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第二部 辺境伯に続く物語
第225話 光の導き手
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「壁ですね」
フュンは行き止まりになっている壁を見て、触って、頭が急に回転し始めた。
瞬時にあることを思いつく。
それは、レヴィらが得た情報と、目の前の自分たちの状況が、点と点で繋がり、線となったからだった。
「少しここから下がりましょう。話し合いをします」
フュンと、サブロウ。
レヴィと太陽の戦士四人は、行き止まりの壁よりも離れた位置で会話になった。
「では、今。僕らの状況がどうなっているか。わかりますか。レヴィさん」
サブロウはこの事態に気づいているだろうから。
フュンは、レヴィから聞いていくことにした。
「はい? 状況ですか? 敵地潜入ですよね」
「はい、レヴィさんは、ここが敵アジトだと思います?」
「・・・状況的にはそうかと思います。上に影がいましたし」
壁の向こう側。
地上は小さな建物をナボルが周りを固めている。
状況的には敵施設と言える。
「ん。状況はそうですね。では、ハル。あなたは?」
「・・・わ・・・・かりません。ごめんなさい」
わかる雰囲気を出したかった太陽の戦士の女性ハルは、ごまかしたかったけど無理であった。
出来るわよアピールをしたい見栄っ張りな女性である。
「正直がよろしい。では、リッカ。君は?」
「僕ですか………んんんんんんんんんんんんんん」
リッカは悩みだすと『ん』しか言えない。
悩みがちボーイなのだ。
「そうですね。では、ここは答えて頂きたい。ナッシュ。君はどうかな」
「俺は・・・そうですね。ママリーとレヴィさんが、音の変化に気付いた場所が、ここですからね。敵施設だと思いたい所ですが。俺は変だと思うのです」
「何が変ですか」
「そうですね。例えば、ここが敵のアジトだったらですよ。あれだけの数で外を警戒しない方がいいと思うんです」
「ほうほう」
フュンはこの事態の中身を分かっているが、あえて答えを言わない。
ナッシュが、結果を出すように誘導を始めていた。
話の中にヒントを混ぜて、答えを導いていく。
「ここがナボルのアジトだぞって、皆に報告しているようなものですからね。なんか変です」
「ふむふむ。それで、君がナボルで、ここがアジトだとしたらですよ。兵をどこに配置するかな。君だったらですよ」
「俺だったらですか。そうですね、俺なら入口に一人だけ置いて、玄関の壁や天井の方に影を配置します。だから、今の逆をすると思うんですよ。俺だったら建物の外に出ているナボルを中に入れますよ」
「その通りだ。正しいよ。うんうん」
フュンの言葉に嬉しそうなナッシュが話を続ける。
「だから・・・俺はここが、アジトというよりも、誰かを見張る場所じゃないかと思います。最初から誰かを中に入れないための警備。誰かを外に出さないための警備。それは牢屋に近いのかもしれません」
「はいはい。合ってます。正しいです」
フュンは深く頷いて、ナッシュを応援した。
「本当ですか。フュン様」
「ええ。正しい予測です。では、この通路は何のためかわかりますか?」
「え? この通路ですか」
「そうです。あなたがここが牢屋に近いと感じた。これは良き思考で、良い感覚ですよ。ですが、ここが牢屋だとしたら、なぜ外と繋がる道があると思いますか?」
フュンの質問でハッと気づいたナッシュは、嬉しそうに話し出す。
「・・・・そうか! 外と繋がる道なんて一か所でいいのに、ガイナル山脈から繋がる道がここにあるなんて・・・中に捕まっている人を助けるために作った道。ナボル以外が作った道。そういうことですね。フュン様」
「その通り。だから、この先にいるのは、タイローさんかカルゼンさんです。または両方だ。奴らは彼らの動きを縛りたいんだと思います。だからこんなところに閉じ込めているんだと思います」
フュンは、この中にいるのがどちらか、またはどちらもであると、この通路を歩いている頃から予想していたのだ。
山からの通路。
どれくらいの距離を掘ったか分からない。
この長距離の通路は、時間にして数年を要する事業だ。
執念深い作業を成しえるのは、並大抵の精神じゃない。
努力もしないといけない。
これはナボル如きの結束力では、こんな事は出来ないとフュンは踏んでいるのだ。
「この執念。そしてこのしっかりとした土の壁ですよ。かなり頑張った結果だ。そして、この裏側は普通の壁になっている。でも音がこちらの方に抜けているから、この通路をレヴィさんとママリーが見抜きました。おそらく向こうの壁と、こちらの土の壁に隙間がありますね。ピッチリと閉まっているわけじゃないんですね」
フュンはレヴィとママリーを見つめた。
二人は耳が良い。でもこれから先は耳だけではこの土の壁を突破できない。
だからフュンは。
「ナッシュ。この壁の突破方法が分かりますか」
「突破方法ですか」
「ええ。そうです。反対側が壁であって。こちら側が何ともない土の壁に見える。でも風は漏れています。でも、その風は土の壁全体から噴き出てます。こうなると、あなただったら何で判断をしますか」
「音は駄目・・目は土の壁。触感だって土だしな・・・そうか・・鼻ですね」
「そうです。そして君は、鼻が一番いい。なので、匂いを嗅いでみてください。それも、壁際で集中してですよ。やってみてください」
フュンはナッシュを壁に誘導した。
ナッシュは、匂いを嗅ぐ。
しかし土しか感じない。色んな場所を嗅いでも土のにおいしか感じなかった。
「だ、駄目みたいです・・・俺には」
「大丈夫。ナッシュ。目を閉じて、集中して、鼻に意識を・・僕は信じてますよ」
「はい」
フュンの言われたとおりにすると、徐々に匂いが複数出てきた。
土のにおいや、中から漏れる風の匂いや、仲間以外の人の匂いを感じ始めた。
そして、内側の匂いの中で一番強い匂いを発している部分が分かり始める。
「ナッシュ。基本を大切にしなさい」
「レヴィさん?」
「太陽の戦士の基本です」
「は、はい」
太陽の戦士の基本。
それは、太陽の人を想うである。
その人から信じられている。その人を信じたい。
この気持ちから太陽の戦士たちは、力を発揮するのだ。
そして、おそらくだがフュンは太陽の人の歴代の中でも最も人のつながりを大切にする人間。
だから、彼を信じれば、彼から信じてもらえれば、通常よりも力を発揮しやすいはずなのだ。
「これだ。これです。たぶん。この岩だ。こことここを封じるためにただ挟めているだけの岩です」
僅かに浮いた岩をどかす。
すると取っ掛かりがあった。
「これは、ドアだ。横にスライドさせる奴ですね。引くタイプじゃない」
「よくやりましたね。ナッシュ。君は決してできない子じゃありませんよ。立派な太陽の戦士なんです。自信を持っていきましょう。それに僕は常に頼りにしてますよ。ナッシュ。自信が無くなったら僕に言ってください。君は絶対に出来る子ですからって。いつでもそう言ってあげますからね」
「は、はい。フュン様。ありがとうございます」
ナッシュは成功体験を得て、一つ自信がついたのであった。
人を褒めて伸ばす。
それがフュンの基本の指導方法。
だが、褒めてばかりでは、人は成長しない。
慰めてばかりでも成長しない。
だからフュンは、彼に自信という種を植え付けたのだ。
確固たる自信が自分の心の中心に無ければ、いくら褒めても無駄に終わる。
褒め言葉など、成長の為の水にもならない。
過分な水となり根が腐ってしまう。
こんな俺じゃ駄目なんだ。だから慰められるんだ。
なんて、考えにナッシュが至ってしまうかもしれない。
だからフュンはここでナッシュの今後の為に指導をした。
人の心に敏感で、自分が出来ない側の人間だったから、フュンはその時に適した指導が出来た。
彼がいるおかげで太陽の戦士たちは、通常の兵士よりも遥かに強いのである。
そして、だからこそ戦士たちは、彼の事をとても信頼しているのであった。
この結びつきは、アーリア大陸の主従関係にはないだろう。
絆。
一言で表してしまえば簡単だが、この思いは勝手に千切れたりしない。
どんな敵が相手であろうとも、こちらを邪魔しにこようともこの絆を打ち破ることはできないのである。
◇
「ではですね。突入したいのですが。もし戦闘になった際に高速戦闘が出来るのが、レヴィさんとサブロウしかいませんので、お二人が先頭です。そして、この中で一番戦闘が上手いのはママリーとリッカなので二人で後ろです。いいですね」
皆が頷いた。
「では僕の左が、ナッシュ。僕の右がハルです。この隊列でいきますよ。ではレヴィさんお願いします」
「わかりました。いきます」
レヴィが土の壁を開くと、レヴィとサブロウが同時に潜入する。
続いてフュンが中に入ったあたりで、レヴィが話し出した。
「これは!? ただの部屋・・・あ」
四角い何もない部屋にドアが一つ。
牢屋でもない。ただの普通の場所であった。
そして、そこの部屋の端にいたのが。
「カルゼン!?」
「・・ん、あなたは・・・誰でしょう」
「カルゼン。あなたは・・・」
レヴィが、目の焦点が合っていない男性に近づいた。
「カルゼン。私です。レヴィです」
レヴィがカルゼンの手を握る。
「レヴィ!? レヴィさんですか。あのソフィア様の。すみません。お顔を近づけてもらえませんか。目が見えにくいのです」
「そ、それは・・・はい。こうなってます。歳を取りました・・お恥ずかしい」
「ええ。みえます・・・いやいや、レヴィさんは今も変わらずお美しいですよ」
レヴィの顔を見て、カルゼンは微笑んだ。
昔と変わらない笑顔にレヴィは涙を流していた。
「それにしても、なぜあなたが・・・こんなところに?」
「それは、こちらの方をお連れしたのです。あなたの希望です。ラーゼの希望です」
「・・・え。どなたでしょう。私の希望ですか。タイロー以外に・・・」
「はい。その方も希望です。ですがこちらも希望なのです」
レヴィは、フュンを手で呼んだ。
フュンは、カルゼンの手を握り、顔を近づけて話す。
「カルゼン殿。僕は、フュン・メイダルフィアです」
「フュン・・・メイダルフィア・・・どなたでしょう・・」
「ええ。僕は、ソフィア・ロベルト・トゥーリーズの息子。フュン・ロベルト・トゥーリーズです。カルゼン殿、長い間おまたせしました。あなたの為に、あなたの大切な者のために、太陽の人は帰ってきましたよ。ええ、カルゼン殿」
「な!?・・・・な・・それは・・・ほ・・・本当ですか」
ラーゼに必要な太陽は、今ここに帰って来たのだった。
フュン・メイダルフィア。
彼がここに戻ってきたことによって、ラーゼの失われた時が動き出す。
運命の戦士たちの卵は、彼の帰りを待っていたのだ。
フュンは行き止まりになっている壁を見て、触って、頭が急に回転し始めた。
瞬時にあることを思いつく。
それは、レヴィらが得た情報と、目の前の自分たちの状況が、点と点で繋がり、線となったからだった。
「少しここから下がりましょう。話し合いをします」
フュンと、サブロウ。
レヴィと太陽の戦士四人は、行き止まりの壁よりも離れた位置で会話になった。
「では、今。僕らの状況がどうなっているか。わかりますか。レヴィさん」
サブロウはこの事態に気づいているだろうから。
フュンは、レヴィから聞いていくことにした。
「はい? 状況ですか? 敵地潜入ですよね」
「はい、レヴィさんは、ここが敵アジトだと思います?」
「・・・状況的にはそうかと思います。上に影がいましたし」
壁の向こう側。
地上は小さな建物をナボルが周りを固めている。
状況的には敵施設と言える。
「ん。状況はそうですね。では、ハル。あなたは?」
「・・・わ・・・・かりません。ごめんなさい」
わかる雰囲気を出したかった太陽の戦士の女性ハルは、ごまかしたかったけど無理であった。
出来るわよアピールをしたい見栄っ張りな女性である。
「正直がよろしい。では、リッカ。君は?」
「僕ですか………んんんんんんんんんんんんんん」
リッカは悩みだすと『ん』しか言えない。
悩みがちボーイなのだ。
「そうですね。では、ここは答えて頂きたい。ナッシュ。君はどうかな」
「俺は・・・そうですね。ママリーとレヴィさんが、音の変化に気付いた場所が、ここですからね。敵施設だと思いたい所ですが。俺は変だと思うのです」
「何が変ですか」
「そうですね。例えば、ここが敵のアジトだったらですよ。あれだけの数で外を警戒しない方がいいと思うんです」
「ほうほう」
フュンはこの事態の中身を分かっているが、あえて答えを言わない。
ナッシュが、結果を出すように誘導を始めていた。
話の中にヒントを混ぜて、答えを導いていく。
「ここがナボルのアジトだぞって、皆に報告しているようなものですからね。なんか変です」
「ふむふむ。それで、君がナボルで、ここがアジトだとしたらですよ。兵をどこに配置するかな。君だったらですよ」
「俺だったらですか。そうですね、俺なら入口に一人だけ置いて、玄関の壁や天井の方に影を配置します。だから、今の逆をすると思うんですよ。俺だったら建物の外に出ているナボルを中に入れますよ」
「その通りだ。正しいよ。うんうん」
フュンの言葉に嬉しそうなナッシュが話を続ける。
「だから・・・俺はここが、アジトというよりも、誰かを見張る場所じゃないかと思います。最初から誰かを中に入れないための警備。誰かを外に出さないための警備。それは牢屋に近いのかもしれません」
「はいはい。合ってます。正しいです」
フュンは深く頷いて、ナッシュを応援した。
「本当ですか。フュン様」
「ええ。正しい予測です。では、この通路は何のためかわかりますか?」
「え? この通路ですか」
「そうです。あなたがここが牢屋に近いと感じた。これは良き思考で、良い感覚ですよ。ですが、ここが牢屋だとしたら、なぜ外と繋がる道があると思いますか?」
フュンの質問でハッと気づいたナッシュは、嬉しそうに話し出す。
「・・・・そうか! 外と繋がる道なんて一か所でいいのに、ガイナル山脈から繋がる道がここにあるなんて・・・中に捕まっている人を助けるために作った道。ナボル以外が作った道。そういうことですね。フュン様」
「その通り。だから、この先にいるのは、タイローさんかカルゼンさんです。または両方だ。奴らは彼らの動きを縛りたいんだと思います。だからこんなところに閉じ込めているんだと思います」
フュンは、この中にいるのがどちらか、またはどちらもであると、この通路を歩いている頃から予想していたのだ。
山からの通路。
どれくらいの距離を掘ったか分からない。
この長距離の通路は、時間にして数年を要する事業だ。
執念深い作業を成しえるのは、並大抵の精神じゃない。
努力もしないといけない。
これはナボル如きの結束力では、こんな事は出来ないとフュンは踏んでいるのだ。
「この執念。そしてこのしっかりとした土の壁ですよ。かなり頑張った結果だ。そして、この裏側は普通の壁になっている。でも音がこちらの方に抜けているから、この通路をレヴィさんとママリーが見抜きました。おそらく向こうの壁と、こちらの土の壁に隙間がありますね。ピッチリと閉まっているわけじゃないんですね」
フュンはレヴィとママリーを見つめた。
二人は耳が良い。でもこれから先は耳だけではこの土の壁を突破できない。
だからフュンは。
「ナッシュ。この壁の突破方法が分かりますか」
「突破方法ですか」
「ええ。そうです。反対側が壁であって。こちら側が何ともない土の壁に見える。でも風は漏れています。でも、その風は土の壁全体から噴き出てます。こうなると、あなただったら何で判断をしますか」
「音は駄目・・目は土の壁。触感だって土だしな・・・そうか・・鼻ですね」
「そうです。そして君は、鼻が一番いい。なので、匂いを嗅いでみてください。それも、壁際で集中してですよ。やってみてください」
フュンはナッシュを壁に誘導した。
ナッシュは、匂いを嗅ぐ。
しかし土しか感じない。色んな場所を嗅いでも土のにおいしか感じなかった。
「だ、駄目みたいです・・・俺には」
「大丈夫。ナッシュ。目を閉じて、集中して、鼻に意識を・・僕は信じてますよ」
「はい」
フュンの言われたとおりにすると、徐々に匂いが複数出てきた。
土のにおいや、中から漏れる風の匂いや、仲間以外の人の匂いを感じ始めた。
そして、内側の匂いの中で一番強い匂いを発している部分が分かり始める。
「ナッシュ。基本を大切にしなさい」
「レヴィさん?」
「太陽の戦士の基本です」
「は、はい」
太陽の戦士の基本。
それは、太陽の人を想うである。
その人から信じられている。その人を信じたい。
この気持ちから太陽の戦士たちは、力を発揮するのだ。
そして、おそらくだがフュンは太陽の人の歴代の中でも最も人のつながりを大切にする人間。
だから、彼を信じれば、彼から信じてもらえれば、通常よりも力を発揮しやすいはずなのだ。
「これだ。これです。たぶん。この岩だ。こことここを封じるためにただ挟めているだけの岩です」
僅かに浮いた岩をどかす。
すると取っ掛かりがあった。
「これは、ドアだ。横にスライドさせる奴ですね。引くタイプじゃない」
「よくやりましたね。ナッシュ。君は決してできない子じゃありませんよ。立派な太陽の戦士なんです。自信を持っていきましょう。それに僕は常に頼りにしてますよ。ナッシュ。自信が無くなったら僕に言ってください。君は絶対に出来る子ですからって。いつでもそう言ってあげますからね」
「は、はい。フュン様。ありがとうございます」
ナッシュは成功体験を得て、一つ自信がついたのであった。
人を褒めて伸ばす。
それがフュンの基本の指導方法。
だが、褒めてばかりでは、人は成長しない。
慰めてばかりでも成長しない。
だからフュンは、彼に自信という種を植え付けたのだ。
確固たる自信が自分の心の中心に無ければ、いくら褒めても無駄に終わる。
褒め言葉など、成長の為の水にもならない。
過分な水となり根が腐ってしまう。
こんな俺じゃ駄目なんだ。だから慰められるんだ。
なんて、考えにナッシュが至ってしまうかもしれない。
だからフュンはここでナッシュの今後の為に指導をした。
人の心に敏感で、自分が出来ない側の人間だったから、フュンはその時に適した指導が出来た。
彼がいるおかげで太陽の戦士たちは、通常の兵士よりも遥かに強いのである。
そして、だからこそ戦士たちは、彼の事をとても信頼しているのであった。
この結びつきは、アーリア大陸の主従関係にはないだろう。
絆。
一言で表してしまえば簡単だが、この思いは勝手に千切れたりしない。
どんな敵が相手であろうとも、こちらを邪魔しにこようともこの絆を打ち破ることはできないのである。
◇
「ではですね。突入したいのですが。もし戦闘になった際に高速戦闘が出来るのが、レヴィさんとサブロウしかいませんので、お二人が先頭です。そして、この中で一番戦闘が上手いのはママリーとリッカなので二人で後ろです。いいですね」
皆が頷いた。
「では僕の左が、ナッシュ。僕の右がハルです。この隊列でいきますよ。ではレヴィさんお願いします」
「わかりました。いきます」
レヴィが土の壁を開くと、レヴィとサブロウが同時に潜入する。
続いてフュンが中に入ったあたりで、レヴィが話し出した。
「これは!? ただの部屋・・・あ」
四角い何もない部屋にドアが一つ。
牢屋でもない。ただの普通の場所であった。
そして、そこの部屋の端にいたのが。
「カルゼン!?」
「・・ん、あなたは・・・誰でしょう」
「カルゼン。あなたは・・・」
レヴィが、目の焦点が合っていない男性に近づいた。
「カルゼン。私です。レヴィです」
レヴィがカルゼンの手を握る。
「レヴィ!? レヴィさんですか。あのソフィア様の。すみません。お顔を近づけてもらえませんか。目が見えにくいのです」
「そ、それは・・・はい。こうなってます。歳を取りました・・お恥ずかしい」
「ええ。みえます・・・いやいや、レヴィさんは今も変わらずお美しいですよ」
レヴィの顔を見て、カルゼンは微笑んだ。
昔と変わらない笑顔にレヴィは涙を流していた。
「それにしても、なぜあなたが・・・こんなところに?」
「それは、こちらの方をお連れしたのです。あなたの希望です。ラーゼの希望です」
「・・・え。どなたでしょう。私の希望ですか。タイロー以外に・・・」
「はい。その方も希望です。ですがこちらも希望なのです」
レヴィは、フュンを手で呼んだ。
フュンは、カルゼンの手を握り、顔を近づけて話す。
「カルゼン殿。僕は、フュン・メイダルフィアです」
「フュン・・・メイダルフィア・・・どなたでしょう・・」
「ええ。僕は、ソフィア・ロベルト・トゥーリーズの息子。フュン・ロベルト・トゥーリーズです。カルゼン殿、長い間おまたせしました。あなたの為に、あなたの大切な者のために、太陽の人は帰ってきましたよ。ええ、カルゼン殿」
「な!?・・・・な・・それは・・・ほ・・・本当ですか」
ラーゼに必要な太陽は、今ここに帰って来たのだった。
フュン・メイダルフィア。
彼がここに戻ってきたことによって、ラーゼの失われた時が動き出す。
運命の戦士たちの卵は、彼の帰りを待っていたのだ。
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