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第二部 辺境伯に続く物語
第237話 新たなる戦士たちの一歩
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やけに静かな都市。
周りの環境の変化に怯えるラーゼの民は、皆で集まっていても不安が消えなかった。
集まったラーゼの民は、ほぼ全部で、夜であるにもかかわらず、今の都市の状態を聞きたくて集まった人々だ。
戦争などしているつもりもなかったのに、勝手に戦争が始まろうとしていた。
突如として現れた王国の軍船が、やっといなくなったことに安堵していた所だったので、余計に不安が募ったのである。
人だかりの真ん中に、一人の男性が立つ。
「皆さん。私はタイロー・スカラです。ラーゼの国王アルゼンの兄カルゼン・スカラの子です」
ラーゼの民たちも当然両方を知っている。
特にカルゼンは、昔よく都市の見回りをしていた。
心優しい王子であったことを知っている。
「この都市は今。帝国軍に包囲されています。私たちは、敵とみなされています。ただ、それは真の意味で帝国軍の敵となったのではありません。ある組織の敵となっているのです」
ラーゼの民は、タイローの静かな語り掛けに耳を傾けた。
「私たちの国は、黄金竜が待つ人が帰って来ることを望んでいた国です。それは、この国の前身。ロベルトと呼ばれる都市があったことから始まっています。当時ガルナズン帝国にあったロベルトという都市には、黄金竜が待つ人間。太陽の人。ソルヴァンス・ロベルト・トゥーリーズという人間がいました。彼は帝国の全てを変えた人物でした。技術開発。戦闘舞踊。そして、ラーゼにもある薬学も、彼が基礎を作ってくれたのです・・・」
この後続いて、タイローは、太陽の人と、暁を待つ三頭竜と夜を彷徨う蛇の全てを民に説明した。
「私たちは太陽を待つ民なんです。黄金竜が上を向いているのは、私たちが待つ人を表していたのです・・・そして、今は、その太陽を待つ私たちが敵に狙われました。それは、私たちが彼の戦士になれるからです。私たちは太陽の戦士になれる器があるから、ナボルが狙ってきているのです。アルゼン王はすでに殺されていました。いつ死んでいたのかも知りません。ナボルが成り代わっていたのです。この国の中枢にはナボルがいました。漁港や研究施設。城中など、色んな場所に潜んでいました。私たちはナボルによって国をめちゃくちゃにされていたのです。そして今回のあの」
タイローは周りを指さす。
ぐるりと敵に一周された都市の城壁を指さしているようだ。
「バルナガン軍の中にもナボルがいます。つまり、敵はここで私たちを殺す気なのです。降伏しても駄目です。奴らは私たちを皆殺しにする気だからです。九万の軍を中に入れろという要求もただ単に入れてくれという指示じゃありませんよ。中に入れた途端に、私たちを殺すつもりであるのです。彼らの目的がそもそも私たちの命なのです。それは太陽の戦士を生まないためにです」
敵の狙いが都市の占拠ではなく、都市の全滅である。
事前に新聞記者らから聞かされた話と一致するタイローの話。
直接当事者から聞くと、納得する流れの話であった。
「だから……私たちは、戦わないといけません。勝てるかどうかもわかりません。ですが、このままであれば全員が死にます。彼らは私たちを生かす考えが最初からありませんから!」
タイローの切実な願いのような言葉に、次第に民たちは聞き入っていた。
「……だから、戦いませんか。皆さん。このまま無残に散るよりも、私たちはロベルトの民の末裔だと、誇りを持って戦いませんか。敵となるナボルにみせてやりませんか。私たちに手を出したら、いかに危険なのかを。ただやられるなんて、荒々しい気性を持つ。海の戦士でもあるラーゼにはあるまじきことじゃありませんか?」
ラーゼの港町の男たちは頷いた。俺たちが黙ってやられるのは性に合わないと。
「倒しましょう。やってみせましょう。私たちは、ここでナボルと戦うのです。一万対九万なんて、大したことありませんよ。私たちなら、敵を跳ね返せます。退けましょう。ラーゼに一歩も足を踏み込ませませんよ。私たちは、ラーゼを守るのです。戦いましょう。太陽を待つ民。ラーゼの民よ」
一瞬の静けさから、声が爆発する。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
民の戦意は上がった。ただそれだけではラーゼの覚醒には至らない。
ここで最重要の人物が現れた。
大きな声がこだまする中で、フュンが真ん中に立つ。
「皆さん。聞いてください。彼の言葉を。私たちが待っていた人です」
タイローの言葉の後、ラーゼの民は一気に静かになった。
「皆さん。僕は、サナリア辺境伯フュン・メイダルフィアです。皆さんが巻き込まれている事件を解決しようと、僕は事に当たっていました。ラーゼ王。各地に潜む敵。王国の船。それらを解決したタイローさんと共に仕事をしていましたが、今回。それらがすべて罠でした。今、周りにいるバルナガン軍による罠です。彼らの中に、ナボルがいます。彼らの大半が実は帝国じゃなく、帝国の敵です。だから僕はサナリアの辺境伯としてこれらに対抗していました・・・」
自分の現状を説明しながら、フュンは素直に言葉を並べていた。
「ですが、ここからは違います。僕は、帝国の辺境伯としても戦いますが。僕は皆さんの為にも戦います。なぜなら、僕の名前は・・・」
フュンはここで初めて宣言する。
真の名を・・・。
「フュン・ロベルト・トゥーリーズだからです」
ざわめくラーゼの民たちは、先程聞かされたラーゼの民が待つ人間が目の前にいる事で驚いていた。
「僕は、あなたたちと共に! 同じ太陽を見る者です。ですから、僕はラーゼの為に、ラーゼにいる民たちの為に。そしてラーゼの事を想うタイローさんの友人として。僕はバルナガン軍と戦います。皆さん、僕と共に、同じ太陽を見ましょうよ。あの海から出る太陽をです!」
僕と共に日の出を一緒に見よう。
想いのある言葉から、フュンが大きく息を吸い込んだ。
吐き出すとともに迫力のある声が響く。
「ラーゼの民よ。ここで僕の話を聞いてほしい。この国のなり立ち。ソルヴァンス。ロベルト。この関係を忘れてほしい。太陽の人。太陽の戦士。僕の帰りを待つ事。それら全てを一度忘れてほしい」
なぜ?
聞かされた話を否定されて、民たちは戸惑った。
「僕がここに帰ってきた理由は太陽の人だからじゃない。僕はラーゼを守るため。ラーゼを愛しているタイローさんを救うため。そして母を助けようとしたカルゼンさんへ恩を返すため。そしてあなたたちが苦しむのを見過ごせないから帰って来たんだ。決して、僕が太陽の人だからの義務感なんかじゃない。僕は僕の意思であなたたちともに、ラーゼを守りたいのです。僕は過去じゃなく未来の為に、あなたたちと前へ進みたいのです」
フュンの言葉が不思議と心の中に入ってくる。
「ラーゼの民の皆さん。全員で明日の朝日を一緒に見ましょう。古き習慣を捨て。ロベルトの民から解放され、新しい王を迎えて、新しい民となりましょうよ。あなたたちは、ラーゼの民だ! ロベルトの民の思いを継いではいるが、ラーゼの民なんだ。過去に囚われることはない。今を生きるのです。自分たちの意志の元で、本当の意味での新たな国家となるのですよ。本当のラーゼ王国としての一歩を歩むんです」
今までの不安な目が消えて民たちの目に光が宿った。
戦う意思が芽生え始める。
「皆さん。ここからは、僕らで新しい思いを作っていきましょう。ここを大切な場所として、新しい国家となりましょうよ。そのために、タイローさんが新たな王になってくれます。それで僕もここを支援します。新たな国家となるラーゼ。それを辺境伯である僕が助けます。だから、ここをナボルなんかに、バルナガン軍なんかに滅ぼされたくない。あんな奴らにここを消されてたまるか! あなたたちは大切な思いを持ち続けてくれた人々なんだ。国旗にまでその思いを託してくれた民なんだ。でも、ここからは、新たな思いで戦う!」
フュンは拳を掲げて、宣言する。
「ラーゼ王国の新たな王タイローと。その友である帝国の辺境伯フュンが。ラーゼの民を支えて、守ってみせる。僕らは、友情と親愛の結束の力で、この困難を乗り越える・・・戦うぞ! 強きラーゼの民たちよ! 生まれ変わるぞ。新しいラーゼの民へと! 目覚めよ、新たなる戦士たち!」
「「「だあああああああああああああああああああ」」」
兵士はもちろん、大臣らも、国の要職につく者も、一般人すらも。
皆が声を上げ続けた。
ラーゼに住まう皆が、深夜にもかかわらず熱狂に包まれたのだ。
こうして、フュンの言葉で、新たな戦士は生まれたのだ。
バルナガン軍は、戦う意思を持ったラーゼの民の声を聞いた。
ナボルは、眠れる獅子たちを呼び起こしてしまったのだ。
太陽の戦士ではなく、別の戦士となったラーゼの戦士。
ラーゼの獅子たち。
彼らの底知れぬ強さを思い知ることになる。
アーリア大陸にラーゼの戦士ありと・・・。
周りの環境の変化に怯えるラーゼの民は、皆で集まっていても不安が消えなかった。
集まったラーゼの民は、ほぼ全部で、夜であるにもかかわらず、今の都市の状態を聞きたくて集まった人々だ。
戦争などしているつもりもなかったのに、勝手に戦争が始まろうとしていた。
突如として現れた王国の軍船が、やっといなくなったことに安堵していた所だったので、余計に不安が募ったのである。
人だかりの真ん中に、一人の男性が立つ。
「皆さん。私はタイロー・スカラです。ラーゼの国王アルゼンの兄カルゼン・スカラの子です」
ラーゼの民たちも当然両方を知っている。
特にカルゼンは、昔よく都市の見回りをしていた。
心優しい王子であったことを知っている。
「この都市は今。帝国軍に包囲されています。私たちは、敵とみなされています。ただ、それは真の意味で帝国軍の敵となったのではありません。ある組織の敵となっているのです」
ラーゼの民は、タイローの静かな語り掛けに耳を傾けた。
「私たちの国は、黄金竜が待つ人が帰って来ることを望んでいた国です。それは、この国の前身。ロベルトと呼ばれる都市があったことから始まっています。当時ガルナズン帝国にあったロベルトという都市には、黄金竜が待つ人間。太陽の人。ソルヴァンス・ロベルト・トゥーリーズという人間がいました。彼は帝国の全てを変えた人物でした。技術開発。戦闘舞踊。そして、ラーゼにもある薬学も、彼が基礎を作ってくれたのです・・・」
この後続いて、タイローは、太陽の人と、暁を待つ三頭竜と夜を彷徨う蛇の全てを民に説明した。
「私たちは太陽を待つ民なんです。黄金竜が上を向いているのは、私たちが待つ人を表していたのです・・・そして、今は、その太陽を待つ私たちが敵に狙われました。それは、私たちが彼の戦士になれるからです。私たちは太陽の戦士になれる器があるから、ナボルが狙ってきているのです。アルゼン王はすでに殺されていました。いつ死んでいたのかも知りません。ナボルが成り代わっていたのです。この国の中枢にはナボルがいました。漁港や研究施設。城中など、色んな場所に潜んでいました。私たちはナボルによって国をめちゃくちゃにされていたのです。そして今回のあの」
タイローは周りを指さす。
ぐるりと敵に一周された都市の城壁を指さしているようだ。
「バルナガン軍の中にもナボルがいます。つまり、敵はここで私たちを殺す気なのです。降伏しても駄目です。奴らは私たちを皆殺しにする気だからです。九万の軍を中に入れろという要求もただ単に入れてくれという指示じゃありませんよ。中に入れた途端に、私たちを殺すつもりであるのです。彼らの目的がそもそも私たちの命なのです。それは太陽の戦士を生まないためにです」
敵の狙いが都市の占拠ではなく、都市の全滅である。
事前に新聞記者らから聞かされた話と一致するタイローの話。
直接当事者から聞くと、納得する流れの話であった。
「だから……私たちは、戦わないといけません。勝てるかどうかもわかりません。ですが、このままであれば全員が死にます。彼らは私たちを生かす考えが最初からありませんから!」
タイローの切実な願いのような言葉に、次第に民たちは聞き入っていた。
「……だから、戦いませんか。皆さん。このまま無残に散るよりも、私たちはロベルトの民の末裔だと、誇りを持って戦いませんか。敵となるナボルにみせてやりませんか。私たちに手を出したら、いかに危険なのかを。ただやられるなんて、荒々しい気性を持つ。海の戦士でもあるラーゼにはあるまじきことじゃありませんか?」
ラーゼの港町の男たちは頷いた。俺たちが黙ってやられるのは性に合わないと。
「倒しましょう。やってみせましょう。私たちは、ここでナボルと戦うのです。一万対九万なんて、大したことありませんよ。私たちなら、敵を跳ね返せます。退けましょう。ラーゼに一歩も足を踏み込ませませんよ。私たちは、ラーゼを守るのです。戦いましょう。太陽を待つ民。ラーゼの民よ」
一瞬の静けさから、声が爆発する。
「「「おおおおおおおおおおお」」」
民の戦意は上がった。ただそれだけではラーゼの覚醒には至らない。
ここで最重要の人物が現れた。
大きな声がこだまする中で、フュンが真ん中に立つ。
「皆さん。聞いてください。彼の言葉を。私たちが待っていた人です」
タイローの言葉の後、ラーゼの民は一気に静かになった。
「皆さん。僕は、サナリア辺境伯フュン・メイダルフィアです。皆さんが巻き込まれている事件を解決しようと、僕は事に当たっていました。ラーゼ王。各地に潜む敵。王国の船。それらを解決したタイローさんと共に仕事をしていましたが、今回。それらがすべて罠でした。今、周りにいるバルナガン軍による罠です。彼らの中に、ナボルがいます。彼らの大半が実は帝国じゃなく、帝国の敵です。だから僕はサナリアの辺境伯としてこれらに対抗していました・・・」
自分の現状を説明しながら、フュンは素直に言葉を並べていた。
「ですが、ここからは違います。僕は、帝国の辺境伯としても戦いますが。僕は皆さんの為にも戦います。なぜなら、僕の名前は・・・」
フュンはここで初めて宣言する。
真の名を・・・。
「フュン・ロベルト・トゥーリーズだからです」
ざわめくラーゼの民たちは、先程聞かされたラーゼの民が待つ人間が目の前にいる事で驚いていた。
「僕は、あなたたちと共に! 同じ太陽を見る者です。ですから、僕はラーゼの為に、ラーゼにいる民たちの為に。そしてラーゼの事を想うタイローさんの友人として。僕はバルナガン軍と戦います。皆さん、僕と共に、同じ太陽を見ましょうよ。あの海から出る太陽をです!」
僕と共に日の出を一緒に見よう。
想いのある言葉から、フュンが大きく息を吸い込んだ。
吐き出すとともに迫力のある声が響く。
「ラーゼの民よ。ここで僕の話を聞いてほしい。この国のなり立ち。ソルヴァンス。ロベルト。この関係を忘れてほしい。太陽の人。太陽の戦士。僕の帰りを待つ事。それら全てを一度忘れてほしい」
なぜ?
聞かされた話を否定されて、民たちは戸惑った。
「僕がここに帰ってきた理由は太陽の人だからじゃない。僕はラーゼを守るため。ラーゼを愛しているタイローさんを救うため。そして母を助けようとしたカルゼンさんへ恩を返すため。そしてあなたたちが苦しむのを見過ごせないから帰って来たんだ。決して、僕が太陽の人だからの義務感なんかじゃない。僕は僕の意思であなたたちともに、ラーゼを守りたいのです。僕は過去じゃなく未来の為に、あなたたちと前へ進みたいのです」
フュンの言葉が不思議と心の中に入ってくる。
「ラーゼの民の皆さん。全員で明日の朝日を一緒に見ましょう。古き習慣を捨て。ロベルトの民から解放され、新しい王を迎えて、新しい民となりましょうよ。あなたたちは、ラーゼの民だ! ロベルトの民の思いを継いではいるが、ラーゼの民なんだ。過去に囚われることはない。今を生きるのです。自分たちの意志の元で、本当の意味での新たな国家となるのですよ。本当のラーゼ王国としての一歩を歩むんです」
今までの不安な目が消えて民たちの目に光が宿った。
戦う意思が芽生え始める。
「皆さん。ここからは、僕らで新しい思いを作っていきましょう。ここを大切な場所として、新しい国家となりましょうよ。そのために、タイローさんが新たな王になってくれます。それで僕もここを支援します。新たな国家となるラーゼ。それを辺境伯である僕が助けます。だから、ここをナボルなんかに、バルナガン軍なんかに滅ぼされたくない。あんな奴らにここを消されてたまるか! あなたたちは大切な思いを持ち続けてくれた人々なんだ。国旗にまでその思いを託してくれた民なんだ。でも、ここからは、新たな思いで戦う!」
フュンは拳を掲げて、宣言する。
「ラーゼ王国の新たな王タイローと。その友である帝国の辺境伯フュンが。ラーゼの民を支えて、守ってみせる。僕らは、友情と親愛の結束の力で、この困難を乗り越える・・・戦うぞ! 強きラーゼの民たちよ! 生まれ変わるぞ。新しいラーゼの民へと! 目覚めよ、新たなる戦士たち!」
「「「だあああああああああああああああああああ」」」
兵士はもちろん、大臣らも、国の要職につく者も、一般人すらも。
皆が声を上げ続けた。
ラーゼに住まう皆が、深夜にもかかわらず熱狂に包まれたのだ。
こうして、フュンの言葉で、新たな戦士は生まれたのだ。
バルナガン軍は、戦う意思を持ったラーゼの民の声を聞いた。
ナボルは、眠れる獅子たちを呼び起こしてしまったのだ。
太陽の戦士ではなく、別の戦士となったラーゼの戦士。
ラーゼの獅子たち。
彼らの底知れぬ強さを思い知ることになる。
アーリア大陸にラーゼの戦士ありと・・・。
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