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第二部 辺境伯に続く物語
第264話 私が皇帝になるのなら、あなただって・・・
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「わ、私が皇帝!?」
「そうであります。次期皇帝陛下」
「な。え!? だ、だって」
シルヴィアが狼狽えている所に、フュンが更に彼女を押し込んでいく。
有無を言わさぬ連続口撃だ。
「シルヴィア様。どうでしょう。現皇帝の許可があります。それと、どうですか。各王家の皆様。彼女が皇帝で不満がありますでしょうか? あるならば、今ここで言ってもらえると嬉しいですね。その場の雰囲気だけで満場一致となるのが、嫌ですからね。駄目なら駄目とおっしゃっていただければ助かります」
「ないですわ」「ない!」「ありませんわ」
リナ。アン。サティが言った。
「俺もない。ヌロを生かしてくれて感謝する。フュン。そしてシルヴィアでよい」
「もちろん、私もありません」
スクナロとヌロが同時に了承した。
「俺はそのために動ていたからな。当然。なってもらわないと困る」
ジークは不敵に笑いながら答えた。
「満場一致であります。シルヴィア様。陛下へとなってください。あなたがガルナズン帝国を導くのです」
「わ・・・私がですか」
シルヴィアが悩んでいると、皇帝のそばにいたウィルベルが叫ぶ
「シルヴィアにやらせる気なのか。貴様!」
「ええ。そうですよ。ここはシルヴィアが正しい。理由は言えませんが、この中で一番ふさわしいのは、シルヴィアであります」
「なに・・・そんなわけは・・・」
「あなたは帝国を裏切ったでしょう。口出す権利はない。それに一番上の兄弟だからと言って必ず皇帝になれるとは限らない。陛下も次男です。継承権は二位であった方ですよ。なので継承権を持つ者がなるのです。別に最上位だからと言って、ならなければならないとする理由はない」
「貴様ぁ」
ウィルベルの前にバルナとシャイナが来た。
「父上。もう諦めましょう。私と母上は覚悟を決めています」
「そうです。あなた・・・私たちもあそこにいきますから、とても良い場所です。フュン様がご用意してくださったのです」
「お前たちもだと!?」
あらゆる想定をしていたフュンは、ウィルベルが起こす可能性がある行為を二人に説明して、更にその後取りうる行動も予期していた。
だから、ウィルベルの行動は筒抜けであった。
フュンは、ウィルベルを倒すべく、二人をサナリアに招待していた。
この数カ月仕事に追われていたウィルベルは、家族がどんな行動をしていたかを把握していない。
ナボルの立て直しの仕事に、自身の本来の仕事。
それに加えて、王国との戦いの処理を同時にしていたので、帝都とリーガを行き来して、家族に気をかける暇がなかった。
でもフュンも似たように忙しいのに、シャイナとバルナを接待していた。
では、なぜそれをフュンができるのかというと。
それは、ウィルベルとは違い、フュンが受け持つ仕事を一人でやっていないからだった。
ほとんどの仕事を仲間に任せているので、フュンは別なことが出来る。
人の気持ちに寄り添って、人を中心に仕事をするのがフュンなので、普段彼は人と会話するための時間を作り出して、色々な人の不満などを聞いたりするのである。
それで今回は二人の説得の方に時間を割いていた。
仲間たちが生み出してくれた時間で、二人の協力がもらえたのである。
当初、フュンは二人が光の監獄に行くことを拒絶した。
でも二人の意志が固く、ウィルベルと共に生活をして、彼の罪を背負うとの決意を尊重したのである。
フュンには、ウィルベルを憎む気持ちがある。
それは当然ナボルへの恨みから発生するものだ。
でもその恨みは、こちらの二人には関係ない。
だからせめてものウィルベルへの温情として、殺さずに光の監獄に連れていき、しかも家族の願いだから一緒に暮らせることにしたのだ。
あそこならば家族で暮らせる。
家族は一緒に暮らした方がいい。
家族がいなくなった経験がある男の最後の情けである。
「手荒な真似をしたくない。僕は、シャイナ様とバルナ様のお二人の為に、あなたを生かすだけだ」
「・・・なんだと」
「本来なら、殺す。確実に息の根を止めます」
迫力のある声と威圧的な目であった。
「僕はあなたの組織に人生を狂わされている。母。弟。全てを失った。でも僕は、あなたを殺さない。ここはやっぱりお二人の為に。お二人の家族であるあなたは殺さない。シャイナ様とバルナ様に感謝してあなたは今後を生きるべきなんだ。残りの人生、自分の力で生きてください。あそこには全てがあります。ただし自分たちの力で生きていかないといけない作りになっているので、あそこで頑張りなさい。民と同じようにです」
光の監獄は、普通の監獄とは違って衣食住の世話をしない。
自分が生きるために、自分で衣食住を管理しないといけない施設であり。
最低限の用意だけがあるので、自分の畑などで食を管理して、自分たちが食べられる分を確保するのは当然だが、その他の物を生み出すことが難しいので、作った作物を外の人間との物々交換でコントロールしていかないと、衣住を満たせない。
住む場所も最低限の小屋なので、発展させるためには資材が必須。
それを自分で調達するために、自分たちが食べる分よりも多く生産しなくてはならない。
だから生活するのにギリギリであるのが光の監獄なのだ。
一般人として生きる。
それがフュンの与えた罰である。
「あなたは、もっと人を知るべきでした。あなたの周りにいた人たちは、とても良き人達です。フラム閣下や、その周りの重臣たち。彼らは非常に優秀でした。それなのに、あなたはこっちの役立たずの方を重宝しました。こんなナイロゼのような屑はね。切り捨てるのが必然でしたよ。だからその後悔をあそこで持ってもらいたい。そして、あなたは家族を大切にしてください。お二人に大切にされているのです。それを返してあげてください」
ナイロゼの事を指さした時は鬼のような形相だったフュン。
でもウィルベルを見る時の顔は穏やかで、それに優しい声で締めくくっていた。
「なんだと・・貴様・・・」
「父上。もういいでしょう」
「そうです。あなたは疲れたのですよ。その組織に身を売りすぎたのです。二重の仮面を被ることに疲れたのですよ。やめましょう」
「バルナ・・・シャイナ・・・」
家族によって行動が止まる。
二人に抱きしめられると、ウィルベルは反逆の心を失った。
「太陽の戦士たち。三人を守りなさい。万が一、ナボルが来てもいいように、ジスター!」
「はっ」
「あなたを中心に完全護衛体制を貫いてください。サナリアまで完璧に守りなさい」
「はっ。フュン様。お任せを」
太陽の戦士。
夜叉ジスター。
影に隠れるのが上手いエマンド。
バランスの取れるママリー。
成長中のジーヴァの四人が、ウィルベルたちを連れて行った。
彼ら四人がいれば、護衛は完璧であるとフュンは深く頷く。
「それでは、この国で唯一反対をする者がいなくなりました。シルヴィア。どうしますか。あなたが皇帝でなければ帝国は上手くいかないと思うのですが・・・」
「私が皇帝じゃないと?」
「ええ。そうですよ。リナ様は、死んだことになっていました。スクナロ様は、二度の内乱に関係のある家を抱えました。ヌロ様も裏切って死んだことになっていますし。ベルナ様は、裏に引っ込んで、ドラウドになっています。それにアン様。サティ様は一度王家から外れています。ジーク様は風来坊です。当主ではなかった人ですよ。こうなるとあなたしかいないでしょ」
「・・・んん。なんだか口が上手いですね」
「え? どうでしょう??」
フュンの言葉に二人以外の皆が笑う。
完全に屁理屈のようにも聞こえるからだ。
シルヴィアありきで事が進んでいる。
「まったく・・・フュン」
シルヴィアは、フュンの顔を見ていたら諦めがついた。
「はい?」
「その方が、あなたにとって、都合がいいのですよね。そうなんですよね」
「都合がいいとは、言い方が良くない。いいですかシルヴィア。あなたが皇帝であれば、万事うまくいくのです」
「私が皇帝であれば? なぜです?」
フュンはシルヴィアじゃなくて、皆の方を見た。
「ええ、それはもちろん。あなたが皇帝であれば、こちらのご兄弟。全員が味方となるのです。これが、真の帝国というものでしょ。違いますか。シルヴィア」
「兄様と姉様たちが・・・私が皇帝だと?」
シルヴィアも家族の方を見る。
微笑む姉たち。
自分にまかせろと胸を叩く兄たち。
一番下の兄弟であるシルヴィアを支えると言ってくれているようだった。
「兄様と姉様方・・・本当に私でよろしいのですか。私は末っ子ですよ。今はスクナロ兄様が長兄になるはず」
「ハハハ。良いぞ。俺は文句ない!」
「ほ、本当ですか」
「ああ。ない。それにこれこそ、フュンに恩を返せるのではないか。義弟がこのために頑張ったのだろう。だったら、これが一番いいではないか」
「・・・わかりました。兄様が良いのであれば、私がやります。皇帝になりましょう。兄弟が力を合わせて真の帝国になりましょう」
「「「ええ」」」「おう」
兄弟たちが返事をしてくれたことでシルヴィアは安堵した。
一番下の自分がなってもいいものなのか。
不安よりも皆に悪いという気持ちが強かった。
「お嬢の皇帝はいい! だが、他は? どういう人事になるのさ」
突然ミランダが天井から降りてきた。
「あれ、先生? 来てたんですね。天井に張り付いていたとは知らなかった」
フュンが質問すると。
「ああ。エイナルフのおっさんが隠し天井に入れてくれたのさ。これだと影にならなくても息を潜んでいればバレねえ。ナハハハ」
コソ泥みたいな事を言っていた。
「はぁ。それで、人事とは何ですか」
「王家の話だ。スクナロとヌロ。ジーク。んでこっちの三姉妹の配置は分かっているけど。残りの貴族共はどうなってんだ?」
「ええ。それはもちろん。貴族再編もします。今の内訳を見つつ、内部にナボルが潜入していた家は解体します。そして再編して、貴族は縮小。内政系は、こちらのリナ様たちに振り分けていき。戦闘が得意な貴族は、こっちの二つの家に入れます。ただし、貴族ではなく武家。という形にします。数を搾りまして、武家は上限を10個にします。これ以上の武家は作りません。なので、今まで貴族として戦っていた人は、こちらに編入します」
「なるほどな・・・そういう形か。帝国の体系はな。うんうん・・・んで、お前は?」
「僕?」
「ああ。お前は何だ?」
ミランダはフュンの頭をコツンと小突いた。
「僕はシルヴィアの夫ですよ。皇帝陛下のおそばで支えるだけです」
「甘い、そいつは駄目だな」
「え?」
「お前の役割は、別だ。なあ、エイナルフのおっさん。いいよな。この間、話した奴」
「そうだな。オレンジの小娘」
「ニシシシ。いいんだな」
「よい。それが一番である」
「っじゃ。お前の役割は決まりさ」
「僕の役割!?」
ミランダが、フュンの肩に手を置いた。
「お前は、サナリア辺境伯も兼ねているが、こちらが次の役割だ。ガルナズン帝国第三十二代皇帝シルヴィア・ヘイロー・ヴィセニアの夫にして、ガルナズン帝国大元帥フュン・メイダルフィアだ。どうだ。お前がこの国のナンバー2だ! 皇帝の次の権限を持つ者として、実質的にお前が一番偉くなる! お前があたしらを導け。これでどうよ。なあ、スクナロ。ヌロ。リナ。アン。サティ。ジーク・・・そして、お嬢! こいつが帝国の重鎮になるのさ」
「良い案だな。ミランダ。賛成だ」
「私の心に反対の二文字がありません。フュン様にふさわしい役職かと」
「私は素晴らしい提案だと思いますね」
「ボクは賛成!!!」
「私もですわ。フュン様がその席に座るのが良いかと」
「ああ。俺もその案に乗った。フュン君には働いてもらわないとな。俺たちの裏でコソコソしてくれた仕返しだ! ハハハハ」
皇帝の兄妹の全てが賛成したことで、フュンの役職は決定となった。
「僕が!?・・・・大元帥??? いやいや、ただの人質ですよ」
「それはいつの時代の話なのさ。辺境伯」
「たった数年前までそうでしたよ。ミラ先生」
「忘れたのさ。そんなだっけか?」
「ああ。とぼけてる~~~」
弟子と師匠が言い合っていると。
「フュン。私も皇帝になるんです。だからあなたも大元帥になりなさい。私のそばで私を支えると言うのならば役職が無いといけません。何もなしに裏で私を支えようなど、絶対に許しませんよ。今度は表に出なさい、フュン! 私を皇帝にしたいのならば、あなた自身もそのくらい出世してください! この人事、拒絶することは許しません。皇帝となる私の最初の命令は、あなたが大元帥になることです」
「・・・む・・・」
シルヴィアの鋭い一撃にフュンは反論の言葉が出なかった。
黙った彼を見て、この場にいた全員が微笑んだ。
ある意味では、壮大な夫婦喧嘩であったのだ。
こうして、人質から、辺境伯。
辺境伯から大元帥へと、異例の大出世を果たした。
サナリアの小さな国の王子は、皇帝の伴侶となり、帝国の実質のトップとなるのでした。
フュンの大元帥は、宰相も兼ねるとなり、帝国に関わるほぼすべての重要決定事項に介入せねばならない地位にまで上り詰めたのである。
彼の大出世により、帝国は大改革時代を迎える。
ガルナズン帝国は、これより太陽と共に道を歩んでいくことになる。
これが、本来の帝国の在り方だった。
太陽と協力して大陸を突き進むのが本来あるべきガルナズン帝国だったのだ。
ソルヴァンスは、帝国にゆっくりと名が浸透するべきだった。
フュン・メイダルフィアのように着実に帝国で力を着けて、帝国の為に働いている姿を民と臣下に見せるべきであったのだ。
よそ者である太陽の人が、帝国と寄り添うには、そのようにするべきであったのだ。
この青の霧事件から、影に潜んでいた者たちが消えて。
裏での暗躍ばかりが目立つ戦いが終わりを迎えた。
時代は英雄たちが表で戦う時代へと変わっていく。
アーリアの歴史に刻まれることになる二大国英雄戦争。
アーリア大陸のその後の運命を決めたと言われる一大決戦。
ここから先の戦いは、両国にいる英傑たちの競い合いとなる。
イーナミアはネアルを筆頭に、ガルナズンはフュンを筆頭に。
二人の英雄は、ついに持てる力の全てを出し尽くして、雌雄を決する戦いに挑むのである。
運命に導かれた二人。
生まれた時からありとあらゆることに恵まれていた才気溢れる男ネアル。
苦労に苦労を重ねて生き抜いてきた泥臭い男フュン。
両者の対照的な生き様に対して、その戦い方も対照的であった。
この二人の戦いの歴史は、後の世の人間にも影響を及ぼしていくことになる。
果たして、勝利の女神はどちらに微笑むのか。
それは神のみぞ知ること。
世界が求める勝者はどちらであろうか。
大陸の選択を見届けてほしい。
アーリア戦記 第二部 辺境伯に続く物語 終幕
「そうであります。次期皇帝陛下」
「な。え!? だ、だって」
シルヴィアが狼狽えている所に、フュンが更に彼女を押し込んでいく。
有無を言わさぬ連続口撃だ。
「シルヴィア様。どうでしょう。現皇帝の許可があります。それと、どうですか。各王家の皆様。彼女が皇帝で不満がありますでしょうか? あるならば、今ここで言ってもらえると嬉しいですね。その場の雰囲気だけで満場一致となるのが、嫌ですからね。駄目なら駄目とおっしゃっていただければ助かります」
「ないですわ」「ない!」「ありませんわ」
リナ。アン。サティが言った。
「俺もない。ヌロを生かしてくれて感謝する。フュン。そしてシルヴィアでよい」
「もちろん、私もありません」
スクナロとヌロが同時に了承した。
「俺はそのために動ていたからな。当然。なってもらわないと困る」
ジークは不敵に笑いながら答えた。
「満場一致であります。シルヴィア様。陛下へとなってください。あなたがガルナズン帝国を導くのです」
「わ・・・私がですか」
シルヴィアが悩んでいると、皇帝のそばにいたウィルベルが叫ぶ
「シルヴィアにやらせる気なのか。貴様!」
「ええ。そうですよ。ここはシルヴィアが正しい。理由は言えませんが、この中で一番ふさわしいのは、シルヴィアであります」
「なに・・・そんなわけは・・・」
「あなたは帝国を裏切ったでしょう。口出す権利はない。それに一番上の兄弟だからと言って必ず皇帝になれるとは限らない。陛下も次男です。継承権は二位であった方ですよ。なので継承権を持つ者がなるのです。別に最上位だからと言って、ならなければならないとする理由はない」
「貴様ぁ」
ウィルベルの前にバルナとシャイナが来た。
「父上。もう諦めましょう。私と母上は覚悟を決めています」
「そうです。あなた・・・私たちもあそこにいきますから、とても良い場所です。フュン様がご用意してくださったのです」
「お前たちもだと!?」
あらゆる想定をしていたフュンは、ウィルベルが起こす可能性がある行為を二人に説明して、更にその後取りうる行動も予期していた。
だから、ウィルベルの行動は筒抜けであった。
フュンは、ウィルベルを倒すべく、二人をサナリアに招待していた。
この数カ月仕事に追われていたウィルベルは、家族がどんな行動をしていたかを把握していない。
ナボルの立て直しの仕事に、自身の本来の仕事。
それに加えて、王国との戦いの処理を同時にしていたので、帝都とリーガを行き来して、家族に気をかける暇がなかった。
でもフュンも似たように忙しいのに、シャイナとバルナを接待していた。
では、なぜそれをフュンができるのかというと。
それは、ウィルベルとは違い、フュンが受け持つ仕事を一人でやっていないからだった。
ほとんどの仕事を仲間に任せているので、フュンは別なことが出来る。
人の気持ちに寄り添って、人を中心に仕事をするのがフュンなので、普段彼は人と会話するための時間を作り出して、色々な人の不満などを聞いたりするのである。
それで今回は二人の説得の方に時間を割いていた。
仲間たちが生み出してくれた時間で、二人の協力がもらえたのである。
当初、フュンは二人が光の監獄に行くことを拒絶した。
でも二人の意志が固く、ウィルベルと共に生活をして、彼の罪を背負うとの決意を尊重したのである。
フュンには、ウィルベルを憎む気持ちがある。
それは当然ナボルへの恨みから発生するものだ。
でもその恨みは、こちらの二人には関係ない。
だからせめてものウィルベルへの温情として、殺さずに光の監獄に連れていき、しかも家族の願いだから一緒に暮らせることにしたのだ。
あそこならば家族で暮らせる。
家族は一緒に暮らした方がいい。
家族がいなくなった経験がある男の最後の情けである。
「手荒な真似をしたくない。僕は、シャイナ様とバルナ様のお二人の為に、あなたを生かすだけだ」
「・・・なんだと」
「本来なら、殺す。確実に息の根を止めます」
迫力のある声と威圧的な目であった。
「僕はあなたの組織に人生を狂わされている。母。弟。全てを失った。でも僕は、あなたを殺さない。ここはやっぱりお二人の為に。お二人の家族であるあなたは殺さない。シャイナ様とバルナ様に感謝してあなたは今後を生きるべきなんだ。残りの人生、自分の力で生きてください。あそこには全てがあります。ただし自分たちの力で生きていかないといけない作りになっているので、あそこで頑張りなさい。民と同じようにです」
光の監獄は、普通の監獄とは違って衣食住の世話をしない。
自分が生きるために、自分で衣食住を管理しないといけない施設であり。
最低限の用意だけがあるので、自分の畑などで食を管理して、自分たちが食べられる分を確保するのは当然だが、その他の物を生み出すことが難しいので、作った作物を外の人間との物々交換でコントロールしていかないと、衣住を満たせない。
住む場所も最低限の小屋なので、発展させるためには資材が必須。
それを自分で調達するために、自分たちが食べる分よりも多く生産しなくてはならない。
だから生活するのにギリギリであるのが光の監獄なのだ。
一般人として生きる。
それがフュンの与えた罰である。
「あなたは、もっと人を知るべきでした。あなたの周りにいた人たちは、とても良き人達です。フラム閣下や、その周りの重臣たち。彼らは非常に優秀でした。それなのに、あなたはこっちの役立たずの方を重宝しました。こんなナイロゼのような屑はね。切り捨てるのが必然でしたよ。だからその後悔をあそこで持ってもらいたい。そして、あなたは家族を大切にしてください。お二人に大切にされているのです。それを返してあげてください」
ナイロゼの事を指さした時は鬼のような形相だったフュン。
でもウィルベルを見る時の顔は穏やかで、それに優しい声で締めくくっていた。
「なんだと・・貴様・・・」
「父上。もういいでしょう」
「そうです。あなたは疲れたのですよ。その組織に身を売りすぎたのです。二重の仮面を被ることに疲れたのですよ。やめましょう」
「バルナ・・・シャイナ・・・」
家族によって行動が止まる。
二人に抱きしめられると、ウィルベルは反逆の心を失った。
「太陽の戦士たち。三人を守りなさい。万が一、ナボルが来てもいいように、ジスター!」
「はっ」
「あなたを中心に完全護衛体制を貫いてください。サナリアまで完璧に守りなさい」
「はっ。フュン様。お任せを」
太陽の戦士。
夜叉ジスター。
影に隠れるのが上手いエマンド。
バランスの取れるママリー。
成長中のジーヴァの四人が、ウィルベルたちを連れて行った。
彼ら四人がいれば、護衛は完璧であるとフュンは深く頷く。
「それでは、この国で唯一反対をする者がいなくなりました。シルヴィア。どうしますか。あなたが皇帝でなければ帝国は上手くいかないと思うのですが・・・」
「私が皇帝じゃないと?」
「ええ。そうですよ。リナ様は、死んだことになっていました。スクナロ様は、二度の内乱に関係のある家を抱えました。ヌロ様も裏切って死んだことになっていますし。ベルナ様は、裏に引っ込んで、ドラウドになっています。それにアン様。サティ様は一度王家から外れています。ジーク様は風来坊です。当主ではなかった人ですよ。こうなるとあなたしかいないでしょ」
「・・・んん。なんだか口が上手いですね」
「え? どうでしょう??」
フュンの言葉に二人以外の皆が笑う。
完全に屁理屈のようにも聞こえるからだ。
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「まったく・・・フュン」
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「はい?」
「その方が、あなたにとって、都合がいいのですよね。そうなんですよね」
「都合がいいとは、言い方が良くない。いいですかシルヴィア。あなたが皇帝であれば、万事うまくいくのです」
「私が皇帝であれば? なぜです?」
フュンはシルヴィアじゃなくて、皆の方を見た。
「ええ、それはもちろん。あなたが皇帝であれば、こちらのご兄弟。全員が味方となるのです。これが、真の帝国というものでしょ。違いますか。シルヴィア」
「兄様と姉様たちが・・・私が皇帝だと?」
シルヴィアも家族の方を見る。
微笑む姉たち。
自分にまかせろと胸を叩く兄たち。
一番下の兄弟であるシルヴィアを支えると言ってくれているようだった。
「兄様と姉様方・・・本当に私でよろしいのですか。私は末っ子ですよ。今はスクナロ兄様が長兄になるはず」
「ハハハ。良いぞ。俺は文句ない!」
「ほ、本当ですか」
「ああ。ない。それにこれこそ、フュンに恩を返せるのではないか。義弟がこのために頑張ったのだろう。だったら、これが一番いいではないか」
「・・・わかりました。兄様が良いのであれば、私がやります。皇帝になりましょう。兄弟が力を合わせて真の帝国になりましょう」
「「「ええ」」」「おう」
兄弟たちが返事をしてくれたことでシルヴィアは安堵した。
一番下の自分がなってもいいものなのか。
不安よりも皆に悪いという気持ちが強かった。
「お嬢の皇帝はいい! だが、他は? どういう人事になるのさ」
突然ミランダが天井から降りてきた。
「あれ、先生? 来てたんですね。天井に張り付いていたとは知らなかった」
フュンが質問すると。
「ああ。エイナルフのおっさんが隠し天井に入れてくれたのさ。これだと影にならなくても息を潜んでいればバレねえ。ナハハハ」
コソ泥みたいな事を言っていた。
「はぁ。それで、人事とは何ですか」
「王家の話だ。スクナロとヌロ。ジーク。んでこっちの三姉妹の配置は分かっているけど。残りの貴族共はどうなってんだ?」
「ええ。それはもちろん。貴族再編もします。今の内訳を見つつ、内部にナボルが潜入していた家は解体します。そして再編して、貴族は縮小。内政系は、こちらのリナ様たちに振り分けていき。戦闘が得意な貴族は、こっちの二つの家に入れます。ただし、貴族ではなく武家。という形にします。数を搾りまして、武家は上限を10個にします。これ以上の武家は作りません。なので、今まで貴族として戦っていた人は、こちらに編入します」
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「僕?」
「ああ。お前は何だ?」
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「え?」
「お前の役割は、別だ。なあ、エイナルフのおっさん。いいよな。この間、話した奴」
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「っじゃ。お前の役割は決まりさ」
「僕の役割!?」
ミランダが、フュンの肩に手を置いた。
「お前は、サナリア辺境伯も兼ねているが、こちらが次の役割だ。ガルナズン帝国第三十二代皇帝シルヴィア・ヘイロー・ヴィセニアの夫にして、ガルナズン帝国大元帥フュン・メイダルフィアだ。どうだ。お前がこの国のナンバー2だ! 皇帝の次の権限を持つ者として、実質的にお前が一番偉くなる! お前があたしらを導け。これでどうよ。なあ、スクナロ。ヌロ。リナ。アン。サティ。ジーク・・・そして、お嬢! こいつが帝国の重鎮になるのさ」
「良い案だな。ミランダ。賛成だ」
「私の心に反対の二文字がありません。フュン様にふさわしい役職かと」
「私は素晴らしい提案だと思いますね」
「ボクは賛成!!!」
「私もですわ。フュン様がその席に座るのが良いかと」
「ああ。俺もその案に乗った。フュン君には働いてもらわないとな。俺たちの裏でコソコソしてくれた仕返しだ! ハハハハ」
皇帝の兄妹の全てが賛成したことで、フュンの役職は決定となった。
「僕が!?・・・・大元帥??? いやいや、ただの人質ですよ」
「それはいつの時代の話なのさ。辺境伯」
「たった数年前までそうでしたよ。ミラ先生」
「忘れたのさ。そんなだっけか?」
「ああ。とぼけてる~~~」
弟子と師匠が言い合っていると。
「フュン。私も皇帝になるんです。だからあなたも大元帥になりなさい。私のそばで私を支えると言うのならば役職が無いといけません。何もなしに裏で私を支えようなど、絶対に許しませんよ。今度は表に出なさい、フュン! 私を皇帝にしたいのならば、あなた自身もそのくらい出世してください! この人事、拒絶することは許しません。皇帝となる私の最初の命令は、あなたが大元帥になることです」
「・・・む・・・」
シルヴィアの鋭い一撃にフュンは反論の言葉が出なかった。
黙った彼を見て、この場にいた全員が微笑んだ。
ある意味では、壮大な夫婦喧嘩であったのだ。
こうして、人質から、辺境伯。
辺境伯から大元帥へと、異例の大出世を果たした。
サナリアの小さな国の王子は、皇帝の伴侶となり、帝国の実質のトップとなるのでした。
フュンの大元帥は、宰相も兼ねるとなり、帝国に関わるほぼすべての重要決定事項に介入せねばならない地位にまで上り詰めたのである。
彼の大出世により、帝国は大改革時代を迎える。
ガルナズン帝国は、これより太陽と共に道を歩んでいくことになる。
これが、本来の帝国の在り方だった。
太陽と協力して大陸を突き進むのが本来あるべきガルナズン帝国だったのだ。
ソルヴァンスは、帝国にゆっくりと名が浸透するべきだった。
フュン・メイダルフィアのように着実に帝国で力を着けて、帝国の為に働いている姿を民と臣下に見せるべきであったのだ。
よそ者である太陽の人が、帝国と寄り添うには、そのようにするべきであったのだ。
この青の霧事件から、影に潜んでいた者たちが消えて。
裏での暗躍ばかりが目立つ戦いが終わりを迎えた。
時代は英雄たちが表で戦う時代へと変わっていく。
アーリアの歴史に刻まれることになる二大国英雄戦争。
アーリア大陸のその後の運命を決めたと言われる一大決戦。
ここから先の戦いは、両国にいる英傑たちの競い合いとなる。
イーナミアはネアルを筆頭に、ガルナズンはフュンを筆頭に。
二人の英雄は、ついに持てる力の全てを出し尽くして、雌雄を決する戦いに挑むのである。
運命に導かれた二人。
生まれた時からありとあらゆることに恵まれていた才気溢れる男ネアル。
苦労に苦労を重ねて生き抜いてきた泥臭い男フュン。
両者の対照的な生き様に対して、その戦い方も対照的であった。
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言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
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