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第二部 辺境伯に続く物語
第280話 新たな帝国には、この者たちが必要 ⑧
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帝国歴526年 2月3日
職場の執務室にいたフュンの元にマルクスがやって来た。
「フュンさん!」
「あ、はい。マルクスさんでしたか」
書き物をしていたので下を向いていたフュン。
彼が入ってきて顔を上げる。
「見つけましたよ」
「お! こんなに早くですか」
「ええ。情報部の力をフルに使いましたよ。フュンさんが俺の権限を強化してくれたから、更に集めやすくなりましたからね」
「さすがだ。マルクスさんは仕事が出来る男ですからね。いや。凄いですね。消えたはずの人を追うなんて」
実際、マルクスは仕事が出来る男である。
ただし、周りの評価では女好きの鼻の下伸びっぱなし男でも有名なので、仕事が出来る評価が消えてしまっているのが玉に瑕である。
フュンはそういう噂話や彼自身の弱点部分を重要視していないので、仕事が出来る男という評価しかしていない。
女好きは感じているが、別に特定の誰かに迷惑をかけているわけではないから目を瞑っているという形だ。
これで、誰かを泣かせるような男だったら軽蔑をしているのである。
彼はどちらかと言うと女性の後をついて行って、殴られるまでがオチなので、笑い話しか作っていない。
実際にフュンもそれらが笑い話だと思い、彼の失恋話を聞いている。
「それがですね。なかなか巧妙に消えていたようで、資料でもわかるんですが。所々情報を消しているようです。これがですね。全部の情報が消えていないから、逆に探しにくいようになっていましたよ。ええ、これは相手が上手であると感じます」
「なるほど。さすが。元ウインド騎士団だ。抜け目がない」
「ええ。それで、こちらです」
マルクスが資料を提出した。
それをフュンが読み込む。
「これは・・・ミラークですね」
「そうです。帝都から南西。ビスタから北東の村ですね」
「ここに隠れ住んでいたというわけか」
「そうみたいです。村長代理のような。村の会計みたいな形で、ルイとカイという名前で暮らしているみたいです」
「わかりました。行ってみますね」
「はい。俺も行った方が良いですか?」
「そうですね。リナ様、こちらにいますか」
「います。あっちでの新年の調整を終えて、こちらでの調整もしていますので」
「では。お二人でもう一度ここに来てください。一緒に行きましょう」
「はい。わかりました。リナ様をここにお連れしますね」
フュンは彼らと共にミラークへ向かった。
◇
ミラークに到着したフュンはすぐさま村長を呼び出して、目的の二人を呼び出した。
ルイとカイに対してだけ会話したかったので、フュンはマルクスを部屋の外に置いて、リナと二人で彼女らとの面談にした。
「なんの用?」
「私らは暇じゃない」
ルイとカイが答えると、フュンが間髪入れずに聞く。
「すみません。どちらがラルアナさんでどちらがミレンさんですか」
「「なに!?」」
二人が同時に驚いた。
「そうですね。見たことがあるのは、こちらかな。ラルアナさんが、ルイさんですね」
リナは過去の記憶から辿ると、面影が重なるのがこちらだと手で紹介した。
「ルイさん。あなたがラルアナさんですね」
「・・・・なぜ、知っている。うちらはそれを隠してきたはずだ」
「ええ。巧妙に隠されてました。お見事です」
フュンは頭を軽く下げた。
「敵か。ニールドか」
ミレンが聞くと、フュンが答える。
「いえいえ。敵はもういませんよ。青い煙が去年と今年に、この村でも上がりませんでした?」
「ああ、あの煙はこちらでも上がっている。あれはナボルとかいう奴らを全滅させるためとは聞いているが、ニールドは生き残っているかもしれないとな。警戒をしているのだ。それであんたらは誰だ」
「ええ。それは素晴らしい警戒です。ですがニールドも今は存在しない。そこはこちらの太陽の戦士が調べ上げている事実です・・・そして、僕らは帝国大元帥と、帝国の内政筆頭です」
話していたミレンが驚いて黙ると、隣のラルアナが言う。
「なに!? なぜそんなお方がここに? うちらはもう何でもない村人だ」
「それはありえない。あの伝説のウインド騎士団にいた方が、こんな場所にいていいわけがない」
他人の言葉を簡単には否定しないフュンが、相手の言葉をバッサリと切り捨てた。
「だから単刀直入に聞きたい。僕の元に来てくれませんか。彼女の下に配置したいのです。帝国の内政に入れ込みたい。あなたたちの叡智を。帝国にもう一度」
「うちらを・・」「・・・あたしらを・・・」
リナも続く。
「ぜひ、お願いしたいのです。私だけでは、おそらく帝国全土を把握することはできない。あなたたちと力を合わせていきたいのです。帝国の為に」
「・・・リナ様」
ラルアナがリナの顔を見て言った。
「大きくなられましたね。あの時は小生意気なガキでしたが、今や立派な御方です・・・そんな貴方がうちらを必要とするとは・・・」
「ベルナ兄様も会いたがっています」
「「・・ベルナ兄様だと」」
ラルアナとミレンは、昔に一度だけリナに会ったことがある。
ドルフィン家は、ウインド騎士団に参加していなかったので、援助金も貰っていないし、接点も少なかったのだが、ある時、ウインド騎士団に憧れていると言って来た少年と接点を持ってから多少なりともドルフィン家ともつながりが出来ていた。
それがベルナである。
ベルナは、姉と兄に憧れを抱き、白閃にも憧れて、その後ろにいたラルアナとミレンにも尊敬の念を抱いていた。
ウインド騎士団全体で、可愛い弟みたいにベルナの事を可愛がっていたのだ。
「そうです。ベルナ兄様は生きておりました。今はエイナルフ上皇陛下の護衛をしています」
現在のベルナの役職は、エイナルフの護衛長。
本当は帝国の組織の中に組み込もうとフュンが動いたのだが、彼が陛下の為に動きたいと全てを拒絶したので、今の地位に留まった。
「まさか。あの時に死んだとばかりに」
「・・・ユースウッド隊長に殺されたと言われてて、あたしらはそんなの嘘だと思ってたから信じなかったけど。まさか生きているとまでは、想像してなかった」
二人は、ユースウッドがベルナを殺すとは考えていなかった。
皆で一緒になって彼を強くしてあげようと、模擬訓練などを手伝っていたりしていたからだ。
いらない子であれば、捨てる。
才がないなら別なところに行った方がいい。
ウインド騎士団は群雄割拠の戦乱の時代に生まれた騎士団だったから、割と採用も厳しいものであった。
「それは会いたいがな。うちらはもう引退しているしな」
「内政で引退はちょっと早いのでは。ラルアナさん」
フュンがそう言うと。
「いや早くない、もう昔のような頭のキレはないんだ。実践から、だいぶ離れているからさ。この小さな村の事も、半分任せっきりでさ。うちらはほとんどやっていないんだ」
やはりラルアナは拒絶である。
昔とは違うと自分の能力の低下が気になっていた。
「ですが、あなたたちのような切れ者が、新しい帝国に欲しいのですよ。帝国の三姫だけでは、内政は成り立たない。もっと優秀な人物がバンバン出てこないと・・・王国に勝てません」
「それじゃあ、あたしらじゃなくてもいいかい」
ミレンが言った。
「ミレンさんたちじゃなく? 他に優秀な方がいるんですか?」
「ああ。あたしらの子でもいいかい? 厳しく育てたからさ。まあまあ使えるとは思うのよ」
「ど、どんな方なんでしょう」
「今、村の会計をしている。連れて来るよ。少し待っててな」
ミレンが出ていった。
「悪いね。うちらはもう引退してんのよ」
ラルアナが言った。
「引退ですか。まだお若いのに」
「なに。若いって言っても・・・いくつだ。いつから歳を数えてないんだ。色々あったからな。数えるのも面倒だったんだな。50は超えてるはずさ」
「そうですか・・・んんん」
本当は二人が欲しかった。
フュンは彼女らを見て確信していた。
今の帝国の内政部門にいてもトップクラスの働きをする二人であるはずなのだ。
職場の執務室にいたフュンの元にマルクスがやって来た。
「フュンさん!」
「あ、はい。マルクスさんでしたか」
書き物をしていたので下を向いていたフュン。
彼が入ってきて顔を上げる。
「見つけましたよ」
「お! こんなに早くですか」
「ええ。情報部の力をフルに使いましたよ。フュンさんが俺の権限を強化してくれたから、更に集めやすくなりましたからね」
「さすがだ。マルクスさんは仕事が出来る男ですからね。いや。凄いですね。消えたはずの人を追うなんて」
実際、マルクスは仕事が出来る男である。
ただし、周りの評価では女好きの鼻の下伸びっぱなし男でも有名なので、仕事が出来る評価が消えてしまっているのが玉に瑕である。
フュンはそういう噂話や彼自身の弱点部分を重要視していないので、仕事が出来る男という評価しかしていない。
女好きは感じているが、別に特定の誰かに迷惑をかけているわけではないから目を瞑っているという形だ。
これで、誰かを泣かせるような男だったら軽蔑をしているのである。
彼はどちらかと言うと女性の後をついて行って、殴られるまでがオチなので、笑い話しか作っていない。
実際にフュンもそれらが笑い話だと思い、彼の失恋話を聞いている。
「それがですね。なかなか巧妙に消えていたようで、資料でもわかるんですが。所々情報を消しているようです。これがですね。全部の情報が消えていないから、逆に探しにくいようになっていましたよ。ええ、これは相手が上手であると感じます」
「なるほど。さすが。元ウインド騎士団だ。抜け目がない」
「ええ。それで、こちらです」
マルクスが資料を提出した。
それをフュンが読み込む。
「これは・・・ミラークですね」
「そうです。帝都から南西。ビスタから北東の村ですね」
「ここに隠れ住んでいたというわけか」
「そうみたいです。村長代理のような。村の会計みたいな形で、ルイとカイという名前で暮らしているみたいです」
「わかりました。行ってみますね」
「はい。俺も行った方が良いですか?」
「そうですね。リナ様、こちらにいますか」
「います。あっちでの新年の調整を終えて、こちらでの調整もしていますので」
「では。お二人でもう一度ここに来てください。一緒に行きましょう」
「はい。わかりました。リナ様をここにお連れしますね」
フュンは彼らと共にミラークへ向かった。
◇
ミラークに到着したフュンはすぐさま村長を呼び出して、目的の二人を呼び出した。
ルイとカイに対してだけ会話したかったので、フュンはマルクスを部屋の外に置いて、リナと二人で彼女らとの面談にした。
「なんの用?」
「私らは暇じゃない」
ルイとカイが答えると、フュンが間髪入れずに聞く。
「すみません。どちらがラルアナさんでどちらがミレンさんですか」
「「なに!?」」
二人が同時に驚いた。
「そうですね。見たことがあるのは、こちらかな。ラルアナさんが、ルイさんですね」
リナは過去の記憶から辿ると、面影が重なるのがこちらだと手で紹介した。
「ルイさん。あなたがラルアナさんですね」
「・・・・なぜ、知っている。うちらはそれを隠してきたはずだ」
「ええ。巧妙に隠されてました。お見事です」
フュンは頭を軽く下げた。
「敵か。ニールドか」
ミレンが聞くと、フュンが答える。
「いえいえ。敵はもういませんよ。青い煙が去年と今年に、この村でも上がりませんでした?」
「ああ、あの煙はこちらでも上がっている。あれはナボルとかいう奴らを全滅させるためとは聞いているが、ニールドは生き残っているかもしれないとな。警戒をしているのだ。それであんたらは誰だ」
「ええ。それは素晴らしい警戒です。ですがニールドも今は存在しない。そこはこちらの太陽の戦士が調べ上げている事実です・・・そして、僕らは帝国大元帥と、帝国の内政筆頭です」
話していたミレンが驚いて黙ると、隣のラルアナが言う。
「なに!? なぜそんなお方がここに? うちらはもう何でもない村人だ」
「それはありえない。あの伝説のウインド騎士団にいた方が、こんな場所にいていいわけがない」
他人の言葉を簡単には否定しないフュンが、相手の言葉をバッサリと切り捨てた。
「だから単刀直入に聞きたい。僕の元に来てくれませんか。彼女の下に配置したいのです。帝国の内政に入れ込みたい。あなたたちの叡智を。帝国にもう一度」
「うちらを・・」「・・・あたしらを・・・」
リナも続く。
「ぜひ、お願いしたいのです。私だけでは、おそらく帝国全土を把握することはできない。あなたたちと力を合わせていきたいのです。帝国の為に」
「・・・リナ様」
ラルアナがリナの顔を見て言った。
「大きくなられましたね。あの時は小生意気なガキでしたが、今や立派な御方です・・・そんな貴方がうちらを必要とするとは・・・」
「ベルナ兄様も会いたがっています」
「「・・ベルナ兄様だと」」
ラルアナとミレンは、昔に一度だけリナに会ったことがある。
ドルフィン家は、ウインド騎士団に参加していなかったので、援助金も貰っていないし、接点も少なかったのだが、ある時、ウインド騎士団に憧れていると言って来た少年と接点を持ってから多少なりともドルフィン家ともつながりが出来ていた。
それがベルナである。
ベルナは、姉と兄に憧れを抱き、白閃にも憧れて、その後ろにいたラルアナとミレンにも尊敬の念を抱いていた。
ウインド騎士団全体で、可愛い弟みたいにベルナの事を可愛がっていたのだ。
「そうです。ベルナ兄様は生きておりました。今はエイナルフ上皇陛下の護衛をしています」
現在のベルナの役職は、エイナルフの護衛長。
本当は帝国の組織の中に組み込もうとフュンが動いたのだが、彼が陛下の為に動きたいと全てを拒絶したので、今の地位に留まった。
「まさか。あの時に死んだとばかりに」
「・・・ユースウッド隊長に殺されたと言われてて、あたしらはそんなの嘘だと思ってたから信じなかったけど。まさか生きているとまでは、想像してなかった」
二人は、ユースウッドがベルナを殺すとは考えていなかった。
皆で一緒になって彼を強くしてあげようと、模擬訓練などを手伝っていたりしていたからだ。
いらない子であれば、捨てる。
才がないなら別なところに行った方がいい。
ウインド騎士団は群雄割拠の戦乱の時代に生まれた騎士団だったから、割と採用も厳しいものであった。
「それは会いたいがな。うちらはもう引退しているしな」
「内政で引退はちょっと早いのでは。ラルアナさん」
フュンがそう言うと。
「いや早くない、もう昔のような頭のキレはないんだ。実践から、だいぶ離れているからさ。この小さな村の事も、半分任せっきりでさ。うちらはほとんどやっていないんだ」
やはりラルアナは拒絶である。
昔とは違うと自分の能力の低下が気になっていた。
「ですが、あなたたちのような切れ者が、新しい帝国に欲しいのですよ。帝国の三姫だけでは、内政は成り立たない。もっと優秀な人物がバンバン出てこないと・・・王国に勝てません」
「それじゃあ、あたしらじゃなくてもいいかい」
ミレンが言った。
「ミレンさんたちじゃなく? 他に優秀な方がいるんですか?」
「ああ。あたしらの子でもいいかい? 厳しく育てたからさ。まあまあ使えるとは思うのよ」
「ど、どんな方なんでしょう」
「今、村の会計をしている。連れて来るよ。少し待っててな」
ミレンが出ていった。
「悪いね。うちらはもう引退してんのよ」
ラルアナが言った。
「引退ですか。まだお若いのに」
「なに。若いって言っても・・・いくつだ。いつから歳を数えてないんだ。色々あったからな。数えるのも面倒だったんだな。50は超えてるはずさ」
「そうですか・・・んんん」
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