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エピソード0 英雄の師ミランダ・ウォーカーの物語
第300話 ウォーカー隊の真骨頂 上
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宣言戦争が開幕。
北側から攻めて来るのがニバルジェ家。南側から攻めるのがノルディー家。
両軍は戦場地である林の中を、敵軍目指して進軍していく。
そこで、両軍どの隊よりも突出していたのが、ミランダとサブロウ隊であった。
影にいながら高速で移動中である。
「サブロウ。影から出て、すぐに影に入ると察知されやすいのか」
「そうぞ。それだと、敵に察知されやすいぞ。だから、煙幕を入れるんだぞ。それでワンクッション挟むと影にリスクなく消えることが出来るぞ」
「なるほどな。でも、多用は出来ないよな?」
「そうぞ。使っても三回ぞ」
「了解。それじゃあ、敵が定位置に着いたら張り付くぞ。いいな」
「「「おおおお」」」
ミランダ率いるサブロウ隊は、影となり敵の背後に回った。
◇
「サルトンさん。そっちの軍配置できますか」
「右の場所だよな。大丈夫だ。そっちこそ、ザンカの左は大丈夫か?」
二人の傭兵は余裕の精神状態であるが、ただ一人焦る表情の女性がいた。
「ええ。ただ・・・エリナ。お前大丈夫か?」
「ああ。ま、ま任せておけよ・・・だ、大丈夫だよ、なあ」
エリナは明後日の方角を見ていた。
『やばいかもな』
と思うザンカとサルトンはエリナを励ます。
「エリナ、深呼吸しとけ。緊張は誰にでもある。初指揮ならなおさらだ」
サルトンが年長者らしく落ち着かせようとしてくれているが。
「ああ、そ・・・そうだよな」
声が裏返っていた。
「エリナ。難しく考えるな。冷静にだ」
ザンカも声を掛けてくれるのだが。
「お。おう。そうだよな・・・おう・・・おう」
逆効果だった。
「なに、二人ともそんなに心配すんな。大丈夫だ! こいつが駄目でも、部隊には俺がいるからよ。お前ら、エリナじゃなくて、俺にドンと任せておけ! ガハハハ」
失礼なフォローを入れるザイオンが豪快に笑うと。
「んだとてめえ。あたいが何も出来ない奴みたいに言うなよ。ザイオン!」
エリナに勢いが出てきた。
「だってエリナよ。そんなに緊張してたら出来るもんも出来ないぞ」
「ああ? やんのか。てめえ」
「何怒ってんだ。お前、緊張してんだろ。隠すなよ。出来ないなら俺に任せておけ。安心しろ」
「あたいが緊張するだって? は!? こんな事で緊張なんかしねえわ。やってやるわ!!」
『あ、大丈夫かも』
と思ったザンカとサルトンは左右の定位置に移動するために中央軍から離れていった。
◇
敵の背後で影となり追従しているミランダたち。
敵の見事な進軍を褒めていた。
「すげえ統率が取れている。オラクルって奴の腕がいいのか」
「そうかもしれないぞな。傭兵すらも隊列揃えて進軍しているものな」
「ああ。しかしな・・・こいつら、別れて偵察するのは予想通りだったな」
敵が林の中盤あたりで一時停止して、部隊を分けて偵察を出すと予想していた。
それも三カ所である。
なぜそれを看破したかと言うと、そこを取ると、この戦場で優位な立場で戦えるからである。
だからオラクルは総軍八千の兵の内の千部隊ずつをそこに移動させ始めた。
五千の兵は本陣となり中央待機である。
「おうぞ。やっぱりお前さんの考え。先読みが凄いぞな」
敵の動きを読んでいたミランダを褒めた。
「相手の警戒の仕方が正しいぞ。あいつら、敵にバレないように潜めているかいぞ?」
「そこは大丈夫だと信じたいけどな。上手くいけば三カ所で叩けるはずなんだ。でも問題はそこじゃないかもしれん」
「ん?」
「この本陣。危険だな。あたしらが見張ろう。今、三カ所に別れている部隊に対して、これが突っ込んでいったら全滅するな」
「そうぞな。五千だものな」
「ああ。数の違いがデカい。あたしらは千ずつに別れているからな。各個撃破されたら死ぬ」
ミランダの懸念は、各個撃破。
ミランダが率いているノルディー家の兵は四千で、千ずつに分解している。
その中で三千が林の中に存在していて、敵が偵察するだろう三つのポイントの一歩手前にて潜んでいる。
彼女が仕掛けようとしているのは、三か所同時での待ち伏せ攻撃だ。
一挙に叩いて、一気に引くのが目的である。
「これで、いけるならいいよな」
ミランダは目の前の中央待機の軍の裏で皆の勝利を願っていた。
◇
ノルディー軍はミランダの立てた作戦どおりに動き出していた。
あらかじめミランダが予想した三カ所に来る敵に対して、こちらは七百の兵で立ちはだかり、残り三百の兵が周りの木々や茂みに隠れて待ち伏せをするという単純な罠を仕掛けたのである。
これを実現するために、サブロウらの里の自然と一体化する方法などで潜んでいるのだ。
それはたとえば呼吸方法などで、息を潜める訓練をしてきた。
これらの技は戦争で使用するというよりかは、狩りに使うようなテクニックである。
これが後に、ウォーカー隊の基本戦術になるのだが、今回がその先駆けの戦いとなる。
「ああああああああああああ」
三カ所で同時に声が響くと、ミランダとサブロウがビクついた。
「お! 始まったか」
「そうみたいぞ」
サブロウが指差した先にいるオラクルは、本陣で慌て始めた。
偵察のための兵を千。
本格的なぶつかり合いに発展するわけがないと思って、三カ所に派兵しただけであるからだ。
オラクルは非常に優秀な指揮官である。
林の中で良いポジションを確保しようとミランダが睨んだポイントに布陣しようとしただけでもかなり優秀なのだ。
今の声に驚いたとしても、すぐに建て直して、伝令を三カ所に送り出していた。
「凄いなあいつ。想定外が起きても適切な対応をするぞ」
「そうなのぞ?」
「ああ、こうなってくるとだな。あたしらは出来るだけ三カ所で兵を削らないとヤバいな」
「・・・んんん。そうなのぞ?」
「ああ。生き残りが半数以上になった場合。ここに五千。帰って来たのが千だと六千だろ。あたしらは三千で動いているからな。ここで倍以上は辛いな」
ミランダは仲間たちの奮闘を信じるしかなかった。
◇
ザンカの左翼部隊は、上手く敵をやり過ごしてからカウンターで罠に嵌めることが出来ていた。
さらに、サルトンの右翼部隊もザンカ同様に待ち伏せが成功していた。
だが、エリナ率いる中央部隊が苦戦を強いられていた。
「上手く嵌めたはずなのに!? なんで、あっちが優位になってんだ」
エリナの部隊が上手くいかなかった理由。
それは対戦相手となった指揮官が、オラクルの懐刀ナルドであったからだ。
彼はオラクル同様。非常に優秀な指揮官で、ここの要所に到着する際も慎重に来て、エリナの部隊で密かに隠れている兵士たちを見抜いていた。
なので、彼女らの部隊の奇襲が失敗に終わっていて、攻撃が上手くいかなかったのだ。
「それに、これは防御が上手いんだろうな」
「ん? ザイオン? なんか見えてんのか」
「ああ。あいつの兵の右。あれが一番強いぜ」
「あたいにはわからんな。お前には見えてんのか」
「なんとなくだな。俺は見学ばかりしていたからな。実際に訓練で戦ってきたわけじゃないから、感覚でしかわからん」
「そんで、どうする気だ」
「逆を押すわ。お前が一番強い奴の所を抑え込み。俺が右から押し込んでいくわ。そうなれば集中力が落ちるはず。エリナも押し込んでいけると思う」
「了解。あたいは守って、逆転を狙えばいいんだな」
「おうよ。頼んだ!」
この戦いで、ザイオンの直感型の将としての才能が開花した。
敵の弱点が本能で見えてくる。
大きな体は、戦うために生きてきた証。
ザイオンは、豪快に戦場を駆ける男なのだ。
「おっしゃああ。俺に続け。俺が切り開く」
敵はザイオンのその圧力に度肝を抜かれた状態で、道を明け渡した。
ナルドの隊の左翼が一挙に崩壊すると、右翼側で守勢に徹していたエリナが押し込み始めた。
両翼が崩壊気味になると、ナルドは即決断。
無理な個所を切り捨てて、撤退を開始した。
ザイオンとエリナが、追撃を仕掛けようとするも、相手の上手い撤退によって憚られて、中断。
それと本当は無理をすれば、追撃が可能であったが、ミランダが許したのは、もう一つ先にある停止線までであった。
だから、エリナも部隊に撤退を指示。
誰もいない本陣まで戻り始めた。
「エリナ。もうちょい戦いたかったぞ」
「それはあたいだってそうだ。でもミラがあそこまでだってな。黒い線を見なかったか?」
「黒い線?」
「はぁ!? 話聞いてねえのかよ。ミラとサブロウが設定した木の上の線だよ。黒い紐があっただろ。あそこが追撃限界だってよ」
「そうだったかぁ。惜しかったな」
エリナは、今の自分の言葉も聞いてくれたのか。そこも心配になったのだ。
◇
敵本陣の裏で待機しているミランダは、影から報告を受けたサブロウに聞く。
「サブロウ。どうだって?」
「ああ。倒したのは千五百だそうだぞ」
「クソ。半分か・・・微妙だな」
仲間が倒したのが、三千の兵の内の半分だけな事にミランダは焦る。
敵は元々八千。内三千が要所を抑えるために偵察に出ていった。
それで要所で負けなかったことはこちらとしては嬉しい戦果であるが、敵の数がまだ六千五百であるのが厳しい。
ミランダの予定では全滅。
五千にまで減らして、こちらの兵数との差を小さくしたかったのだ。
数の優位は、いまだに相手の方に分がある。
「シゲマサ」
「おう」
「一か八かの策に賭けるしかねえ。この数の差を大逆転させるには、相手の将が考えないことをするしかないのさ。ということでリスクを取って例のを発動させる。ザンカたち幹部に、例の作戦を取ると伝えて来てくれ」
「了解」
「頼んだ」
ミランダはシゲマサを伝令に使った。
マサムネだと不安が残るので、仕事を正確にこなす男に任せたのである。
「マサムネ。予備は! どの位置にいる」
「・・・そうだな。林の裏に入ったんじゃないか。時間的にな」
「そうか。マサムネは背後を見ていてくれ」
「了解」
ミランダはそれぞれに指示を飛ばした後に。
「皆。あいつらに合わせて、前進するぞ。敵の本陣の背後を追跡していく」
「「「おお」」」
影部隊とミランダは、敵の背後にピタリと追従しながら、戦場を観察し続けていた。
北側から攻めて来るのがニバルジェ家。南側から攻めるのがノルディー家。
両軍は戦場地である林の中を、敵軍目指して進軍していく。
そこで、両軍どの隊よりも突出していたのが、ミランダとサブロウ隊であった。
影にいながら高速で移動中である。
「サブロウ。影から出て、すぐに影に入ると察知されやすいのか」
「そうぞ。それだと、敵に察知されやすいぞ。だから、煙幕を入れるんだぞ。それでワンクッション挟むと影にリスクなく消えることが出来るぞ」
「なるほどな。でも、多用は出来ないよな?」
「そうぞ。使っても三回ぞ」
「了解。それじゃあ、敵が定位置に着いたら張り付くぞ。いいな」
「「「おおおお」」」
ミランダ率いるサブロウ隊は、影となり敵の背後に回った。
◇
「サルトンさん。そっちの軍配置できますか」
「右の場所だよな。大丈夫だ。そっちこそ、ザンカの左は大丈夫か?」
二人の傭兵は余裕の精神状態であるが、ただ一人焦る表情の女性がいた。
「ええ。ただ・・・エリナ。お前大丈夫か?」
「ああ。ま、ま任せておけよ・・・だ、大丈夫だよ、なあ」
エリナは明後日の方角を見ていた。
『やばいかもな』
と思うザンカとサルトンはエリナを励ます。
「エリナ、深呼吸しとけ。緊張は誰にでもある。初指揮ならなおさらだ」
サルトンが年長者らしく落ち着かせようとしてくれているが。
「ああ、そ・・・そうだよな」
声が裏返っていた。
「エリナ。難しく考えるな。冷静にだ」
ザンカも声を掛けてくれるのだが。
「お。おう。そうだよな・・・おう・・・おう」
逆効果だった。
「なに、二人ともそんなに心配すんな。大丈夫だ! こいつが駄目でも、部隊には俺がいるからよ。お前ら、エリナじゃなくて、俺にドンと任せておけ! ガハハハ」
失礼なフォローを入れるザイオンが豪快に笑うと。
「んだとてめえ。あたいが何も出来ない奴みたいに言うなよ。ザイオン!」
エリナに勢いが出てきた。
「だってエリナよ。そんなに緊張してたら出来るもんも出来ないぞ」
「ああ? やんのか。てめえ」
「何怒ってんだ。お前、緊張してんだろ。隠すなよ。出来ないなら俺に任せておけ。安心しろ」
「あたいが緊張するだって? は!? こんな事で緊張なんかしねえわ。やってやるわ!!」
『あ、大丈夫かも』
と思ったザンカとサルトンは左右の定位置に移動するために中央軍から離れていった。
◇
敵の背後で影となり追従しているミランダたち。
敵の見事な進軍を褒めていた。
「すげえ統率が取れている。オラクルって奴の腕がいいのか」
「そうかもしれないぞな。傭兵すらも隊列揃えて進軍しているものな」
「ああ。しかしな・・・こいつら、別れて偵察するのは予想通りだったな」
敵が林の中盤あたりで一時停止して、部隊を分けて偵察を出すと予想していた。
それも三カ所である。
なぜそれを看破したかと言うと、そこを取ると、この戦場で優位な立場で戦えるからである。
だからオラクルは総軍八千の兵の内の千部隊ずつをそこに移動させ始めた。
五千の兵は本陣となり中央待機である。
「おうぞ。やっぱりお前さんの考え。先読みが凄いぞな」
敵の動きを読んでいたミランダを褒めた。
「相手の警戒の仕方が正しいぞ。あいつら、敵にバレないように潜めているかいぞ?」
「そこは大丈夫だと信じたいけどな。上手くいけば三カ所で叩けるはずなんだ。でも問題はそこじゃないかもしれん」
「ん?」
「この本陣。危険だな。あたしらが見張ろう。今、三カ所に別れている部隊に対して、これが突っ込んでいったら全滅するな」
「そうぞな。五千だものな」
「ああ。数の違いがデカい。あたしらは千ずつに別れているからな。各個撃破されたら死ぬ」
ミランダの懸念は、各個撃破。
ミランダが率いているノルディー家の兵は四千で、千ずつに分解している。
その中で三千が林の中に存在していて、敵が偵察するだろう三つのポイントの一歩手前にて潜んでいる。
彼女が仕掛けようとしているのは、三か所同時での待ち伏せ攻撃だ。
一挙に叩いて、一気に引くのが目的である。
「これで、いけるならいいよな」
ミランダは目の前の中央待機の軍の裏で皆の勝利を願っていた。
◇
ノルディー軍はミランダの立てた作戦どおりに動き出していた。
あらかじめミランダが予想した三カ所に来る敵に対して、こちらは七百の兵で立ちはだかり、残り三百の兵が周りの木々や茂みに隠れて待ち伏せをするという単純な罠を仕掛けたのである。
これを実現するために、サブロウらの里の自然と一体化する方法などで潜んでいるのだ。
それはたとえば呼吸方法などで、息を潜める訓練をしてきた。
これらの技は戦争で使用するというよりかは、狩りに使うようなテクニックである。
これが後に、ウォーカー隊の基本戦術になるのだが、今回がその先駆けの戦いとなる。
「ああああああああああああ」
三カ所で同時に声が響くと、ミランダとサブロウがビクついた。
「お! 始まったか」
「そうみたいぞ」
サブロウが指差した先にいるオラクルは、本陣で慌て始めた。
偵察のための兵を千。
本格的なぶつかり合いに発展するわけがないと思って、三カ所に派兵しただけであるからだ。
オラクルは非常に優秀な指揮官である。
林の中で良いポジションを確保しようとミランダが睨んだポイントに布陣しようとしただけでもかなり優秀なのだ。
今の声に驚いたとしても、すぐに建て直して、伝令を三カ所に送り出していた。
「凄いなあいつ。想定外が起きても適切な対応をするぞ」
「そうなのぞ?」
「ああ、こうなってくるとだな。あたしらは出来るだけ三カ所で兵を削らないとヤバいな」
「・・・んんん。そうなのぞ?」
「ああ。生き残りが半数以上になった場合。ここに五千。帰って来たのが千だと六千だろ。あたしらは三千で動いているからな。ここで倍以上は辛いな」
ミランダは仲間たちの奮闘を信じるしかなかった。
◇
ザンカの左翼部隊は、上手く敵をやり過ごしてからカウンターで罠に嵌めることが出来ていた。
さらに、サルトンの右翼部隊もザンカ同様に待ち伏せが成功していた。
だが、エリナ率いる中央部隊が苦戦を強いられていた。
「上手く嵌めたはずなのに!? なんで、あっちが優位になってんだ」
エリナの部隊が上手くいかなかった理由。
それは対戦相手となった指揮官が、オラクルの懐刀ナルドであったからだ。
彼はオラクル同様。非常に優秀な指揮官で、ここの要所に到着する際も慎重に来て、エリナの部隊で密かに隠れている兵士たちを見抜いていた。
なので、彼女らの部隊の奇襲が失敗に終わっていて、攻撃が上手くいかなかったのだ。
「それに、これは防御が上手いんだろうな」
「ん? ザイオン? なんか見えてんのか」
「ああ。あいつの兵の右。あれが一番強いぜ」
「あたいにはわからんな。お前には見えてんのか」
「なんとなくだな。俺は見学ばかりしていたからな。実際に訓練で戦ってきたわけじゃないから、感覚でしかわからん」
「そんで、どうする気だ」
「逆を押すわ。お前が一番強い奴の所を抑え込み。俺が右から押し込んでいくわ。そうなれば集中力が落ちるはず。エリナも押し込んでいけると思う」
「了解。あたいは守って、逆転を狙えばいいんだな」
「おうよ。頼んだ!」
この戦いで、ザイオンの直感型の将としての才能が開花した。
敵の弱点が本能で見えてくる。
大きな体は、戦うために生きてきた証。
ザイオンは、豪快に戦場を駆ける男なのだ。
「おっしゃああ。俺に続け。俺が切り開く」
敵はザイオンのその圧力に度肝を抜かれた状態で、道を明け渡した。
ナルドの隊の左翼が一挙に崩壊すると、右翼側で守勢に徹していたエリナが押し込み始めた。
両翼が崩壊気味になると、ナルドは即決断。
無理な個所を切り捨てて、撤退を開始した。
ザイオンとエリナが、追撃を仕掛けようとするも、相手の上手い撤退によって憚られて、中断。
それと本当は無理をすれば、追撃が可能であったが、ミランダが許したのは、もう一つ先にある停止線までであった。
だから、エリナも部隊に撤退を指示。
誰もいない本陣まで戻り始めた。
「エリナ。もうちょい戦いたかったぞ」
「それはあたいだってそうだ。でもミラがあそこまでだってな。黒い線を見なかったか?」
「黒い線?」
「はぁ!? 話聞いてねえのかよ。ミラとサブロウが設定した木の上の線だよ。黒い紐があっただろ。あそこが追撃限界だってよ」
「そうだったかぁ。惜しかったな」
エリナは、今の自分の言葉も聞いてくれたのか。そこも心配になったのだ。
◇
敵本陣の裏で待機しているミランダは、影から報告を受けたサブロウに聞く。
「サブロウ。どうだって?」
「ああ。倒したのは千五百だそうだぞ」
「クソ。半分か・・・微妙だな」
仲間が倒したのが、三千の兵の内の半分だけな事にミランダは焦る。
敵は元々八千。内三千が要所を抑えるために偵察に出ていった。
それで要所で負けなかったことはこちらとしては嬉しい戦果であるが、敵の数がまだ六千五百であるのが厳しい。
ミランダの予定では全滅。
五千にまで減らして、こちらの兵数との差を小さくしたかったのだ。
数の優位は、いまだに相手の方に分がある。
「シゲマサ」
「おう」
「一か八かの策に賭けるしかねえ。この数の差を大逆転させるには、相手の将が考えないことをするしかないのさ。ということでリスクを取って例のを発動させる。ザンカたち幹部に、例の作戦を取ると伝えて来てくれ」
「了解」
「頼んだ」
ミランダはシゲマサを伝令に使った。
マサムネだと不安が残るので、仕事を正確にこなす男に任せたのである。
「マサムネ。予備は! どの位置にいる」
「・・・そうだな。林の裏に入ったんじゃないか。時間的にな」
「そうか。マサムネは背後を見ていてくれ」
「了解」
ミランダはそれぞれに指示を飛ばした後に。
「皆。あいつらに合わせて、前進するぞ。敵の本陣の背後を追跡していく」
「「「おお」」」
影部隊とミランダは、敵の背後にピタリと追従しながら、戦場を観察し続けていた。
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