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第二部 辺境伯に続く物語
第201話 違和感だらけの停戦
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ダーレー軍が右の戦場を支配して、パールマン軍が壊滅一歩手前の頃。
アージス平原南の戦場。左翼ターク軍の戦いの場面。
ターク軍の戦いは、11日目の最初。
想定外の敵の攻勢に苦しんでいた。
しかし、そこから徐々に立て直しを図るべく、相手の攻撃を分析していったことで、状況打破に成功していた。
これはスクナロとその部下というよりも、ナタリアとレイエフのサナリア組二人の活躍によるところが大きい。
二人と協力したスクナロは、結果として時間がかかったものの、現在は軍を勝利へと導いている所であった。
あとは押し込んでいき、もう少し時間をかければ、上手く相手を処理できるのだ。
エクリプス軍が四万。ターク軍が三万の戦いは。
エクリプス軍の二万が消えて、ターク軍の方が数に余裕が出ていた。
「もう勝てるか・・・」
「油断はできないですぞ。スクナロ様」
「ん。そうだな。レイエフ。お前の言う通りだ」
スクナロは忠告を素直に受け取った。
「待ってください。右をみてください! 右から軍が少数来ます」
ナタリアの声に、ターク軍の幹部が反応する。
全員が右を見ると、現れたのは隣の戦場のネアル軍だった。
少数であるので一瞬ネアル軍とは思わなかった。
「両軍停止せよ。貴様らの総大将。フラムを確保している。停止せねば、こ奴を殺すぞ」
ネアルの声が戦場に響くと、両軍の足が止まった。
「なに。フラムが捕まっただと!?」
「そのようです」
望遠鏡で敵軍を覗くナタリアが、ネアルの隣にいるフラムの顔を確認。
彼女がなぜ、ドルフィン家の総大将であるフラムの顔を知るのかを、ここでは誰も疑問に思わなかった。
それほど周りの皆には、衝撃的な出来事であった。
総大将が確保される前代未聞の事件。
皆が同時に冷や汗をかいていた。
「ちっ。どうするべきか・・・奴の狙いは」
スクナロにも敵の狙いが分からない。
両軍を停止させた意味を読み取れなかった。
最重要人物が捕虜となる。
戦い的にはこちらの停止命令だけでもいいのに、ネアルは自軍であるエクリプス軍も停止させたのだ。
「……なんでしょうか。英雄の考えは・・・」
「次の発言が重要ですね」
レイエフとナタリアは、二人で相談に入った。
敵の狙いを分析するには状況である。
だがもう一つ重要なのは発言でもある。
だから二人はネアルの発言に注意していた。
「こちらの戦場は停止せよ。こ奴を殺されたくなかったらな。我々のエクリプスの軍も停止するので、スクナロ・ターク。攻撃を中止せよ」
「どういうことだ。俺たちはすでに勝っている。お前に命令されることはない」
「・・・いいのか。スクナロ。フラムが死ぬぞ」
「フラムも、その覚悟はある」
「そうか・・・でも答えを待つ。停止を受け入れてくれたら後でこいつを返す。相談せよ。十分待とう」
ネアルは答えを待つと言った。
◇
ネアルの場面。
スクナロに話しかけ終わったネアルは、縄で縛ったフラムと話していた。
「お前の言う通りだな。攻撃を停止するつもりがないようだ」
「そうだ。スクナロ様は一個人の感情では動かん。それに私だって死んでもいいと思っている。それを汲んでくれるのだ。彼こそ本来は総大将であってもいい御方だ」
この男も将である。
自分が死んでも構わない。
ただ軍全体が負けることは許さないとする姿勢を評価し、ネアルは敵として尊敬した。
「そうだな。どう出るのだろうか」
「・・・そりゃ・・・攻撃に出るんじゃないのか。スクナロは」
「ヒスバーン。お前はそう思うのか」
「まあな・・・・9割はそうだ。でも残りの1割は、仲間の意見かな」
「そうか。まあ、待つしかないな……しかし、停戦してくれないとなると、軍をこちらに持って来るしかないか」
ネアルはそんな会話をヒスバーンとしていた。
◇
スクナロの場面。
レイエフとナタリアが分析した結果を言う。
「あれは、停止命令でしたね」
ナタリアが言った後、すぐに頷いたスクナロ。
「そうだな」
「・・・敵はこちらの軍の維持をしたい。戦列を維持したいと思っているということでしょうか・・・では敵の狙いはなんでしょうか・・・」
話していたレイエフが止まり始める。
「レイエフどうした。話が止まっているぞ」
「いえ。そういうことですか」
レイエフは、話の途中で影からの報告を受けた。
中央軍の壊滅。それと右翼軍の勝利の情報を得て。
さらに、ネアル軍がまだ自分の左翼軍の状況を分かっていない事の報告も受けた。
彼が状況を分かっていない理由は、ネアル軍の偵察兵が、ダーレー軍の戦場を把握できずにいるのである。
それはサナリア組の影の力によって、戦場間にある林を通っていくネアル軍の伝令兵全てを抹殺していたのだ。
それも右翼軍が、敵を壊滅させる時の伝令兵だけである。
なので、ネアルは自分の左翼軍が壊滅していることを知らないのだ。
という事は取るべき手段はこれであるとレイエフは思った。
「ここは奴らの話に乗り、停止しましょう」
「なに、今なら奴の中央軍本隊が、こちらに来る前にエクリプスを倒せばいいだろう」
「ええ。そうです。ですが停止しましょう」
レイエフの助言は停止であった。
無理に攻める必要がないとの判断だった。
「そうですわ。ここは一旦停止して、再開するまで兵の回復を優先しましょう。体力と怪我の回復をした方がよろしいと思います」
「どういうことだ。お前たちだけ、何を言って?」
影の報告を同じように聞いたナタリアも同じ助言をした。
彼女に続いてレイエフが話す。
「ここは、任せましょう」
「任せるだと。誰に?」
「ダーレー軍にです。彼らがこの戦場をなんとかします。だから我々は兵を回復させましょう。兵の疲れをどこの軍よりも早く取るのです。あちらの軍よりも我々の方が本陣に近いですから、最速で休憩出来ます。戦い詰めの11日間。我が軍は、一番に次の戦闘に備えるのです」
「・・・それがいいのだな。それがお前たちの分析の結果なのだな。レイエフ」
「はい。スクナロ様」
スクナロは、レイエフの瞳をジッと見つめた。
信じてほしい。信頼して欲しい。
この意見は間違っていない。これこそが正しい道のりである。
そんな風に感じたスクナロは決断した。
「わかった。停止させよう。回復させる。ハルク。兵の回復方法を任せる」
「わかりました。殿下。お任せを」
スクナロの答えは兵を引くになる。
皆の意見を十分に参考にして最後に決断したのである。
ネアルが待つと言った予定の時間前。
「ネアルよ」
スクナロは大声で答えを返した。
「我々は停止する。そちらも停止せよ。本陣まで下がってくれたら、こちらも下がる」
答えを聞いたネアルは、嬉しそうに笑い、スクナロに伝える。
「了承した。エクリプス軍。下がれ。本陣で待機だ」
指示が通ると素直にエクリプス軍が下がっていく。
軍全体が後ろを向いたので、スクナロたちは前を向いて後退した。
両軍が自陣まで下がると、エクリプス軍の方が先に武装を外したので、スクナロ軍も武装解除した。
「再開も知らせる。その間、こちらからは勝手に攻撃せん。それを信じてほしい」
「了承した。この俺、スクナロ・タークも勝手には攻撃せん。再開の際は、そちらに通告する」
「わかった。再開する時はこ奴を解放しよう。ではまただ」
ネアルは潔いスクナロに満足していた。
中々面白い男だと笑いながら中央に戻る。
その道中。
ネアルは頭の中で、どうやって相手の右翼軍を壊滅させるかを考えていた。
この時のネアルはダーレー軍を破壊することを決めていたのだ。
右翼の停戦はそのための布石。
右翼の劣勢を知るネアルは右翼の温存を図り、左翼で決着をつけて終わりにしようと考えていたのだ。
こちら側の両軍を一旦停止させてしまえば、あとは右翼の事は考えずに、パールマン軍との協力で、ダーレー軍に大規模挟撃を仕掛けることを考えていたのである。
そうなれば、この戦争は圧勝劇で終わる。
そうなれば・・・である。
しかし、考えだけでは事態は解決できない。
今現在の状態は彼の頭の中とは違う現状である。
そしてここからが、今回の戦争の山場。
勝利を確信していたネアルが、漆黒の男の考えに度肝を抜かれることになるのだ。
◇
ネアルが中央に戻ると、自分の中央軍が武器を構えて左を向いていた。
「なんだこれは?」
「知らん・・・意味ない事を・・・」
不思議そうな顔の二人が中央本陣に到着すると、ブルーが慌てていた。
「王子。それが・・・」
アスターネが経緯を説明すると、ネアルが驚いた。
「停止して欲しいだと」
「はい。隣の戦場から・・・敵の少数の部隊が来て・・・パールマン軍が壊滅だと」
「なに!? 嘘だろう。あの二人が負けるわけがない。現に攻勢に出たと報告が・・・」
「ええ。先ほどはそうでしたが。今は、こちらの本陣から迂回させて情報を得ています。どうやら、現在こちらの林を通すと、伝令兵が敵に斬られているようです。なので、後ろから回り込ませました」
「そ、それはいい。正しい指示だが・・・本当なのか」
「わかりません。ですが、わざわざそんなことを敵が言うのでしょうか」
二人が慌てていると。
「・・・そうだな。ほとんどが本当の事だろうな・・・たぶん」
ヒスバーンだけが相手の意見が正しいと思っていた。
「奴らは俺たちがしたいことを分かっているんだ。先回りされたか」
「どういうことだ。ヒスバーン」
「こちらの偵察兵が無効化された。それは左の戦場の状況を分からせないための行動だ。つまり、あちらの諜報偵察部隊の方が上だぞ。強さよりも、その隠密具合……相当な偵察部隊がいるとみていい。ということは、こちらは情報を知らんが、あちらは完璧に情報を掴んでいる」
ヒスバーンの予想は当たっていた。
クリスは、カゲロイへの最後の指令の後に、影部隊に敵伝令兵の抹殺命令を出していた。
林を通ってくる伝令兵だけを殺せ。それ以外は無視でいい。
この命令の効果が今のネアルの焦りに繋がっている。
「そうだとしたら俺たちの中央軍の圧倒的勝利も知っていて。そしてだ。俺がダーレー軍の軍師ならば・・・」
「ん。軍師ならば? どうした。ヒスバーン?」
ヒスバーンは途中で話すのを止めて、何かを思いついた。
頭の中にある考えが急に浮かんできたらしい。
「なるほどな・・・俺が軍師ならばな。捕虜交換をする」
「なに!? どういうことだ」
地面の小石を見つめているヒスバーンは、軽く笑った。
相手の考えが自分たちの考えを一時でも上回っている。
強敵の登場にヒスバーンも嬉しくなったのだ。
「ああ、たぶん。奴らは交換するつもりだ。このフラムと、アスターネとパールマンをな」
「・・・ど、どういうことだ。二人とか」
「ああ。そうだ。お前。あの二人を見捨てて、こいつを殺せるか」
ヒスバーンは、フラムを指さした。
「なに・・・いや、それはやれと言われれば出来る」
「いや、出来ないな。お前は結構、情がある。それにあの二人を失う損失も考えるタイプだ」
「・・・ま、まあな」
「そうなると、この男と交換に出るしかないんだ。そこまで考えている奴は、これすらも視野に入れながら、パールマン軍を壊滅させたのだと思うぞ。中央軍での俺たちの攻勢は止められない。中央の勝利は確実に俺たちのもの。だったら自分たちは、パールマン軍を壊滅させればいい。俺たちの左翼軍を消せば、条件は一緒。ってことだぞ。こいつは凄い思考だ。とんでもない奴がいるぞ。あの林の向こうにな」
ヒスバーンとネアルは、向こうにいるであろう敵を見た。
「まあ、でもパールマンらは生きているのが確実。奴らの目的がフラムとなっているんだ。あいつらは生きていると見ていい。だから停止しろって、こっちに言って来てんだよ。話し合うためにな」
「・・・なるほどな。そうなると次は」
「そうだ。こちらが了承したら、会談場所を指定してくるはずだ。それでどちらの本陣にするのか、又は中立地帯でするかによって。俺は・・・・敵の器を見るわ。面白い。相当な切れ者が敵の中にいるようだ」
「・・・・・」
ネアルとヒスバーンはここで気付いたのだ。
捕虜交換を仕掛けられていたことに・・・。
本当の勝負は11日目を越えた。
12日目の夜。
両軍の会談であった。
未来の英雄の戦略が、この戦争の勝負の分かれ目であったのだ。
戦いではない所で敵を封じ込める策を発動させていたのである。
アージス平原南の戦場。左翼ターク軍の戦いの場面。
ターク軍の戦いは、11日目の最初。
想定外の敵の攻勢に苦しんでいた。
しかし、そこから徐々に立て直しを図るべく、相手の攻撃を分析していったことで、状況打破に成功していた。
これはスクナロとその部下というよりも、ナタリアとレイエフのサナリア組二人の活躍によるところが大きい。
二人と協力したスクナロは、結果として時間がかかったものの、現在は軍を勝利へと導いている所であった。
あとは押し込んでいき、もう少し時間をかければ、上手く相手を処理できるのだ。
エクリプス軍が四万。ターク軍が三万の戦いは。
エクリプス軍の二万が消えて、ターク軍の方が数に余裕が出ていた。
「もう勝てるか・・・」
「油断はできないですぞ。スクナロ様」
「ん。そうだな。レイエフ。お前の言う通りだ」
スクナロは忠告を素直に受け取った。
「待ってください。右をみてください! 右から軍が少数来ます」
ナタリアの声に、ターク軍の幹部が反応する。
全員が右を見ると、現れたのは隣の戦場のネアル軍だった。
少数であるので一瞬ネアル軍とは思わなかった。
「両軍停止せよ。貴様らの総大将。フラムを確保している。停止せねば、こ奴を殺すぞ」
ネアルの声が戦場に響くと、両軍の足が止まった。
「なに。フラムが捕まっただと!?」
「そのようです」
望遠鏡で敵軍を覗くナタリアが、ネアルの隣にいるフラムの顔を確認。
彼女がなぜ、ドルフィン家の総大将であるフラムの顔を知るのかを、ここでは誰も疑問に思わなかった。
それほど周りの皆には、衝撃的な出来事であった。
総大将が確保される前代未聞の事件。
皆が同時に冷や汗をかいていた。
「ちっ。どうするべきか・・・奴の狙いは」
スクナロにも敵の狙いが分からない。
両軍を停止させた意味を読み取れなかった。
最重要人物が捕虜となる。
戦い的にはこちらの停止命令だけでもいいのに、ネアルは自軍であるエクリプス軍も停止させたのだ。
「……なんでしょうか。英雄の考えは・・・」
「次の発言が重要ですね」
レイエフとナタリアは、二人で相談に入った。
敵の狙いを分析するには状況である。
だがもう一つ重要なのは発言でもある。
だから二人はネアルの発言に注意していた。
「こちらの戦場は停止せよ。こ奴を殺されたくなかったらな。我々のエクリプスの軍も停止するので、スクナロ・ターク。攻撃を中止せよ」
「どういうことだ。俺たちはすでに勝っている。お前に命令されることはない」
「・・・いいのか。スクナロ。フラムが死ぬぞ」
「フラムも、その覚悟はある」
「そうか・・・でも答えを待つ。停止を受け入れてくれたら後でこいつを返す。相談せよ。十分待とう」
ネアルは答えを待つと言った。
◇
ネアルの場面。
スクナロに話しかけ終わったネアルは、縄で縛ったフラムと話していた。
「お前の言う通りだな。攻撃を停止するつもりがないようだ」
「そうだ。スクナロ様は一個人の感情では動かん。それに私だって死んでもいいと思っている。それを汲んでくれるのだ。彼こそ本来は総大将であってもいい御方だ」
この男も将である。
自分が死んでも構わない。
ただ軍全体が負けることは許さないとする姿勢を評価し、ネアルは敵として尊敬した。
「そうだな。どう出るのだろうか」
「・・・そりゃ・・・攻撃に出るんじゃないのか。スクナロは」
「ヒスバーン。お前はそう思うのか」
「まあな・・・・9割はそうだ。でも残りの1割は、仲間の意見かな」
「そうか。まあ、待つしかないな……しかし、停戦してくれないとなると、軍をこちらに持って来るしかないか」
ネアルはそんな会話をヒスバーンとしていた。
◇
スクナロの場面。
レイエフとナタリアが分析した結果を言う。
「あれは、停止命令でしたね」
ナタリアが言った後、すぐに頷いたスクナロ。
「そうだな」
「・・・敵はこちらの軍の維持をしたい。戦列を維持したいと思っているということでしょうか・・・では敵の狙いはなんでしょうか・・・」
話していたレイエフが止まり始める。
「レイエフどうした。話が止まっているぞ」
「いえ。そういうことですか」
レイエフは、話の途中で影からの報告を受けた。
中央軍の壊滅。それと右翼軍の勝利の情報を得て。
さらに、ネアル軍がまだ自分の左翼軍の状況を分かっていない事の報告も受けた。
彼が状況を分かっていない理由は、ネアル軍の偵察兵が、ダーレー軍の戦場を把握できずにいるのである。
それはサナリア組の影の力によって、戦場間にある林を通っていくネアル軍の伝令兵全てを抹殺していたのだ。
それも右翼軍が、敵を壊滅させる時の伝令兵だけである。
なので、ネアルは自分の左翼軍が壊滅していることを知らないのだ。
という事は取るべき手段はこれであるとレイエフは思った。
「ここは奴らの話に乗り、停止しましょう」
「なに、今なら奴の中央軍本隊が、こちらに来る前にエクリプスを倒せばいいだろう」
「ええ。そうです。ですが停止しましょう」
レイエフの助言は停止であった。
無理に攻める必要がないとの判断だった。
「そうですわ。ここは一旦停止して、再開するまで兵の回復を優先しましょう。体力と怪我の回復をした方がよろしいと思います」
「どういうことだ。お前たちだけ、何を言って?」
影の報告を同じように聞いたナタリアも同じ助言をした。
彼女に続いてレイエフが話す。
「ここは、任せましょう」
「任せるだと。誰に?」
「ダーレー軍にです。彼らがこの戦場をなんとかします。だから我々は兵を回復させましょう。兵の疲れをどこの軍よりも早く取るのです。あちらの軍よりも我々の方が本陣に近いですから、最速で休憩出来ます。戦い詰めの11日間。我が軍は、一番に次の戦闘に備えるのです」
「・・・それがいいのだな。それがお前たちの分析の結果なのだな。レイエフ」
「はい。スクナロ様」
スクナロは、レイエフの瞳をジッと見つめた。
信じてほしい。信頼して欲しい。
この意見は間違っていない。これこそが正しい道のりである。
そんな風に感じたスクナロは決断した。
「わかった。停止させよう。回復させる。ハルク。兵の回復方法を任せる」
「わかりました。殿下。お任せを」
スクナロの答えは兵を引くになる。
皆の意見を十分に参考にして最後に決断したのである。
ネアルが待つと言った予定の時間前。
「ネアルよ」
スクナロは大声で答えを返した。
「我々は停止する。そちらも停止せよ。本陣まで下がってくれたら、こちらも下がる」
答えを聞いたネアルは、嬉しそうに笑い、スクナロに伝える。
「了承した。エクリプス軍。下がれ。本陣で待機だ」
指示が通ると素直にエクリプス軍が下がっていく。
軍全体が後ろを向いたので、スクナロたちは前を向いて後退した。
両軍が自陣まで下がると、エクリプス軍の方が先に武装を外したので、スクナロ軍も武装解除した。
「再開も知らせる。その間、こちらからは勝手に攻撃せん。それを信じてほしい」
「了承した。この俺、スクナロ・タークも勝手には攻撃せん。再開の際は、そちらに通告する」
「わかった。再開する時はこ奴を解放しよう。ではまただ」
ネアルは潔いスクナロに満足していた。
中々面白い男だと笑いながら中央に戻る。
その道中。
ネアルは頭の中で、どうやって相手の右翼軍を壊滅させるかを考えていた。
この時のネアルはダーレー軍を破壊することを決めていたのだ。
右翼の停戦はそのための布石。
右翼の劣勢を知るネアルは右翼の温存を図り、左翼で決着をつけて終わりにしようと考えていたのだ。
こちら側の両軍を一旦停止させてしまえば、あとは右翼の事は考えずに、パールマン軍との協力で、ダーレー軍に大規模挟撃を仕掛けることを考えていたのである。
そうなれば、この戦争は圧勝劇で終わる。
そうなれば・・・である。
しかし、考えだけでは事態は解決できない。
今現在の状態は彼の頭の中とは違う現状である。
そしてここからが、今回の戦争の山場。
勝利を確信していたネアルが、漆黒の男の考えに度肝を抜かれることになるのだ。
◇
ネアルが中央に戻ると、自分の中央軍が武器を構えて左を向いていた。
「なんだこれは?」
「知らん・・・意味ない事を・・・」
不思議そうな顔の二人が中央本陣に到着すると、ブルーが慌てていた。
「王子。それが・・・」
アスターネが経緯を説明すると、ネアルが驚いた。
「停止して欲しいだと」
「はい。隣の戦場から・・・敵の少数の部隊が来て・・・パールマン軍が壊滅だと」
「なに!? 嘘だろう。あの二人が負けるわけがない。現に攻勢に出たと報告が・・・」
「ええ。先ほどはそうでしたが。今は、こちらの本陣から迂回させて情報を得ています。どうやら、現在こちらの林を通すと、伝令兵が敵に斬られているようです。なので、後ろから回り込ませました」
「そ、それはいい。正しい指示だが・・・本当なのか」
「わかりません。ですが、わざわざそんなことを敵が言うのでしょうか」
二人が慌てていると。
「・・・そうだな。ほとんどが本当の事だろうな・・・たぶん」
ヒスバーンだけが相手の意見が正しいと思っていた。
「奴らは俺たちがしたいことを分かっているんだ。先回りされたか」
「どういうことだ。ヒスバーン」
「こちらの偵察兵が無効化された。それは左の戦場の状況を分からせないための行動だ。つまり、あちらの諜報偵察部隊の方が上だぞ。強さよりも、その隠密具合……相当な偵察部隊がいるとみていい。ということは、こちらは情報を知らんが、あちらは完璧に情報を掴んでいる」
ヒスバーンの予想は当たっていた。
クリスは、カゲロイへの最後の指令の後に、影部隊に敵伝令兵の抹殺命令を出していた。
林を通ってくる伝令兵だけを殺せ。それ以外は無視でいい。
この命令の効果が今のネアルの焦りに繋がっている。
「そうだとしたら俺たちの中央軍の圧倒的勝利も知っていて。そしてだ。俺がダーレー軍の軍師ならば・・・」
「ん。軍師ならば? どうした。ヒスバーン?」
ヒスバーンは途中で話すのを止めて、何かを思いついた。
頭の中にある考えが急に浮かんできたらしい。
「なるほどな・・・俺が軍師ならばな。捕虜交換をする」
「なに!? どういうことだ」
地面の小石を見つめているヒスバーンは、軽く笑った。
相手の考えが自分たちの考えを一時でも上回っている。
強敵の登場にヒスバーンも嬉しくなったのだ。
「ああ、たぶん。奴らは交換するつもりだ。このフラムと、アスターネとパールマンをな」
「・・・ど、どういうことだ。二人とか」
「ああ。そうだ。お前。あの二人を見捨てて、こいつを殺せるか」
ヒスバーンは、フラムを指さした。
「なに・・・いや、それはやれと言われれば出来る」
「いや、出来ないな。お前は結構、情がある。それにあの二人を失う損失も考えるタイプだ」
「・・・ま、まあな」
「そうなると、この男と交換に出るしかないんだ。そこまで考えている奴は、これすらも視野に入れながら、パールマン軍を壊滅させたのだと思うぞ。中央軍での俺たちの攻勢は止められない。中央の勝利は確実に俺たちのもの。だったら自分たちは、パールマン軍を壊滅させればいい。俺たちの左翼軍を消せば、条件は一緒。ってことだぞ。こいつは凄い思考だ。とんでもない奴がいるぞ。あの林の向こうにな」
ヒスバーンとネアルは、向こうにいるであろう敵を見た。
「まあ、でもパールマンらは生きているのが確実。奴らの目的がフラムとなっているんだ。あいつらは生きていると見ていい。だから停止しろって、こっちに言って来てんだよ。話し合うためにな」
「・・・なるほどな。そうなると次は」
「そうだ。こちらが了承したら、会談場所を指定してくるはずだ。それでどちらの本陣にするのか、又は中立地帯でするかによって。俺は・・・・敵の器を見るわ。面白い。相当な切れ者が敵の中にいるようだ」
「・・・・・」
ネアルとヒスバーンはここで気付いたのだ。
捕虜交換を仕掛けられていたことに・・・。
本当の勝負は11日目を越えた。
12日目の夜。
両軍の会談であった。
未来の英雄の戦略が、この戦争の勝負の分かれ目であったのだ。
戦いではない所で敵を封じ込める策を発動させていたのである。
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旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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