252 / 345
第二部 辺境伯に続く物語
第251話 ミランダの野望
しおりを挟む
帝国歴524年6月25日深夜。
ガイナル山脈中央やや東寄りのウォーカー隊の陣にて。
「帰って来たか」
「おう」
マサムネが偵察から戻ってきた。
「どうだった」
「これだな。ほれ」
ミランダに見せたのは地図。
ガイナル山脈の中央地帯の詳細が書かれているものだ。
マサムネのオリジナルの地図らしい。
彼は冒険家であるので、地図が趣味である。
というよりも、必須の技術である。
どこに行こうにも地図が冒険家にとって重要なのだ。
「こことここ。そしてこっちにも。結構バラバラにいるぞ。一塊になると目立つからな」
「そうか。一応向こうも警戒していたか」
「ああ。そうみたいだ。でも俺たちほどじゃないけどな。山育ちじゃないから隠れるのが下手糞だな。一般兵よりかは上手いけどよ」
「マサムネ。数は?」
「四万だ」
マサムネは指でも教えてくれた。
指を四本立てた。
「四万!?」
「俺たちの二倍はあるわ」
「そりゃあやべえな・・・そんなに用意してるのかよ」
「ミラ。そんで驚きの所悪いが。まだルコットにも兵がいるらしいわ。許可が下り次第で、ラーゼに向かうとか言っていたぞ。兵士らがな」
「は!? まだ兵がいるのかよ」
「ああ。そうみたいだ。あいつら結構、兵を用意してたんだな」
「・・・そうか。それならここは、なんとしてでも倒さないといけないか」
ミランダが顎に手を置いて、悩みながら地図を確認する。
敵の配置は絶妙な距離感で配置された布陣。
互いの連携が取れるギリギリの範囲での休息をとっている。
なかなかできる指揮官が敵にいると思われるのだ。
「ああ。そうだ。動くタイミングとか分かるか?」
「知らん。でも、ハスラのは動かすと言っていた」
「船か」
「ああ。明日、船を使うって言ってたからな」
「わかった。あいつらたぶん挟撃をするつもりだ」
今度はミランダがもう一つ地図を広げた。
アーリア大陸中央北部の地図である。
ハスラはガイナル山脈に近い位置にある都市なので、ガイナル山脈から敵が行動を起こせば、川と山からで挟撃もたやすい。
しかしなぜそんな位置に都市があるのかというと、逆に監視もしやすいからである。
以前のシルヴィアが戦ったハスラ防衛戦争時にも、両方から攻められた経緯がある。
「どうだ。マサムネ。これだときついだろ。川での戦闘に気を取られていれば」
「そういうことか。視界が前に働いていると、裏から来られたら対応できないということか」
「そうよ。ここからゆっくり進軍して、川側の兵たちに圧力をかけながら、ハスラを取り囲める。これでハスラはだいぶキツイぜ」
敵が大規模挟撃の図を描いてきた。
このままだといくら強固なハスラでも打ち破られるのも時間の問題だった。
「それで、お前はただ黙ってやられないだろ。何を考えているんだ?」
「あたしらの得意攻撃さ」
「得意攻撃?」
「ああ。現地解散。現地集合を繰り返す。最強のゲリラ戦闘だ」
「は?」
「いいか。一回目。こことこことここ。この三つを襲撃。次にこことこことここ。こっちの三つを襲撃。タイミングはサブロウ丸でやる。あたしの合図に合わせて、三カ所を同時襲撃。それを繰り返す。しかも相手を殲滅しなくていい。一撃加えたら即離脱して、深追いはしない。ただただ嫌がらせをすんのさ」
マサムネの地図に書いてある敵の印にマークを付けていくミランダ。
倒すべき敵をどんどん西の方に追いやっていく計画である。
「なるほど・・・時間稼ぎも込みの戦術か。あの軍を川に来させない意味もあるってわけか」
「そうなのさ。でも最終的にはとっておきで、ぶっ潰す。ここを一掃したらハスラを援護だ」
「了解だ。俺も偵察を全力でしよう」
「おう。頼んだ。この戦法は情報が第一だ。マサムネにかかってるわ」
「ああ。任せとけ。やって来る」
ミランダの策を強化するために、マサムネは影となり戦場へと向かって行った。
◇
帝国歴524年6月26日未明
深夜の間にミランダは、ウォーカー隊の配置を済ませた。
敵の陣付近で息を潜めて待機する隊員たちは、影ではなくて山の中で身を隠す技術を持っている。
山育ちである彼らの得意な事である。
「よいしょと。ここらでいくぞ。皆。青の信号だ!」
無音で上がる青の信号弾。
暗闇の中に一本の青い光が登っていくと、山の至る所から声が響く。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
ウォーカー隊のゲリラ戦闘が始まった。
ミランダは高台から様子を探り、敵の動きを観察。
三か所同時攻撃は全て上手くいっているようで、敵は混乱していた。
押せば押すだけ削れる状態だったが。
ミランダはここで。
「止まれよ。お前ら。ほらよ。赤の信号だ!」
再び無音で上がる信号弾。
今度は赤である。即時攻撃中断からの撤退の信号弾で、青と赤しか皆には伝えていない。
二種しか使用しなかったのは、ウォーカー隊に複雑な色でのやり取りなど出来ないからだった。
でもそれで十分。
彼らは元々個々で考えて行動が出来る賊であるからだ。
「よし。奴らの動きがどうなるか。面白い。マサムネの報告次第だな」
ミランダは不敵に笑ってマサムネを待つ。
◇
三十分後。
影の情報をまとめたマサムネが来た。
「敵はどうだった」
「各地にいたのは八千ずつだったわ。んで、その内千ずつくらい。俺たちが倒しては引いた」
「ああ。大体狙い通りだな。そんで逃げ道は? 予想位置に逃げたか」
「そうだな。こっちの三カ所じゃなくて、ここの一か所がこっちの奥の方にいったわ」
地図の手前の陣よりも奥に逃げた隊がいたらしい。
ミランダの予想ではもう少し粘って戦ってくれると思ったのだが、ビビりすぎて奥まで逃げるとは思わなかったのである。
「そうか。でも予定の場所を攻撃しよう。警戒しているだろうが。あたしらの事は索敵できんわな。じゃあ、次に行く」
今度のミランダは紫の信号弾を放った。
これは青と同じ効果だが、第二弾に配置した兵への合図。
そうミランダの計画は、先回りで次々とゲリラ戦闘をするものだった。
だからウォーカー隊は細分化されていて、一個の部隊が三千で編成され、それが六部隊ある。
三カ所を同時攻撃している間に、他の三カ所に配置。
そちらが攻撃を開始したら、また最初の部隊をもう一度配置。
これを繰り返して、敵を大混乱に落とすというやり方だ。
色は青と赤が第一部隊。
紫とオレンジが第二部隊である。
「マサムネ。お前は影の情報収集に力を。逐一あたしに報告だ」
「おう。まかせとけ。混乱しているだろうからな。影部隊たちの偵察が楽みたいだぜ」
「そうか。ならあたしらの勝ちだな。戦場で、敵の情報を知らん奴らに勝ち目はないからな。数の違いなんて関係ねえわ」
ミランダはこの戦法に自信があった。
二万対四万の戦いでも勝利を確信している。
それに敵は自分たちの軍の規模を知らないだろう。
それくらい何処にいるか分からない移動をしている。
ウォーカー隊を細かく分けているから出来る技だ。
むしろ、ウォーカー隊は団体行動よりもこれくらいの小規模の方が得意なのである。
万で動く方が難しい軍なのだ。
この日の朝方まで続く嫌がらせ攻撃は、王国兵に疲れを呼び込んでいた。
逃げる先に必ず現れるウォーカー隊。
攻撃してはすぐに引くを繰り返してくるために、王国側が対抗しようと反撃をする頃にはもうすでにいなくなっている。
その神出鬼没さに王国は混乱をしていた。だから王国はガイナル山脈中央のやや西側の広い場所に一か所になっていた。
これだけの兵が集まれば相手も攻撃して来ないだろう。
現在数を減らされて、三万程になった兵でも相手が少数だったからまだ数で勝てると思っていたのだ。
この日の昼。
ミランダは敵の本拠地を上から確認。
近くの高い山から、相手の陣を見つめた。
ウォーカー隊は山頂の反対側に置いて、姿を隠すことに成功している。
「マサムネ」
「なんだ」
「全部か?」
「集まったわ。見事な策だ。ミラ!」
「ふっ。策でも何でもないな。こんなの。相手の将が雑魚なだけだ。マサムネ。これは王国ってよ」
「ん?」
「意外と人材が少ないのかもな」
「どういうことだ」
「強い奴が限られている。ネアルは超一流。パールマン。アスターネ。エクリプス。これ位が一線級だろう」
敵に強い将が少ない。
それはネアル自身が強すぎて後進が育たたないのかもしれない。
「これに対して。あたしらは数がある」
「ん?」
「フュン。あたし。お嬢。ジーク。スクナロ。フラム。クリス。大将クラスの将に加えて、ゼファーや頭領。ザイオンやエリナ。あっちだとハルクなどの将軍クラスも強い奴が多い。だから、あたしらは負けなかったってのがあるな」
帝国は、人の力で負けなかった。
兵数の違いと、帝国の内部での協力出来ない態勢があったとしても、ここまで王国に負けなかったのは確実に人の力である。
「だからこそ、フュンの考えは間違っちゃいない。三つの家が一つとなり、真の帝国となれば・・・あたしらは勝てる。王国に反撃が出来るくらい強くなるのさ」
「そうか……なるほどな。あいつはそこまで考えていたのか」
「いいや、考えてないと思うのさ」
「考えてない?」
マサムネが首を傾げた。
「ああ、あいつはただ。自分の家族を守るためだけに頑張ってるだけだ」
「家族だと?」
「そう。お嬢やジーク。エイナルフのおっさん。そして皇帝の兄弟の親族系。あたしやサブロウたちの仲間系。頭領やシガーなどの故郷の部下系。これら全部があいつにとっての家族さ。太陽の戦士もか。あと友達もだな。ウルやマー。タイローやヒルダとかだな。あいつ。家族の範囲が広いのさ。お前もたぶん含まれてるぞ」
「俺もか!? そんなにあいつと会ってないぞ。俺は」
「知ってる。でもお前の旅の話。楽しそうに聞くだろ?」
「・・・そうだな。いつも興味津々だな。あいつ」
マサムネはサブロウ以上に風来坊で、ほとんど里にいない。
緊急連絡でやっと帰って来てくれる人物である。
そんな彼もフュンとはニ、三回会ったことがあり、その度にマサムネの経験した旅の話を楽しそうに聞いてくれるのだ。
「だろ。あれはちょいと変わってるのさ。でも不思議と悪い気分じゃないだろ」
「ああ。もちろんだ。だから俺はあいつに賭けてる。あいつなら外の世界に連れて行ってくれそうだからな」
「信じろ。マサムネ。あいつはなんかしてくれるからな。たぶんお前の夢も後押ししてくれるぞ。あいつがもっと偉くなればな。まだサナリア程度では権限が弱い。あいつの役職が足りない。エイナルフのおっさん。あれじゃ駄目だ。辺境伯以上の力をやらねえとよ」
ミランダは敵の陣を見つめて言った。
「だから、お嬢が皇帝になった時。あいつはただの皇帝の旦那にしちゃ駄目だ。あいつに強烈な権限を与えるべきなのさ。何か大きな役割をな」
「何考えている。ミラ。その顔は・・・やべえな」
「はっ・・・フュンには今までの分をもらってくれないとな。あたしらがしてきた仕事ってよ結構大変だったのさ。だからよ。割に合わんぜ。フュンがこのままの地位だとよ」
「それで、何をやる気だ? 悪代官」
「ああ、あいつが、あたしらをこき使った分な。大出世してもらわないと困る・・・なあ、シゲマサ。ザイオン。お前ら。あいつに命を賭けたんだもんな。だったら背負ってもらわないとな。いけねえよな。やっぱよ」
ミランダは空を見上げた後、不敵に笑った。
「フュン・メイダルフィア・・・あたしが育てた最高の弟子には、それに似合う役職についてもらわないとな・・・・そうだな。帝国の大元帥。これくらいがあいつにふさわしい役職じゃないのか」
「大元帥???」
「ああ、帝国初期にあった役職だ。皇帝の次の権限があってな。軍のトップだったらしいぞ」
「なんか凄そうだな」
「ああ。だからあいつにやる。大元帥フュン・メイダルフィアを、必ずあたしらで誕生させるんだ。だからとっとと、この王国を退けて、ナボルをぶっ潰して、帝国を一個にすっぞ。やるぞマサムネ。あたしらはあいつを大きくすんのよ。勝手にな」
「おう。その話。乗ったぜ。俺の夢の為にも、あいつと共に行こうか」
「ああ。いくぜ。ウォーカー隊! こいつで仕上げだ」
ミランダから漆黒の信号弾が放たれた。
合図の意味は。
『敵を皆殺しだ。野郎ども!! 全部隊でかかれ、ウォーカー隊』
である。
ガイナル山脈中央やや東寄りのウォーカー隊の陣にて。
「帰って来たか」
「おう」
マサムネが偵察から戻ってきた。
「どうだった」
「これだな。ほれ」
ミランダに見せたのは地図。
ガイナル山脈の中央地帯の詳細が書かれているものだ。
マサムネのオリジナルの地図らしい。
彼は冒険家であるので、地図が趣味である。
というよりも、必須の技術である。
どこに行こうにも地図が冒険家にとって重要なのだ。
「こことここ。そしてこっちにも。結構バラバラにいるぞ。一塊になると目立つからな」
「そうか。一応向こうも警戒していたか」
「ああ。そうみたいだ。でも俺たちほどじゃないけどな。山育ちじゃないから隠れるのが下手糞だな。一般兵よりかは上手いけどよ」
「マサムネ。数は?」
「四万だ」
マサムネは指でも教えてくれた。
指を四本立てた。
「四万!?」
「俺たちの二倍はあるわ」
「そりゃあやべえな・・・そんなに用意してるのかよ」
「ミラ。そんで驚きの所悪いが。まだルコットにも兵がいるらしいわ。許可が下り次第で、ラーゼに向かうとか言っていたぞ。兵士らがな」
「は!? まだ兵がいるのかよ」
「ああ。そうみたいだ。あいつら結構、兵を用意してたんだな」
「・・・そうか。それならここは、なんとしてでも倒さないといけないか」
ミランダが顎に手を置いて、悩みながら地図を確認する。
敵の配置は絶妙な距離感で配置された布陣。
互いの連携が取れるギリギリの範囲での休息をとっている。
なかなかできる指揮官が敵にいると思われるのだ。
「ああ。そうだ。動くタイミングとか分かるか?」
「知らん。でも、ハスラのは動かすと言っていた」
「船か」
「ああ。明日、船を使うって言ってたからな」
「わかった。あいつらたぶん挟撃をするつもりだ」
今度はミランダがもう一つ地図を広げた。
アーリア大陸中央北部の地図である。
ハスラはガイナル山脈に近い位置にある都市なので、ガイナル山脈から敵が行動を起こせば、川と山からで挟撃もたやすい。
しかしなぜそんな位置に都市があるのかというと、逆に監視もしやすいからである。
以前のシルヴィアが戦ったハスラ防衛戦争時にも、両方から攻められた経緯がある。
「どうだ。マサムネ。これだときついだろ。川での戦闘に気を取られていれば」
「そういうことか。視界が前に働いていると、裏から来られたら対応できないということか」
「そうよ。ここからゆっくり進軍して、川側の兵たちに圧力をかけながら、ハスラを取り囲める。これでハスラはだいぶキツイぜ」
敵が大規模挟撃の図を描いてきた。
このままだといくら強固なハスラでも打ち破られるのも時間の問題だった。
「それで、お前はただ黙ってやられないだろ。何を考えているんだ?」
「あたしらの得意攻撃さ」
「得意攻撃?」
「ああ。現地解散。現地集合を繰り返す。最強のゲリラ戦闘だ」
「は?」
「いいか。一回目。こことこことここ。この三つを襲撃。次にこことこことここ。こっちの三つを襲撃。タイミングはサブロウ丸でやる。あたしの合図に合わせて、三カ所を同時襲撃。それを繰り返す。しかも相手を殲滅しなくていい。一撃加えたら即離脱して、深追いはしない。ただただ嫌がらせをすんのさ」
マサムネの地図に書いてある敵の印にマークを付けていくミランダ。
倒すべき敵をどんどん西の方に追いやっていく計画である。
「なるほど・・・時間稼ぎも込みの戦術か。あの軍を川に来させない意味もあるってわけか」
「そうなのさ。でも最終的にはとっておきで、ぶっ潰す。ここを一掃したらハスラを援護だ」
「了解だ。俺も偵察を全力でしよう」
「おう。頼んだ。この戦法は情報が第一だ。マサムネにかかってるわ」
「ああ。任せとけ。やって来る」
ミランダの策を強化するために、マサムネは影となり戦場へと向かって行った。
◇
帝国歴524年6月26日未明
深夜の間にミランダは、ウォーカー隊の配置を済ませた。
敵の陣付近で息を潜めて待機する隊員たちは、影ではなくて山の中で身を隠す技術を持っている。
山育ちである彼らの得意な事である。
「よいしょと。ここらでいくぞ。皆。青の信号だ!」
無音で上がる青の信号弾。
暗闇の中に一本の青い光が登っていくと、山の至る所から声が響く。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
ウォーカー隊のゲリラ戦闘が始まった。
ミランダは高台から様子を探り、敵の動きを観察。
三か所同時攻撃は全て上手くいっているようで、敵は混乱していた。
押せば押すだけ削れる状態だったが。
ミランダはここで。
「止まれよ。お前ら。ほらよ。赤の信号だ!」
再び無音で上がる信号弾。
今度は赤である。即時攻撃中断からの撤退の信号弾で、青と赤しか皆には伝えていない。
二種しか使用しなかったのは、ウォーカー隊に複雑な色でのやり取りなど出来ないからだった。
でもそれで十分。
彼らは元々個々で考えて行動が出来る賊であるからだ。
「よし。奴らの動きがどうなるか。面白い。マサムネの報告次第だな」
ミランダは不敵に笑ってマサムネを待つ。
◇
三十分後。
影の情報をまとめたマサムネが来た。
「敵はどうだった」
「各地にいたのは八千ずつだったわ。んで、その内千ずつくらい。俺たちが倒しては引いた」
「ああ。大体狙い通りだな。そんで逃げ道は? 予想位置に逃げたか」
「そうだな。こっちの三カ所じゃなくて、ここの一か所がこっちの奥の方にいったわ」
地図の手前の陣よりも奥に逃げた隊がいたらしい。
ミランダの予想ではもう少し粘って戦ってくれると思ったのだが、ビビりすぎて奥まで逃げるとは思わなかったのである。
「そうか。でも予定の場所を攻撃しよう。警戒しているだろうが。あたしらの事は索敵できんわな。じゃあ、次に行く」
今度のミランダは紫の信号弾を放った。
これは青と同じ効果だが、第二弾に配置した兵への合図。
そうミランダの計画は、先回りで次々とゲリラ戦闘をするものだった。
だからウォーカー隊は細分化されていて、一個の部隊が三千で編成され、それが六部隊ある。
三カ所を同時攻撃している間に、他の三カ所に配置。
そちらが攻撃を開始したら、また最初の部隊をもう一度配置。
これを繰り返して、敵を大混乱に落とすというやり方だ。
色は青と赤が第一部隊。
紫とオレンジが第二部隊である。
「マサムネ。お前は影の情報収集に力を。逐一あたしに報告だ」
「おう。まかせとけ。混乱しているだろうからな。影部隊たちの偵察が楽みたいだぜ」
「そうか。ならあたしらの勝ちだな。戦場で、敵の情報を知らん奴らに勝ち目はないからな。数の違いなんて関係ねえわ」
ミランダはこの戦法に自信があった。
二万対四万の戦いでも勝利を確信している。
それに敵は自分たちの軍の規模を知らないだろう。
それくらい何処にいるか分からない移動をしている。
ウォーカー隊を細かく分けているから出来る技だ。
むしろ、ウォーカー隊は団体行動よりもこれくらいの小規模の方が得意なのである。
万で動く方が難しい軍なのだ。
この日の朝方まで続く嫌がらせ攻撃は、王国兵に疲れを呼び込んでいた。
逃げる先に必ず現れるウォーカー隊。
攻撃してはすぐに引くを繰り返してくるために、王国側が対抗しようと反撃をする頃にはもうすでにいなくなっている。
その神出鬼没さに王国は混乱をしていた。だから王国はガイナル山脈中央のやや西側の広い場所に一か所になっていた。
これだけの兵が集まれば相手も攻撃して来ないだろう。
現在数を減らされて、三万程になった兵でも相手が少数だったからまだ数で勝てると思っていたのだ。
この日の昼。
ミランダは敵の本拠地を上から確認。
近くの高い山から、相手の陣を見つめた。
ウォーカー隊は山頂の反対側に置いて、姿を隠すことに成功している。
「マサムネ」
「なんだ」
「全部か?」
「集まったわ。見事な策だ。ミラ!」
「ふっ。策でも何でもないな。こんなの。相手の将が雑魚なだけだ。マサムネ。これは王国ってよ」
「ん?」
「意外と人材が少ないのかもな」
「どういうことだ」
「強い奴が限られている。ネアルは超一流。パールマン。アスターネ。エクリプス。これ位が一線級だろう」
敵に強い将が少ない。
それはネアル自身が強すぎて後進が育たたないのかもしれない。
「これに対して。あたしらは数がある」
「ん?」
「フュン。あたし。お嬢。ジーク。スクナロ。フラム。クリス。大将クラスの将に加えて、ゼファーや頭領。ザイオンやエリナ。あっちだとハルクなどの将軍クラスも強い奴が多い。だから、あたしらは負けなかったってのがあるな」
帝国は、人の力で負けなかった。
兵数の違いと、帝国の内部での協力出来ない態勢があったとしても、ここまで王国に負けなかったのは確実に人の力である。
「だからこそ、フュンの考えは間違っちゃいない。三つの家が一つとなり、真の帝国となれば・・・あたしらは勝てる。王国に反撃が出来るくらい強くなるのさ」
「そうか……なるほどな。あいつはそこまで考えていたのか」
「いいや、考えてないと思うのさ」
「考えてない?」
マサムネが首を傾げた。
「ああ、あいつはただ。自分の家族を守るためだけに頑張ってるだけだ」
「家族だと?」
「そう。お嬢やジーク。エイナルフのおっさん。そして皇帝の兄弟の親族系。あたしやサブロウたちの仲間系。頭領やシガーなどの故郷の部下系。これら全部があいつにとっての家族さ。太陽の戦士もか。あと友達もだな。ウルやマー。タイローやヒルダとかだな。あいつ。家族の範囲が広いのさ。お前もたぶん含まれてるぞ」
「俺もか!? そんなにあいつと会ってないぞ。俺は」
「知ってる。でもお前の旅の話。楽しそうに聞くだろ?」
「・・・そうだな。いつも興味津々だな。あいつ」
マサムネはサブロウ以上に風来坊で、ほとんど里にいない。
緊急連絡でやっと帰って来てくれる人物である。
そんな彼もフュンとはニ、三回会ったことがあり、その度にマサムネの経験した旅の話を楽しそうに聞いてくれるのだ。
「だろ。あれはちょいと変わってるのさ。でも不思議と悪い気分じゃないだろ」
「ああ。もちろんだ。だから俺はあいつに賭けてる。あいつなら外の世界に連れて行ってくれそうだからな」
「信じろ。マサムネ。あいつはなんかしてくれるからな。たぶんお前の夢も後押ししてくれるぞ。あいつがもっと偉くなればな。まだサナリア程度では権限が弱い。あいつの役職が足りない。エイナルフのおっさん。あれじゃ駄目だ。辺境伯以上の力をやらねえとよ」
ミランダは敵の陣を見つめて言った。
「だから、お嬢が皇帝になった時。あいつはただの皇帝の旦那にしちゃ駄目だ。あいつに強烈な権限を与えるべきなのさ。何か大きな役割をな」
「何考えている。ミラ。その顔は・・・やべえな」
「はっ・・・フュンには今までの分をもらってくれないとな。あたしらがしてきた仕事ってよ結構大変だったのさ。だからよ。割に合わんぜ。フュンがこのままの地位だとよ」
「それで、何をやる気だ? 悪代官」
「ああ、あいつが、あたしらをこき使った分な。大出世してもらわないと困る・・・なあ、シゲマサ。ザイオン。お前ら。あいつに命を賭けたんだもんな。だったら背負ってもらわないとな。いけねえよな。やっぱよ」
ミランダは空を見上げた後、不敵に笑った。
「フュン・メイダルフィア・・・あたしが育てた最高の弟子には、それに似合う役職についてもらわないとな・・・・そうだな。帝国の大元帥。これくらいがあいつにふさわしい役職じゃないのか」
「大元帥???」
「ああ、帝国初期にあった役職だ。皇帝の次の権限があってな。軍のトップだったらしいぞ」
「なんか凄そうだな」
「ああ。だからあいつにやる。大元帥フュン・メイダルフィアを、必ずあたしらで誕生させるんだ。だからとっとと、この王国を退けて、ナボルをぶっ潰して、帝国を一個にすっぞ。やるぞマサムネ。あたしらはあいつを大きくすんのよ。勝手にな」
「おう。その話。乗ったぜ。俺の夢の為にも、あいつと共に行こうか」
「ああ。いくぜ。ウォーカー隊! こいつで仕上げだ」
ミランダから漆黒の信号弾が放たれた。
合図の意味は。
『敵を皆殺しだ。野郎ども!! 全部隊でかかれ、ウォーカー隊』
である。
23
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる