」 

 相変わらずにこにこしているパトリックさまに聞かれ、私が答えるより早くロバートさんがクッキーを取り分けた皿をパトリックさまに手渡した。 

 

 動き滑らかで無駄なく見事です、ロバートさん。 

 従者の鑑です。 

 

「パトリック様、本当にようございました。ローズマリー様もパトリック様をお慕いされていらっしゃるとは感じておりましたが、皆様の前ではっきり宣言なされたと伺ったときは、このロバートまで嬉しくなってしまいました」 

 そして、万感胸に迫るとでも言いたげな様子で、そんなことを口にする。 

「ああ。本当に嬉しかった」 

 けれど、それを受けたパトリックさまも大仰だということなく深く頷きそう言って、本当に嬉しそうに笑う。 

 その笑顔を見ると私も幸せな気持ちになって、恥ずかしさも薄れ、膝から下りようという努力を忘れてしまった。 

「それに、例の迷惑男爵令嬢に対し、ローズマリー様が凛と気高く対応して撃退したとのこと。”耳”より報告を受けた私も、胸がすく思いがしました」 

 

 ああ、”耳”。 

  

 ロバートさんの話を聞いていて、私はロバートさんの情報の速さに納得した。 

 王家や上位貴族の家には、”耳”と呼ばれる人たちがいる。 

 密かな護衛と諜報を担う人たちで、各所に潜入していることは知っているけれど、学園にも居るらしい。 

 考えてみれば学園には上位貴族が居るし、何より今はアーサー殿下がいらっしゃるのだから通常より多くの”耳”が潜んでいるのかもしれない。 

 

 それよりも、撃退、って。 

 ウェスト公爵家の”耳”さん、どのような報告をされたのですか? 

 

 確かにあの後激烈桃色さんは妙に大人しくなってしまったけれど、それを撃退というのなら、私は本当に悪役一直線なのでは?と不安にもなる。 

「そうだ、ローズマリー。今週末、大人数で君の部屋に行くことになったから」 

 そんなことを考えていたら、パトリックさまが不意にそう言った。 

 ナプキンで丁寧に優しく、私の口元を拭ってくれながら。 

 何というか、パトリックさまは面倒見が良いと思う。 

 手際もいいし。 

「私の部屋に大人数で、ですか?」 

 一体どういうことか、と首を傾げかけ、私はテオとクリアのことを思い出した。 

「うん。テオとクリアの件で。大人数とは言っても五人か六人だけれどね。身内がほとんどだから、形式ばった出迎えはいらない。服装も普段着でいいし」 

 普通の仔犬とは思えないテオとクリアのことで、私の部屋を訪ねて来るひとが居る。 

 その事実に緊張してしまった私に、パトリックさまが、大丈夫だよ、と柔らかく微笑んだ。 

「身内、ですか?」 

「そう。みんなローズマリーの味方で、力になってくれる人たちばかりだから、何も心配はいらない」 

「パトリックさまも、いてくださるのですよね?」 

「もちろん、ずっとローズマリーの傍に居るよ。あ、変則訪問で申し訳ないけれど、俺の転移で行くんだ。男ばっかりだから。もちろん遮断を使うし、ばれないようにもするから安心して」 

 不安が高じて、きゅ、とパトリックさまの胸元を掴めば、パトリックさまが優しく髪を撫でてくれた。 

「よろしくお願いします」 

 パトリックさまがいてくださったら、とても心強い。 

 思っていると、ちゅ、と頬にパトリックさまの唇が触れた。 

「こちらの頬には初めて、だね」 

 言いつつパトリックさまが、膝に乗せている私をあやすように身体を揺らす。 

 その逞しい腕とあたたかく穏やかな揺れに私は幼子のように安心して、パトリックさまに身を委ね、胸元に頬を寄せた。 

「ああ、完敗だな。久しぶりに『いてくださる』って言うから”加算”って言いたかったのに、ローズマリーが可愛すぎて言えなかった」 

 そうして言われたパトリックさまの言葉と、その、にやりとした笑みに私は固まってしまう。 

「あれはもう、打ち止め、ということには」 

 そもそも基準が曖昧なのですし、と恐る恐る言ってみた私に、パトリックさまは更に笑みを深くした。 

「打ち止めになんかならないし、いつか絶対実行してもらう。とても、物凄く、それはもう超絶に、楽しみにしている」 

 そして言われた言葉に、私は遠い目をしてしまったのだった。 

 

 

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