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第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる

第4話 戦いを始めるために必要な事

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 サナリアから離れるために、シガーにサナリアの全てを任せたフュン。 
 帝都に戻って産後からの復帰を果たしたシルヴィアと共に会議を開いていた。
 幹部会。
 それは過去の帝国ではありえない。
 軍部と内政の両面での会議である。
 帝国はここでも一致団結していた。

 「フュン。停戦終わりで。すぐに仕掛けるのか?」

 ミランダがぶっきらぼうに聞いた。

 「いいえ。そこではやりません。僕らから仕掛けるにしてもすぐはやりません」
 「そうなんですか。どうしてですか」

 シルヴィアが聞いた。

 「僕らの攻撃は、油断した頃が一番効きます。なので、こちらから仕掛けるにしても、じれったくゆっくりいきたいですし、あちらから仕掛けてくれるのであれば、一気に反撃をしたいです。それが攻略の布石となります。足場を固めて勝負する。そこで奪った場所で、ネアルとの真の勝負が始まります」
 「そうか……って、どんな作戦なんだ」

 スクナロが頷いた。

 「それはこのような計画です」

 フュンが会議室の壁に、アーリア大陸全体の地図を広げた。
 中央を指す。

 「僕らはここに新都市を築きます。経済として重要拠点にしたいのはもちろんなんですが、今は、戦争の軍事拠点として重要なものに仕上げたい。ここを起点において、左右。地図で言うと南のアージス。ここをスクナロ様。地図で言う。こちらの北のハスラをジーク様が受け持ちます」
 「フュン君。シルヴィと君はどうするんだい。戦争になったら前には出ないのかい?」

 ジークが聞いた。

 「僕は出ます。ただシルヴィアは・・・」
 
 フュンは横目でシルヴィアを見た。

 「当然。私も出ます。後ろに引っ込んでいるだけでは、兵に示しがつきません」
 「でしょうね。あなたならばそう言うと思いましたよ・・・・」
   
 なんとまあ勇ましい皇帝である。
 前線に出て来る皇帝もまた珍しい。

 「フュン様。計画では、私が入る予定では?」

 恐る恐るクリスが聞いてみた。

 「そうです。あなたがリナ様と同じく。新たな都市を守ります。軍事として、クリス。内政としてリナ様が。こちらの都市を守護します。今の予定では、前線都市リリーガと名付ける予定です」
 「リリーガですか。リーガの名残がありますね。フュン様、よろしいので?」

 リナが聞いた。

 「はい。いいんです。リナ様が治めている証になりますしね。リーガは、ドルフィン家が治めていたんですから」
 「フュン様……お気遣いありがとうございます」
 「いえいえ。リナ様にお任せします。あとで、もしかしたらですけど。新帝都になるかもしれませんがね」
 「ええ。それでもありがとうございます」
 
 新都市はリリーガと呼ばれることになる。
 帝国の最前線都市は、元々の三つ。ハスラ。リーガ。ビスタ。
 この三つの内、南北の縦のラインの中で一番敵に近いのがビスタ。
 だが今回、フュンが計画した新都市リリーガは更に近い。
 最も前に出る形になるのだ。
 フーラル湖の正面に出来上がって、湖の先が敵国となる。
 だから、反対側の要塞都市ギリダートに対しての圧力にもなる都市となる。
 いよいよを持って、この都市が完成すれば、帝国が戦争に本腰を入れたとも言える出来事になるのだ。
 フュン・メイダルフィアの力により、帝国の力が集結した結果でもある。

 「ふぅ・・・・」
 「どしたのさ。フュン」
 「ええ。少しだけ、不安がありますね。向こうの力も必ず増幅していると思います。唯一の弱点を補強してくるはずだ」
 「弱点? あんのか。あいつに?」
 「あります。ネアルの弱点は、ネアルにあります」
 「ん?」 

 フュンとミランダの会話だが、皆も疑問に思った。
 
 「ネアルの弱点。それは、自分で全てを考えることです。クリス。気付いていましたか」
 
 いつも表情の変化のないクリスの顔が僅かに揺れた。
 フュンだけがその変化に気付く。

 「はい。私もそれが彼の弱点だと思います。アージス大戦で戦ったことで理解しました。ヒスバーンがいても、彼は己の判断を第一優先にします」
 「そうでしょう。彼は、何をするにも自分で決めています。部下の力を重要視している割には彼の決断に仲間がいません。なので、この弱点を克服するかが、この先の戦争の難易度となります」
 「どういう事だ。義弟よ!」
 
 スクナロが聞いた。

 「ええ。彼が周りの力を活用し始めた時。その時は僕らも苦戦することが必須でしょう。なぜなら一人分の作戦を読み切れば勝ちの状態となりましたから、もし克服したら複数の人間の考えを読んで相手の策を看破しなければなりません。僕は今までネアルならどう考える。これだけ考えればよかったのですよ」

 フュンの二度に渡るアージス大戦での出来事は、一人分の思考を読み切れば勝ち。
 この状態であったからこそ、自分がギリギリで渡り合えたと思っている。

 「僕は、皆さんの力を借りることを躊躇しません。僕は軍の指揮権すら渡せます」
 「そうだな……シンドラの時。あたしに渡してきたもんな。お前」
 「はい。信頼するミラ先生ならば、必ず勝ってくれると信じてますからね。僕は勝利を自分で掴むのではなく、全員で掴みたいだけです。なので、この差が唯一、僕が彼に勝っている部分だと思っています。ここだけは、僕が勝つ自信があります」

 フュンは皆の顔を見てから笑顔で答える。

 「皆さんに任せっきり。これが僕の得意なことです。ね!! 皆さん」
 「確かに。あなたはそうですね。私たちを信頼してくれますからね」

 シルヴィアが同意すると、皆も頷いてくれた。
 フュンの信頼に応える。
 それが心地よい事でもあるのを皆が知っている。
 力が湧いて来る感覚も得ていた。

 「そうです。ここからは、僕らが一人一人の信頼関係で、勝っていかないといけない。そこでシルヴィア。ここから戦うには、継戦能力を高めないといけません」
 「ん? どういうことでしょう」
 「両国は大規模戦闘を数回こなすことになります。その際、アージス大戦クラスの戦いが何回も起きるのです。こうなると経済面にも打撃が来ます。人的資源にもです。なので、ここ数年で力を蓄えないと、別な面で戦争が出来なくなります」

 一度くらいの戦いならば、各地でカバーすれば体勢を立て直せる。
 しかし、たびたび起きる大戦クラスの戦いでは、かかるお金も莫大で、兵士も必要となるのだ。 
 全都市が力を合わせても、限界は来るために期限が必須となる。
 
 「一度始めたら……最長でも十年。五年くらいから厳しくなると思います。この間に、僕らは戦争を終わらせないといけません。どちらが勝つかはまだわかりませんが、ここのラインを越えたらやめましょう。そのラインに到達するとなれば、時間も人も無駄になります」
 「そうですね。たしかに、そうなるでしょうね。フュンの言う通りです」
 「なので、サティ様。ここはあなたに任せたい。厳しくなったら言ってください」
 
 サティは頷いた。

 「ええ。もちろん。こちらとしても、それを頭に入れて動いていきますので、なんとかしましょう」
 「お願いします」

 フュンがお辞儀をした後。
 会議の最後に。

 「皆さん。戦争だけで、相手に勝つことはできない。それを頭に入れてください。ジーク様とスクナロ様を筆頭にして戦って勝つだけでは、相手の国を倒すことは出来ません。リナ様。アン様。サティ様。それに他の皆の力を合わせていき、内政面も強化していかないと王国に勝つことなんて不可能なのです。ですから、我らは一丸となって勝ちに行きましょう。そして、その先へといきましょう。僕らは平和を手に入れて、皆でのんびりと過ごしましょうね。これが目標ですよ。ハハハハ」

 戦って勝つ。そして、平和に暮らす。
 その意気込みがある癖に、先の展開はゆったりとしたものを目指していた。
 フュン・メイダルフィアは、穏やかな日々を皆で過ごすためにこれからを戦うのである。
 戦いとは無縁の思考をしている男が、愛する者を守るために戦いを始めようとしていた。
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