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第二部 辺境伯に続く物語

第243話 ラーゼ防衛戦争Ⅵ 反撃の狼煙

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 限界を迎えたはずのラーゼ軍だったがフュンの声で息を吹き返した。
 彼らは、バルナガン軍と互角の戦いを繰り広げるにまで、戦意が回復。
 彼に言われた三時間の内、今は一時間が経過した。
 互角の戦況をあと二時間。
 フュンが何をしてくれるのかを知らなくても、彼らはフュンを信頼して最後の力を振り絞っていた。 

 
 ◇

 西の城門の上にて。

 「レヴィさん。シェンさん。ありがとう。勝ったのですね」
 「はい。太陽の戦士と影だけをあそこに置いて休息を取らせています」
 「良き判断です。もう来ないかもしれませんが、油断はしない方がいいでしょう」

 全滅させても、また兵を送って来られたら困る。
 レヴィは、地下道を死守するために仲間を置いてきた。

 「シェンさん。ウルさんは?」
 「ウルは、援軍を呼びに行った」
 「呼びに行った?」
 「ああ。俺たちさ。ガイナル山脈を横切ってこっちまで来たんだよ。そしたら見事にバルナガン軍に囲まれているラーゼを発見してさ。そんで、ウルがこの光景を見た瞬間にサナリア軍を呼んでくると言ってあっちに行った。帝都にな」
 「そうですか。それは助かりますが・・・それはいつですか?」
 「一日前だ」
 「・・・一日か・・・それは厳しいな。ターンしても軍の移動を考えるとなると、一週間が最速になる・・・やはりラーゼだけでバルナガン軍を退けるしかありませんかね・・・」

 フュンが悩んでいると、隣に緊急の影が現れた。

 「フュン様。サブロウからの連絡を」
 「サブロウが!? なんと?」
 「船にいる。いつだといいんだと言ってました」
 「完成したんだ。わかりました。発射できるのですか」
 「はい。今はもうあそこをご覧になってもらえると」

 影が指差した方向を見る。
 ラーゼの港から西に行った先の海であった。
 小舟が一隻。ぷかぷかと浮かんでいる。

 「あれですね……準備完了という事ですね。さすがサブロウ。言わずとも先回りしてくれました。シェンさん。連れてきた部隊の数は、幾つです?」
 「千だぞ」
 「十分だな。あとはこちらの兵も全開で下に降りればいいんだ。よし。サブロウに合図を出します。シェンさん。親衛隊を下の門に集めてください。開いたら全力で目の前の軍を倒してください。三万・・・今は二万四千くらいですかね。それらを全滅させます」
 「わかった。移動する」
 
 フュンはサブロウの方を見た。
 光の合図をする。

 「三分後。例のものを」
 『了解ぞ。発射するぞ』
 「はい。お願いします」


 ◇

 フュンがやり取りをしている頃。
 イルカルは、珍しく苛立っていた。
 西の門の前で、敵の城壁を見上げる。

 「これがラーゼだというのか・・・・太陽の人の声を聞けば・・・戦えるだと・・・人間の限界だぞ・・・三日も寝ずに戦える? ありえない」

 上の現状もだが、下の事態もおかしい。
 影の戦いで、あれほどの量を投入しても地下道を制圧出来ない。
 こちらの兵士たちよりも影の成分が強い兵士を送り出したのだ。
 なぜそれで落とせない。
 太陽の戦士は五。こちらは千以上も戦わせたというのに、そして先程トドメの総攻撃で千を更に出したのだ。 
 あれらで制圧出来ないなどありえない。
 なのにいまだに通路を確保したとの連絡が来ない。
 情報を分析してから結果を出すことが得意なイルカル。
 しかし、想像を超える結果には混乱するしかなかった。

 「・・・ん? 上の状態がおかしい」

 今まではある程度の兵士たちが上で戦えていた。
 だが、先程から、急に上で戦えなくなっていた。
 下に叩き落とされている。
 梯子も破壊の方向に向かっている。
 今までは若干誘き寄せるように登れる梯子があったというのに、全てを破壊する勢いで相手が攻勢に出てきた。

 「動きが違う・・・・ん!?」

 イルカルはこういうイレギュラーの事態に陥った際には、周りを見る癖があった。
 変わった状況がないか。
 その確認を取った時。
 間違い探しのように一か所おかしい場所に気付いた。
 戦闘開始前にはいなかった北側の海に小舟があった。
 その船上には黒光りしているものが見える。

 「なに!? 大砲だと・・・ここで持ち込んできたのかラーゼ」

 ◇

 「そんじゃ。フュン。やるぞい」

 サブロウは光で暗号を送った後。
 隣にいるマクベスに指示を出した。

 「あんた。もう少し安定する波の時ってあるかいぞ。照準がぶれるんだぞ」
 「・・・そうか。ちょっと待ってくれ。それならもう少し右に移動しよう。あそこの波が次弱い。三十秒後くらいの波の後、安定するんだ」
 「おうぞ。じゃあ、頼んだぞ」
 「まかせとけ」

 海の男にとって、ラーゼ近海など庭のようなもの。
 楽々と移動していって、船を安定させていく。
 サブロウは、最も安定している時に大砲を発射するつもりである。

 「影部隊。大砲の玉を頼んだぞ。連射に近くしたいからぞ。ここからは速度勝負だぞ」

 波が通り過ぎて、船の安定が始まった。

 「いいぞ。しばらくは安定する」
 「了解ぞ。いくぞ。影部隊! サブロウ丸・・・じゃないか。アルバ砲だぞ!」
 
 サブロウたちは連携によって大砲を連射に近い形で発射する。
 
 『ガン・・・・ど・・・・ドカーン』

 大砲が飛んでいったすぐ後に、ススを取り除き、再び装填する。
 熱に気を付けて、最初の砲弾の着弾位置を見極めてから、距離を出す。

 「次。手前だぞな。やるぞ」

 大砲を二段目を敵の左翼に落とした。
 最初の砲弾が中央。次が左翼。だから最後の砲弾を・・・

 「ラストは奥だぞ。角度は・・・これくらいぞな」

 サブロウが砲身を微調整した後、すぐに発射。
 敵の右翼に大砲が落ちた。

 「どうだぞ。すげえぞこりゃあ!」

 サブロウは自分の大砲の精度に満足した。

 「おい。サブロウとか言ったな。何したんこれ」
 「ん?」
 「真っ青だぞ。西側が!」

 マクベスは大砲が落ちた先が青い海のようになったことに驚いていた。
 モクモクと立ち上がる煙が真っ青なのだ。

 「ああ。ありゃあ。フュンが作った薬ぞ。ナボルの毒と反応する薬ぞな。そんで、あれを特製の大玉に出来たのは、ラーゼの研究施設のおかげぞ。よく四日で薬を作ってくれたぞ。あれほど大量に作るのは難しいんだぞ。ここは優秀ぞな。サナリアよりも薬学は上かもしれないぞ」
 「そ、そうなのか。わからんな。ここに住んでいるとな」
 「そんなもんだぞ。自分たちの世界にいる限り、難しいんだぞ。いいかぞ、外の世界を知ると、必然的に自分たちの良さを認識するんだぞ。まあ、悪い部分も知ることになるけどぞな。ハハハ」
 「確かにな。そんなもんだよな。ラーゼはあまり外を知らんからな。良さを知らんかも」
 「ああ。でも、今後は違うぞ」
 「ん?」
 「お前さんたちは、フュンを信頼したぞ。ということは、外を知ることになるぞな」
 「そうなのか。あの優男でか?」
 「おうぞ。あいつは優男であるけどな。そんじょそこらのお人好しじゃないぞな」
 「そうなのか」
 「そう。超がつくほど。馬鹿お人好しなのだぞ!」
 「なんだよ。結局お人好しじゃねえか」 
 「ああ。そうぞな。でも気分は悪くないぞな。フュンのそばにいるとな」
 「・・・たしかにな。あんな人。なかなかいない。太陽の人・・・俺たちがずっと待っていた人か・・・信じてもいいよな。俺たちもさ」
 「おうぞ。信じろぞな。信じて損はないぞ。それとあいつはその期待に応える。そういう男ぞな。皆が期待すればするほど、何かをするぞ。あの男はな! だから面白いのぞ!」

 サブロウとマクベスは、煙を見つめながらそんな会話をしていた。


 ◇

 真っ青な視界の中で、イルカルは慌てていた。

 「な、ん・・・だ。これは、なんだ」

 大砲が一発。
 中央付近に落ちたと同時に、爆発したのではなく煙が沸き上がった。
 モクモクと出る青い煙は横に広がっていく。その間にもう一発。左翼側に落ちる。それも同様に広がっていき、更にもう一発が右翼に落ちる。
 次々に落ちた大砲に軍全体が、浮足立つのかと、心配したイルカルだったか、そんな余裕があるのは彼のみだった。
 周りは大砲が落ちて来ることと、煙が広がっていく事。 
 その両方を気にする余裕がなかった。 
 それは何故か。

 「がはっ。・・・・ごはお」
 「ごほごほ」
 「がっ・・・く・・・苦しい」

 バタバタと兵士たちが倒れていく。
 煙を吸い込んだ兵士らが、喉を押さえて呼吸困難になり始めた。

 「なんだ。これは・・どういうことだ」

 イルカルはここで声を聴く。

 「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお」」」

 軍の声がやけに近く感じる。
 でもこれは味方の声じゃない。倒れている彼らが声を出すことはない。
 だったら、それは敵の声。でも声が近い。
 城壁からの声じゃなく、同じ立ち位置からの声ということは。
 門が開いて、敵がすぐそこにいるしか考えられないのだ。

 「なに。まさか。この煙と・・・攻撃が連動」

 イルカルが口走った後。
 後ろから声が聞こえた。

 「ええ。その通りですよ。イルカル。あなたは、情報分析が早いですね。素晴らしい。では、ナボルのイルカル。あなたは無事なので幹部でありますね。イルカル。あなたはここで沈んでもらいます。ラーゼという地でね」

 イルカルが振り向く。

 「・・・お、お前は・・フュン・メイダルフィア!?・・・」

 太陽の人フュン・メイダルフィア。
 ラーゼ防衛戦争四日目。
 ここで、ナボル幹部との初の戦闘になるのであった。
 
 
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