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41.『争奪戦』は、大激戦、なのです。
しおりを挟む「ウィリアム!左!」
ウィリアム、アーサーさま、パトリックさまの三つ巴の直接対決の闘いのなか、私たち他のチームメンバーもそれぞれ攻撃と防御を繰り広げる。
飛び交う火と氷、水と風。
聳え立つ土壁に絡まる蔦草。
激しく繰り広げられる防御と攻撃。
リリーさまの全体攻撃を防御したそのとき、ウィリアムの左で土のゴーレムが出現するのが見えた私は、そう叫ぶと同時にウィリアムの周りに突如吹き出した炎を水魔法で消し去った。
「助かった!ローズマリー!恩に着る!」
ウィリアムは土のゴーレムを蹴り倒すと同時に、襲い来るかまいたちをすべて薙ぎ払う。
けれど、次の瞬間には幾本もの光の矢がウィリアムを狙って飛ぶ。
そして、その間にも止むことのない全体攻撃。
それは、アーサーさまのチームからであり、パトリックさまのチームからでもある。
「ウィリアム!みんな!」
ウィリアムへの光の矢を土の壁で防ぎ、私はみんなへと視線を奔らせた。
「「「大丈夫です!」」」
力強い答えに安堵し、私はみんなを見渡した。
アーサーさまのチームも、パトリックさまのチームも、まずは私たちのチームを潰すことに決めた様子で、両チームの攻撃が私たちへと集中している。
「両チームの攻撃がこちらへ集中していますが、魔力残量はみなさん問題ありませんね?ここが我慢のしどころです。まずは防御とキングへの補助に集中して、機会を待ちましょう。わたくしがキングの補助をしますので、みなさんは全体攻撃の防御をお願いします!」
「「「はい!」」」
「ウィリアム!防御は任せて攻撃に徹してください!」
ウィリアムの一歩後ろに立ち、私はひたすらウィリアムの防御に徹する。
「ローズマリー!頼む!」
それに呼応するように、ウィリアムが自身にかけていた防御をすべて攻撃に転じ、アーサーさま、パトリックさまへと果敢に攻め込んで行く。
「っ!」
後方を守ってくれているみんなが、全体攻撃の防御に徹し、すべての全体攻撃を避けてくれている様子を確認した私は、ウィリアムの防御をしつつ、ウィリアムの攻撃に自分の攻撃を追加しようと試みるも、その度にリリーさまやアイビィさまの私への攻撃を受けて叶わない。
速い!
そして更に加速する、アーサーさま、パトリックさまの容赦ない攻撃。
光が、炎が、風が。
鋭くウィリアムに襲いかかる。
負けませんっ。
それら激しい攻撃から、私は必死にウィリアムを護り続け、肩飾りを奪うことを許さない。
完全なる、硬直状態。
そのとき、アイビィさんの魔力が大きく動くのを感じた私は、防御の態勢を強くし。
「あっ!」
その攻撃が、リリーさまへと直撃するのを目撃した。
「リリーさま!」
思わず叫んでしまった私の視界の先で、リリーさまの身体が大きく傾ぐ。
「リリー!」
それは、一瞬のこと。
咄嗟にリリーさまへと手を伸ばしたアーサーさま。
その両肩の肩飾りを、パトリックさまとウィリアムの風魔法がそれぞれ貫き、吹き飛ばした。
「っ!」
フォルニアチームの敗退。
申し訳なさからか、涙ぐまれるリリーさまが痛々しい。
それでも、まだ最終決着はついていない。
リリーさま!
後で!
後でお話ししましょう!
思う私の足元に、幾本もの氷の柱が立ち上がる。
それと同時に飛んで来る、数えきれないほどの氷の針。
アイビィさん!
容赦ないです!
思いつつ、私は炎ですべての氷を消し去った。
瞬間、あがる水煙が攻撃の激しさを物語る。
「ローズマリー!」
「「「ローズマリー様!」」」
「「「ポーレット嬢!」」」
ウィリアムや仲間の、みんなの声がする。
「大丈夫です!」
答えた私に安堵の表情を浮かべるみなさん。
その顔は、既に疲労で困憊している。
「ウィリアム、みなさん。あと少しです」
心を籠めて、私はみんなに癒しを贈った。
属性不明のおかしな魔法、とも言われるけれど、これは私が大好きな魔法。
誰も傷つけることなく、疲れを癒してくれる。
「くっ!」
途端、温かい空気を引き裂くように飛んで来た風の刃。
それを間一髪避けたウィリアムが、パトリックさまへと同様の風の刃を飛ばし返す。
それに呼応するように、再びパトリックさまのチームから全体攻撃が襲って来るけれど、威力が落ちているのは明白。
けれど、こちらも魔力が無尽蔵にある訳ではない。
「攻撃と防御を交互に!」
「「「はい!」」」
それでも漸く攻撃できると、鬱憤堪った様子のみなさんの顔に闘志が漲る。
再びパトリックさまとウィリアムの激闘が繰り広げられ、チーム全体も互いに防御しつつ攻撃を仕掛け合うなか、アイビィさんは魔力が尽きかけているのか、先ほどまでの勢いがない。
パトリックさま、本当に凄い。
クイーンであるアイビィさんの援護がほぼなくなったなか、それでもパトリックさまの魔法は、威力も精度もまったく落ちない。
幾つもの属性の攻撃魔法を同時に繰り出し、ウィリアムを果敢に攻め続ける。
そして、展開し続けている防御。
幾つもの属性の防御と攻撃を同時に操って闘うパトリックさまは、とても強い。
そして。
格好いい、です。
今は敵なのに、と思いつつもパトリックさまに見惚れ、称賛していると。
「パトリック!格好いい!」
突然叫びが聞こえて、私は思わず自分が叫んでしまったのかと驚いた。
ああ。
激烈桃色さんでしたか。
しかし、それは私の心の声が漏れたわけではなく、激烈桃色さんの実際の叫びだったと知って、私はほっとしてしまう。
いけません。
今は<虹色のトマト>を、このチームで得ることだけを考えなければ。
そして気合を入れ直した私は、パトリックさまの猛攻を受けるウィリアムを、全身全霊かけて防御する。
けれど、こちらからの全体攻撃も威力を増しているというのに、パトリックさまの防御は厚く、攻撃が弱まることも無い。
魔力も体力も、無尽蔵であるかのように攻める威力は高まるばかり。
「粘り強く頑張りましょう!」
パトリックさまの気迫と実力に押されそうなチームに声をかけ、私は再び癒しを使った。
私たちを包む温かなぬくもりに、みんなの表情も落ち着きを取り戻す。
そして、その間にも激しくなっていくパトリックさまの攻撃を懸命に躱す。
「ああ、なんていうか。俺たちへのクイーンの癒しが、微笑みが、パトリック様の怒りに火を点けてる感じ?」
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「いや、それは何というか、もう決しているだろう。でも俺たちも、クイーンの癒し、もらったから同罪なんじゃね?パトリック様『お前等まとめてぶっとばす!』になってんじゃね?」
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「ああ、分かる!でもまあ。ダービー副級長の威力、かなり落ちたからってのもあるだろうけどな」
「ポーレット嬢強いもんな。ダービー副級長は、さっきのポーレット嬢への連撃を防がれたことが痛かったんじゃないか?優しくて強い。ポーレット嬢は最高のクイーンだな。ウィルトシャー級長も、あの化け物みたいなパトリック様相手に踏ん張って、しかも攻めてるし」
「それにウィルトシャー級長もローズマリー様も、わたくしたちのことも、常に気を付けてくださっていますわ」
「ええ。ここに来るまでのトラップでも、ずっと気に掛けてくださって」
「いいキングとクイーンだよな」
「あのふたり、勝たせたいよな」
「ああ」
「ええ、本当に」
後ろから聞こえて来る声。
私は防御を展開しながら、みなさんが何を相談しているのか、もしかして何か問題が生じているのかと振り返ってみると。
「「「勝ちましょう!みんなで我らのキングとクイーンに勝利を!」」」
と決意込めて言われた。
「それを言うなら、みんなでみんなの勝利を、ですよ!」
「「「おう!絶対勝とうぜ!」」」
「「「ええ!やりましょう!」」」
咄嗟に言ってしまった私に、皆さん力強く答えてくれて、笑みさえ浮かべて再び闘いへと舞い戻る。
それは、にっこり、というよりは、にやり、というか何というか、な、挑戦的な笑みだったけれど、私には大きな力になった。
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