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第二部 辺境伯に続く物語
第274話 新たな帝国には、この者たちが必要 ②
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「あ。アイス様ぁ~~。こっちこっち~~~」
空に両手をバタバタと広げてアピールする。
元気一杯のリースレットは、自分のペースを崩さずに走り終えたアイスを呼んだ。
「リースレット。あなた。無事にゴール出来たのですね」
言い方は失礼じゃないが、内容が失礼である。
「はい。一番でした!」
「え? あの位置からですか?」
彼女たちは二週目終了時点で、全体の中盤にいたのだ。
その位置から先頭に踊り出るなど、短距離走のような走り方じゃないと不可能である。
「ええ。チャチャッと走って一番にゴールしましたよ。エヘヘヘ」
能天気に答える彼女の笑顔が眩しい。
本当に疲れを感じさせない表情をしていた。
「はぁ。本当に体力馬鹿なのですね」
だいぶ辛辣になって来た。
「まだまだ元気ですよ。早く次の試験、始まらないかな」
でもリースレットはそんな細かい所は気にならない。
いい意味で能天気なのだ。
彼女は、ここに記念受験しに来ている。
別に受かりたいなどの事は微塵にも思っていなくて、ただサナから教わったことが自分に身についているかの努力の結果を知りに来たのだ。
本来、こういう試験は兵士という身分の者に限定されるはずで、他の役職の者が挑戦するなど到底できない。
だけど今回は職業の自由があったため。
普段腕試しの出来ないメイドには、この試験が貴重な機会なのである。
「あなたは、元気でいいですね。いっつも笑顔です」
「ええ。それだけが取り柄です」
嫌味も受け流すのではなく、嫌味だと気付いていないリースレットであった。
◇
「それじゃあ、皆さんが一次試験を突破した方たちですね。半分くらいかな」
12時になり皆の前に姿を現したフュンが、とある紙を持って説明しだした。
「皆さん、こちらの紙、①②③の紙ですね。これとペンを持って試験を受けてください。場所はこのままここです。13時30分になったら試験官がこちらの用紙を回収するので、提出時間まで、こちらの用紙に自分なりの答えを書き込んでください。では始めます。試験官がそれぞれ配りますよ」
大勢の人間が紙を配り始めた。
紙をもらった人間たちから書き込みが始まる。
「では、取りに来るので、皆さんはこちらにいてくださいね」
フュンは立ち去っていった。
紙をもらったデュランダルは、真っ先に書き込み事をせずに、まずは最初に全体に目を通した。
「なんだこの問題?」
一般知識が並べられた問題の中に、性格診断のような質問が所々にある。
それと、戦術や戦略の問題もあり、問題がごっちゃまぜになっていた。
「これは、どういうことだ。意味があるのか。中身は基本だらけで簡単だけど、並びがおかしいな・・でも、そういうことか・・おもしれえ」
一般常識は非常に簡単なものだった。
これであれば貴族じゃなくても平民で字が書けるものであれば答えられるものばかりである。
周りの者たちのペンが止まらないようで、書く音が響くくらいだった。
しかし。
「これは・・・」
デュランダルが困ったのは、性格診断の問題でも、一般常識の問題でもない。
答えが無数にある戦術問題であった。
「対戦条件が緩すぎる・・・双方に穴がある。防御側も攻撃側も戦場設定に甘さがあるぞ。これは、あえて書いていない部分を自分の想像で補うのか? これだと相手に罠を仕掛ける作戦を。いや違うな。それは無理だな。っていう風に答えに書けばいいのか・・・それとも問題文だけで答えを導き出すのか」
問題が誘導してきている答えを書けばいいのか。
それとも問題の中の問題点を指摘して、自分なりの答えを書けばいいのか。
デュランダルは非常に高度な部分で悩んでいた。
フュンが出してきた問題はいつも答えがない。
それは先程のマラソン訓練もそうなのだ。
どんな事を選択しても、過程において不正解と正解が常に表裏一体になっている。
自分なりの問題解決方法が、この筆記試験の答えであると、デュランダルは一次試験を終えて、そう感じたのである。
だから彼は。
「こうなると。俺なりに答えをまとめて提出しよう。この問題の問題点と、そこから派生する解決法を書けばいいんじゃないか。別に答えはなんだっていいんだろ。どうせさっきと同じさ・・・・たぶん」
フュンの意図を読み切ったのである。
答えのない答えを、僕に見せてほしい。
あなたの考えが見たい!
それがフュンの問題の意図である。
人生の中で、与えられた試練の中に、必ずしも正解を導けない問題がある。
その可能性は誰にだって大いにある。
それが現実の戦いにも起きるのだ。
正解を選んでも失敗し、不正解を選んでも成功したりする。
そんな体験をしたことがあるフュンならではの問題であるのだ。
「この問題。考えた奴は天才だ・・・これは何も考えていない奴だと、普通に書かれている内容を書いて、答えた気になってるぞ・・・たぶん」
デュランダルは今まで受けた筆記試験の中でダントツに面白い問題だと思ったのだ。
◇
13時30分。
「終わったぁ」
大きな声で終了宣言をしたのはリースレット。
背伸びをして固まった体をほぐしていた。
「あなた。声が大きい」
「アイス様。難しかったですね」
「難しい? これがですか」
「はい。何を言っているかわかりませんでした! ただ、分からないから思ったことを書きました。ここが分かりませんと!!!」
素直だ・・・。
と思ったアイスは、苦笑いをしていた。
「あなた。じゃあ、一般常識の問題は? 解けました?」
「はい。計算問題とかですよね。読み書きとかのですよね?」
「そうですよ」
「ならもちろん大丈夫ですよ。メイドの時の試験よりも簡単でしたよ。リエスタ様のメイドになる試験の方が難しいです」
「そうですか。まあ、そこだけでも答えておけば大丈夫でしょうね」
アイスも気付いていた。
この問題の採点は恐らく自由である。
一般常識は正確に、性格判断の問題は自由に。
そして、戦術対応問題は、自分なりの答えを書けばよい問題なのだと気付いていたのだ。
「フュン・メイダルフィア。サナが言っていた彼は・・・こういう人間でしょう。人の可能性を見極める気であります。答えの文章。悩んでいる箇所。それらで将としての考えと、人としての考えを知ろうとしているのでしょうね。そうね。彼女が認めていた男ですものね。単純なわけがない」
サナが認めた男。フュン・メイダルフィア。
彼と友達になったと言って来た時は、さすがの冷静なアイスでも驚いた。
彼の辺境伯就任パーティー時。
アイスは彼女の受け持つビスタの領地で彼女の帰りを待っていたわけだが。
ああいうパーティーの時は、いらぬ貴族共と会話することになり、不機嫌になって帰って来るのに、あの時ばかりは上機嫌でいたのを覚えている。
彼女は黙っていれば美人なのだ。
だから、黙っていれば男が群がってくる。
でもそんな男どもは好かない。
まだ結婚もする気もない彼女はすでに貴族としては適齢期なはずなのに・・・そんな男ばかり見てきたから結婚しないのだろう。
それと当時、帝国の辺境伯と仲良くなって帰って来たのだと、彼女が珍しく自慢を言って来たのだ。
だから、よほど気に入っている男性なのだと思った。
彼女の口から男性が語られることは少ない。
それは自分の戦いの才に対して、男性が弱いからだ。
並の男性では彼女に勝つことが出来ないためである。
それでもサナは、マルクス。タイロー。
この二人の事を認めている。
それくらいしか認めた男性がいないのかと思っていた所に、急にフュンが加わったのだ。
「確かに……こんな問題を考えられる男ですか。私でも興味がありますね。会ってみたいですね……彼に」
「え? アイス様? 誰かに会いたいのですか」
「はぁ。別にいいです。あなたには関係ありません」
「ひど~~~い」
「はいはい。うるさいですよ」
「もうアイス様は辛辣ですね・・・そこがいいですね」
「なんでですか。いつもここを叱られるのに」
「え。怒られることがあるんですね。完璧そうなアイス様なのに・・・」
「はい。いつもサナに怒られますよ。口がきついってね」
「へ~。別に感じたことがなかったなぁ」
当然である。
リースレットはもっと酷い言葉をリエスタから受けているからだ。
彼女の方がもっとはっきりと言い切ってくれるので、辛辣具合で言えばまだまだアイスの方が優しいのであった。
だから彼女の言葉が気にならないのである。
「まあいいでしょう。次の試験が始まるようですよ。ついていきましょうか」
「は~い」
二人は次の試験に挑むことになった。
空に両手をバタバタと広げてアピールする。
元気一杯のリースレットは、自分のペースを崩さずに走り終えたアイスを呼んだ。
「リースレット。あなた。無事にゴール出来たのですね」
言い方は失礼じゃないが、内容が失礼である。
「はい。一番でした!」
「え? あの位置からですか?」
彼女たちは二週目終了時点で、全体の中盤にいたのだ。
その位置から先頭に踊り出るなど、短距離走のような走り方じゃないと不可能である。
「ええ。チャチャッと走って一番にゴールしましたよ。エヘヘヘ」
能天気に答える彼女の笑顔が眩しい。
本当に疲れを感じさせない表情をしていた。
「はぁ。本当に体力馬鹿なのですね」
だいぶ辛辣になって来た。
「まだまだ元気ですよ。早く次の試験、始まらないかな」
でもリースレットはそんな細かい所は気にならない。
いい意味で能天気なのだ。
彼女は、ここに記念受験しに来ている。
別に受かりたいなどの事は微塵にも思っていなくて、ただサナから教わったことが自分に身についているかの努力の結果を知りに来たのだ。
本来、こういう試験は兵士という身分の者に限定されるはずで、他の役職の者が挑戦するなど到底できない。
だけど今回は職業の自由があったため。
普段腕試しの出来ないメイドには、この試験が貴重な機会なのである。
「あなたは、元気でいいですね。いっつも笑顔です」
「ええ。それだけが取り柄です」
嫌味も受け流すのではなく、嫌味だと気付いていないリースレットであった。
◇
「それじゃあ、皆さんが一次試験を突破した方たちですね。半分くらいかな」
12時になり皆の前に姿を現したフュンが、とある紙を持って説明しだした。
「皆さん、こちらの紙、①②③の紙ですね。これとペンを持って試験を受けてください。場所はこのままここです。13時30分になったら試験官がこちらの用紙を回収するので、提出時間まで、こちらの用紙に自分なりの答えを書き込んでください。では始めます。試験官がそれぞれ配りますよ」
大勢の人間が紙を配り始めた。
紙をもらった人間たちから書き込みが始まる。
「では、取りに来るので、皆さんはこちらにいてくださいね」
フュンは立ち去っていった。
紙をもらったデュランダルは、真っ先に書き込み事をせずに、まずは最初に全体に目を通した。
「なんだこの問題?」
一般知識が並べられた問題の中に、性格診断のような質問が所々にある。
それと、戦術や戦略の問題もあり、問題がごっちゃまぜになっていた。
「これは、どういうことだ。意味があるのか。中身は基本だらけで簡単だけど、並びがおかしいな・・でも、そういうことか・・おもしれえ」
一般常識は非常に簡単なものだった。
これであれば貴族じゃなくても平民で字が書けるものであれば答えられるものばかりである。
周りの者たちのペンが止まらないようで、書く音が響くくらいだった。
しかし。
「これは・・・」
デュランダルが困ったのは、性格診断の問題でも、一般常識の問題でもない。
答えが無数にある戦術問題であった。
「対戦条件が緩すぎる・・・双方に穴がある。防御側も攻撃側も戦場設定に甘さがあるぞ。これは、あえて書いていない部分を自分の想像で補うのか? これだと相手に罠を仕掛ける作戦を。いや違うな。それは無理だな。っていう風に答えに書けばいいのか・・・それとも問題文だけで答えを導き出すのか」
問題が誘導してきている答えを書けばいいのか。
それとも問題の中の問題点を指摘して、自分なりの答えを書けばいいのか。
デュランダルは非常に高度な部分で悩んでいた。
フュンが出してきた問題はいつも答えがない。
それは先程のマラソン訓練もそうなのだ。
どんな事を選択しても、過程において不正解と正解が常に表裏一体になっている。
自分なりの問題解決方法が、この筆記試験の答えであると、デュランダルは一次試験を終えて、そう感じたのである。
だから彼は。
「こうなると。俺なりに答えをまとめて提出しよう。この問題の問題点と、そこから派生する解決法を書けばいいんじゃないか。別に答えはなんだっていいんだろ。どうせさっきと同じさ・・・・たぶん」
フュンの意図を読み切ったのである。
答えのない答えを、僕に見せてほしい。
あなたの考えが見たい!
それがフュンの問題の意図である。
人生の中で、与えられた試練の中に、必ずしも正解を導けない問題がある。
その可能性は誰にだって大いにある。
それが現実の戦いにも起きるのだ。
正解を選んでも失敗し、不正解を選んでも成功したりする。
そんな体験をしたことがあるフュンならではの問題であるのだ。
「この問題。考えた奴は天才だ・・・これは何も考えていない奴だと、普通に書かれている内容を書いて、答えた気になってるぞ・・・たぶん」
デュランダルは今まで受けた筆記試験の中でダントツに面白い問題だと思ったのだ。
◇
13時30分。
「終わったぁ」
大きな声で終了宣言をしたのはリースレット。
背伸びをして固まった体をほぐしていた。
「あなた。声が大きい」
「アイス様。難しかったですね」
「難しい? これがですか」
「はい。何を言っているかわかりませんでした! ただ、分からないから思ったことを書きました。ここが分かりませんと!!!」
素直だ・・・。
と思ったアイスは、苦笑いをしていた。
「あなた。じゃあ、一般常識の問題は? 解けました?」
「はい。計算問題とかですよね。読み書きとかのですよね?」
「そうですよ」
「ならもちろん大丈夫ですよ。メイドの時の試験よりも簡単でしたよ。リエスタ様のメイドになる試験の方が難しいです」
「そうですか。まあ、そこだけでも答えておけば大丈夫でしょうね」
アイスも気付いていた。
この問題の採点は恐らく自由である。
一般常識は正確に、性格判断の問題は自由に。
そして、戦術対応問題は、自分なりの答えを書けばよい問題なのだと気付いていたのだ。
「フュン・メイダルフィア。サナが言っていた彼は・・・こういう人間でしょう。人の可能性を見極める気であります。答えの文章。悩んでいる箇所。それらで将としての考えと、人としての考えを知ろうとしているのでしょうね。そうね。彼女が認めていた男ですものね。単純なわけがない」
サナが認めた男。フュン・メイダルフィア。
彼と友達になったと言って来た時は、さすがの冷静なアイスでも驚いた。
彼の辺境伯就任パーティー時。
アイスは彼女の受け持つビスタの領地で彼女の帰りを待っていたわけだが。
ああいうパーティーの時は、いらぬ貴族共と会話することになり、不機嫌になって帰って来るのに、あの時ばかりは上機嫌でいたのを覚えている。
彼女は黙っていれば美人なのだ。
だから、黙っていれば男が群がってくる。
でもそんな男どもは好かない。
まだ結婚もする気もない彼女はすでに貴族としては適齢期なはずなのに・・・そんな男ばかり見てきたから結婚しないのだろう。
それと当時、帝国の辺境伯と仲良くなって帰って来たのだと、彼女が珍しく自慢を言って来たのだ。
だから、よほど気に入っている男性なのだと思った。
彼女の口から男性が語られることは少ない。
それは自分の戦いの才に対して、男性が弱いからだ。
並の男性では彼女に勝つことが出来ないためである。
それでもサナは、マルクス。タイロー。
この二人の事を認めている。
それくらいしか認めた男性がいないのかと思っていた所に、急にフュンが加わったのだ。
「確かに……こんな問題を考えられる男ですか。私でも興味がありますね。会ってみたいですね……彼に」
「え? アイス様? 誰かに会いたいのですか」
「はぁ。別にいいです。あなたには関係ありません」
「ひど~~~い」
「はいはい。うるさいですよ」
「もうアイス様は辛辣ですね・・・そこがいいですね」
「なんでですか。いつもここを叱られるのに」
「え。怒られることがあるんですね。完璧そうなアイス様なのに・・・」
「はい。いつもサナに怒られますよ。口がきついってね」
「へ~。別に感じたことがなかったなぁ」
当然である。
リースレットはもっと酷い言葉をリエスタから受けているからだ。
彼女の方がもっとはっきりと言い切ってくれるので、辛辣具合で言えばまだまだアイスの方が優しいのであった。
だから彼女の言葉が気にならないのである。
「まあいいでしょう。次の試験が始まるようですよ。ついていきましょうか」
「は~い」
二人は次の試験に挑むことになった。
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