195 / 461
第二部 辺境伯に続く物語
第194話 それぞれの成長
しおりを挟む
帝国軍左翼。ターク軍。
以前の戦いとは一味違う。どっしりと構えるスクナロが本陣にいた。
腕組みをして作戦司令部と化した本陣で、軍全体の動向を見守る。
「エクリプス軍とはこうだったか? 以前の方が強く感じるな」
「ええ。しかし、我々は苦しんだんですよ・・・今は楽に押し込めていますね」
副将ハルク・スターシャが答えた。
「次、左の部隊を斜めに入れるべきです」
「む。そうなのか。レイエフ」
「ええ。分析がでてます。ナタリアからです!」
彼ら本部の人間の脇で、望遠鏡を使い戦場の流れを確認するナタリア。
動きの善し悪しを見極める力を持つ彼女は、戦場の地図から敵を分析する。
それに対して、レイエフは、その分析された結果から予想していく。
敵の動きと、こちらの動き。
双方の動きの先を自分たちの頭の中で動かす。
だから、この二人がやっているのは軍師とは違う。
相手を誘導したり、思いもよらない行動を起こして乱したりするものではなく、敵の情報からこちらの最善手を生み出すという戦法である。
フュンやクリスとは違う。
新しい方式の戦術である。
創造性豊かな戦術ではなく堅実な一歩ずつ前へと進む戦い方のやり方だ。
これらの才を見出したのはルイスで、戦場盤面図の訓練でそちらの訓練を重点的に訓練したのだ。
「わかった。左の部隊を入れ込もう。ハルク。指示を前に通せ」
「はっ。殿下」
スクナロの指示をハルクが出す。
ターク軍は、彼の指示をすんなり通す規律性がある。
前回よりも遥かに動きが良いターク軍は、数の違いをもろともせずに、相手を完封した初日を過ごしたのだ。
◇
帝国軍中央ネアル軍。
本陣にて。
戦場の中、巨大天幕の前で優雅にお茶をしているのがネアルである。
戦場の様子をつぶさに観察していた。
「む、前回とは違うな」
「ええ。そのようですね。反省を活かしたのではないでしょうか」
「そのようだな。動きが良い。反省と勇気のある武将であったという事か。気骨があるな」
「はい。そのようで」
「フラムだったな。今回は覚えたぞ。対戦相手として良き武将だ」
「ええ。終わった頃には生きているか知りませんがね。話せたらいいですね」
「ふっ。辛辣だな。ブルー」
ブルーと戦況を確認したネアルは、フラムの戦術を褒めていた。
前回はもっと兵がいたのだ。
2倍近くも兵がいたのに、殻に閉じこもったままのフラム軍だった。
しかし今回はそれよりも少ない1.5倍の数の違いしかないのに、積極果敢に攻撃をしてきている。
左右からの攻撃ではなく、正面突破を試みるあたりに、勇気を感じる。
ネアルは、前回を反省して、今回で自分に挑む相手を褒めていたのだ。
「一番良い手ではある。こちらの軍に対してな。そう思うだろ。ヒスバーン」
「・・・う・・・ああ・・・・そうだな」
ネアルの隣の席に座る寝ぼけ眼の男性が目を擦りながら話した。
「なんだ。まだ眠いのか。お前」
「・・・昨日、緊急で連絡が来たんだよ。眠らせろ馬鹿・・・ふわぁ」
ヒスバーンがあくびをしながら答える。
「なに? どこからだ」
「王都からだ。えっと、用件はなんだっけ・・・ああ、そうだった。要塞都市に新しい大砲を設置したいってよ」
「そうか。それで? なんで私に報告しない? そんな大事な事」
「それがよ・・・・馬鹿糞高い! こんなもの何個も作ったら、国が破産する。お前に見せるまでもなく却下した」
「そうだったか。どれくらい高いんだ。防衛に向いているなら、いくらかかっても良いだろ」
「いや無理だ・・・一個で都市一年分だ。どこで言えばわかりやすいか・・・ルコットくらいかな」
「は?」
ネアルが飲んでお茶を置いた。
あまりの高額に、さすがのネアルも戸惑った。
「それを五個欲しいって言ってきやがった・・・絶対破産する」
「…たしかに、それはありえないな」
「だろう! だから、同じ質。同じ力。品質を保ちながらで、値段を抑えろ。そんな研究をしろと、ルコット一年分の研究費を出しておいた。それで出来ないなら諦めろってな。それ以上は出さんと言っておいた」
良い指示だと思っても、ネアルは別のことを言う。
「…ほう。私の許可なくか?」
「お前・・・許可が必要かこれ? どうせお前もこういう風に許可するだろ。二度手間は嫌だ!」
「まあ、私も許可する」
自分と同じ考えのこの男は、食えない男である。
一つ返せば二つ言葉を返してくるような曲者なのだ。
「じゃあ、そういう風に聞くな。単純にそうか・・・で済ませろよ。無茶振り王子」
「ククク。相変わらずだ、ヒスバーン。扱いずらいわ」
「それを俺の前で言うな・・・酷い奴だ・・・王子なら家臣に気を使え」
ネアルと対等に話すヒスバーン。
彼の役割は、宰相もどきである。
しかし、現在の役職は王子補佐官。
まだ王子という立場のネアルなので、国家の人事をいじる事は出来ない。
と言っても、現在のイーナミアに宰相はいない。
このヒスバーンが全てをやっているのである。
「眠い・・・んで、こんな戦に手をこまねくつもりなのか。さっさと潰せよ」
「いや・・・こちらの意図がある。お前も分かるだろ」
二人は同時にお茶を飲んだ。
「ああ。分かってる。実践だろ。こいつら経験の浅い新兵だぜ。お前の軍だけな」
「そういうことだ。三万程は新兵。ベテランと組ませているからな。動きが良くない点がある。でも新兵どもも地獄の訓練をしているからな。実践に慣れてくれれば。あとはこちらの勝機がくるだろう」
「お前。悪魔だな。可哀想な兵どもだ。こんな指揮官の下についてな」
「ずけずけ言ってくるな。ヒスバーン。遠慮をしろ。遠慮を!」
「あ? 遠慮したら、お前の無茶ぶりは終わるのか・・・終わるのなら黙るぞ」
「・・・・ないな」
「・・・だろ?」
「「ハハハハハハ」」
二人は同時に笑った。
互いに扱いずらいと思っても似ている部分があるようだ。
「んで。いつ攻めるんだ」
「ヒスバーン。お前なら分かるだろう。攻めるタイミングがな」
「そうだな・・・・一週間から・・・十日後かな。それくらいで新兵が覚醒する・・・と思う」
「ああ。私もそう思う。さすがだ、ヒスバーン」
戦うタイミングを見定める二人は、目の前の戦場の出来事の先を見ていた。
◇
一日目が終了したダーレー軍本陣。
幹部が集まり会議が行われていた。
「すまない。俺のミスだな。ザイオンを前に上げていれば」
ザンカが全体に対して謝った。
「いや、俺がもう少し早く前に来ていれば。奴とエリナでは相性が悪かった。しまったわ。ああ、それと、ミシェル。大丈夫か」
ザイオンは反省しながらミシェルを心配する。
「はい。ザイオン様。大丈夫です。私の怪我はたいしたことないです」
ミシェルは、大丈夫だと冷静に答えたのだが、その隣にいるゼファーもザイオンと同じように心配していた。
「ミシェル殿。大丈夫だとしても後でクリスに診てもらった方がいい」
「そ、そうですね。そうします」
ミシェルは素直に頷いた。
一旦会議をまとめるためにシルヴィアが話す。
「皆、聞いてください。エリナは離脱させます。本陣が彼女を保護します。それで彼女の部隊をどうするか。ここが悩みどころです」
「我に意見があります」
「ん? ゼファーなんですか」
「リアリスをそちらに派遣します」
「え? なぜ」
ゼファーは冷静に自分の意見を言い出した。
「我が相手をしている兵ども。あれらは弱い。我とシュガ殿だけで粉砕できます。本陣の許可さえあれば、いつでもお見せできますが、今はその時ではないので粉砕はしません」
ゼファーではないような意見に、シルヴィアは内心驚いていた。
成長している。それも将として成長していると思ったのだ。
「なので、とびっきりの遠距離攻撃能力を持つリアリスがそちらに行けば、そちらの戦場が助かるかと思います。ザンカ殿。どうでしょう。リアリスはエリナ殿ほど近距離は戦えませんが、中間距離と遠距離の達人であります。それならばそちらで活躍するかと思います。ザンカ殿が、上手く扱ってくれればいい線までいくはずです。それに、リアリスは元々ウォーカー隊ですから、ハスラの兵とも連携が取れるはずです。こちらの狩人部隊も少々送りますので、上手く使ってほしいです」
「それは助かるが……いいのかゼファー?」
端的に聞いておきながらザンカは驚いていた。
理路整然とした意見が言える人物だったのかと。
でもそれはザンカだけではない。
周りにいた仲間たちも一緒に驚いていたのだ。
「ええ。ザンカ殿。大丈夫であります。こちらは心配なさらずとも。必ずリアリスがそちらで活躍しますから」
「・・・すまんゼファー。助かる」
ゼファーに感謝を伝えた後。
「お嬢。いいか? リアリスをこちらにもらっても」
ザンカは、シルヴィアの方に申し訳なさそうな顔を向けて聞いたのだが、シルヴィアはそれを見ずに目を瞑り考え始めた。
戦場バランスからいって、ゼファーの所から人を出すのが痛い。
なぜなら彼の場所が一番不利な戦場なのだ。
ほぼ二倍差のある戦場で、優秀な部下を一枚失う形となるのは、果たして良き判断なのか。
それとも、副将候補のザンカの部下を繰り上げした方がいいのか。
この二択の間で、彼女は悩んでいた。
「たしかに。それが一番良い手にもみえます。ですが、ゼファー部隊からは・・・」
「シルヴィア様。意見いいでしょうか」
「ん。クリス? いいでしょう。どうぞ」
クリスが前に出る。
「今回。これは私のミスです。パールマンとアスターネが予想以上に強い事を想定すればよかったです。動きも皆さんに事細かく伝えればこのような事にはならなかったでしょう。特に、ザンカ殿は完璧な陣形で挑みました。そうですよね」
「ん。ま、まあそうだな小僧。出来る範囲で最高だとは思ったが・・・」
「ええ。一番いい陣形でありましたよ。エリナ殿は、相手の攻撃をいなすのが上手いので、先陣を切らせるのは正しいんです。ですが、これは私が見誤ったんです。パールマンは強すぎました。まさかザイオン殿を押し込むほど強いとは。それに奴の兵も突進力がありましたね。そこが想定外です」
クリスは自分の反省を深くしていた。
失敗であると結論付けても、彼は前を向いて次の策を考えている。
「ここは、ザンカ殿。横陣の中で横並びの陣形にしてほしいです」
「ん?」
「縦に将を並べていたのですが、次はこのように並べてほしい。リアリス殿を使ってです」
クリスは陣形を書き上げた。
左にザイオン。右にザンカ。中央にリアリスを配置した横陣。
初日の陣形は縦に将軍を配置したのだが、次回は横に将を配置して欲しいと書き上げたのだ。
「このように並べると、おそらく敵は左に傾きます。ザイオン殿を目指してくると思いますので、リアリス殿が横からパールマンを狙います。この形になると、ザンカ殿が右から押せると思うのです。ザンカ殿の前。ここ一定以上圧力がかからないと思うので、右からへ前進できて、相手を切り崩す陣形になれると思います」
「な。なるほど」
「しかしこれは、相手がザイオン殿にご執心となった場合だけですね。相手が普通に正面に切り込んでくると苦しい陣形になります。リアリス殿ではパールマンを止められません」
確かにと。
ザイオンとザンカが同時に頷いた。
「そこで、正面から相手が突撃してきた場合のみ。リアリス殿が後ろに引きます。彼女が囮となるのです。彼女は狩人です。サナリアの弓のフィアーナの弟子。だからそういう動きが得意であります。そして、そうなった場合は、左右のザイオン殿とザンカ殿が挟む。これで相手を封殺しましょう」
「クリス。それだとリアリスは派遣した方がいいのですか?」
黙っていたシルヴィアが聞いた。
「はい。シルヴィア様。もし、決断に不安があるのならば、ゼファー殿の所に、ソロンを送ります。彼女もまた補佐的な指揮は取れます。でも私もですが、ゼファー殿とシュガ殿だけで、あの軍は倒せると思っています。心配はしなくてもいいかと」
「・・・そうですか。いいでしょう。派遣しましょう! ザンカ。リアリスを頼みます。不慣れな所に行きますからね。あなたがフォローをしてください」
「わかりましたお嬢。お任せを」
「ええ。それでは、皆さん。まだ耐えて。私の攻撃指示が出た瞬間。相手を倒しましょう。よいですね」
全員が。
「「「了解です。総大将」」」
シルヴィアに向かって跪いたのだった。
以前の戦いとは一味違う。どっしりと構えるスクナロが本陣にいた。
腕組みをして作戦司令部と化した本陣で、軍全体の動向を見守る。
「エクリプス軍とはこうだったか? 以前の方が強く感じるな」
「ええ。しかし、我々は苦しんだんですよ・・・今は楽に押し込めていますね」
副将ハルク・スターシャが答えた。
「次、左の部隊を斜めに入れるべきです」
「む。そうなのか。レイエフ」
「ええ。分析がでてます。ナタリアからです!」
彼ら本部の人間の脇で、望遠鏡を使い戦場の流れを確認するナタリア。
動きの善し悪しを見極める力を持つ彼女は、戦場の地図から敵を分析する。
それに対して、レイエフは、その分析された結果から予想していく。
敵の動きと、こちらの動き。
双方の動きの先を自分たちの頭の中で動かす。
だから、この二人がやっているのは軍師とは違う。
相手を誘導したり、思いもよらない行動を起こして乱したりするものではなく、敵の情報からこちらの最善手を生み出すという戦法である。
フュンやクリスとは違う。
新しい方式の戦術である。
創造性豊かな戦術ではなく堅実な一歩ずつ前へと進む戦い方のやり方だ。
これらの才を見出したのはルイスで、戦場盤面図の訓練でそちらの訓練を重点的に訓練したのだ。
「わかった。左の部隊を入れ込もう。ハルク。指示を前に通せ」
「はっ。殿下」
スクナロの指示をハルクが出す。
ターク軍は、彼の指示をすんなり通す規律性がある。
前回よりも遥かに動きが良いターク軍は、数の違いをもろともせずに、相手を完封した初日を過ごしたのだ。
◇
帝国軍中央ネアル軍。
本陣にて。
戦場の中、巨大天幕の前で優雅にお茶をしているのがネアルである。
戦場の様子をつぶさに観察していた。
「む、前回とは違うな」
「ええ。そのようですね。反省を活かしたのではないでしょうか」
「そのようだな。動きが良い。反省と勇気のある武将であったという事か。気骨があるな」
「はい。そのようで」
「フラムだったな。今回は覚えたぞ。対戦相手として良き武将だ」
「ええ。終わった頃には生きているか知りませんがね。話せたらいいですね」
「ふっ。辛辣だな。ブルー」
ブルーと戦況を確認したネアルは、フラムの戦術を褒めていた。
前回はもっと兵がいたのだ。
2倍近くも兵がいたのに、殻に閉じこもったままのフラム軍だった。
しかし今回はそれよりも少ない1.5倍の数の違いしかないのに、積極果敢に攻撃をしてきている。
左右からの攻撃ではなく、正面突破を試みるあたりに、勇気を感じる。
ネアルは、前回を反省して、今回で自分に挑む相手を褒めていたのだ。
「一番良い手ではある。こちらの軍に対してな。そう思うだろ。ヒスバーン」
「・・・う・・・ああ・・・・そうだな」
ネアルの隣の席に座る寝ぼけ眼の男性が目を擦りながら話した。
「なんだ。まだ眠いのか。お前」
「・・・昨日、緊急で連絡が来たんだよ。眠らせろ馬鹿・・・ふわぁ」
ヒスバーンがあくびをしながら答える。
「なに? どこからだ」
「王都からだ。えっと、用件はなんだっけ・・・ああ、そうだった。要塞都市に新しい大砲を設置したいってよ」
「そうか。それで? なんで私に報告しない? そんな大事な事」
「それがよ・・・・馬鹿糞高い! こんなもの何個も作ったら、国が破産する。お前に見せるまでもなく却下した」
「そうだったか。どれくらい高いんだ。防衛に向いているなら、いくらかかっても良いだろ」
「いや無理だ・・・一個で都市一年分だ。どこで言えばわかりやすいか・・・ルコットくらいかな」
「は?」
ネアルが飲んでお茶を置いた。
あまりの高額に、さすがのネアルも戸惑った。
「それを五個欲しいって言ってきやがった・・・絶対破産する」
「…たしかに、それはありえないな」
「だろう! だから、同じ質。同じ力。品質を保ちながらで、値段を抑えろ。そんな研究をしろと、ルコット一年分の研究費を出しておいた。それで出来ないなら諦めろってな。それ以上は出さんと言っておいた」
良い指示だと思っても、ネアルは別のことを言う。
「…ほう。私の許可なくか?」
「お前・・・許可が必要かこれ? どうせお前もこういう風に許可するだろ。二度手間は嫌だ!」
「まあ、私も許可する」
自分と同じ考えのこの男は、食えない男である。
一つ返せば二つ言葉を返してくるような曲者なのだ。
「じゃあ、そういう風に聞くな。単純にそうか・・・で済ませろよ。無茶振り王子」
「ククク。相変わらずだ、ヒスバーン。扱いずらいわ」
「それを俺の前で言うな・・・酷い奴だ・・・王子なら家臣に気を使え」
ネアルと対等に話すヒスバーン。
彼の役割は、宰相もどきである。
しかし、現在の役職は王子補佐官。
まだ王子という立場のネアルなので、国家の人事をいじる事は出来ない。
と言っても、現在のイーナミアに宰相はいない。
このヒスバーンが全てをやっているのである。
「眠い・・・んで、こんな戦に手をこまねくつもりなのか。さっさと潰せよ」
「いや・・・こちらの意図がある。お前も分かるだろ」
二人は同時にお茶を飲んだ。
「ああ。分かってる。実践だろ。こいつら経験の浅い新兵だぜ。お前の軍だけな」
「そういうことだ。三万程は新兵。ベテランと組ませているからな。動きが良くない点がある。でも新兵どもも地獄の訓練をしているからな。実践に慣れてくれれば。あとはこちらの勝機がくるだろう」
「お前。悪魔だな。可哀想な兵どもだ。こんな指揮官の下についてな」
「ずけずけ言ってくるな。ヒスバーン。遠慮をしろ。遠慮を!」
「あ? 遠慮したら、お前の無茶ぶりは終わるのか・・・終わるのなら黙るぞ」
「・・・・ないな」
「・・・だろ?」
「「ハハハハハハ」」
二人は同時に笑った。
互いに扱いずらいと思っても似ている部分があるようだ。
「んで。いつ攻めるんだ」
「ヒスバーン。お前なら分かるだろう。攻めるタイミングがな」
「そうだな・・・・一週間から・・・十日後かな。それくらいで新兵が覚醒する・・・と思う」
「ああ。私もそう思う。さすがだ、ヒスバーン」
戦うタイミングを見定める二人は、目の前の戦場の出来事の先を見ていた。
◇
一日目が終了したダーレー軍本陣。
幹部が集まり会議が行われていた。
「すまない。俺のミスだな。ザイオンを前に上げていれば」
ザンカが全体に対して謝った。
「いや、俺がもう少し早く前に来ていれば。奴とエリナでは相性が悪かった。しまったわ。ああ、それと、ミシェル。大丈夫か」
ザイオンは反省しながらミシェルを心配する。
「はい。ザイオン様。大丈夫です。私の怪我はたいしたことないです」
ミシェルは、大丈夫だと冷静に答えたのだが、その隣にいるゼファーもザイオンと同じように心配していた。
「ミシェル殿。大丈夫だとしても後でクリスに診てもらった方がいい」
「そ、そうですね。そうします」
ミシェルは素直に頷いた。
一旦会議をまとめるためにシルヴィアが話す。
「皆、聞いてください。エリナは離脱させます。本陣が彼女を保護します。それで彼女の部隊をどうするか。ここが悩みどころです」
「我に意見があります」
「ん? ゼファーなんですか」
「リアリスをそちらに派遣します」
「え? なぜ」
ゼファーは冷静に自分の意見を言い出した。
「我が相手をしている兵ども。あれらは弱い。我とシュガ殿だけで粉砕できます。本陣の許可さえあれば、いつでもお見せできますが、今はその時ではないので粉砕はしません」
ゼファーではないような意見に、シルヴィアは内心驚いていた。
成長している。それも将として成長していると思ったのだ。
「なので、とびっきりの遠距離攻撃能力を持つリアリスがそちらに行けば、そちらの戦場が助かるかと思います。ザンカ殿。どうでしょう。リアリスはエリナ殿ほど近距離は戦えませんが、中間距離と遠距離の達人であります。それならばそちらで活躍するかと思います。ザンカ殿が、上手く扱ってくれればいい線までいくはずです。それに、リアリスは元々ウォーカー隊ですから、ハスラの兵とも連携が取れるはずです。こちらの狩人部隊も少々送りますので、上手く使ってほしいです」
「それは助かるが……いいのかゼファー?」
端的に聞いておきながらザンカは驚いていた。
理路整然とした意見が言える人物だったのかと。
でもそれはザンカだけではない。
周りにいた仲間たちも一緒に驚いていたのだ。
「ええ。ザンカ殿。大丈夫であります。こちらは心配なさらずとも。必ずリアリスがそちらで活躍しますから」
「・・・すまんゼファー。助かる」
ゼファーに感謝を伝えた後。
「お嬢。いいか? リアリスをこちらにもらっても」
ザンカは、シルヴィアの方に申し訳なさそうな顔を向けて聞いたのだが、シルヴィアはそれを見ずに目を瞑り考え始めた。
戦場バランスからいって、ゼファーの所から人を出すのが痛い。
なぜなら彼の場所が一番不利な戦場なのだ。
ほぼ二倍差のある戦場で、優秀な部下を一枚失う形となるのは、果たして良き判断なのか。
それとも、副将候補のザンカの部下を繰り上げした方がいいのか。
この二択の間で、彼女は悩んでいた。
「たしかに。それが一番良い手にもみえます。ですが、ゼファー部隊からは・・・」
「シルヴィア様。意見いいでしょうか」
「ん。クリス? いいでしょう。どうぞ」
クリスが前に出る。
「今回。これは私のミスです。パールマンとアスターネが予想以上に強い事を想定すればよかったです。動きも皆さんに事細かく伝えればこのような事にはならなかったでしょう。特に、ザンカ殿は完璧な陣形で挑みました。そうですよね」
「ん。ま、まあそうだな小僧。出来る範囲で最高だとは思ったが・・・」
「ええ。一番いい陣形でありましたよ。エリナ殿は、相手の攻撃をいなすのが上手いので、先陣を切らせるのは正しいんです。ですが、これは私が見誤ったんです。パールマンは強すぎました。まさかザイオン殿を押し込むほど強いとは。それに奴の兵も突進力がありましたね。そこが想定外です」
クリスは自分の反省を深くしていた。
失敗であると結論付けても、彼は前を向いて次の策を考えている。
「ここは、ザンカ殿。横陣の中で横並びの陣形にしてほしいです」
「ん?」
「縦に将を並べていたのですが、次はこのように並べてほしい。リアリス殿を使ってです」
クリスは陣形を書き上げた。
左にザイオン。右にザンカ。中央にリアリスを配置した横陣。
初日の陣形は縦に将軍を配置したのだが、次回は横に将を配置して欲しいと書き上げたのだ。
「このように並べると、おそらく敵は左に傾きます。ザイオン殿を目指してくると思いますので、リアリス殿が横からパールマンを狙います。この形になると、ザンカ殿が右から押せると思うのです。ザンカ殿の前。ここ一定以上圧力がかからないと思うので、右からへ前進できて、相手を切り崩す陣形になれると思います」
「な。なるほど」
「しかしこれは、相手がザイオン殿にご執心となった場合だけですね。相手が普通に正面に切り込んでくると苦しい陣形になります。リアリス殿ではパールマンを止められません」
確かにと。
ザイオンとザンカが同時に頷いた。
「そこで、正面から相手が突撃してきた場合のみ。リアリス殿が後ろに引きます。彼女が囮となるのです。彼女は狩人です。サナリアの弓のフィアーナの弟子。だからそういう動きが得意であります。そして、そうなった場合は、左右のザイオン殿とザンカ殿が挟む。これで相手を封殺しましょう」
「クリス。それだとリアリスは派遣した方がいいのですか?」
黙っていたシルヴィアが聞いた。
「はい。シルヴィア様。もし、決断に不安があるのならば、ゼファー殿の所に、ソロンを送ります。彼女もまた補佐的な指揮は取れます。でも私もですが、ゼファー殿とシュガ殿だけで、あの軍は倒せると思っています。心配はしなくてもいいかと」
「・・・そうですか。いいでしょう。派遣しましょう! ザンカ。リアリスを頼みます。不慣れな所に行きますからね。あなたがフォローをしてください」
「わかりましたお嬢。お任せを」
「ええ。それでは、皆さん。まだ耐えて。私の攻撃指示が出た瞬間。相手を倒しましょう。よいですね」
全員が。
「「「了解です。総大将」」」
シルヴィアに向かって跪いたのだった。
24
お気に入りに追加
469
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~
延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。
ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。
人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。
「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」
温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。
しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。
「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」
これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。
旧タイトル
「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる