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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる
第45話 ウォーカー隊の戦いから、次へ
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行き詰っていたのは、前よりも後ろ。
王国軍の前方にいたノインたちよりも、後方のアスターネたちの方が大混乱に陥っていた。
逃げるべきなのは分かっている。
でもその方向にも敵がいて、立ち止まるしかなかった。
ウォーカー隊流の独特なリズムでの戦いによって、王国軍には対処の方法がなくて、苦しんでいたのだ。
「こ、これは・・・」
マサムネとの死闘を繰り広げているアスターネ。
背中や顔には汗が噴き出ていた。
相手の強さ。軍の混乱状態。双方から来る焦りのせいだった。
判断を早くするために、ざっと倒されている味方の数を数える。
二千以上は軽く撃破されているのが見えた。
指示を出したくても相手の攻撃に切れ間が無い。
「まずい。これはどうやって引けば・・・」
悩んでいた所。
アスターネの耳に入ったのがマサムネの謎の指令だった。
「ほらよ。みんな、この信号弾で理解しな」
もう一度黒い光が、空に向かって撃ちあがる。
すると攻撃してきた敵の兵士たちが一斉に散り散りになり、その場から消えていく。
優勢だったのに、なぜ!?
迷ってもアスターネは決断した。
「に、逃げるなら・・今なのかしら」
彼女は、先程までいた見晴らしの良い場所まで戻ることにした。
その頃。
動き始めた味方後方によって、ノインの方面も退却を決断した。
矢の嵐が収まりつつあって、逃げるのも楽になる。
◇
「はぁはぁ。なぜ消えたの? 相手の考えがわからない・・・ん!?」
先頭を走る後方軍の様子がおかしい。
走る勢いに陰りが出ていた。
それと同時に、ノイン側も逃げる方向の脇の異変に気付いた。
「なに!? どこにいた!? さっきまではいなかったぞ。なぜ横から敵が??」
王国軍の後方から中盤。
そこに帝国軍が左右の木々から出現した。
逃げている最中に、横から殴られるのは厳しい。
守りを固めたくても、逃げる事を優先しているために、左右を守れない。
だから、足を止めずに、反撃もせずに、ただただ逃げるしかなかった。
王国軍の退却はグダグダなものに変わっていった。
それは、ウォーカー隊流の出入りの激しい戦闘によって、引き起こされた現象だった。
逃げていく王国軍を待ち伏せているウォーカー隊は、至る所に配置されている。
部隊が細かく分けられていて、敵から見つかりにくい場所に潜伏していたのだ。
今は、兵千で敵の横っ腹を叩いていて、次の場所にも兵士たちが控えている。
ミシェルの軍とヒザルスの軍は合わせて三万五千で、敵軍の数は四万である。
だが、この戦いをしているのは、その中にいたウォーカー隊一万と、狩人部隊が五千。
残りは裏の山に待機してもらって、もしもの場合に備えていた。
それはこのウォーカー隊の高速戦闘について来れないと判断したための温存でもあった。
だからこの戦い。
一万五千が四万と戦っている戦いである。
各地に配置されたウォーカー隊流の配置型の罠が発動していたのだ。
作戦は至ってシンプル。
ミシェルが一万を指揮して相手にちょっかいをかける。
そこから皆をバラバラに退却させて、ミシェルだけが四千の兵を率いて逃げる事で、敵の注意を引いておびき寄せる。
その時に、残りの六千が散り散りになって、敵の進軍していった道の脇で待機。
ミシェルが目標地点に到着すると、五千の狩人部隊で初撃を加えて、敵を足止め。
それと同時に、裏からマサムネの影部隊が強襲。
そしてある程度混乱させると、王国軍のこの場から立ち去りたい気持ちを利用して、退却させる。
それで、先程の一番最初の六千の兵たちが、逃げている敵の横を殴り続ける作戦だった。
王国の四万の軍も、この戦い方は想像できなかった。
相手が正規軍の戦い方をしてくれたら、彼らだって混乱せずに対処が出来ただろう。
しかし相手は元賊でもある者たち。普通の軍の手段では対抗できない。
彼らの荒々しい戦闘スタイルが、この戦場を支配した。
ノインとアスターネは、各地から突然現れるウォーカー隊にちょくちょく攻撃を受けてしまい、元にいた場所に戻る頃には兵士を一万も減らす羽目になった。
無事に戻れた二人は、会議を開く。
「・・・うちら、こんなにも簡単に、罠に嵌ってしまったのね」
「そうだな。俺が追いかけてしまったのがまずかった。俺のミスだ。すまない。アスターネ」
「いいえ。うちも罠の存在を偉そうに言っていたわ・・・あれが罠じゃない事が罠だったのね」
「そうみたいだ。俺たちの視線を上にばかりに向ける。それが、ここを空にした目的だったみたいだ。実際の狙いは、誘き寄せからの待ち伏せか・・・奴らの方が一枚上手だったな」
ノインは先程までいた道を見た。
今いるここが戦うには一番良い場所。
しかしそこを捨ててまで、思いもよらないだろう攻撃を仕掛けることが帝国軍の目的で、本当の狙いは山全体をフル活用することだった。
ゲリラ戦法と、待ち伏せが合わさったような戦い方。
王国軍は、この場所に戻って来れたことが奇跡だと感じる。
敵の数がもう少し多ければ、確実にこちらの軍が消滅していただろう。
それほどの攻撃であった。
「ふぅ。どうするべきか・・・そうだな・・・ここに兵を置いて、固めるか」
「賛成だわ。ここを固めた方がいいかもね。ひとまず防御に徹しましょう」
「そうだな。それとネアル。違うな。本陣は今ヒスバーンがいるのか。あそこに連絡を入れよう。援軍も持って来てもらった方が良いかもしれないからな」
「ええ。そうしましょう。ここからなら、南側の連絡は簡単にできるはずよ。うち、やっておくわ」
「ああ。頼んだ」
王国軍は、ガイナル東の要所で防御を固めることを決めた。
現在は昼過ぎ。
夜までには完璧な布陣を作り込んで、敵の攻撃を防ぐ。
そしてこの情報を本陣に伝えようと伝令兵が移動を開始した。
◇
王国の連携は順調とはならなかった。
それは、この行動を取ると、予測していた人物がいた。
マサムネである。
敵への攻撃を中断した瞬間から、マサムネは影部隊と共に敵の連絡路を先回りしていた。
それは、東の要所と、ガイナル山脈中央南の要所の間の山の中で、敵が通るであろう道を最初から地図で把握していたのだ。
マサムネの得意分野に、地図がある。
彼のもう一つの顔である冒険家という面が、その得意分野を伸ばすきっかけとなっていたのだ。
ガイナル山脈の地形であれば、頭に入っている。
だから、どこを通れば最短距離で本陣に帰れる道かを理解しているのだ。
「やっぱりな。俺の想像通りだ。モモ」
「はい!」
「あれ、三人だけか?」
「うん。そうみたいだよ」
「そうか。なら、捕まえるぞ。連絡を遮断して、連携させない! とにかく俺たちの役目は、防波堤なんだ。ラーゼへの侵攻。またはハスラへの攻撃もさせない。あいつらは、あそこで釘付けにしておけばいいんだ。そうすりゃ、他の戦場で片が付くはず」
「はい」
「やるぞ」
マサムネとモモ。
それと複数の影部隊で、敵の伝令兵を狩る。
殺すのではなく、捕虜として捕まえる。
殺してしまえば足がつきやすくなって、敵がこの状況に気付くのが早くなる恐れがあったからだ。
敵がガイナル山脈の詳しい情報を知るにしても、出来るだけ遅くなってほしい。
マサムネの考えは遅延行為である。
◇
マサムネが伝令兵を捕まえている頃。
王国軍が布陣している場所を眺められる山頂から、ミシェルとリアリスの二人は敵を見つめていた。
「マサムネ様の言う通りの展開・・・これは防御陣ですね」
「うん。そうだね。でもこれは鉄壁だよね」
「そうですね。これは簡単に崩せないですね」
敵の陣営を上から見ると分かる。
人の配置を整えて、その場を鉄壁の陣形に作り替えようとしている。
「ミシェル。さっきみたいな襲撃。次もするのかな」
「いいえ。しないと思いますよ。あれはマサムネ様がいて、出来る戦略ですし。それにあそこに敵が閉じこもった場合は難しい。なので、別な戦略を立てねばなりません。マサムネ様が戻られたら、話し合いをするしかありませんね。どうするかはそこで決めましょう」
「じゃあ、あたしの狩人部隊で見張りをするね。裏で休んでてよ」
「わかりました。お言葉に甘えます。リアリスも適度に休憩をお願いします」
「うん。わかってる。まかせて」
「はい。お願いします」
リアリスはそのまま山頂からの監視を続ける。
敵は、予想通りの守備に重きを置いた行動を取っていた。
◇
そして・・・この日の戦い。
ここからが本番である。
帝国歴531年5月20日2時過ぎ。
ガイナル山脈中央南の要所から、ネアル軍がゆっくり進軍を開始して、山を下り、もう一つの山を登って、敵がいるであろう山裾に向かっている途中。
中腹に入って見晴らしの良い場所で立ち止まった。
そこは、以前王国軍が補給拠点を置いた場所。
ハスラ防衛戦争時にサブロウが攻め込んだ場所である。
「いた。あれがゼファー軍だな」
ネアルが下を覗き込むと、平地の部分にゼファーがいた。
槍を地面に突き刺して、こちらを見上げていた。
「姿が小さいはずなのにな・・・・なんだか、ゼファーだけが大きく見えるな。なんたる風格を持っているんだ。戦場に出ていると凄まじい気を放っている」
あの時のゼファーは、相手を威圧するような闘気を出していなかった。
王就任の時は、普通の人間のような気配だったのだ。
「ですが、数はそれほどでもないのでは?」
「ああ、そうだなブルー」
数を数えると、三万五千ほど。
こちらの軍が四万であり、予備には要所に置いた二万がいるので、合計すれば六万の兵である。頂上に伝令兵を置いて置けば、後で援軍を呼ぶことが出来るので優位な状態。
しかも上を取ったので、こちらが勝ちにいける布陣だった。
「奴との決戦になるか・・・フュン・メイダルフィア。クリス・サイモン。ミランダ・ウォーカー。私の楽しみがこの戦場にいないのであればな。彼こそが、この戦場での私の最大の楽しみとなり、最大の敵だ。さあ、貴殿は私を満足させる強敵となりうるのか。楽しみであるぞ、ゼファー・ヒューゼン! ハハハハ」
嬉しそうに笑うネアルの脇でブルーはため息をついて頭を抱えた。
いい加減、これは戦争なのだから。
新しいおもちゃを手に入れたみたいな、子供のような顔をしないでほしいと思った。
「よし。では、宣言から始めよう! 宣戦布告といこう」
ネアルは大きく息を吸い込んだ・・・。
英雄同士の戦いはここから始まる。
王国軍の前方にいたノインたちよりも、後方のアスターネたちの方が大混乱に陥っていた。
逃げるべきなのは分かっている。
でもその方向にも敵がいて、立ち止まるしかなかった。
ウォーカー隊流の独特なリズムでの戦いによって、王国軍には対処の方法がなくて、苦しんでいたのだ。
「こ、これは・・・」
マサムネとの死闘を繰り広げているアスターネ。
背中や顔には汗が噴き出ていた。
相手の強さ。軍の混乱状態。双方から来る焦りのせいだった。
判断を早くするために、ざっと倒されている味方の数を数える。
二千以上は軽く撃破されているのが見えた。
指示を出したくても相手の攻撃に切れ間が無い。
「まずい。これはどうやって引けば・・・」
悩んでいた所。
アスターネの耳に入ったのがマサムネの謎の指令だった。
「ほらよ。みんな、この信号弾で理解しな」
もう一度黒い光が、空に向かって撃ちあがる。
すると攻撃してきた敵の兵士たちが一斉に散り散りになり、その場から消えていく。
優勢だったのに、なぜ!?
迷ってもアスターネは決断した。
「に、逃げるなら・・今なのかしら」
彼女は、先程までいた見晴らしの良い場所まで戻ることにした。
その頃。
動き始めた味方後方によって、ノインの方面も退却を決断した。
矢の嵐が収まりつつあって、逃げるのも楽になる。
◇
「はぁはぁ。なぜ消えたの? 相手の考えがわからない・・・ん!?」
先頭を走る後方軍の様子がおかしい。
走る勢いに陰りが出ていた。
それと同時に、ノイン側も逃げる方向の脇の異変に気付いた。
「なに!? どこにいた!? さっきまではいなかったぞ。なぜ横から敵が??」
王国軍の後方から中盤。
そこに帝国軍が左右の木々から出現した。
逃げている最中に、横から殴られるのは厳しい。
守りを固めたくても、逃げる事を優先しているために、左右を守れない。
だから、足を止めずに、反撃もせずに、ただただ逃げるしかなかった。
王国軍の退却はグダグダなものに変わっていった。
それは、ウォーカー隊流の出入りの激しい戦闘によって、引き起こされた現象だった。
逃げていく王国軍を待ち伏せているウォーカー隊は、至る所に配置されている。
部隊が細かく分けられていて、敵から見つかりにくい場所に潜伏していたのだ。
今は、兵千で敵の横っ腹を叩いていて、次の場所にも兵士たちが控えている。
ミシェルの軍とヒザルスの軍は合わせて三万五千で、敵軍の数は四万である。
だが、この戦いをしているのは、その中にいたウォーカー隊一万と、狩人部隊が五千。
残りは裏の山に待機してもらって、もしもの場合に備えていた。
それはこのウォーカー隊の高速戦闘について来れないと判断したための温存でもあった。
だからこの戦い。
一万五千が四万と戦っている戦いである。
各地に配置されたウォーカー隊流の配置型の罠が発動していたのだ。
作戦は至ってシンプル。
ミシェルが一万を指揮して相手にちょっかいをかける。
そこから皆をバラバラに退却させて、ミシェルだけが四千の兵を率いて逃げる事で、敵の注意を引いておびき寄せる。
その時に、残りの六千が散り散りになって、敵の進軍していった道の脇で待機。
ミシェルが目標地点に到着すると、五千の狩人部隊で初撃を加えて、敵を足止め。
それと同時に、裏からマサムネの影部隊が強襲。
そしてある程度混乱させると、王国軍のこの場から立ち去りたい気持ちを利用して、退却させる。
それで、先程の一番最初の六千の兵たちが、逃げている敵の横を殴り続ける作戦だった。
王国の四万の軍も、この戦い方は想像できなかった。
相手が正規軍の戦い方をしてくれたら、彼らだって混乱せずに対処が出来ただろう。
しかし相手は元賊でもある者たち。普通の軍の手段では対抗できない。
彼らの荒々しい戦闘スタイルが、この戦場を支配した。
ノインとアスターネは、各地から突然現れるウォーカー隊にちょくちょく攻撃を受けてしまい、元にいた場所に戻る頃には兵士を一万も減らす羽目になった。
無事に戻れた二人は、会議を開く。
「・・・うちら、こんなにも簡単に、罠に嵌ってしまったのね」
「そうだな。俺が追いかけてしまったのがまずかった。俺のミスだ。すまない。アスターネ」
「いいえ。うちも罠の存在を偉そうに言っていたわ・・・あれが罠じゃない事が罠だったのね」
「そうみたいだ。俺たちの視線を上にばかりに向ける。それが、ここを空にした目的だったみたいだ。実際の狙いは、誘き寄せからの待ち伏せか・・・奴らの方が一枚上手だったな」
ノインは先程までいた道を見た。
今いるここが戦うには一番良い場所。
しかしそこを捨ててまで、思いもよらないだろう攻撃を仕掛けることが帝国軍の目的で、本当の狙いは山全体をフル活用することだった。
ゲリラ戦法と、待ち伏せが合わさったような戦い方。
王国軍は、この場所に戻って来れたことが奇跡だと感じる。
敵の数がもう少し多ければ、確実にこちらの軍が消滅していただろう。
それほどの攻撃であった。
「ふぅ。どうするべきか・・・そうだな・・・ここに兵を置いて、固めるか」
「賛成だわ。ここを固めた方がいいかもね。ひとまず防御に徹しましょう」
「そうだな。それとネアル。違うな。本陣は今ヒスバーンがいるのか。あそこに連絡を入れよう。援軍も持って来てもらった方が良いかもしれないからな」
「ええ。そうしましょう。ここからなら、南側の連絡は簡単にできるはずよ。うち、やっておくわ」
「ああ。頼んだ」
王国軍は、ガイナル東の要所で防御を固めることを決めた。
現在は昼過ぎ。
夜までには完璧な布陣を作り込んで、敵の攻撃を防ぐ。
そしてこの情報を本陣に伝えようと伝令兵が移動を開始した。
◇
王国の連携は順調とはならなかった。
それは、この行動を取ると、予測していた人物がいた。
マサムネである。
敵への攻撃を中断した瞬間から、マサムネは影部隊と共に敵の連絡路を先回りしていた。
それは、東の要所と、ガイナル山脈中央南の要所の間の山の中で、敵が通るであろう道を最初から地図で把握していたのだ。
マサムネの得意分野に、地図がある。
彼のもう一つの顔である冒険家という面が、その得意分野を伸ばすきっかけとなっていたのだ。
ガイナル山脈の地形であれば、頭に入っている。
だから、どこを通れば最短距離で本陣に帰れる道かを理解しているのだ。
「やっぱりな。俺の想像通りだ。モモ」
「はい!」
「あれ、三人だけか?」
「うん。そうみたいだよ」
「そうか。なら、捕まえるぞ。連絡を遮断して、連携させない! とにかく俺たちの役目は、防波堤なんだ。ラーゼへの侵攻。またはハスラへの攻撃もさせない。あいつらは、あそこで釘付けにしておけばいいんだ。そうすりゃ、他の戦場で片が付くはず」
「はい」
「やるぞ」
マサムネとモモ。
それと複数の影部隊で、敵の伝令兵を狩る。
殺すのではなく、捕虜として捕まえる。
殺してしまえば足がつきやすくなって、敵がこの状況に気付くのが早くなる恐れがあったからだ。
敵がガイナル山脈の詳しい情報を知るにしても、出来るだけ遅くなってほしい。
マサムネの考えは遅延行為である。
◇
マサムネが伝令兵を捕まえている頃。
王国軍が布陣している場所を眺められる山頂から、ミシェルとリアリスの二人は敵を見つめていた。
「マサムネ様の言う通りの展開・・・これは防御陣ですね」
「うん。そうだね。でもこれは鉄壁だよね」
「そうですね。これは簡単に崩せないですね」
敵の陣営を上から見ると分かる。
人の配置を整えて、その場を鉄壁の陣形に作り替えようとしている。
「ミシェル。さっきみたいな襲撃。次もするのかな」
「いいえ。しないと思いますよ。あれはマサムネ様がいて、出来る戦略ですし。それにあそこに敵が閉じこもった場合は難しい。なので、別な戦略を立てねばなりません。マサムネ様が戻られたら、話し合いをするしかありませんね。どうするかはそこで決めましょう」
「じゃあ、あたしの狩人部隊で見張りをするね。裏で休んでてよ」
「わかりました。お言葉に甘えます。リアリスも適度に休憩をお願いします」
「うん。わかってる。まかせて」
「はい。お願いします」
リアリスはそのまま山頂からの監視を続ける。
敵は、予想通りの守備に重きを置いた行動を取っていた。
◇
そして・・・この日の戦い。
ここからが本番である。
帝国歴531年5月20日2時過ぎ。
ガイナル山脈中央南の要所から、ネアル軍がゆっくり進軍を開始して、山を下り、もう一つの山を登って、敵がいるであろう山裾に向かっている途中。
中腹に入って見晴らしの良い場所で立ち止まった。
そこは、以前王国軍が補給拠点を置いた場所。
ハスラ防衛戦争時にサブロウが攻め込んだ場所である。
「いた。あれがゼファー軍だな」
ネアルが下を覗き込むと、平地の部分にゼファーがいた。
槍を地面に突き刺して、こちらを見上げていた。
「姿が小さいはずなのにな・・・・なんだか、ゼファーだけが大きく見えるな。なんたる風格を持っているんだ。戦場に出ていると凄まじい気を放っている」
あの時のゼファーは、相手を威圧するような闘気を出していなかった。
王就任の時は、普通の人間のような気配だったのだ。
「ですが、数はそれほどでもないのでは?」
「ああ、そうだなブルー」
数を数えると、三万五千ほど。
こちらの軍が四万であり、予備には要所に置いた二万がいるので、合計すれば六万の兵である。頂上に伝令兵を置いて置けば、後で援軍を呼ぶことが出来るので優位な状態。
しかも上を取ったので、こちらが勝ちにいける布陣だった。
「奴との決戦になるか・・・フュン・メイダルフィア。クリス・サイモン。ミランダ・ウォーカー。私の楽しみがこの戦場にいないのであればな。彼こそが、この戦場での私の最大の楽しみとなり、最大の敵だ。さあ、貴殿は私を満足させる強敵となりうるのか。楽しみであるぞ、ゼファー・ヒューゼン! ハハハハ」
嬉しそうに笑うネアルの脇でブルーはため息をついて頭を抱えた。
いい加減、これは戦争なのだから。
新しいおもちゃを手に入れたみたいな、子供のような顔をしないでほしいと思った。
「よし。では、宣言から始めよう! 宣戦布告といこう」
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