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第二部 辺境伯に続く物語
第251話 ミランダの野望
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帝国歴524年6月25日深夜。
ガイナル山脈中央やや東寄りのウォーカー隊の陣にて。
「帰って来たか」
「おう」
マサムネが偵察から戻ってきた。
「どうだった」
「これだな。ほれ」
ミランダに見せたのは地図。
ガイナル山脈の中央地帯の詳細が書かれているものだ。
マサムネのオリジナルの地図らしい。
彼は冒険家であるので、地図が趣味である。
というよりも、必須の技術である。
どこに行こうにも地図が冒険家にとって重要なのだ。
「こことここ。そしてこっちにも。結構バラバラにいるぞ。一塊になると目立つからな」
「そうか。一応向こうも警戒していたか」
「ああ。そうみたいだ。でも俺たちほどじゃないけどな。山育ちじゃないから隠れるのが下手糞だな。一般兵よりかは上手いけどよ」
「マサムネ。数は?」
「四万だ」
マサムネは指でも教えてくれた。
指を四本立てた。
「四万!?」
「俺たちの二倍はあるわ」
「そりゃあやべえな・・・そんなに用意してるのかよ」
「ミラ。そんで驚きの所悪いが。まだルコットにも兵がいるらしいわ。許可が下り次第で、ラーゼに向かうとか言っていたぞ。兵士らがな」
「は!? まだ兵がいるのかよ」
「ああ。そうみたいだ。あいつら結構、兵を用意してたんだな」
「・・・そうか。それならここは、なんとしてでも倒さないといけないか」
ミランダが顎に手を置いて、悩みながら地図を確認する。
敵の配置は絶妙な距離感で配置された布陣。
互いの連携が取れるギリギリの範囲での休息をとっている。
なかなかできる指揮官が敵にいると思われるのだ。
「ああ。そうだ。動くタイミングとか分かるか?」
「知らん。でも、ハスラのは動かすと言っていた」
「船か」
「ああ。明日、船を使うって言ってたからな」
「わかった。あいつらたぶん挟撃をするつもりだ」
今度はミランダがもう一つ地図を広げた。
アーリア大陸中央北部の地図である。
ハスラはガイナル山脈に近い位置にある都市なので、ガイナル山脈から敵が行動を起こせば、川と山からで挟撃もたやすい。
しかしなぜそんな位置に都市があるのかというと、逆に監視もしやすいからである。
以前のシルヴィアが戦ったハスラ防衛戦争時にも、両方から攻められた経緯がある。
「どうだ。マサムネ。これだときついだろ。川での戦闘に気を取られていれば」
「そういうことか。視界が前に働いていると、裏から来られたら対応できないということか」
「そうよ。ここからゆっくり進軍して、川側の兵たちに圧力をかけながら、ハスラを取り囲める。これでハスラはだいぶキツイぜ」
敵が大規模挟撃の図を描いてきた。
このままだといくら強固なハスラでも打ち破られるのも時間の問題だった。
「それで、お前はただ黙ってやられないだろ。何を考えているんだ?」
「あたしらの得意攻撃さ」
「得意攻撃?」
「ああ。現地解散。現地集合を繰り返す。最強のゲリラ戦闘だ」
「は?」
「いいか。一回目。こことこことここ。この三つを襲撃。次にこことこことここ。こっちの三つを襲撃。タイミングはサブロウ丸でやる。あたしの合図に合わせて、三カ所を同時襲撃。それを繰り返す。しかも相手を殲滅しなくていい。一撃加えたら即離脱して、深追いはしない。ただただ嫌がらせをすんのさ」
マサムネの地図に書いてある敵の印にマークを付けていくミランダ。
倒すべき敵をどんどん西の方に追いやっていく計画である。
「なるほど・・・時間稼ぎも込みの戦術か。あの軍を川に来させない意味もあるってわけか」
「そうなのさ。でも最終的にはとっておきで、ぶっ潰す。ここを一掃したらハスラを援護だ」
「了解だ。俺も偵察を全力でしよう」
「おう。頼んだ。この戦法は情報が第一だ。マサムネにかかってるわ」
「ああ。任せとけ。やって来る」
ミランダの策を強化するために、マサムネは影となり戦場へと向かって行った。
◇
帝国歴524年6月26日未明
深夜の間にミランダは、ウォーカー隊の配置を済ませた。
敵の陣付近で息を潜めて待機する隊員たちは、影ではなくて山の中で身を隠す技術を持っている。
山育ちである彼らの得意な事である。
「よいしょと。ここらでいくぞ。皆。青の信号だ!」
無音で上がる青の信号弾。
暗闇の中に一本の青い光が登っていくと、山の至る所から声が響く。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
ウォーカー隊のゲリラ戦闘が始まった。
ミランダは高台から様子を探り、敵の動きを観察。
三か所同時攻撃は全て上手くいっているようで、敵は混乱していた。
押せば押すだけ削れる状態だったが。
ミランダはここで。
「止まれよ。お前ら。ほらよ。赤の信号だ!」
再び無音で上がる信号弾。
今度は赤である。即時攻撃中断からの撤退の信号弾で、青と赤しか皆には伝えていない。
二種しか使用しなかったのは、ウォーカー隊に複雑な色でのやり取りなど出来ないからだった。
でもそれで十分。
彼らは元々個々で考えて行動が出来る賊であるからだ。
「よし。奴らの動きがどうなるか。面白い。マサムネの報告次第だな」
ミランダは不敵に笑ってマサムネを待つ。
◇
三十分後。
影の情報をまとめたマサムネが来た。
「敵はどうだった」
「各地にいたのは八千ずつだったわ。んで、その内千ずつくらい。俺たちが倒しては引いた」
「ああ。大体狙い通りだな。そんで逃げ道は? 予想位置に逃げたか」
「そうだな。こっちの三カ所じゃなくて、ここの一か所がこっちの奥の方にいったわ」
地図の手前の陣よりも奥に逃げた隊がいたらしい。
ミランダの予想ではもう少し粘って戦ってくれると思ったのだが、ビビりすぎて奥まで逃げるとは思わなかったのである。
「そうか。でも予定の場所を攻撃しよう。警戒しているだろうが。あたしらの事は索敵できんわな。じゃあ、次に行く」
今度のミランダは紫の信号弾を放った。
これは青と同じ効果だが、第二弾に配置した兵への合図。
そうミランダの計画は、先回りで次々とゲリラ戦闘をするものだった。
だからウォーカー隊は細分化されていて、一個の部隊が三千で編成され、それが六部隊ある。
三カ所を同時攻撃している間に、他の三カ所に配置。
そちらが攻撃を開始したら、また最初の部隊をもう一度配置。
これを繰り返して、敵を大混乱に落とすというやり方だ。
色は青と赤が第一部隊。
紫とオレンジが第二部隊である。
「マサムネ。お前は影の情報収集に力を。逐一あたしに報告だ」
「おう。まかせとけ。混乱しているだろうからな。影部隊たちの偵察が楽みたいだぜ」
「そうか。ならあたしらの勝ちだな。戦場で、敵の情報を知らん奴らに勝ち目はないからな。数の違いなんて関係ねえわ」
ミランダはこの戦法に自信があった。
二万対四万の戦いでも勝利を確信している。
それに敵は自分たちの軍の規模を知らないだろう。
それくらい何処にいるか分からない移動をしている。
ウォーカー隊を細かく分けているから出来る技だ。
むしろ、ウォーカー隊は団体行動よりもこれくらいの小規模の方が得意なのである。
万で動く方が難しい軍なのだ。
この日の朝方まで続く嫌がらせ攻撃は、王国兵に疲れを呼び込んでいた。
逃げる先に必ず現れるウォーカー隊。
攻撃してはすぐに引くを繰り返してくるために、王国側が対抗しようと反撃をする頃にはもうすでにいなくなっている。
その神出鬼没さに王国は混乱をしていた。だから王国はガイナル山脈中央のやや西側の広い場所に一か所になっていた。
これだけの兵が集まれば相手も攻撃して来ないだろう。
現在数を減らされて、三万程になった兵でも相手が少数だったからまだ数で勝てると思っていたのだ。
この日の昼。
ミランダは敵の本拠地を上から確認。
近くの高い山から、相手の陣を見つめた。
ウォーカー隊は山頂の反対側に置いて、姿を隠すことに成功している。
「マサムネ」
「なんだ」
「全部か?」
「集まったわ。見事な策だ。ミラ!」
「ふっ。策でも何でもないな。こんなの。相手の将が雑魚なだけだ。マサムネ。これは王国ってよ」
「ん?」
「意外と人材が少ないのかもな」
「どういうことだ」
「強い奴が限られている。ネアルは超一流。パールマン。アスターネ。エクリプス。これ位が一線級だろう」
敵に強い将が少ない。
それはネアル自身が強すぎて後進が育たたないのかもしれない。
「これに対して。あたしらは数がある」
「ん?」
「フュン。あたし。お嬢。ジーク。スクナロ。フラム。クリス。大将クラスの将に加えて、ゼファーや頭領。ザイオンやエリナ。あっちだとハルクなどの将軍クラスも強い奴が多い。だから、あたしらは負けなかったってのがあるな」
帝国は、人の力で負けなかった。
兵数の違いと、帝国の内部での協力出来ない態勢があったとしても、ここまで王国に負けなかったのは確実に人の力である。
「だからこそ、フュンの考えは間違っちゃいない。三つの家が一つとなり、真の帝国となれば・・・あたしらは勝てる。王国に反撃が出来るくらい強くなるのさ」
「そうか……なるほどな。あいつはそこまで考えていたのか」
「いいや、考えてないと思うのさ」
「考えてない?」
マサムネが首を傾げた。
「ああ、あいつはただ。自分の家族を守るためだけに頑張ってるだけだ」
「家族だと?」
「そう。お嬢やジーク。エイナルフのおっさん。そして皇帝の兄弟の親族系。あたしやサブロウたちの仲間系。頭領やシガーなどの故郷の部下系。これら全部があいつにとっての家族さ。太陽の戦士もか。あと友達もだな。ウルやマー。タイローやヒルダとかだな。あいつ。家族の範囲が広いのさ。お前もたぶん含まれてるぞ」
「俺もか!? そんなにあいつと会ってないぞ。俺は」
「知ってる。でもお前の旅の話。楽しそうに聞くだろ?」
「・・・そうだな。いつも興味津々だな。あいつ」
マサムネはサブロウ以上に風来坊で、ほとんど里にいない。
緊急連絡でやっと帰って来てくれる人物である。
そんな彼もフュンとはニ、三回会ったことがあり、その度にマサムネの経験した旅の話を楽しそうに聞いてくれるのだ。
「だろ。あれはちょいと変わってるのさ。でも不思議と悪い気分じゃないだろ」
「ああ。もちろんだ。だから俺はあいつに賭けてる。あいつなら外の世界に連れて行ってくれそうだからな」
「信じろ。マサムネ。あいつはなんかしてくれるからな。たぶんお前の夢も後押ししてくれるぞ。あいつがもっと偉くなればな。まだサナリア程度では権限が弱い。あいつの役職が足りない。エイナルフのおっさん。あれじゃ駄目だ。辺境伯以上の力をやらねえとよ」
ミランダは敵の陣を見つめて言った。
「だから、お嬢が皇帝になった時。あいつはただの皇帝の旦那にしちゃ駄目だ。あいつに強烈な権限を与えるべきなのさ。何か大きな役割をな」
「何考えている。ミラ。その顔は・・・やべえな」
「はっ・・・フュンには今までの分をもらってくれないとな。あたしらがしてきた仕事ってよ結構大変だったのさ。だからよ。割に合わんぜ。フュンがこのままの地位だとよ」
「それで、何をやる気だ? 悪代官」
「ああ、あいつが、あたしらをこき使った分な。大出世してもらわないと困る・・・なあ、シゲマサ。ザイオン。お前ら。あいつに命を賭けたんだもんな。だったら背負ってもらわないとな。いけねえよな。やっぱよ」
ミランダは空を見上げた後、不敵に笑った。
「フュン・メイダルフィア・・・あたしが育てた最高の弟子には、それに似合う役職についてもらわないとな・・・・そうだな。帝国の大元帥。これくらいがあいつにふさわしい役職じゃないのか」
「大元帥???」
「ああ、帝国初期にあった役職だ。皇帝の次の権限があってな。軍のトップだったらしいぞ」
「なんか凄そうだな」
「ああ。だからあいつにやる。大元帥フュン・メイダルフィアを、必ずあたしらで誕生させるんだ。だからとっとと、この王国を退けて、ナボルをぶっ潰して、帝国を一個にすっぞ。やるぞマサムネ。あたしらはあいつを大きくすんのよ。勝手にな」
「おう。その話。乗ったぜ。俺の夢の為にも、あいつと共に行こうか」
「ああ。いくぜ。ウォーカー隊! こいつで仕上げだ」
ミランダから漆黒の信号弾が放たれた。
合図の意味は。
『敵を皆殺しだ。野郎ども!! 全部隊でかかれ、ウォーカー隊』
である。
ガイナル山脈中央やや東寄りのウォーカー隊の陣にて。
「帰って来たか」
「おう」
マサムネが偵察から戻ってきた。
「どうだった」
「これだな。ほれ」
ミランダに見せたのは地図。
ガイナル山脈の中央地帯の詳細が書かれているものだ。
マサムネのオリジナルの地図らしい。
彼は冒険家であるので、地図が趣味である。
というよりも、必須の技術である。
どこに行こうにも地図が冒険家にとって重要なのだ。
「こことここ。そしてこっちにも。結構バラバラにいるぞ。一塊になると目立つからな」
「そうか。一応向こうも警戒していたか」
「ああ。そうみたいだ。でも俺たちほどじゃないけどな。山育ちじゃないから隠れるのが下手糞だな。一般兵よりかは上手いけどよ」
「マサムネ。数は?」
「四万だ」
マサムネは指でも教えてくれた。
指を四本立てた。
「四万!?」
「俺たちの二倍はあるわ」
「そりゃあやべえな・・・そんなに用意してるのかよ」
「ミラ。そんで驚きの所悪いが。まだルコットにも兵がいるらしいわ。許可が下り次第で、ラーゼに向かうとか言っていたぞ。兵士らがな」
「は!? まだ兵がいるのかよ」
「ああ。そうみたいだ。あいつら結構、兵を用意してたんだな」
「・・・そうか。それならここは、なんとしてでも倒さないといけないか」
ミランダが顎に手を置いて、悩みながら地図を確認する。
敵の配置は絶妙な距離感で配置された布陣。
互いの連携が取れるギリギリの範囲での休息をとっている。
なかなかできる指揮官が敵にいると思われるのだ。
「ああ。そうだ。動くタイミングとか分かるか?」
「知らん。でも、ハスラのは動かすと言っていた」
「船か」
「ああ。明日、船を使うって言ってたからな」
「わかった。あいつらたぶん挟撃をするつもりだ」
今度はミランダがもう一つ地図を広げた。
アーリア大陸中央北部の地図である。
ハスラはガイナル山脈に近い位置にある都市なので、ガイナル山脈から敵が行動を起こせば、川と山からで挟撃もたやすい。
しかしなぜそんな位置に都市があるのかというと、逆に監視もしやすいからである。
以前のシルヴィアが戦ったハスラ防衛戦争時にも、両方から攻められた経緯がある。
「どうだ。マサムネ。これだときついだろ。川での戦闘に気を取られていれば」
「そういうことか。視界が前に働いていると、裏から来られたら対応できないということか」
「そうよ。ここからゆっくり進軍して、川側の兵たちに圧力をかけながら、ハスラを取り囲める。これでハスラはだいぶキツイぜ」
敵が大規模挟撃の図を描いてきた。
このままだといくら強固なハスラでも打ち破られるのも時間の問題だった。
「それで、お前はただ黙ってやられないだろ。何を考えているんだ?」
「あたしらの得意攻撃さ」
「得意攻撃?」
「ああ。現地解散。現地集合を繰り返す。最強のゲリラ戦闘だ」
「は?」
「いいか。一回目。こことこことここ。この三つを襲撃。次にこことこことここ。こっちの三つを襲撃。タイミングはサブロウ丸でやる。あたしの合図に合わせて、三カ所を同時襲撃。それを繰り返す。しかも相手を殲滅しなくていい。一撃加えたら即離脱して、深追いはしない。ただただ嫌がらせをすんのさ」
マサムネの地図に書いてある敵の印にマークを付けていくミランダ。
倒すべき敵をどんどん西の方に追いやっていく計画である。
「なるほど・・・時間稼ぎも込みの戦術か。あの軍を川に来させない意味もあるってわけか」
「そうなのさ。でも最終的にはとっておきで、ぶっ潰す。ここを一掃したらハスラを援護だ」
「了解だ。俺も偵察を全力でしよう」
「おう。頼んだ。この戦法は情報が第一だ。マサムネにかかってるわ」
「ああ。任せとけ。やって来る」
ミランダの策を強化するために、マサムネは影となり戦場へと向かって行った。
◇
帝国歴524年6月26日未明
深夜の間にミランダは、ウォーカー隊の配置を済ませた。
敵の陣付近で息を潜めて待機する隊員たちは、影ではなくて山の中で身を隠す技術を持っている。
山育ちである彼らの得意な事である。
「よいしょと。ここらでいくぞ。皆。青の信号だ!」
無音で上がる青の信号弾。
暗闇の中に一本の青い光が登っていくと、山の至る所から声が響く。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
ウォーカー隊のゲリラ戦闘が始まった。
ミランダは高台から様子を探り、敵の動きを観察。
三か所同時攻撃は全て上手くいっているようで、敵は混乱していた。
押せば押すだけ削れる状態だったが。
ミランダはここで。
「止まれよ。お前ら。ほらよ。赤の信号だ!」
再び無音で上がる信号弾。
今度は赤である。即時攻撃中断からの撤退の信号弾で、青と赤しか皆には伝えていない。
二種しか使用しなかったのは、ウォーカー隊に複雑な色でのやり取りなど出来ないからだった。
でもそれで十分。
彼らは元々個々で考えて行動が出来る賊であるからだ。
「よし。奴らの動きがどうなるか。面白い。マサムネの報告次第だな」
ミランダは不敵に笑ってマサムネを待つ。
◇
三十分後。
影の情報をまとめたマサムネが来た。
「敵はどうだった」
「各地にいたのは八千ずつだったわ。んで、その内千ずつくらい。俺たちが倒しては引いた」
「ああ。大体狙い通りだな。そんで逃げ道は? 予想位置に逃げたか」
「そうだな。こっちの三カ所じゃなくて、ここの一か所がこっちの奥の方にいったわ」
地図の手前の陣よりも奥に逃げた隊がいたらしい。
ミランダの予想ではもう少し粘って戦ってくれると思ったのだが、ビビりすぎて奥まで逃げるとは思わなかったのである。
「そうか。でも予定の場所を攻撃しよう。警戒しているだろうが。あたしらの事は索敵できんわな。じゃあ、次に行く」
今度のミランダは紫の信号弾を放った。
これは青と同じ効果だが、第二弾に配置した兵への合図。
そうミランダの計画は、先回りで次々とゲリラ戦闘をするものだった。
だからウォーカー隊は細分化されていて、一個の部隊が三千で編成され、それが六部隊ある。
三カ所を同時攻撃している間に、他の三カ所に配置。
そちらが攻撃を開始したら、また最初の部隊をもう一度配置。
これを繰り返して、敵を大混乱に落とすというやり方だ。
色は青と赤が第一部隊。
紫とオレンジが第二部隊である。
「マサムネ。お前は影の情報収集に力を。逐一あたしに報告だ」
「おう。まかせとけ。混乱しているだろうからな。影部隊たちの偵察が楽みたいだぜ」
「そうか。ならあたしらの勝ちだな。戦場で、敵の情報を知らん奴らに勝ち目はないからな。数の違いなんて関係ねえわ」
ミランダはこの戦法に自信があった。
二万対四万の戦いでも勝利を確信している。
それに敵は自分たちの軍の規模を知らないだろう。
それくらい何処にいるか分からない移動をしている。
ウォーカー隊を細かく分けているから出来る技だ。
むしろ、ウォーカー隊は団体行動よりもこれくらいの小規模の方が得意なのである。
万で動く方が難しい軍なのだ。
この日の朝方まで続く嫌がらせ攻撃は、王国兵に疲れを呼び込んでいた。
逃げる先に必ず現れるウォーカー隊。
攻撃してはすぐに引くを繰り返してくるために、王国側が対抗しようと反撃をする頃にはもうすでにいなくなっている。
その神出鬼没さに王国は混乱をしていた。だから王国はガイナル山脈中央のやや西側の広い場所に一か所になっていた。
これだけの兵が集まれば相手も攻撃して来ないだろう。
現在数を減らされて、三万程になった兵でも相手が少数だったからまだ数で勝てると思っていたのだ。
この日の昼。
ミランダは敵の本拠地を上から確認。
近くの高い山から、相手の陣を見つめた。
ウォーカー隊は山頂の反対側に置いて、姿を隠すことに成功している。
「マサムネ」
「なんだ」
「全部か?」
「集まったわ。見事な策だ。ミラ!」
「ふっ。策でも何でもないな。こんなの。相手の将が雑魚なだけだ。マサムネ。これは王国ってよ」
「ん?」
「意外と人材が少ないのかもな」
「どういうことだ」
「強い奴が限られている。ネアルは超一流。パールマン。アスターネ。エクリプス。これ位が一線級だろう」
敵に強い将が少ない。
それはネアル自身が強すぎて後進が育たたないのかもしれない。
「これに対して。あたしらは数がある」
「ん?」
「フュン。あたし。お嬢。ジーク。スクナロ。フラム。クリス。大将クラスの将に加えて、ゼファーや頭領。ザイオンやエリナ。あっちだとハルクなどの将軍クラスも強い奴が多い。だから、あたしらは負けなかったってのがあるな」
帝国は、人の力で負けなかった。
兵数の違いと、帝国の内部での協力出来ない態勢があったとしても、ここまで王国に負けなかったのは確実に人の力である。
「だからこそ、フュンの考えは間違っちゃいない。三つの家が一つとなり、真の帝国となれば・・・あたしらは勝てる。王国に反撃が出来るくらい強くなるのさ」
「そうか……なるほどな。あいつはそこまで考えていたのか」
「いいや、考えてないと思うのさ」
「考えてない?」
マサムネが首を傾げた。
「ああ、あいつはただ。自分の家族を守るためだけに頑張ってるだけだ」
「家族だと?」
「そう。お嬢やジーク。エイナルフのおっさん。そして皇帝の兄弟の親族系。あたしやサブロウたちの仲間系。頭領やシガーなどの故郷の部下系。これら全部があいつにとっての家族さ。太陽の戦士もか。あと友達もだな。ウルやマー。タイローやヒルダとかだな。あいつ。家族の範囲が広いのさ。お前もたぶん含まれてるぞ」
「俺もか!? そんなにあいつと会ってないぞ。俺は」
「知ってる。でもお前の旅の話。楽しそうに聞くだろ?」
「・・・そうだな。いつも興味津々だな。あいつ」
マサムネはサブロウ以上に風来坊で、ほとんど里にいない。
緊急連絡でやっと帰って来てくれる人物である。
そんな彼もフュンとはニ、三回会ったことがあり、その度にマサムネの経験した旅の話を楽しそうに聞いてくれるのだ。
「だろ。あれはちょいと変わってるのさ。でも不思議と悪い気分じゃないだろ」
「ああ。もちろんだ。だから俺はあいつに賭けてる。あいつなら外の世界に連れて行ってくれそうだからな」
「信じろ。マサムネ。あいつはなんかしてくれるからな。たぶんお前の夢も後押ししてくれるぞ。あいつがもっと偉くなればな。まだサナリア程度では権限が弱い。あいつの役職が足りない。エイナルフのおっさん。あれじゃ駄目だ。辺境伯以上の力をやらねえとよ」
ミランダは敵の陣を見つめて言った。
「だから、お嬢が皇帝になった時。あいつはただの皇帝の旦那にしちゃ駄目だ。あいつに強烈な権限を与えるべきなのさ。何か大きな役割をな」
「何考えている。ミラ。その顔は・・・やべえな」
「はっ・・・フュンには今までの分をもらってくれないとな。あたしらがしてきた仕事ってよ結構大変だったのさ。だからよ。割に合わんぜ。フュンがこのままの地位だとよ」
「それで、何をやる気だ? 悪代官」
「ああ、あいつが、あたしらをこき使った分な。大出世してもらわないと困る・・・なあ、シゲマサ。ザイオン。お前ら。あいつに命を賭けたんだもんな。だったら背負ってもらわないとな。いけねえよな。やっぱよ」
ミランダは空を見上げた後、不敵に笑った。
「フュン・メイダルフィア・・・あたしが育てた最高の弟子には、それに似合う役職についてもらわないとな・・・・そうだな。帝国の大元帥。これくらいがあいつにふさわしい役職じゃないのか」
「大元帥???」
「ああ、帝国初期にあった役職だ。皇帝の次の権限があってな。軍のトップだったらしいぞ」
「なんか凄そうだな」
「ああ。だからあいつにやる。大元帥フュン・メイダルフィアを、必ずあたしらで誕生させるんだ。だからとっとと、この王国を退けて、ナボルをぶっ潰して、帝国を一個にすっぞ。やるぞマサムネ。あたしらはあいつを大きくすんのよ。勝手にな」
「おう。その話。乗ったぜ。俺の夢の為にも、あいつと共に行こうか」
「ああ。いくぜ。ウォーカー隊! こいつで仕上げだ」
ミランダから漆黒の信号弾が放たれた。
合図の意味は。
『敵を皆殺しだ。野郎ども!! 全部隊でかかれ、ウォーカー隊』
である。
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私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
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カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
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幼馴染の皐月と結婚した修二は、次男という事もあり、婿養子となる。
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誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
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旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
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※カクヨムでも連載しています
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