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第二部 辺境伯に続く物語

第270話 続 帝国のお姫様たち

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 帝国歴525年10月22日。
 帝国の最前線都市リーガにて。
 現在の主は、かつての当主ウィルベルではなく、リナ・ドルフィンである。
 フュンの指名により、彼女がここの担当となった。
 彼女を支えるのは、フラム・ナーズローと、もう一人である。

 「リナ様。お久しぶりです」
 「フュン様。本当にお久しぶりですよ。こちらに顔を出すなら早く言ってくだされば歓迎の準備を」
 「いえいえ。いいんですよ。普段がいいんです」

 二人が会話する脇に立つ男性マルベル・オニスタが槍を持って待機している。
 彼には強者の風格があった。
 ただ待っているだけでも強烈な強さがあったのだ。
 体中にある傷がより一層の強さを醸し出している。

 「この方が例の・・・」
 「ええ。そうです。マルベルですよ」
 「そうですか。マルベルさん、僕がフュンです。よろしくお願いします」 
 「どうもです」

 一瞬だけこちらを向いて頭を下げた。
 無視するわけではないけど無視に近い形である。

 「ごめんなさいフュン様。マルベルは無口に近くて、これが限界です」 
 「ええ。大丈夫。失礼をしているわけではないのは知ってますよ」
 「はい。彼は兄様の家の護衛だった者です」
 「ええ。その話はウィルベル様本人から伺いました。リナに預けると、ウィルベル様が言ってましたよ。あなたを守ってくれるはずだから、マルベルをそばに置いてほしいとね」
 「はい。兄様の最後の私へのプレゼントです。重宝しています」
 「そうですか。よかった」

 マルベル・オニスタは、ウィルベルの護衛隊長だった男だ。
 紋章も毒もない彼は、ウィルベルのそばに居ながらナボルとは無関係の人物。
 ドルフィン家が経営している孤児院から出てきた男性で、彼の名前の半分はウィルベル自身から名付けられたもの。
 彼は、生まれた時にすぐに両親が亡くなったらしく、親に名付けすらされなかった子供だったのだ。
 だから彼は、そのウィルベルの恩に対して、誠心誠意奉公するために、ただただウィルベルとその家族を守るだけに徹していた忠義の男である。
 主な仕事がお屋敷警護であった。
 なので、バルナとシャイナを守り続けていた男性である。

 「マルベルさん。リナ様をお願いしますね。敵はもういないとしても、あなたならば彼女を護れるはずだ」
 「はい・・・」

 返事一つであった。でも彼の心は真っ直ぐに見える。

 「強いだよ。あんた強いだよね」
 「我もそう思います」

 二人の強者は、強者に惹かれていた。

 「ん・・・」
 
 聞かれても返事は一つである。
 さっきよりも短いので、フュンには敬意を払ったと見える。

 「やっぱり。強いんだよね~。フュン様。この人強いだよ」
 「そんなに言わなくても、シャーロット。わかっていますよ。ハハハ。気になるのですか?」
 「フュン様、手合わせしたいだよ。鈍らないように戦っておきたいだよ」
 「それは……マルベルさんがいいのならどうぞ」
 「ズルいですぞ。そいつだけ。殿下。我にも許可を」
 「あ、はい。どうぞ。聞いてみてください」

 このやりとりがめんどくさいと思っても、フュンは二人に丁寧に答えてあげていた。

 シャーロットが前に出てきた。
 剣を構えて、決闘しようぜとマルベルの前に立つ。

 「んじゃ。拙者と戦うだよ。いいかな」
 「ん・・」
 「どっちこれ??? どっちだよ」
 
 シャーロットは振り向いて、フュンに聞いてきた。

 「それは・・・どっちでしょうね?」
 「お前とは戦わないらしい。マルベル殿は断ったのだ。我が聞こう」
  
 フュンが悩んでいる間に、ゼファーが前に出て行った。

 「我と手合わせしてもらいたい。マルベル殿」
 「ん・・」
 「え? どっちですか。殿下、これ。どっちでしょう!?」
 
 首を縦にも横にも振らないので、その返事が良いのか悪いのか、どちらか分からない。
 独特な雰囲気を持つ男性である。

 「すみませんね。この二人は、強い人だと戦いたいみたいで。それで、マルベル殿は戦ってもいいんですか?」
 「はい・・」
 「いいんだ!?」

 フュンは許可に驚いていた。
 実際、『ん』は断りの言葉かと思っていたのである。

 「それじゃあ、僕らはお仕事があるので、訓練用の木の武器で戦ってくださいよ。三人とも。いいですね。熱くなっても、自分の武器では戦わないでくださいよ。約束ですよ」
 「はい。殿下」
 「うんだよ」
 「はい・・・・」

 三人はこのまま訓練となり、フュンとリナは会議となった。

 ◇

 リナが案内してくれた会議室には、サティとアンもいた。

 「フュン君。こっちこっち。ハハハハ」
 「フュン様。お久しぶりです」

 対照的な二人は、相変わらずである。

 「はい。今行きますよ~」

 こちらの男性も、相変わらずである。

 四人で席に座ると。
 リナが用意してくれていた紅茶を、彼女のメイドたちが運んできてくれた。
 
 「それで、フュン様。私たちに何の用で。アンやサティまで呼ぶとは珍しいです」
 「ええ。三人にお伝えしたい事とやって欲しいことがあるのですよ。よろしいですか?」
 
 三人が黙って頷く。

 「それでは、まず。ここリーガ。ここを潰します」
 「え!? ここをですか」
 「リナ様には申し訳ないですが、ここは潰します」
 「ですが、それでは防衛の要の一つを失いますよ」
 
 サティが聞いた。

 「ええ。その通りです。ですから、ここよりさらに西に新しい都市を作ります。この五年の間にです」
 「な!? フュン様。まさか。前線都市を移動すると!?」

 リナが聞いた。

 「はい。その通りです。しかし、そこを前線都市と命名しません」 
 「「え?」」
 「最初はそこを攻略の基地とします。僕はここから王国を制するつもりです。両国の戦いの歴史に終止符を打ちます。大陸から戦争という二文字を消し去ります」
 「ば、馬鹿な・・・そんなことができるとは!?」
 「ええ。思えない。ありえない。そう思いますよね。でも僕はやります。英雄ネアルの好戦的な面を逆に利用して、王国を倒してしまい、王国と帝国が一つとなることで、アーリア大陸を平和に導きたい。そのきっかけの一つとして、新都市を作成します。僕らが作ったサナリアをモデルにして、最高の都市をアーリア大陸の中央に築くのですよ」

 フュンは、アーリア大陸の地図を広げた。

 「その都市は、フーラル湖の正面に作成していく。ここが本当のアーリアのど真ん中です。そうなると帝国にとっては前線都市になりますが、のちに一つの国となった時には、ここが都となりえます。大陸のど真ん中にありますから。このように・・・」

 フュンは、地図に落書きのように線を引いた。
 中央から十字。そしてずらして斜めにも線を引く。
 地図に十字とバッテンが描かれた。
 
 「これで、道路を作ります。こうなるとアーリア大陸の主要都市を結べます。これにて、大発展をする大陸へとなりますよ。僕らの大陸は、一個の国となった方がよりよい生活を送れるはずなんです。無益な戦争をするのは無駄なことです。どうせやるなら、経済を発展させるための戦争。経済戦争をするべきだ。各都市が競い合うようにして発展していくのです。ど真ん中の都市が各地の競争を促す。それをリナ様とアン様とサティ様にお任せしたい。帝国の三姫が作る、新都市であります! どうでしょうか! これ、実現したら凄くないですか!!」

 ニッコリと笑うフュンの提案は新たな帝国の在り方を示すものだった。
 あまりにも屈託がなく、まるで子供のような笑顔に、三人もつられて笑顔になる。

 「そうですね。フュン様。一大事業ですね」
 「ええ。リナ姉様。これは大変ですよ。難しい」
 「わかっていますよ。サティ。フュン様の願いですよ。今まで大変じゃなかったことがありますか?」
 「ふふふっ。たしかに、フュン様は、簡単な事を頼みませんものね。全部難しいものでしたね」
 
 二人は笑いあうと。

 「ボクは、やるよ~。面白そう!!!」
 
 アンは元気に返答した。何も考えずに即答であった。

 「ええ。アン様、一緒にやりましょうよ。どうです、リナ様。サティ様」
 「そうですね。面白いのは間違いない。それにです。私たちだって、スクナロ兄様とジークには負けたくないですわ」 
 「あ。それは分かりますよ。リナ姉様。そうですね。これを完成させれば、私たちも兄様とジークに負けませんものね。フュン様、私もやります。ここで、大陸の人々に帝国の三姫の名を轟かせてやりましょう」

 二人が了承した。
 これにより、帝国の三姫は、アーリア大陸に変革を起こす大都市を作り上げることを決めた。
 この都市が、後に・・・・。
 それはここから先の話である。

 ガルナズン帝国は少しずつ新たな時代に進んでいく。
 
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