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18.婚約者は、ずるいくらいに可愛くて格好いいのです。

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「お店のカーテンが、開いています」 

 大聖堂を出て再び商店が立ち並ぶ通りへ戻った私は、先ほどは閉まっていた店のカーテンが開き、店内が明るくなっていることに気づいた。 

 そして人通りも増え、街が、まるで目覚めたように活気づいている。 

「開店したね。入ってみたい店があったら言って」 

 隣を歩くパトリックさまに頷きつつ、私は何となく意識してしまう。 

 

 『花嫁さん』って、冗談のように言われただけなのに。 

 

 それなのにこんなにどきどきするとは、と自分でも驚く。 

「ね、ローズマリー。あの髪飾り素敵ではなくて?」 

 くいくい、と軽く腕を引かれ見てみれば、リリーさまが瞳を輝かせて一軒のショウウィンドウを見つめていた。 

「本当ですね。銀の細工も見事ですし、色硝子でしょうか?色々な色がきらきらして、とてもきれいです」 

 確かに美しいと思い、私も心から頷く。 

「気になるなら、入ってみようか」 

 パトリックさまに促され、私とリリーさまは手を繋いで店の扉を潜った。 

「わあ、素敵」 

 そして店内へ一歩踏み込んだ途端、ぐるりと店内を見渡して、私はひとり立ち止まってしまう。 

 天井には美しいランプが吊られ、壁には色ガラスの細工が飾られている。 

 わざと絞っているのだろう照明に照らされて、それらは自身最大の美しさを誇っているように見えた。 

「ここは、色硝子に特化した店みたいだね。ね、ローズマリー。何かお揃いで買おうか」 

 パトリックさまが囁くように言って、私の目を覗き込む。 

「お揃い、ですか?」 

「うん。同じ細工で色硝子の色違いとか、銀と金で形は同じものとか。嫌?」 

「いいえ、むしろ嬉し・・・とあの、嫌ではない、です。はい」 

 パトリックさまとのお揃いが嬉しい、と臆面もなく満面の笑みで言いそうになってから急に恥ずかしくなってしまい、私は慌てて店内の商品に視線を移した。 

 

 わざとらし過ぎたかしら? 

 

 パトリックさまがどう思ったのか心配になって、ちらりと横目で見れば。 

「ローズマリーが嬉しいと思ってくれて俺も嬉しい。で、何にしようか」 

 きちんと嬉しいと言い切れなかった私の心を掬うよう、そして私が恥ずかしがり過ぎなくていいように、パトリックさまがさらりと言ってくれた。 

 

 嬉しい。 

 すごく嬉しい。 

 

「何か胸元にするようなアクセサリーなら、パトリックさまも着けたりなさいますか?」 

 それなら、指輪やペンダントを余り好まない男性の方も普段使いで身に着けているのを見たことがある、と心弾む思いで私が言えば。 

「・・・なさいますか?」 

 パトリックさまが低い声を出した。 

 

 こ、ここでそこ気にするんですか!? 

 余り気にしなくていい、と言ってくださいましたよね!? 

 というかその拗ねた顔、小さな子どもみたいで可愛いです! 

  

 パトリックさまが可愛い、と何だか楽しくなってしまった私は笑いながら言い直す。 

「ふふ。着けたりしますか?」 

「何だか楽しそうだね、ローズマリー」 

 何かあった? 

 と尋ねるパトリックさまが、小首を傾げるのも可愛いと、私は完全に嵌ってしまう。 

「パトリックさまが、とても可愛いので」 

「可愛い?」 

「はい、とても」 

「男に言う言葉じゃないよね」 

「でも、真実です。パトリックさま、とても可愛い面がおありになります」 

「言われたことないよ、そんなこと。俺は、小さな頃から可愛げがないと言われていたし」 

「では、私が初めてですか?」 

「というか、ローズマリーしかそんなこと言わないと思う」 

「それは嬉しいです」 

「嬉しい?」 

 

 きょとん、としたその目も可愛いです、パトリックさま! 

 愛らしいです! 

 とても! 

 

「はい。だって、そういうパトリックさまを知っているのが私だけ、ということなので、とても嬉しいです。私だけのパトリックさま、という気がして、すごく幸せです」 

「っ!」 

 こんなに可愛いパトリックさまを知っているのが私だけだと思うと本当に嬉しくて、私は頬が緩み切るのを感じた。 

「くうぅっ。何だこの可愛い生き物。可愛いのはそっちで嬉しいのは俺の方だ、っての」 

 すると、パトリックさまは何やらぶつぶつ言いながら天井を見上げて固まってしまわれたので、私もそちらを見上げてみる。 

「あのランプが気になるのですか?」 

 気になるので凝視しているのかと思い声にして、私ははっとした。 

  

 もしかして、私の顔が緩んでいるのが気持ち悪くて耐えられなかった、とかですか!? 

 パトリックさま! 

 

「あ、あの」 

 心配になって、パトリックさまの袖を少し引いてみる。 

「ああ、うん。ええと、なんだっけ。ああ、装飾品。俺は、余り装飾品は身に着ける方ではないけど、確かに胸元に着けるくらいならいいかも知れない。でも、ローズマリーとお揃いなら、指輪でもネックレスでも。何でも喜んで着けるよ」 

 そうするとパトリックさまが、笑顔で答えてくれる。 

 そして、ちゃんと私を見てくれる、けれど。 

「あの、ごめんなさい」 

 隠し切れない顔の強張りは私のせいだろう、と私は小さく頭を下げた。 

「え?なにが?」 

 そうすると、パトリックさまは心底不思議そうな顔をする。 

 

 その顔も可愛いです! 

  

 どこか壊れた私はそんなことを思い、何とか呑み込み表情を整えた。 

「私の緩み切った顔が気持ち悪かったのでしょう?隠されても判ります。パトリックさま、お顔が強張っていますから」 

 決意して言えば、パトリックさまが、莫迦だな、というように笑み崩れる。 

「緩み切った、って。なにその表現」 

 パトリックさまは、私の言い様がおかしいと私の額を軽く指で弾く。 

「俺には、すごく可愛い、自然とわきあがった最高の笑顔に見えたよ」 

 そして言われた言葉に私は発火した。 

  

 うう。 

 パトリックさまこそ、格好いい、です。 

 そして。 

 なんか余裕そうで、ずるい、です。 

 

 
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