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第二部 辺境伯に続く物語
第219話 話し合いの前の決定事項
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帝国歴 524年6月16日。
会談前の玉座の間。
ここにいるのは皇帝。
それとフュン、ミランダ、サブロウ、ヒルダのマールダ野戦の当事者たちと。
皇帝陛下と共に帝都を運営している大臣クラスが数名である。
現在の両軍の状況は、両軍ともに本陣待機となっている。
シンドラ軍が本陣から一歩でも動けば、サナリア軍が攻撃を開始すると宣言している状態だ。
主のいないサナリア軍を指揮しているのが、主の代理であるシガー。
それを支えるのが、フィアーナであり、馬を管理しているのがパースとなっている。
フュンがいなくとも、彼らがいるのでしっかり相手の軍の見張りをしながら、自分たちの軍を管理している。
そして、今回シンドラ側はというと。
シンドラ王と大将軍アステルが、侍従四名とシャルランと共に帝都にいる。
彼らは現在。
控室での待機をしている段階だ。
だからシンドラ軍が勝手に動くことはない。
王も大将軍もいなければ、大軍を動かせるような将軍が軍の中にいないからだ。
◇
シンドラの王たちが来る前。
「婿殿。そこまでやる気なのか」
「はい! シンドラの王から宣言させます」
「…そ、そうか」
「シンドラ解体の言葉を引き出します」
「なに? 本人からか」
「ええ。王には自ら玉座を降りてもらい。その席の代わりを用意させるのではなく、新たにこちらから席を作る。それで適任がいます。今回、ヒルダさんは功績を挙げました」
「功績?」
「はい。彼女がシンドラ軍を倒したのです。これは僕の功績ではありません。それに僕は帝国軍の皇帝陛下の代わりに戦っています。なので功績を言われるのであれば陛下にあります。その下で彼女が大活躍したのです。なので、彼女の地位に影響してもよいでしょう……ね!」
フュンの狙いに気付いたのはエイナルフだけだった。
彼の顔を見たら、瞬間的に判断が出来た。
自分の活躍全てをヒルダに押し付ける気なのだ。
『こんな人間何処にいる。この男、無欲にも程がある』
エイナルフとしては、フュンがヒルダの為に戦っているの知っているので、理解している。
それも仕方ないかと人として納得している部分もあるが、皇帝としては苦笑いをするしかなかった。
いくら何でもトンデモ理論だろうと……。
「あの檄。あれは彼女にしか出来ない。素晴らしいものです。それに呼応した我が軍は、ただの友軍なのであります。あくまでも友軍なのです。だからあれは彼女が起こした戦いであります。サナリア軍は彼女のお手伝いをしたに過ぎないのです。だから、シンドラを倒した功績は、サナリアにあるのではなく、ヒルダ姫にあるのですよ。ね! 陛下」
「フュ、フュン様……そ、それはさすがに無茶な言い分では……」
陛下とフュンの会話に、勇気を持って入ったヒルダだったが、フュンが手をかざす。
あなたは黙っていてくれと、言われたみたいに感じて、ヒルダは下を向いた。
「陛下。彼女の功績なのです。ということはです・・・」
「ふっ・・・婿殿、もう全部言わずとも分かっている。そういうことだな」
呆れた顔に、諦めた声。
エイナルフは頭を抱えているけど、笑っていた。
どこまで言ってもお人好しを止める術がない。
「ええ。そうです」
二人だけ分かって、皆は首を傾げていた。
「彼女には、辺境伯になってもらいます。シンドラもまた皇帝陛下直属の領土となりましょう。あそこは彼女が中心となり、新たな領土となればいいのです。あの軍は解体してですね。半分くらいの兵士をですね。こちらで管理しましょう。身辺調査してからですがね。これで帝都の兵力の増強にも繋がります」
「・・・・婿殿。余は、そこまでは考えてなかったわ。ハハハハ。ヒルダ姫の辺境伯だけかと」
「ええ。僕も最初そういう風に考えていたんですが、相手の兵力が想定以上に残ったので、こちらに編入させればいいかもと思ったのです。帝都もそろそろ兵数を増強してもいい。五万くらいの兵力を保有しても十分というか。帝都の規模からしたら少ない位です」
「たしかにな・・・そうすれば前線にも兵数を出せそうだ」
「そうです。いずれここからも戦いに出るのです。帝国は真の意味で一つとならねばなりません。ここからは真の帝国になり、イーナミアとの決戦に備えなければなりません」
フュンの真剣な目に、皇帝は頷いた。
守るためだけじゃなく、相手を攻める為にも兵力が必要。
王国との決戦に備えるためにも、帝都の補強は、選択肢としては正しいのである。
「わかった。その提案を受け入れよう。だが、その前に、聞かねばならん。これは信頼関係が無くては出来ない」
陛下は、フュンに隣に立て促して、彼がいた先で下を向いていたヒルダを見た。
緊張している彼女に向かって、優しい眼差しを向けて、スッとしたよく通る声で話しかけた。
「では聞こう。ヒルダ姫」
「はい。陛下」
陛下が話しかけてきたので、ヒルダは顔を上げる。
「そなたは辺境伯になる意思があるか」
「そ・・・それは・・正直な話、どちらとも言えません。この私に務まるような役職なのかどうかもわかりません。それに私には、その役職に似合う実力があるとは思えません。申し訳ありません」
「……うむ、まあ正直だ。そうだな。余としてはそれだけで、そなたを信じられる。正直だ」
そうヒルダとは正直なのだ。
フュンが出会った時から、思ったことを口に出すタイプの人間であった。
「では、シンドラはどうなった方が良い。このままだと消滅となるぞ。誰も支配者がいなくなる」
「そ、それは困ります。私の故郷でして・・・」
「そうだ。だから、そなたは故郷の為に辺境伯になるという考えを持てないか」
「故郷の為に・・・ですか」
「そうだ。そなたが辺境伯となれば、余は何も言わない。シンドラは、帝国に忠誠を誓ってくれる限り自由である。ヒルダ姫。このサナリア辺境伯フュン・メイダルフィアの自由っぷりをそばで見ただろう。これほど、自由に生活しても良いのだ。そなたもこの婿殿と同じになるだけだ」
「あれ? 陛下、僕はそんなに自由ですか」
「ああ。自由にさせておろう。なあ。皆のものよ」
陛下が皆の方に顔を向けると、全員が頷いた。
特にミランダとサブロウは、首が取れるくらいに頷いている。
「ほらな。婿殿。これは余が正しいようだぞ。余の勝ちだ! ガハハハ」
「んんん。皆さんも僕を分かっていませんね。自由ばかりじゃありませんよ~。大変なんですよ。もう。う~~~~ん」
プンと言いそうなフュンは、少し不満に思った。
「まあ、この話が本題じゃなくてだな。ヒルダ姫。これくらい自由なのだ。辺境伯となればな。だからそなたもなってみないか。もし、そなたが困ることがあれば、余からも支援するし、婿殿からも・・まあ、こんなことわざわざ言わなくてもどうせこの婿殿ならば、勝手にそなたを助けに行くぞ。だから安心して、辺境伯になってみないか」
ヒルダは、優しく語り掛けてくれる皇帝陛下と、その隣にいるフュンを見てから答えた。
「・・・わかりました。このヒルダ・シンドラ。辺境伯になります。私はシンドラの為に、ガルナズン帝国に忠誠を誓います」
ヒルダは跪いてから、深く頭を下げる。
「陛下。このご恩を必ずお返しします。私は生涯を帝国の為に生きます。変わらぬ忠誠を誓います」
「うむ。だが、そんなに肩肘張らなくてもよいぞ。この婿殿を見よ。これくらいでちょうどよい」
「そ、そうですか。私も・・・さすがにそれは・・・」
ヒルダは顔を上げる。
するとフュンが皇帝の方に顔を向けて、膨れっ面をしていた。
「ああ。陛下! 酷いじゃありませんか。僕だって忠誠を誓ってますよ。僕を信じてないんですか?」
「フフフ。信じておる。婿殿安心せい。余は、この帝国の中でそなたを一に信頼しておるわ」
「本当ですかぁ。なんだか怪しいなぁ。さっきから、僕を疑ってばかりで」
「ハハハ。悪かった。悪かった。ついな。婿殿の反応が良いから、からかいたくなるのだよ」
「まったく。ジーク様にそっくりですね」
「違うぞ。婿殿」
皇帝から笑顔が消えて、真剣な顔でフュンの言葉を否定した。
「え?」
「ジークが、余に似ておるのだ!」
皇帝が再び笑顔に戻って答えた。
「あ、そっか。父上ですもんね。ごめんなさい陛下。ハハハハ」
それは自分が良くないと思ったフュンもまた笑顔になっていた。
義父と婿殿なのだが、仲良し親子もいたものなのだ。
それと、この二人を見ていたら、一生懸命になって緊張していたのが馬鹿らしくなったヒルダがそばにいた。
なんだか肩の力が抜けてきて、クスッと笑えた。
でも、この先はこの人たちの為に生きて、恩を返していこうと誓って、黙って二人に頭を下げたのであった。
この二人は、この先も自分をないがしろにしないだろう。
その確信がヒルダの中にあったのだ。
こうして、シンドラとの話し合いの前に、ヒルダの辺境伯就任が決定したのだった。
会談前の玉座の間。
ここにいるのは皇帝。
それとフュン、ミランダ、サブロウ、ヒルダのマールダ野戦の当事者たちと。
皇帝陛下と共に帝都を運営している大臣クラスが数名である。
現在の両軍の状況は、両軍ともに本陣待機となっている。
シンドラ軍が本陣から一歩でも動けば、サナリア軍が攻撃を開始すると宣言している状態だ。
主のいないサナリア軍を指揮しているのが、主の代理であるシガー。
それを支えるのが、フィアーナであり、馬を管理しているのがパースとなっている。
フュンがいなくとも、彼らがいるのでしっかり相手の軍の見張りをしながら、自分たちの軍を管理している。
そして、今回シンドラ側はというと。
シンドラ王と大将軍アステルが、侍従四名とシャルランと共に帝都にいる。
彼らは現在。
控室での待機をしている段階だ。
だからシンドラ軍が勝手に動くことはない。
王も大将軍もいなければ、大軍を動かせるような将軍が軍の中にいないからだ。
◇
シンドラの王たちが来る前。
「婿殿。そこまでやる気なのか」
「はい! シンドラの王から宣言させます」
「…そ、そうか」
「シンドラ解体の言葉を引き出します」
「なに? 本人からか」
「ええ。王には自ら玉座を降りてもらい。その席の代わりを用意させるのではなく、新たにこちらから席を作る。それで適任がいます。今回、ヒルダさんは功績を挙げました」
「功績?」
「はい。彼女がシンドラ軍を倒したのです。これは僕の功績ではありません。それに僕は帝国軍の皇帝陛下の代わりに戦っています。なので功績を言われるのであれば陛下にあります。その下で彼女が大活躍したのです。なので、彼女の地位に影響してもよいでしょう……ね!」
フュンの狙いに気付いたのはエイナルフだけだった。
彼の顔を見たら、瞬間的に判断が出来た。
自分の活躍全てをヒルダに押し付ける気なのだ。
『こんな人間何処にいる。この男、無欲にも程がある』
エイナルフとしては、フュンがヒルダの為に戦っているの知っているので、理解している。
それも仕方ないかと人として納得している部分もあるが、皇帝としては苦笑いをするしかなかった。
いくら何でもトンデモ理論だろうと……。
「あの檄。あれは彼女にしか出来ない。素晴らしいものです。それに呼応した我が軍は、ただの友軍なのであります。あくまでも友軍なのです。だからあれは彼女が起こした戦いであります。サナリア軍は彼女のお手伝いをしたに過ぎないのです。だから、シンドラを倒した功績は、サナリアにあるのではなく、ヒルダ姫にあるのですよ。ね! 陛下」
「フュ、フュン様……そ、それはさすがに無茶な言い分では……」
陛下とフュンの会話に、勇気を持って入ったヒルダだったが、フュンが手をかざす。
あなたは黙っていてくれと、言われたみたいに感じて、ヒルダは下を向いた。
「陛下。彼女の功績なのです。ということはです・・・」
「ふっ・・・婿殿、もう全部言わずとも分かっている。そういうことだな」
呆れた顔に、諦めた声。
エイナルフは頭を抱えているけど、笑っていた。
どこまで言ってもお人好しを止める術がない。
「ええ。そうです」
二人だけ分かって、皆は首を傾げていた。
「彼女には、辺境伯になってもらいます。シンドラもまた皇帝陛下直属の領土となりましょう。あそこは彼女が中心となり、新たな領土となればいいのです。あの軍は解体してですね。半分くらいの兵士をですね。こちらで管理しましょう。身辺調査してからですがね。これで帝都の兵力の増強にも繋がります」
「・・・・婿殿。余は、そこまでは考えてなかったわ。ハハハハ。ヒルダ姫の辺境伯だけかと」
「ええ。僕も最初そういう風に考えていたんですが、相手の兵力が想定以上に残ったので、こちらに編入させればいいかもと思ったのです。帝都もそろそろ兵数を増強してもいい。五万くらいの兵力を保有しても十分というか。帝都の規模からしたら少ない位です」
「たしかにな・・・そうすれば前線にも兵数を出せそうだ」
「そうです。いずれここからも戦いに出るのです。帝国は真の意味で一つとならねばなりません。ここからは真の帝国になり、イーナミアとの決戦に備えなければなりません」
フュンの真剣な目に、皇帝は頷いた。
守るためだけじゃなく、相手を攻める為にも兵力が必要。
王国との決戦に備えるためにも、帝都の補強は、選択肢としては正しいのである。
「わかった。その提案を受け入れよう。だが、その前に、聞かねばならん。これは信頼関係が無くては出来ない」
陛下は、フュンに隣に立て促して、彼がいた先で下を向いていたヒルダを見た。
緊張している彼女に向かって、優しい眼差しを向けて、スッとしたよく通る声で話しかけた。
「では聞こう。ヒルダ姫」
「はい。陛下」
陛下が話しかけてきたので、ヒルダは顔を上げる。
「そなたは辺境伯になる意思があるか」
「そ・・・それは・・正直な話、どちらとも言えません。この私に務まるような役職なのかどうかもわかりません。それに私には、その役職に似合う実力があるとは思えません。申し訳ありません」
「……うむ、まあ正直だ。そうだな。余としてはそれだけで、そなたを信じられる。正直だ」
そうヒルダとは正直なのだ。
フュンが出会った時から、思ったことを口に出すタイプの人間であった。
「では、シンドラはどうなった方が良い。このままだと消滅となるぞ。誰も支配者がいなくなる」
「そ、それは困ります。私の故郷でして・・・」
「そうだ。だから、そなたは故郷の為に辺境伯になるという考えを持てないか」
「故郷の為に・・・ですか」
「そうだ。そなたが辺境伯となれば、余は何も言わない。シンドラは、帝国に忠誠を誓ってくれる限り自由である。ヒルダ姫。このサナリア辺境伯フュン・メイダルフィアの自由っぷりをそばで見ただろう。これほど、自由に生活しても良いのだ。そなたもこの婿殿と同じになるだけだ」
「あれ? 陛下、僕はそんなに自由ですか」
「ああ。自由にさせておろう。なあ。皆のものよ」
陛下が皆の方に顔を向けると、全員が頷いた。
特にミランダとサブロウは、首が取れるくらいに頷いている。
「ほらな。婿殿。これは余が正しいようだぞ。余の勝ちだ! ガハハハ」
「んんん。皆さんも僕を分かっていませんね。自由ばかりじゃありませんよ~。大変なんですよ。もう。う~~~~ん」
プンと言いそうなフュンは、少し不満に思った。
「まあ、この話が本題じゃなくてだな。ヒルダ姫。これくらい自由なのだ。辺境伯となればな。だからそなたもなってみないか。もし、そなたが困ることがあれば、余からも支援するし、婿殿からも・・まあ、こんなことわざわざ言わなくてもどうせこの婿殿ならば、勝手にそなたを助けに行くぞ。だから安心して、辺境伯になってみないか」
ヒルダは、優しく語り掛けてくれる皇帝陛下と、その隣にいるフュンを見てから答えた。
「・・・わかりました。このヒルダ・シンドラ。辺境伯になります。私はシンドラの為に、ガルナズン帝国に忠誠を誓います」
ヒルダは跪いてから、深く頭を下げる。
「陛下。このご恩を必ずお返しします。私は生涯を帝国の為に生きます。変わらぬ忠誠を誓います」
「うむ。だが、そんなに肩肘張らなくてもよいぞ。この婿殿を見よ。これくらいでちょうどよい」
「そ、そうですか。私も・・・さすがにそれは・・・」
ヒルダは顔を上げる。
するとフュンが皇帝の方に顔を向けて、膨れっ面をしていた。
「ああ。陛下! 酷いじゃありませんか。僕だって忠誠を誓ってますよ。僕を信じてないんですか?」
「フフフ。信じておる。婿殿安心せい。余は、この帝国の中でそなたを一に信頼しておるわ」
「本当ですかぁ。なんだか怪しいなぁ。さっきから、僕を疑ってばかりで」
「ハハハ。悪かった。悪かった。ついな。婿殿の反応が良いから、からかいたくなるのだよ」
「まったく。ジーク様にそっくりですね」
「違うぞ。婿殿」
皇帝から笑顔が消えて、真剣な顔でフュンの言葉を否定した。
「え?」
「ジークが、余に似ておるのだ!」
皇帝が再び笑顔に戻って答えた。
「あ、そっか。父上ですもんね。ごめんなさい陛下。ハハハハ」
それは自分が良くないと思ったフュンもまた笑顔になっていた。
義父と婿殿なのだが、仲良し親子もいたものなのだ。
それと、この二人を見ていたら、一生懸命になって緊張していたのが馬鹿らしくなったヒルダがそばにいた。
なんだか肩の力が抜けてきて、クスッと笑えた。
でも、この先はこの人たちの為に生きて、恩を返していこうと誓って、黙って二人に頭を下げたのであった。
この二人は、この先も自分をないがしろにしないだろう。
その確信がヒルダの中にあったのだ。
こうして、シンドラとの話し合いの前に、ヒルダの辺境伯就任が決定したのだった。
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