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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる
第46話 王国の英雄対英雄の半身 ガイナル山脈頂上決戦 ①
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ネアル王が山頂に出現してからは、ゼファーの目は釘付けになった。
「ようやく来たな」
「どうしますか。ゼファーさん。ここで戦いますか?」
「ライノン殿。あなたは予定通りで。マールさんと本陣待機でお願いします」
「ええ。わかりました。その言い方だと、ゼファーさんはどうするんです? 別なんですよね」
「はい。もちろん。我はいきますよ。ただ、ネアル王はこちらに向かって勝手には攻撃してきません。おそらく・・・」
その予想は正しかった。
◇
決戦前にネアルからの宣言があった。
「ゼファー殿! 下にいるのは、あなたでお間違いないかな」
「そうです。ネアル王。我は、ゼファーです。お久しぶりです」
互いの声が山で反響する。
「ゼファー殿。楽をしたいので、そこを通してくれたりしませんかな。あなたと戦うにはこちらとしては、戦力が足りないかもしれないのでね」
「ハハハ。ご冗談を。あなたのような御方がそんな弱気なことをおっしゃいませんからな。こちらの油断でも誘うつもりですかな」
「いやいや、それくらいであなたは油断なさってくれますかな。本心ですぞ」
「いえ。我は油断しません。それにネアル王。嘘はいけませんぞ」
ゼファーの返答に満足して笑うネアルは独り言をつぶやく。
「・・・ふっ。やはりな。その揺るがぬ心。主の命を守るつもりだな。やはり見ていて気持ちのいい男である・・・よし、やるか」
ネアルはもう一度声を張り上げた。
「それでは、ゼファー殿。こちらとしても攻撃を始めようと思いますぞ。よろしいかな」
「はい。どうぞ。いつでも結構であります」
「さすがだな・・・ネアル軍。全速力で進め」
ネアルが剣を掲げると、王国軍が山を下る。
「「「あああああああああああ」」」
黒い雪崩のようになる王国軍を見て、今度はゼファーが槍を掲げる。
ネアルの掛け声に対しても声で反撃した。
「ゼファー軍。我に続け。いくぞ」
「「「おおおおおおおおおお」」」
下で待機はしない。
ゼファーは山に登り、前進したのである。
◇
山を下りながら、ネアルは驚く。
「なに!? なぜ登って来た! こちらが上になるのだ。優位なのは私たちだぞ。ましてやこちらに向かってくるなど。更に不利になるはず?」
「ネアル王。これには何か策があるのでは」
「ブルー。お前も思うか」
「はい。単純な行動を起こすとは思えません。どこかに伏兵でもいるのかもしれません」
「そうかもしれないな・・・それにしても、この湿り気のある地面で、あの速度か。異常な進軍速度だな」
「ええ、おかしいです。足が地面に取られてないようですね」
「平地だけじゃなく。普段から山でも鍛えていると見た。これは強敵だぞ。ブルー、左右の警戒はお前に任せた。私は彼を注視しておこう」
「はい」
ネアルとブルーは二手に別れるように、相手を警戒した。
しかし、そんなものは余計な作業である。
なぜなら・・・。
◇
山を猛烈な勢いで登るゼファー軍。
その速度は、王国軍の山を下る速度よりも速かった。
「リョウ!」
「はい。隊長!」
並列に走りながら二人は話す。
「一万を任せた。正面で当たれ」
「はい。隊長は?」
「先に五千で側面に行く。このまま少し右に膨らんで相手の左翼を壊す。奴らの左翼の足が遅いのだ。おそらく、そこが弱いと見た」
「わかりました。でも、数が違います。気を付けてくださいね」
「わかっている。頼んだぞ。リョウ! 防御の構えで相手の攻撃を受け止めるだけでいい」
「了解です。おまかせを」
策などない!
ゼファーに人を騙すような戦略や細かい作戦を考える頭があれば良かったのにと思うのは仲間の誰もが思う事。
しかし、その力を持ってしまえば、ゼファーが無敵の将になってしまう。
とありえない話であるが、武の力のみでも彼は化け物。
フュンを守る鬼神である。
◇
ネアルは、味方の将に聞こえるか聞こえないか。
それが分からなくとも、叫んで伝えようとした。
「飛び込んできた! ジルバール! 気を付けろ」
王国軍左翼にいるジルバールが、ゼファーを迎え撃つ形となった。
ゼファーらの初撃。
パールマン軍を砕いた時と同様に、敵の陣形を粉砕する威力であった。
あっという間に、隊列が崩れる。
ネアルは崩れた陣形に向かって呟いた。
「し、信じられん。一撃で粉砕だと」
先頭を走るゼファーの槍が止まることがない。
一人を切り捨てると、槍は次に向かっていた。
ネアルの目には見えても、左翼の将ジルバールの目には、彼の槍技が見えなかった。
ジルバールの声は震えていた。
「あ、ありえるのか。我がジルバール軍は一万もいるのだぞ。それがたったの五千なんかに・・・ありえない」
異様な雰囲気に飲み込まれているジルバール。
彼が嘆いている間にも、ゼファーはこちらに向かってくる。
衝突からたったの五分で、左翼中央にいた自分の元にまでやって来た。
「貴殿が、将だな。目立つ金ピカだな!・・・それでは、お時間がないので、早速やられてもらいますよ」
「ふ、ふざけ・・・」
結局近くであってもゼファーの槍が見えない。
彼の槍が止まった時には、ジルバールの首が勝手に真上に飛んでいった。
左翼を崩壊させる一撃を加えたゼファーが叫ぶ。
「敵将を取った。離脱する。我について来い」
ゼファー軍は、王国軍左翼の左端斜めから中央へと突き進み、敵将の首を取る。
そこから彼の軍は左に転進することで、王国左翼の正面から飛び出ようと動き出した。
敵の群れの中にいるのに、自由に出入りするかのようにゼファー軍は、敵左翼の先頭に一瞬で踊り出て戦場からの離脱の動きをした。
背を向いているゼファー軍に対して、ネアルが生き残っている左翼部隊に追いかけろの指示を出すが、左翼は、大将を失った状態による混乱状態から立ち直れていなかった。
しかし、これも普段のネアル軍ならば立ち直れたはずなのだ。
でも、この出来事が、ゼファーが敵の左翼と衝突してからたったの十分で起きた出来事だったから、その時間の間で立ち直って追いかけるなど酷の事だった。
「なぜだ・・・山を下る速度が違う・・・こちらも速いはずだ。なのにあの軍は・・・クソ。あの谷で、私の精鋭を失ったのが大きい。彼の動きについて行けたはず・・・」
愚痴をほぼ言わないネアルがついつい言ってしまうほどに、ゼファーの強さが強烈であった。
「ネアル王! 左右に敵がいません。という事は今のは」
「わかっているブルー。力で負けただけだ。ジルバールは普通に負けたのだ。それだけは確実だな・・・しかし左翼の勢いを失っても、この全体の下る勢いは失いたくない・・止まれば先程のショックが全体に波及する。このまま敵の正面に当たるぞ!」
そうネアルの正面には、リョウが率いているゼファー軍がいた。
一万対四万。
数の違いが大きいが。
四万の内の左翼の一万が、先程のゼファーの強襲攻撃で混乱状態。
そして中央にもその動揺が入って動きが鈍い。
実質で言えば一万対二万くらいの戦いになっていた。
「数で押す。押し切って粉砕しかないぞ。ブルー。右翼の方のフォローをしろ。ルジェのカバーをしろ」
「はい!」
上からの攻撃。
ネアル軍の方が位置が良い。
斜面での戦いではやはり上から攻撃するに限るのだ。
だから、この勢いのままであれば、立ち止まっている敵軍を押し込めるはずだと誰しもが思った。
しかし・・・。
「受け止めている?! 何だこの軍は・・・強さが異常だぞ」
ネアルが再び愚痴をこぼす。自分の軍が珍しい状況に陥ったことに、首を傾げていた。
「しかしだ。このまま押し込むしか手がな・・・なに!? いつのまに・・・」
敵陣形の奥が見えたネアルだけが、ある点に気付いた。
敵軍一万の背後をものすごい勢いで横断していく軍がいる。
その軍の狙いが、否が応でも分かってしまった。
「そうか。もう一度か・・・まずい。ブルーに指令を。始まったばかりだが、一時撤退する。このままではもう一度ゼファーの攻撃をもらう羽目になり、また将を失うかもしれん。下手をすればブルーもだ・・くっ。後手に回っているな。でも仕方ない。ここで失うばかりではいかん」
ネアルは悔しさを押し殺して下がることを決断。
まだゼファーが右翼側に移動している最中で、撤退が始まる。
華麗に下がり始める王国軍。
山に登り始めているが、この撤退を逃さないのがゼファーだった。
リョウが率いている軍の背後を移動しきってから、敵の右翼に突撃を開始。
背後を抉られていく王国軍は苦しい撤退戦に入ることになり、兵を失っていく。
そして、ゼファーの勢いが凄まじく。
彼は再び敵陣に潜入することに成功して、王国右翼の中央にまでやってきた。
「貴殿が、将だな」
「な・・え。まさか、ここまで」
ルジェの反応が悪くなるのも仕方ない。
あんな位置から、こんな場所まで。
一瞬で来たゼファーが恐ろしい。
動かない体を懸命に動かそうとしていた。
「申し訳ないが、ここで倒れてもらう。さらばだ」
再び槍の一閃が見えない。ネアル軍の右翼の将ルジェの首が宙を舞う中で、ゼファーが踵を返した。
目的達成したらしく、潔く下がっていったのだ。
「ここで終わりだ。下がるぞ。ゼファー軍!」
頂上決戦第一戦は。
ゼファーの圧倒的な武が、帝国に完璧な勝利をもたらす結果となり、なんとあの武闘派でも有名なネアルがぐうの音も出ない大敗北を喫する。
という信じられない結果で終わるのである。
王国軍左右の将を失う形となったネアルは、今後の戦いをただただ難しくしてしまった。
こうなるのであれば、戦わない方がマシ。
そう思わざるを得ない結果であった。
ネアルの唇からは血が出ていたというくらいに悔しさが残る戦いであった。
ゼファー・ヒューゼン。
フュン・メイダルフィアの従者にして、彼の人生のそばに常にいてくれた最高の友。
そして、彼の夢の為に、命をかけて強くなった最強の戦士。
ゼファーは、この戦いにおいて、完全覚醒を果たし、恐ろしい強さを手に入れたのだ。
この戦いは、のちに、鬼神ゼファーの『慈悲無き鬼の二撃』と呼ばれるものである。
「ようやく来たな」
「どうしますか。ゼファーさん。ここで戦いますか?」
「ライノン殿。あなたは予定通りで。マールさんと本陣待機でお願いします」
「ええ。わかりました。その言い方だと、ゼファーさんはどうするんです? 別なんですよね」
「はい。もちろん。我はいきますよ。ただ、ネアル王はこちらに向かって勝手には攻撃してきません。おそらく・・・」
その予想は正しかった。
◇
決戦前にネアルからの宣言があった。
「ゼファー殿! 下にいるのは、あなたでお間違いないかな」
「そうです。ネアル王。我は、ゼファーです。お久しぶりです」
互いの声が山で反響する。
「ゼファー殿。楽をしたいので、そこを通してくれたりしませんかな。あなたと戦うにはこちらとしては、戦力が足りないかもしれないのでね」
「ハハハ。ご冗談を。あなたのような御方がそんな弱気なことをおっしゃいませんからな。こちらの油断でも誘うつもりですかな」
「いやいや、それくらいであなたは油断なさってくれますかな。本心ですぞ」
「いえ。我は油断しません。それにネアル王。嘘はいけませんぞ」
ゼファーの返答に満足して笑うネアルは独り言をつぶやく。
「・・・ふっ。やはりな。その揺るがぬ心。主の命を守るつもりだな。やはり見ていて気持ちのいい男である・・・よし、やるか」
ネアルはもう一度声を張り上げた。
「それでは、ゼファー殿。こちらとしても攻撃を始めようと思いますぞ。よろしいかな」
「はい。どうぞ。いつでも結構であります」
「さすがだな・・・ネアル軍。全速力で進め」
ネアルが剣を掲げると、王国軍が山を下る。
「「「あああああああああああ」」」
黒い雪崩のようになる王国軍を見て、今度はゼファーが槍を掲げる。
ネアルの掛け声に対しても声で反撃した。
「ゼファー軍。我に続け。いくぞ」
「「「おおおおおおおおおお」」」
下で待機はしない。
ゼファーは山に登り、前進したのである。
◇
山を下りながら、ネアルは驚く。
「なに!? なぜ登って来た! こちらが上になるのだ。優位なのは私たちだぞ。ましてやこちらに向かってくるなど。更に不利になるはず?」
「ネアル王。これには何か策があるのでは」
「ブルー。お前も思うか」
「はい。単純な行動を起こすとは思えません。どこかに伏兵でもいるのかもしれません」
「そうかもしれないな・・・それにしても、この湿り気のある地面で、あの速度か。異常な進軍速度だな」
「ええ、おかしいです。足が地面に取られてないようですね」
「平地だけじゃなく。普段から山でも鍛えていると見た。これは強敵だぞ。ブルー、左右の警戒はお前に任せた。私は彼を注視しておこう」
「はい」
ネアルとブルーは二手に別れるように、相手を警戒した。
しかし、そんなものは余計な作業である。
なぜなら・・・。
◇
山を猛烈な勢いで登るゼファー軍。
その速度は、王国軍の山を下る速度よりも速かった。
「リョウ!」
「はい。隊長!」
並列に走りながら二人は話す。
「一万を任せた。正面で当たれ」
「はい。隊長は?」
「先に五千で側面に行く。このまま少し右に膨らんで相手の左翼を壊す。奴らの左翼の足が遅いのだ。おそらく、そこが弱いと見た」
「わかりました。でも、数が違います。気を付けてくださいね」
「わかっている。頼んだぞ。リョウ! 防御の構えで相手の攻撃を受け止めるだけでいい」
「了解です。おまかせを」
策などない!
ゼファーに人を騙すような戦略や細かい作戦を考える頭があれば良かったのにと思うのは仲間の誰もが思う事。
しかし、その力を持ってしまえば、ゼファーが無敵の将になってしまう。
とありえない話であるが、武の力のみでも彼は化け物。
フュンを守る鬼神である。
◇
ネアルは、味方の将に聞こえるか聞こえないか。
それが分からなくとも、叫んで伝えようとした。
「飛び込んできた! ジルバール! 気を付けろ」
王国軍左翼にいるジルバールが、ゼファーを迎え撃つ形となった。
ゼファーらの初撃。
パールマン軍を砕いた時と同様に、敵の陣形を粉砕する威力であった。
あっという間に、隊列が崩れる。
ネアルは崩れた陣形に向かって呟いた。
「し、信じられん。一撃で粉砕だと」
先頭を走るゼファーの槍が止まることがない。
一人を切り捨てると、槍は次に向かっていた。
ネアルの目には見えても、左翼の将ジルバールの目には、彼の槍技が見えなかった。
ジルバールの声は震えていた。
「あ、ありえるのか。我がジルバール軍は一万もいるのだぞ。それがたったの五千なんかに・・・ありえない」
異様な雰囲気に飲み込まれているジルバール。
彼が嘆いている間にも、ゼファーはこちらに向かってくる。
衝突からたったの五分で、左翼中央にいた自分の元にまでやって来た。
「貴殿が、将だな。目立つ金ピカだな!・・・それでは、お時間がないので、早速やられてもらいますよ」
「ふ、ふざけ・・・」
結局近くであってもゼファーの槍が見えない。
彼の槍が止まった時には、ジルバールの首が勝手に真上に飛んでいった。
左翼を崩壊させる一撃を加えたゼファーが叫ぶ。
「敵将を取った。離脱する。我について来い」
ゼファー軍は、王国軍左翼の左端斜めから中央へと突き進み、敵将の首を取る。
そこから彼の軍は左に転進することで、王国左翼の正面から飛び出ようと動き出した。
敵の群れの中にいるのに、自由に出入りするかのようにゼファー軍は、敵左翼の先頭に一瞬で踊り出て戦場からの離脱の動きをした。
背を向いているゼファー軍に対して、ネアルが生き残っている左翼部隊に追いかけろの指示を出すが、左翼は、大将を失った状態による混乱状態から立ち直れていなかった。
しかし、これも普段のネアル軍ならば立ち直れたはずなのだ。
でも、この出来事が、ゼファーが敵の左翼と衝突してからたったの十分で起きた出来事だったから、その時間の間で立ち直って追いかけるなど酷の事だった。
「なぜだ・・・山を下る速度が違う・・・こちらも速いはずだ。なのにあの軍は・・・クソ。あの谷で、私の精鋭を失ったのが大きい。彼の動きについて行けたはず・・・」
愚痴をほぼ言わないネアルがついつい言ってしまうほどに、ゼファーの強さが強烈であった。
「ネアル王! 左右に敵がいません。という事は今のは」
「わかっているブルー。力で負けただけだ。ジルバールは普通に負けたのだ。それだけは確実だな・・・しかし左翼の勢いを失っても、この全体の下る勢いは失いたくない・・止まれば先程のショックが全体に波及する。このまま敵の正面に当たるぞ!」
そうネアルの正面には、リョウが率いているゼファー軍がいた。
一万対四万。
数の違いが大きいが。
四万の内の左翼の一万が、先程のゼファーの強襲攻撃で混乱状態。
そして中央にもその動揺が入って動きが鈍い。
実質で言えば一万対二万くらいの戦いになっていた。
「数で押す。押し切って粉砕しかないぞ。ブルー。右翼の方のフォローをしろ。ルジェのカバーをしろ」
「はい!」
上からの攻撃。
ネアル軍の方が位置が良い。
斜面での戦いではやはり上から攻撃するに限るのだ。
だから、この勢いのままであれば、立ち止まっている敵軍を押し込めるはずだと誰しもが思った。
しかし・・・。
「受け止めている?! 何だこの軍は・・・強さが異常だぞ」
ネアルが再び愚痴をこぼす。自分の軍が珍しい状況に陥ったことに、首を傾げていた。
「しかしだ。このまま押し込むしか手がな・・・なに!? いつのまに・・・」
敵陣形の奥が見えたネアルだけが、ある点に気付いた。
敵軍一万の背後をものすごい勢いで横断していく軍がいる。
その軍の狙いが、否が応でも分かってしまった。
「そうか。もう一度か・・・まずい。ブルーに指令を。始まったばかりだが、一時撤退する。このままではもう一度ゼファーの攻撃をもらう羽目になり、また将を失うかもしれん。下手をすればブルーもだ・・くっ。後手に回っているな。でも仕方ない。ここで失うばかりではいかん」
ネアルは悔しさを押し殺して下がることを決断。
まだゼファーが右翼側に移動している最中で、撤退が始まる。
華麗に下がり始める王国軍。
山に登り始めているが、この撤退を逃さないのがゼファーだった。
リョウが率いている軍の背後を移動しきってから、敵の右翼に突撃を開始。
背後を抉られていく王国軍は苦しい撤退戦に入ることになり、兵を失っていく。
そして、ゼファーの勢いが凄まじく。
彼は再び敵陣に潜入することに成功して、王国右翼の中央にまでやってきた。
「貴殿が、将だな」
「な・・え。まさか、ここまで」
ルジェの反応が悪くなるのも仕方ない。
あんな位置から、こんな場所まで。
一瞬で来たゼファーが恐ろしい。
動かない体を懸命に動かそうとしていた。
「申し訳ないが、ここで倒れてもらう。さらばだ」
再び槍の一閃が見えない。ネアル軍の右翼の将ルジェの首が宙を舞う中で、ゼファーが踵を返した。
目的達成したらしく、潔く下がっていったのだ。
「ここで終わりだ。下がるぞ。ゼファー軍!」
頂上決戦第一戦は。
ゼファーの圧倒的な武が、帝国に完璧な勝利をもたらす結果となり、なんとあの武闘派でも有名なネアルがぐうの音も出ない大敗北を喫する。
という信じられない結果で終わるのである。
王国軍左右の将を失う形となったネアルは、今後の戦いをただただ難しくしてしまった。
こうなるのであれば、戦わない方がマシ。
そう思わざるを得ない結果であった。
ネアルの唇からは血が出ていたというくらいに悔しさが残る戦いであった。
ゼファー・ヒューゼン。
フュン・メイダルフィアの従者にして、彼の人生のそばに常にいてくれた最高の友。
そして、彼の夢の為に、命をかけて強くなった最強の戦士。
ゼファーは、この戦いにおいて、完全覚醒を果たし、恐ろしい強さを手に入れたのだ。
この戦いは、のちに、鬼神ゼファーの『慈悲無き鬼の二撃』と呼ばれるものである。
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