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68.<悪役>?なのに、甘やかされています。
しおりを挟む「あのね、アーサー。今日の食堂のランチメニュウは、キッシュなんだって。あたし、すっごく楽しみなの」
「・・・・・」
「そういえばね、パトリック。食堂のスペシャルメニュウを食べさせ合いっこすると、その相手との仲が深まるんだって。あたし、やってみたいな」
「・・・・・」
「ねえ、ウィリアム。ウィリアムの家ってマナーに厳しいんだよね。まあ、あたしのことはお母さんも気に入ってくれるから大丈夫と思うんだけど、もしものときは助けてね?」
「・・・・・」
図書館から教室へと戻る道すがら。
激烈桃色さんは、アーサーさま、パトリックさま、ウィリアムに順番に笑いかけ、話しかけては腕を組もうとして躱される、という行為を幾度となく繰り返した。
三人からの返事はまったくないのに、めげる様子は微塵も無い。
マークルさん、やっぱりお強い!
もし私だったら、あんな風に無視されたら哀しくなってしまう、と思っているとまたもマークルさんがウィリアムに躱され、アーサー様へと向かう。
三人順番に話しかけるのももう幾度目か、と思っていると、見かねたようにクラスのみんながマークルさんに苦言を呈した。
「マークル嬢。いつも思うのだが、それは付き纏い行為というのでは?」
しかしマークルさんは気にした様子も無い、どころか自信満々にみんなと向き合う。
「あたしはいいの!だって、ウィリアムもパトリックもアーサーも、みんなあたしを好きなんだもん。構わない、っていうか、三人ともあたしがそうすることを望んでるのよ。むしろあたしを独占したい、って。だいたい、それを言うならあたしじゃなくてローズマリーやリリーでしょ。いっつもアーサーやパトリックに付き纏ってるんだから!」
腰に手を当て、憤懣やるかたなしといった様子で叫ぶように言ったマークルさんに、みんなが呆れたように顔を見合わせた。
「え?どういう神経しているんだよ。いつもあれだけ無視されて」
「そうですわ。それに、ローズマリー様やリリー様は、ご婚約者様と仲睦まじいだけです」
マークルさんの言葉にみんなは眉を顰めるけれど、私は首を傾げ考え込んでしまった。
パトリックさまに付き纏っている。
そう言われれば、確かにパトリックさまとよく一緒に居る私は、それも付き纏いの類になるのかと思わず隣のパトリックさまを見あげてしまった。
「ローズマリー。まさか、あんな戯言を真に受けたりは、しない、よね?」
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けれど。
あ、あら?
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「もうっ!ローズマリー、なにのほほんとしてんのよ!ちゃんとして、って何度言えばわかんの!?早くパトリックに愛想尽かされて、婚約破棄されて!あんたなんか、パトリックに相応しくないんだから!」
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ああ、またスカートが。
激烈桃色さんの跳ね上がるスカートに気を取られていた私が何か言うより早く、それを見たクラスメイトが呟く。
「何よモブのくせに!あのね、言っとくけどあたしが正しいの!あんたたち全員、間違ってんのよ!なんたってあたしがヒロインなんだから!あたしのためにこの世界はあるの!」
それが気に入らなかったらしい激烈桃色さんが、今度はそのクラスメイトを指さして言い返すのを見て、私は思わず一歩前に出た。
「マークルさん、ひとを指さしてはいけませんわ。それに、世界は貴女の為にあるわけでもないと思います。それから、もぶ、とは何でしょう?」
ヒロイン、というのは物語の主人公、つまりこの場合激烈桃色さんのことなのだと判る。
それゆえに、あたしのためにこの世界はある、と言いもするのだろうとも。
けれど、もぶ、という言葉は聞き慣れなくて、私は思わず尋ねてしまった。
「ほんっとにどんくさいわね、ローズマリー!モブはモブよ!そんなことより、ランチ1回でも一緒しとかないと大事なイベントが起きないの!それでなくてもあんたのせいで色々狂ってるんだからね!判ってんの!?これ以上邪魔しないで!さっさとパトリックから離れて!別れなさいよ!」
髪を振り乱す激烈桃色さんにそう叫ばれたとき、私は、すっ、と理性が際立つのを感じた。
「嫌です。そのような勝手な要求は、お断わりします。わたくしは、パトリックさまのお傍にいます。これからも、ずっと」
そして出た声は、今まで自分で発したことがないほどに冷静で、視線は激烈桃色さんを捉えたまま、ぶれることも無い。
「な、なに言ってんのよ。なによ、急にキャラ変えちゃって」
そんな私の目の前で、激烈桃色さんがおろおろしている。
今のようにおろおろしていても、先ほどまでのようにきゃんきゃん言い募っていても、激烈桃色さんは可愛いと思う。
思うけれど、パトリックさまは私を好きだと言ってくれた。
ずっと一緒にいよう、と。
そして私もパトリックさまを好き。
だから、私はパトリックさまの傍に居る。
絶対に、私からパトリックさまの手を離したりしない。
「ローズマリー」
言い切った私の手を、ぎゅっ、とパトリックさまが握ってくれる。
見つめてくれる瞳が、優しく輝いている。
「パトリックさま」
パトリックさまから伝わる体温で心にも身体にも温かみが戻ったように感じ、嬉しくパトリックさまを呼び返した私の声は、周りから起こった大きな拍手にかき消された。
えーと。
何か、やらかしてしまいましたでしょうか。
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