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38.目指すは、<虹色のトマト>なのです。
しおりを挟む「次回の授業は『虹色のトマト争奪戦』を行う」
先生の言葉に、教室中でざわめきが起こった。
それも当然と思う。
『虹色のトマト争奪戦』
それは文字通り、虹石で造られた<虹色のトマト>を、魔法を駆使して奪い合うというチーム戦で、代々有名な行事。
かくいう私も、おじいさまやおばあさま、お父さまお母さま、それに兄さまから聞かさたその行事を、ついに自分もやるのだと思うと気持ちがとても高揚した。
家族から聞いていた通り、先生の説明によれば、『虹色のトマト争奪戦』時には、特別な<場>が用意され、そこでなら、どんな魔法を使おうと相手を殺傷することは出来ないとのこと。
とはいえダメージは受けるので、やはり強い魔法を使える者が有利、ということらしい。
その特別な<場>には幾つかのスタートポジションがあり、各チームはそれぞれ違うスタートポジションから出発し、様々な魔法のトラップを越えて<虹色のトマト>が置かれた中央を目指す。
そして、<虹色のトマト>を得たチームが勝者となる。
他のチームより早くその場に辿り着けば簡単に手にすることが出来るだろうけれど、その前には、当然チーム同士での闘いが想定される。
闘いと言っても実際に相手を倒すわけではないので、リーダーであるキングがあらかじめ両肩に着けているトマトを模した肩飾り。
これをふたつとも奪われると、参戦の権利を失う。
つまり、<虹色のトマト>を得られなくなるというルールになっているとのこと。
「いいか。『虹色のトマト争奪戦』では、男子のトップ3をキング、女子のトップ3をクイーンとし、このふたりを中心としてチームを作る。チームはもう決定済みだから、これから呼びあげる。皆、<虹色のトマト>目指して頑張るように」
渇を入れるように言って、先生はそれぞれのチームを発表しはじめた。
パトリックさまと同じチームだと嬉しいな。
思い、どきどきと発表を聞く。
「まず、キングはアーサー・フォルニア、パトリック・ウェスト、ウィリアム・ウィルトシャーの3名。フォルニアのクイーンはリリー・サウス、ウェストのクイーンはアイビィ・ダービー。そして、ウィルトシャーのクイーンはローズマリー・ポーレットだ」
しかして、その願いは一瞬で消えてしまった。
「よろしく、ローズマリー」
けれど、隣のウィリアムに嬉しそうに言われて、私は慌てて恋愛脳を切り替える。
「こちらこそよろしく、ウィリアム」
話ししていると、続々と私たちの周りに他のチームメイトが集まって来た。
見ればみんな、それぞれのキングの元へと集結しているようで、ざわめきが大きくなっている。
そしてチームごとに机を合わせての作戦会議が始まり、それぞれが使える属性や魔法を申告し合い、場面を想定して対処法を検討していく。
「みんなで協力して<虹色のトマト>を手にしよう」
そして、締めるように言ったウィリアムの言葉に力強く頷き、私たちはみんなで手を重ね合った。
そして迎えた、『虹色のトマト争奪戦』当日。
私が、どきどきわくわくしながら学園へ行き、いつもより集中できずに、それでも習慣で本を開いていると、激烈桃色さんが私の席まで来た。
揚々と、これまでと変わらない様子で私の前に立つ激烈桃色さんを、私は複雑な思いで見上げる。
激烈桃色さんは、焼却炉事件において、自演までして私とリリーさまの尊厳を著しく貶めた。
それに対し、学園は即刻激烈桃色さんに謹慎を命じ、そのうえで私の実家であるポーレット侯爵家とリリーさまのご実家であるサウス公爵家に調査結果を報告してくださった。
けれど、物語の強制力を案じるリリーさまは、大事にするのを避けたい、とおっしゃられ、それに同意した私も、学園でのことだから、と理由をつけて実家に話し、マークル男爵家への処罰及び激烈桃色さん自身への処罰を回避してもらった。
結果、激烈桃色さんは謹慎期間終了後、普段通り通学している、のだけれど。
リリーさまへの感謝の気持ちは?
公爵家の一言で、自分自身はもちろん、男爵家の運命は違うものになっていた筈なのに、まったくそのようなことを考えてもいない様子の激烈桃色さんが、私は不思議で仕方がない。
「あのね、今日のイベントではね、アーサーとパトリックがあたしを取り合って闘うの」
現実をまったく考えていない、とはいえ、何ともうっとり言う姿は可愛い、と思うけれど。
「え?取り合うのは<虹色のトマト>なのではないのですか?」
主旨が変わっていませんか、と私が問えば激烈桃色さんは大きなため息を吐いた。
「はあ。あのね、それは建前に決まってんでしょ。心ではあたしのために勝利を目指して闘って、あたしを取り合って争うの。で、そのスチルが物凄く格好よくて素敵なんだから。あれを実際に見られるとか、ほんと楽しみ」
スチル?
それは、ええと、場面画像のこと、だったかしら?
場面画像ということは、パトリックさまの闘う姿が絵になっている、ということだと思うので、それは確かに格好いいだろうと、私は是非見たい気持ちでいっぱいになった。
パトリックさまが魔法を扱って闘う姿。
絶対、格好いい。
髪が風に靡いたり、鋭い目つきで相手を見据えたり。
ああ、絶対素敵に決まっているわ・・・。
「おはよう、ローズマリー。何か考えごと?」
「はい・・きっと闘うパトリックさまは格好い・・・いいっ!?」
うっとりうっかりしっかり自分の世界にいた私は、聞かれるままに答え、激震した。
それも余り品よくなく。
「ふうん、そうか。闘う僕は格好いいか」
しかも、最後まで言わなかったとは言え、充分伝わってしまったらしい。
教室でのことだから、ちゃんと『僕』と言っているのに、パトリックさまの笑みと、私を見る目がとっても意味深で居たたまれない。
「うん!闘うパトリックはすっごく格好いい!あたし、パトリックと同じチームで嬉しい!」
固まる私を余所に、激烈桃色さんが感激の声をあげた。
ああ、そうでした。
激烈桃色さんは、パトリックさまと同じチームなのでした。
「ローズマリー。今回は同じチームでなくてとても残念だけど、お互い頑張ろうね」
「はい」
かっくりしていると、パトリックさまにそう言われ、その瞳を見ればパトリックさまも私と同じチームになることを望んでくれていたことが判って、凄く嬉しくなる。
「魔法に殺傷力は無くなっているけれど、ダメージはそのまま受けるし、転んだりすれば当然怪我もするから、気をつけて」
本当に気をつけて、とパトリックさまが心配そうに私を見た。
「パトリックさまも、お気をつけて」
パトリックさまはキングに選ばれるくらい強いけれど、そうなると当然主体となって闘うことになるので心配だ、と私はじっとパトリックさまを見つめ返す。
「パトリック。ちゃんとあたしを守ってね」
そして聞こえた激烈桃色さんの甘い声。
相変わらず返事をしないパトリックさまに、激烈桃色さんは動じる素振りも無い。
本当にお強いです、激烈桃色さん。
その安定感に、私は心のなかで思わず称賛を贈った。
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