人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第30話 もう一度戦う

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 帝国本陣。

 「フラム。ハルクが亡くなったぞ。後は頼むと・・・おいらたちは、ここを託されたぞ」
 「・・・その役目・・・私の役目だと思ったのですがね。私が死んだほうが・・・後に良いはず」
 「そんなことは考えるなぞ。ハルクはお前さんがいるから安心して敵に向かっていたのだぞ。それにお前さんの方が、あの作戦を成功に導くと思っているぞな」
 「・・・私は託されたのですね。こうなると、私がやれることは・・・サブロウ殿。スクナロ様に、プランはCに変わったと。私が亡くなられたハルク殿と共に、成功させてみせますと、お伝えください。お願いします」

 フラムもハルクの意思を継いでいた。
 計画を発動させるために、覚悟を決めた。

 「了解ぞ。行ってくるぞ」
 「はい。私が、彼の為にもやりきってみせます。ここが私の腕の見せ所でしょうね。二日! 二日は持たせると、スクナロ様にはそれで、準備をしてもらいたい」
 「わかったぞ」

 サブロウとフラムの小会議が終わった後。
 全体の将たちが来た。
 今までの事情を全て説明すると、デュランダルらが驚く中でも、サナだけはあくまでも冷静だった。

 「ハルク閣下が!? 俺たちのために・・・」
 「そうです。私たちを逃がすため。それと、敵の追撃の威力を弱めるために敵の大将を討ち取りました」
 「なに!? それは本当か・・・エクリプスを討ったと・・・」

 リエスタは驚くと同時に机を叩いた。
 敵の大将に突撃を仕掛けただけでも凄いのに、相手の大将を討ち取る戦果は大金星に近い。
 命を賭して戦い。
 それに見合う凄まじい戦果である。

 「・・・しかしハルク・・・すまない。私がもっと強ければ・・・サナよ。すまないな。私がもっと強い将であれば・・・ハルクを死なせずには」
 「いいえ。リエスタ様。それは違います。父は役目を果たしたのです。後悔はしていませんので、父が死んだこと。あなたが謝ってはいけません。それこそ父を侮辱する行為であります」
 「・・・そうだな・・・すまない。そこも私が悪い」
 
 リエスタはサナに頭を下げた。

 「大丈夫です。謝らなくてもいいのです。それで、今後はどうするのでしょうか。フラム閣下」

 サナは気丈だった。父が死んでも前を向いていた。
 それは彼女の中に、すでにハルクから色々な思いや技が継承されているからだった。
 ここでいつまでも悲しんで、泣いていれば、それで良しと言う父親じゃない。
 おそらく泣き続けるような状態を続けてしまえば、あの父は天国からでも憤慨するだろう。
 彼はそういう漢であるとサナは理解している。

 「ここはですね。一旦ここで死守です。二日。この時間を稼ぎます」
 「時間を稼ぐ・・・・どういう事でしょうか」
 
 アイスが聞いた。

 「はい。いいですか。今回の戦い・・・実はとある作戦が発動していました。それはフュン大元帥。クリス、ミランダの両元帥の作戦です」
 「なに。あの三人の作戦ですか」

 デュランダルが聞いた。

 「はい。今回、作戦ルートは大まかに言うと三点ありました。その内の二点。それがこの戦いでの作戦でした」
 
 フラムが指を三つ立て、内人差し指と中指を握った。

 「この二点。表裏一体の作戦でありまして、まずプランAです。こちらはアージス大戦で勝つ。そのまま戦って勝つルートでありました。なので最初の様子見から一気に攻勢に出ようかと思って戦いましたが、ここで赤の信号弾が来たことで、プランはBへと変更になりました」

 アージスから始まった両国の戦闘。
 そこから、ハスラ方面の襲撃を受けて、プランは変わったのだ。
 
 「プランB。それがゆっくり整えるです。敵とのにらみ合いを長くして、出来るだけ戦うことが目的です」
 「そいつは・・・不思議な戦い方で? どういうことですか。閣下?」
 「はい。これは、この地に惹きつけるようにして戦う。注目を浴びることが重要と言ってもいいですね。ここが重要なんです。それはあちらも同じ事」
 「あちらも?」
 
 アイスが聞いた。

 「はい。ハスラ方面も出来るだけ長く戦っているはずです。おそらくは、今も戦っているでしょう」
 「でも、それではいけないだろう。いずれはジリ貧な戦いになってしまうぞ」

 リエスタが指摘した。

 「はい。そこで、ここまで日数を伸ばした結果。私たちが取れる究極の作戦がプランCです。これは大元帥提案の・・・」
 
 フラムが説明しだすと、ここに集まった将たちが目を丸くする。
 その任務は、今までの帝国にはないトップクラスの難しい作戦だった。

 「・・・おいおいおい。うちらの大将は、何を考えているんだ。そんなことが出来るのか・・・そんなの前もってもっと準備しないと・・・出来ないことだぞ」
 「大元帥は、本当に実行に移すと!?」
 
 デュランダルとアイスが嘆くと。
 
 「フハハハ。さすがだ。叔父上! 私は気に入ったぞ」 
 「ええ。そうですね。さすがは、フュン大元帥・・・私たちの力を信じているという事みたいね」

 リエスタとサナは喜んでいた。
 難しい事を言ってきたので、自分たちを信じてくれているのだと思ったのだ。

 「そこで、サブロウ殿に連絡を頼んだので、準備が整うまでの二日。この期間。この場を死守します。よろしいでしょうか」
 「「「「もちろんです」」」」

 四人全員が答えた。

 「では、軍を再編成します。ハルク大将の軍をサナさん。よろしいですか」 
 「私ですか」 
 「はい。あなたを一時的に大将の地位まで引き上げて、ハルク殿の部隊をお願いします。1万5千です」
 「わかりました。やりましょう」
 「はい。それで次に、リエスタ様の部隊は? 数は??」

 リエスタに聞くとすぐに答える。

 「うむ。私の部隊は5千。ほぼ全員が生き残っている」
 「そうですか。ならばそのままの数で、人を足さない方が、あなた様の力を発揮しますね」
 「当然だ。他の兵ではついて来れないと思うのだ」

 リエスタの部隊は特殊兵とも呼べる者たちで、リースレットの部隊も特殊だが、まだあの動きであれば、普通の人間でもついていけるのだが、リエスタの移動にはついて来れない者が多い。
 だから普段から彼女の部隊は、別な訓練を受けているのだ。
 まずは彼女の動きについていく。
 それだけでも疲労困憊になると言われている。

 「私は1万にします。なので、5千ずつをデュランダル大将とアイス大将に預けます」
 「閣下のを? なぜ」
 「私とリエスタ様は、遊軍となります」
 「「ん?」」

 デュランダルとリエスタは疑問に思った。

 「デュランダル大将とアイス大将。そしてサナ中将で、三軍になります。これで防御に徹しながら、バランスを整えるのが私とリエスタ様です。必要な所に必要な分だけの兵で助けに行く。これで相手の攻撃を守り切ります」
 「なるほど。それはたしかに、その方が上手く回りそうですね。閣下」

 アイスが頷いた。

 「はい。そこで、デュランダル将軍が中央。アイス将軍が左。サナ将軍が右を担当してください。これがベストだと思います。デュランダル将軍が攻守に優れた将です。勘もいいですしね」
 「閣下・・・いいのですか。それだと俺がまるで総大将だ」
 「ええ。いいんです。あなたたちがこの帝国の次代を支える将たちです。私なんて、前時代の遺物なんですよ。内乱時代。御三家戦乱も戦い。御三家の時代の終焉も見た男です。ですが、あなたたちは、違います。あなたたちはこれからの将だ。希望に溢れた。次への布石を打てるのが君たちなはずだ。だから、フュン様を支えるのは、君たちであってほしい。私はその礎になろう。基礎の部分を私が固める。だから安心して戦ってほしい。好き勝手暴れてください。私がその穴埋めの救援に入りますよ」
 「・・・閣下・・・」

 直接言葉を受けたデュランダルも、間接的に聞いていたアイスたちも、フラムの言葉に感銘を受けていた。
 自分たちの為に、土台になると言ってくれた事。
 それは、期待をしてくれているという事の裏返しでもある。
 力強く頷く四人は、フラムからの期待に応えようと思った。

 「閣下。俺やりますよ。ここからの二日間、皆で乗り切りましょうか!」
 「ええ。そうですね。では、明日から、私たちは重要な任務に入ります。頑張りますよ。いいですね!」
 「「「「はい!」」」」

 歴史に残る戦い、第八次アージス大戦の終盤に起きた。
 『血の平原』と呼ばれる戦いが始まろうとしていた。
 血で血を洗うような戦い。
 夥しい量の出血が至る所で発生して、アージスの大地を血で染めた戦いである。
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