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第二部 辺境伯に続く物語

第259話 フュンではなく仲間たちが動く

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 帝国統一歴524年8月31日。
 龍舞興行が、ここラーゼで始まった。
 今回の粛清事件のお詫びを兼ねたイベントで、帝国全土で始まる龍舞公演の最初を飾るのにも相応しく、非常に重要な場所である。

 マイアらが披露することになっている龍舞は、都市の中央に演舞場を組み立てて、無料公開となっていて、その催しは三日間となっており、華麗な踊り子たちがステージ上で優雅に踊る姿は圧巻で、あの戦いで疲れ切ったラーゼの民たちの心を癒していった。

 その公演の合間。
 ジークのモンジュ大商会が、イベントの前後でのグッズ販売や、商会が持ち込んできたおススメ商品などの売込みを行った。
 興行の二本の軸が、大盛況の龍舞と大繁盛の商会の出店である。
 興行で出費する部分だけはフュンが出しているので、彼らの出費はというと、ほぼなく。
 ただ単に莫大な利益だけを叩きだして、お金の面での勝者がモンジュ大商会となった。
 

 ◇

 ラーゼのとある場所。

 「ジーク様」
 「おお。タイロー君だね。いや、間違えました。タイロー王でしたね。失礼しました」

 ジークが大袈裟に挨拶をした。

 「やめてくださいよ。ジーク様。私はただのタイローですよ。帝国の人質だったタイローです。ご冗談やめてくださいよ。辛いです」
 「ははは。ごめんごめん。じゃあ、ここからは義弟の友達に接する態度でいくよ」
 「はい。そちらでお願いします」
 「うん。じゃあ、例の物。出来てるかな?」
 
 ジークは両手を広げて肩をすくめた。

 「はい。出来ているのですが・・・・全土分は今の段階だと難しいです。随時作っている形でして、お渡しできるのはバルナガン分くらいまでです」
 「そうだよね。一度に大量には作れないよね」
 「はい。それで、こちらが作った物をどんどんお渡しする形でもいいでしょうか」
 「いいけど。タイロー君たちの方が大丈夫かい?」
 「大丈夫です。作ってみせます・・・しかし、運搬場所の指定をお願いしたいです。こちらのラーゼの商会がモンジュ大商会さんに直接運搬すると怪しまれると思うので、どこか都合のいい場所とかはありませんかね。誰にも気づかれない形の場所に、私たちが勝手にお送りした方がよろしいかと・・・」
 「それは確かにそうだ」

 タイローの言う通りなので、ジークは悩んだ。
 顎に手を置いて、いつものポーズでウロウロし始めた。
 考え事をする時のジークの癖である。

 「そうだな。ラメンテに運んでもらえればいいかな。移動先としても、ラーゼに近いからね」
 「ラメンテ?」
 「ああ。テースト山は分かるかな?」
 「あ、はい。ここから南西の山ですね。あの高く険しい山の」
 「そう。あそこには秘密の里があるんだ。そこに運搬してくれるといいかな。山の入り口に人を置くから、そこに渡してもらえればそこから俺たちが自分で補充をするよ」
 「なるほど。それなら私たちも出来そうですね。ラーゼから運搬しますね」
 「助かる。君たちの負担になりそうだけど。頼むね」
 「はい。お任せを」

 タイローが丁寧に頭を下げた。
 『いいよいいよ』と言ってジークは微笑む。
 暫しの談笑を挟み、終わり際。

 「それにしても恐ろしい計画だよね」
 「ええ。一見すればただの興行ですよね」
 「そうだね。タイロー君にもそういう風に見えるかい。それなら成功間違いないね。最初が肝心だからさ」
 「ええ。私にはただのイベントにしか見えませんよ。見てください。ラーゼの民たちも楽しそうです」

 笑顔で美しい舞いを見る民たち。
 それを見つめるタイローも幸せな気分になっていた。

 「うんそうだね。皆楽しそうだ。人を笑顔にすることが基軸なのが、本当に彼らしい作戦だ。でも裏では恐ろしいことがはじまっているんだけどね」
 「ええ。そうですね。フュンさんは、人々を楽しませることと、人々を救う事を同時に行う気なのですね」
 「そうだね。ナボル滅亡計画か・・・これがバッチリ決まれば、確実にこの大陸では存在できない組織になる・・・・そうだな。それが彼の母と彼自身の執念だよね。そうだよな。フュン君は倒したいはずだ。ナボルなんて根こそぎさ・・・・」
 「・・・はい。そうですね。私にもその気持ちがわかります。彼の母の友人だった。私の父も苦しみましたし」

 ジークとタイローは最後に頷きあって、この作戦を成功に導こうと決意した。
 フュンの計画は、母から受け継いだ力を駆使した物。
 最凶で最高の計略は、おそらくナボルでも見抜けない。
 この計画は着々と進んでいた。


 ◇

 そしてラーゼの次に一行が向かったのはバルナガン。
 こちらの都市では、元々ある演舞場で龍舞が無料で披露された。

 その興行中。
 都市の四方にいるのはサブロウたちである。
 影の部隊複数名と、太陽の戦士ママリーとリッカが付き従っていた。

 「リッカ。ママリー。どうだぞ。敵がいそうかぞ?」 
 「いないですね」
 「私の方向もいないです」
 「よし。じゃあ、ここの地面に埋めるぞ。あとは予備として倉庫を借りて影を配置するぞ」
 「そうですね」

 サブロウと影は、地面を掘って、とある物を埋めた。
 両手サイズの大きめの玉を埋めたのである。

 「次。移動するぞい。敵がいるか知らんが、誰にも見つかるなよ」
 「「はい」」

 サブロウたちが工作部隊として動き出していた。
 人の目が興行に集中している。
 それが重要な事であった。
 一般人で、興行を見に行かないような奴は、よほどの変わり者か敵だと判断できるから、索敵すらも楽でもある。
 フュンの計画はそこまで練られている。

 ◇
 
 そして。
 帝国全土を回る龍舞興行は大盛況。
 各地に移動する前から、好評の噂が飛び交っていたようで凄まじい集客力を持っていた。
 だからモンジュ大商会は大儲けである。
 それと龍舞自体はタダでお客さんが見られるから集客力なんてものは倍増どころじゃなかった。
 興行にかかる費用はフュンのサナリアから出ているので、モンジュ大商会がやる事と言えば、グッズ販売と龍舞の踊り子たちの護衛と泊まる場所の確保くらいで、他に資金を必要としないので、売ったら売った分だけ大儲けになるという事だった。

 彼らは、ラーゼ。バルナガン。 
 そして南に移動して、サーメント。リスティア。 
 さらに西へと向かってハスラへ。

 彼らはどこへ行っても儲けてしまい、笑いが止まらないジークはまだまだ移動する。
 ハスラからリーガ。リーガからビスタと、帝国の最前線都市を縦断して行き、大陸南にある港町のシャルフとササラにもいき、そこからシンドラやシーラ村なども行って、最後にククルでも興行を行い。帝都へと帰ってきた。
 この興行が好評すぎたために、当初の予定よりも大幅に時間が掛かってしまい、予定では二カ月半で終了するはずが、100日以上も経過して帝都に到着していた。
 彼らが帰って来たのは12月11日であった。


 ◇

 帝都のダーレー家の屋敷にて。

 「ジーク様!」
 「おお。フュン君ここにいたのか。サナリアじゃなく、ここにいたんだな」 
 「ええ。シルヴィアと一緒にいましたよ。一か月ほど前からですね。いやぁ、そろそろジーク様が帰ってくると思ってたんですけどね。ねえ。シルヴィア」
 「そうです。ジーク兄様遅いですよ」

 夫婦そろっての出迎えだった。
 ジークも久しぶりのシルヴィアとフュンとの対面に嬉しそうである。

 「スマンスマン。報告もしたいから、会議室に行こう。二人とも来てくれ」

 玄関から移動した三人はダーレーの会議室で話し合う。

 「それでだね。結果は成功だよ。全部やってきた」
 「ジーク様、ありがとうございます」
 「ん? 兄様の興行の事ですよね」
 「いや違いますよ。ジーク様には僕の仕事をやってもらいました。僕が直接動くと、ナボルに怪しまれると思いましてね。ここはジーク様の商会が動けばいいかなと思って、表の仕事としてやってもらいました。とある事を頼んじゃったんですよね。ハハハ」
 「頼んだ? なにをです?」

 何も知らないので、当然シルヴィアは疑問に思う。
  
 「ええ。あなたには最後に教えますからね。あなたは嘘が苦手ですからね。話すのはやめておきましょう」
 「ん! ひどいですね。私にだって出来ますよ。隠すことくらいなんて朝飯前です」
 「無理ですね。あなたは表情に出やすい。僕とジーク様に任せてください」
 「・・ふんっ。フュン! 謝っても許しませんよ。今のはちょっと怒りましたよ」
 「はいはい。それではジーク様。次の段階に行きます」

 フュンは、シルヴィアをあしらうのが上手くなってきた。
 夫婦喧嘩も板について来たのである。

 「それじゃあ、勝負は王家会議の時かな」
 「ええ。そうです。会議の日。そこで全てを終わらせます。来年。一月一日。そこがネアルとの約束の日です」
 「そうか・・・・その日ね」

 ジークも感慨深くなっていた。
 奴らと戦っていたのは、なにもフュンだけではなかったからだ。

 「はい。その日が、ナボルが存続できなくなる日です。上手く発動すれば、もうどうしようもないでしょう。ナボルの幹部たちは表に出ざるを得ないか。それともそのまま闇に消えるしかないでしょうね」
 「そうだね。やろうか・・・そうだな。決着か・・・・するといいな・・・」
 
 フュンの最大計画発動タイミングは。

 『帝国歴525年1月1日』

 それが、アーリア大陸で起きた事件の中で、誰もが知る有名な事件で、今もなおその風習が残る出来事。

 『青の霧事件』

 それが起こる日である。
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