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第二部 辺境伯に続く物語

第197話 帝国最高戦力の一人

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 クリスは、目の前の嵐のような混沌を見つめる。
 順調な攻撃で、相手は渦の中に取り込まれていて、あと少しで、立て直しが効かない所まで来るだろうと計算した。 
 ゼファーのウォーカー隊歩兵部隊四千を待機させていた形から、クリスは指示を出した。

 「ソロン!」
 「はい」
 「あなたが二千を指揮して、あの中でバランスを保ちなさい。混沌を混沌のまま維持し続けて、相手を閉じ込めながら、全滅させるのです。シュガ殿と補助連携してください」
 「わかりました。宰相」
 「ええ。行って来てください」

 クリスはソロンを送り出した。
 そこから、彼は後ろを振り向く。
 ゼファー部隊は、敵陣の方に押し込んで攻めたために、他の戦場とは戦う位置が敵寄りであった。
 それに対して、ザンカ部隊とピカナ部隊は、引き寄せる形で戦っていたために、自分たちの本陣寄りで戦っていたのである。

 「どれ、なに!? なぜ・・これはマズい。カゲロイ殿!」
 「なんだ」
 
 クリスの影から、カゲロイが登場。

 「ゼファー殿をこちらに呼び出してください。急いで」
 「わかった。今の作戦を中断しろってことだな」
 「いいえ。作戦は継続。しかし、ゼファー殿と数部隊だけがこちらに来いと!」
 「わかった。急ぐ」
 「お願いします」

 クリスは、後ろの戦場が自分たちが混沌に入る前の戦場とは、違う形になっていることに気付いた。
 ザンカ隊、ピカナ隊には急所が生まれていたのだ。
 だから、このままにすると、戦争の勝敗に関わると判断したので、騎馬部隊であるゼファーを呼び出したのだ。


 ◇

 ゼファーが敵大将を倒す前。
 ザンカ部隊の最前線。
 ザイオンとリアリスの話。

 「リアリス!」
 「はい。なにザイオン」
 「ふっ。生意気娘、お前は俺の周りにいる敵を屠れ。いいか。パールマンと激突した際に出来る人だかりの方を攻撃しろ」
 「ん? どういうこと」
 「俺と奴が戦えば、勝手に一騎打ちになる。それで、お前の弓は奴を狙うな。俺が奴を止めている間に、お前は周りを狩り続けろ。そっちの方がこの戦場では有意義だ。一兵でも多く消し去れ」
 「・・・わ、わかった。でも、ザイオン。大丈夫なの。あの化け物。止められるの」
 「大丈夫だ。まかせろ。だから、そっちはまかせたぞ」
 「わかった」
 「よし。生意気娘。頼んだぞ。俺は出る」

 ザイオンは、先頭走るパールマンを見た。
 相手は騎馬を捨てての突進をしている。
 勝つ自信があるからこその騎馬の放棄であった。
 
 先頭を走る敵に対して、ザイオンも走る。

 「舐めるな。パールマン。勝負だ」
 「はっ。やはり来たな。しかも先頭でな。俺の好敵手だぜ。俺の相手にふさわしいぞ。ザイオン!」
 「いってろ。タコ助。おおおおおおおお」

 二人の戦闘が始まると前回と同様。
 周りからは人が消えて、二人を取り囲うように人だかりとなり、その脇で戦闘が起こる。
 両軍が半円を描いて、巨大な円を作り、隣接している者同士だけが戦闘になったのだ。

 ここで、リアリスはザイオンに言われたとおりに、弓で敵を狙い始めた。

 「みんな、ザイオンを援護しなくていい。狩人部隊。ザイオン部隊を援護しろ。エリナ部隊はその周りの兵の防衛に入れ。助けてあげるんだ。ザイオンの部隊を!」
 「「「 おう! 」」」
 
 エリナの指示の元、周りを狩り始めた。

 ◇

 一方同時刻。

 「私と再戦ですか。アスターネ」
 「うちは・・・負けっぱなしが好きじゃない」
 「いいでしょう。来なさい」

 ピカナ隊の右翼に配置されたミシェルの所まで、わざわざパールマン軍の右翼の将アスターネがやってきた。
 
 「他はいいのですか。私にかまけてしまうと、他の戦場が勝てませんよ。ヒザルスさんとタイムは強いですよ」 
 「大丈夫。うちが、あんたを倒せばいいからね。あんたがこの軍の攻撃力だ。右翼を消し包囲戦に入れば勝利よ」
 「さすがに、それはさせませんよ!」

 アスターネの精鋭と、ミシェルの部隊が戦闘に入った。
 両者、ほぼ互角の戦いを繰り広げ、十分後。

 「なかなかやる。でもうちの狙いは、ここじゃない」
 「ん!? どういうことですか・・・え?」

 アスターネは精鋭を引き連れて戦場を移動し始めた。それもヒザルスのいる中央に移動するかと思いきや、ミシェルから見て右へ移動していく。
 そちらには、ピカナ部隊がいないというのにだ。

 「何が狙い・・・あ!? そういうことですか。まずい」

 ミシェルは気付いた。
 だから、ヒザルスの伝令兵に聞こえるように声を張り上げる。

 「ヒザルスさん! 私は今から戦場を離脱します。こちらの部隊の指揮もお願いします」
 「ん!? 何を言ってるんだ!」
 「こう言ってます」

 ヒザルスも仲間伝いで連絡を受け取る。
 ヒザルスが、ミシェルの現在位置を確認すると、徐々に右の戦場からさらに右へと移動をし始めた。


 「急がねば・・・ミシェル隊。こちらに来てください」

 ミシェルについていく精鋭たち。
 移動を開始した彼女らはアスターネを追いかけた。
 彼女は、アスターネの狙いがザンカ隊左翼だと判断したのだ。
 今、アスターネが引き連れている兵が少数であっても、これらの部隊で側面から入って挟撃状態にされると、いくらザンカ隊でも苦しい戦場になる。
 パールマンとアスターネの連携など、強烈な攻撃となるはずなのだ。
 ザンカ部隊だけで防ぐのが難しいといえる。だからミシェルは慌てて追いかけた。

 だが。そこでさらに敵の意図に気付いているのがヒザルスだった。
 彼だけがアスターネの狙いに気付いていた。

 「待て。ミシェル!!! 慌てるな。そいつは罠だ! まずい・・・クソ。カバーできん! 敵の圧力が上がったか。連絡してくれ。ミシェルが危険だと。引き返せと」

 指示を出したことはいいが、ヒザルスの前方の敵の圧力が上がった。
 ここで防御に回るしかなくなることで、ヒザルスはミシェルを止めることが出来なかった。
 ここが勝負の分かれ道だと、ヒザルスが気付いていても、この前線の維持に力を注ぐしかなかったのだ。

 そんなことも知らずにミシェルは、敵を無我夢中で追いかけた。

 「待ちなさい。アスターネ」
 「誰が待ちますか。うちは。ここを狙うのよ」

 アスターネが急ぎ移動している中で、ザンカ隊の左翼を指さす。
 ザンカ隊の左翼は、パールマンとザイオンを囲う円のちょうど左側を担当していた。
 パールマン軍との戦闘に集中していたのだ。

 しばらく追いかけた後。

 「挟撃はさせません!」

 ミシェルが叫ぶと。

 「ええ。しません」

 アスターネが振り向いて止まった。

 「え?」
 「あなた。よく見なよ」

 アスターネがミシェルの後ろを指さす。
 ミシェルは気付かなかった。
 ザイオンを助けようと、敵を追いかけることに夢中過ぎて後ろの事を気にしていなかったのだ。
 背後には敵兵がいたのだ。 

 だからアスターネは、この挟撃をするためにわざとミシェルを誘い込んだ。
 ミシェルは完全に敵兵に囲まれた状態となった。
 
 「ま、まずい。そういうことですか。私を誘き出す・・・」
 「そうよ。うちは負けっぱなしは嫌って言ったでしょ。おんなじことをやり返すのよ」
 「くっ。皆、円陣形で、防衛します」

 今できる最高の手で、ミシェルはこの修羅場を戦う・・・。


 ◇

 互角だったザイオンは次第に負け始めた。
 
 「くっ。互角じゃねえのか」
 「寂しいが、俺の方が強いらしいな。ここまでだなザイオン」
 「言ってろ。俺が・・・あ!?」

 ザイオンの腰が急に砕けた。
 膝が体を支える力を失ったらしい。膝が地面についた。

 「終わりだな。ザイオン。さらばだ。有意義な戦いだったぜ。俺は満足した」

 パールマンは横一閃。
 ザイオンの首を狙う一撃を仕掛ける。
 もはやこれまでか。
 ザイオンは死の間際まで前を向いていた。
 自分を倒す存在が目の前にいることに喜びと悔しさがあった。

 「おおおおおおおおおおおお」

 パールマン自身の雄叫びと轟音鳴らす凄まじい一閃。
 それがザイオンの首に伸びていく。


 ◇

 銀色の輝きが前線に現れる。
 その輝きは最後方にいたはず。
 だが、円の中心。
 ザイオンとパールマン。
 大陸屈指の強者の間に、最速の光が出現した。

 「おおおおおおおおおおおお・・・ん!?」

 パールマンの一閃は、確実にザイオンの首を刎ねる一撃だった。
 だが、その一閃は、ザイオンの髪に触れて斜め上に打ちあがる。
 水平の攻撃だったはず。
 なのに大剣は空へ向かった一撃となった。
 不可思議そうにパールマンは、自分の剣を見つめた。

 「ザイオン。下がりなさい。ここは私がやりましょう」
 「・・・お。お嬢!? 来たのか!」

 ザイオンの目には銀色の女性が映っているが、頭では別の人が思い浮かんでいた。
 だから驚いた声が出た。

 「ええ。クリスが出撃タイミングは自由で良いと。私が来るのは、ここがいいでしょう」
 「ああ。さすがは戦姫だ・・・ここがそうだな」
 「ええ。総大将がこちらにいますからね。こちらも軍の総大将が出るべきでしょう。倒すべきはここでしょうね。ザイオン」
 「ああ。お嬢、さすがだぜ」

 ザイオンの目には、シルヴィアとあの日の女神の笑顔が重なって映っていた。
 銀色の髪を携えて美しい顔立ちのシルヴィアは微笑む。
 家族を魅了する柔らかな笑顔をザイオンに向けていた。

 帝国唯一の戦うお姫様。
 ガルナズン帝国最高戦力が一人『戦姫シルヴィア・ダーレー』の参戦。
 光り輝くお月様の様な銀色の輝きと、大陸一の最速の剣技を持つ。
 太陽の伴侶である。

 
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