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第二部 辺境伯に続く物語
第181話 女神の右腕 エステロ・ターク
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「姉上。こんな所にいたのですか! カルゼン殿のお邪魔になりますぞ・・って、なんですかこれは!?」
薄い紫でサラサラ長髪を靡かせた。長身の爽やかな男性が悲惨な現場にやってきた。
そこら中にゴロゴロと転がっている死体に驚く。
「おう。エス! ここに来たのか」
「はい! 何をしていたのですか。いつまでもカルゼン殿のお邪魔に・・・ってなんでこんなに人が死んでいるのですか!」
「それがな。私の友人を殺そうとしてきた奴らがいてよ。返り討ちにしてぶっ殺した」
「え!? え!? いや、なんでですか。その間は取れなかったのですか! 倒すくらいにしてくださいよ。カルゼン殿のお屋敷ですぞ。迷惑極まりない」
「エス、そいつは無理だ! こいつら、生半可な強さで戦っちゃいけない奴らだった。ちゃんと処理せなばならんかったのだ」
「姉上が・・・そこまで・・・・」
ヒストリアのそばにやってきた男性。
それが帝国の紫電。
第一皇子エステロ・タークでした。
彼は、ウインド騎士団副団長で、姉であるヒストリアの片腕でありました。
当時の帝国の二つの柱。
彼女がいて、彼がいる帝国は、このまま突き進めば、確実に安定した帝国になれたのです。
真面目さと冷静な判断力。
彼女を支えるための補助能力に加えて、単体での指揮能力。
そして個人としての戦闘力も抜群の男性がエステロという男で、当時のターク家の当主です。
スクナロも良き武将で、ヌロもある一面では優秀でありますが。
彼と比べてはいけません。
彼はヒストリアに次ぐ天才だったのです。
「さっきの話。エステロにも聞かせることにした。お前は私の片腕。そして大切な弟だ。私と協力してこの国を救わねばならない。いいか。エス。私を支える決意はあるか」
「もちろん。あります。姉上あっての私ですからね」
「ふっ。可愛い弟め。デカい体以外は可愛いぞ」
「そこも可愛いと思ってほしいですな。姉上」
「そうか。じゃあ、そう思うことにする!」
「ええ。そうしてください」
とても仲の良い姉弟でした。
家が違うのに、その違いを感じさせない姉弟だったのです。
◇
先程の話をエステロに聞かせた後。
「そうですか。こちらのソフィア殿がね・・・おそらくその組織が残っていて、その刺客なのでしょう」
「そうみたいなの。困ってるわ。エステロ」
「ええ。そうでしょうね。お困りになるでしょうね」
「うん」
とまあ、なぜ第一皇子様にもため口なのかはわかりません。
本当にソフィア様と言う人は人の懐に入る速度が異常なのです。
「ふふ。でもあなたは面白い方ですね。私はいいとして、姉上とも親し気に会話できるとは」
「そうなの? ヒストリア。友達いないの?」
その一言失礼です。打ち首ものですぞ。
と言いたい私だった。
「ああ。ほぼいないな。孤高のお姫様だからな。カルゼンくらいか。まあ、あとはあいつとあいつくらいかな」
「そうなんだ。じゃあ、私が友達ね」
「ふっ。そうだな。お前も友達だな」
「うん。へへへへ」
二人がそんな会話をしたら、エステロが笑った。
「本当に珍しい方だ。姉上が部下と姉弟以外に心を開くとは・・・それでは、どうしたらいいでしょうかな。護衛をした方がいいですか? それともお家にまで送り届けた方が」
「・・・たしかに。今のような奴らが出て来るとなると。その隠れ住んでいるっていう場所に帰った方がいいだろうな。そこは今まで攻撃を受けたことがないそうだしな」
二人が悩むと。カルゼンが。
「いいえ。私が匿います。太陽の人なのですぞ。お守りせねば、ラーゼの誇りにかけて」
「ええ。そんなのいいよ。カルゼンも好きなことしなって」
「私の好きなことがこれです。あなた様をお守りせねば」
「えええええ。つまんないじゃん。そんなの」
カルゼンは本当に良き心の持ち主でありました。
あれほどの危険な目にソフィア様が会うのであれば、自分がお守りしますと買って出てくれたのだ。
「しかし」
「しかしじゃない! あなたは自分の大切な人生を生きなきゃ。過去の事なんていいんだよ。後ろはいいの。元気に前に歩くのさ! つまんないじゃん。過去に縛られたらさ」
「・・・ですが・・」
カルゼンの後。ヒストリアが出てきた。
「カルゼン。今襲われたんだぞ。ここも危ないんだ。ここに匿う方が逆に危険だぞ」
「そ、それは・・・たしかに」
「な! だから一旦帰るか。ソフィア。家はどこだ? 隠れ住んでいるってところはどこなんだ。たぶんここにいるよりもそっちがいいだろう。ここでは目をつけられているからな。早く離れた方が安全かもしれん」
「・・・う、うん・・・言えないかな・・・・なんかそれだけは禁止事項だった気が・・・」
「それだけじゃありません。あそこから出て行くことも禁止事項でした」
私が冷たい目を向けると、ソフィア様は目を逸らした。
「んんん。小言大魔王」
「いいえ。当たり前の事なので、これは小言ではありません」
「小言じゃん。いちいちネチネチ」
「あなたが言う事を聞かないからでしょ」
「ああ、怒ってるぅ」
「怒りますよ。あなたのせいで、今皆さんに迷惑をおかけしました!」
「んんん。そっか。迷惑だもんね。私がここにいたら」
「そうです。命を狙われる人間がそばにいたら迷惑です」
「・・あなたも」
「私は思いません。私はあなたをお守りするために生まれてきていますから」
「ええ。それはつまんないじゃん。私の為に生まれるなんて」
「つまるつまらないじゃないです。私の使命です」
「・・・おじさんからの」
「いいえ。私の本心からです。私はあなた様が好きですからね」
「・・あ! そうなの。なんだ最初からそう言ってくれればいいのに・・」
ぱっと明るい笑顔になったソフィア様が愛おしい。
そうなのです。
私は使命感から彼女の従者になったのではないのです。
彼女が好きだから、従者になったのです。
妹のように、友達のように、ずっと一緒に育ってきたのです。
何をしても可愛くて仕方がありませんでした。
「私も迷惑ではないですぞ。あなたが姉上の友人ならば、私もお守りしないと・・・近くまでついていきましょう。姉上では、目立つので私が護衛しましょう」
「え? いや、エステロ。あなた。目立つよ」
ソフィア様は、びっくりした顔で言った。
「ん? なぜ???」
「いや、あなた。大きいって。こんなに背が高くてハンサムな人、目立ってしょうがないじゃん。街中の女性の目だって集まっちゃうでしょ。そんなの余計に目立つよ。あなた、自分を見たことないの?」
「ム……確かに背は高いですな・・・顔は知りません」
自分の体の大きさと顔の良さに気付かないエステロだった。
エステロは、美形だったのです。
スクナロとヌロとは顔が違っていて、とても整った顔をしています。
「それじゃあ、ソフィアどうする。私が護衛するか。騎士団で!」
「いや、それだと大事じゃん。ヒストリア。団長なんでしょ!」
「まあ、確かにな。それはまずいか。目立ったら狙われるな……」
「そうだよ。だからコソコソ帰るから大丈夫。二人で帰れば大丈夫よ。ね。レヴィ」
「そうですね。二人で帰りましょうか」
「そうか。んで、どっから帰るんだ? 歩きだとすると、山か? それともあっちの陸地か」
ヒストリアが聞いてきた。
「・・・・船」
言いにくそうにソフィア様が言った。
「「「船!?」」」
当然、三人が驚いた。
「だって船で来たんだもん・・・カルゼン、嘘ついてごめんね」
騙したのが悪いと思ったソフィア様は、口を開けて驚いているカルゼンに謝った。
「はぁ。そうか。良く生きていたな。ここらは海賊どもがいるからな。運が良いわ」
「そうなんだ・・・ヒストリアごめんね」
「ふっ。謝んな。来ちまったものは仕方ない。度胸があるとみて、私は好きだ。そういう度胸と根性がな! こんな奴に騎士団に入って欲しいわ」
ヒストリアは笑っていた。
何回も度胸いいなお前と言って、ソフィア様の頭を撫でた。
その間にエステロが会話の中心になる。
「そうですね。船に乗るのは危険ですね。しかし、船で帰らねばならないのなら、ここらの敵を一掃しておいた方がいい。出来るだけ危険は減らした方がお家に帰れるでしょう」
「ん? どうしたエステロ?」
「姉上。敵を斬り伏せた感じ。強いのですよね」
「ああ。強い。見えないしな」
「見えない?」
「そうだ。レヴィが言うには、敵は影に生きているらしい。姿が消えているんだ」
「そんなのどうやって倒したのですか」
「気配だ。私が戦場で戦う時のように敵の気配で相手をぶった斬った」
「は、はぁ?」
なんて無茶苦茶なと、エステロはため息をついた。
「だから、奴らと戦えるのは、私以外の騎士団だと、お前とユーしかいない。だからウインド騎士団も、盾役くらいにしか役には立たんぞ。どうするか・・・」
「そうですか。今はユーさんはいませんから、私も戦闘をやらねば……少しお時間をください」
エステロがそう言うと、目を瞑り始めた。
一分くらいの時間、頭を整理しているようだった。
「そうなると、これはどうでしょう。姉上」
「何か思いついたか」
「はい」
作戦立案がエステロ。実行と責任を負うのがヒストリア。
それがこの帝国の二大天才の戦いの方式でした。
「姉上。騎士団の中で彼女と背格好が近い人物をお借りします」
「なんでだ」
「彼女の身代わりをしてもらいましょう。私が護衛をして、囮として、港を一周してから、都市の内陸方面に移動をします。そうすることで、彼女たちが無事に逃げられると思います」
「なるほど・・・。囮で敵をおびき出すわけか。一度港に行くところがミソだな。それで釣っていくわけだ」
「そうです。彼女が逃げられるならそれが一番良いかと」
「よし。エス。騎士団の連中をここに呼べ。カルゼンとの緊急での軍事訓練だとしてここに集めろ」
「わかりました。そのようにします」
二人は即断即決型の人間です。思いついてから実行までの速度が速かったのです。
「カルゼン。いいだろ」
「ヒストリア・・・その許可を取る前に、もっと先に私に言うべきことがあるでしょう」
「ふっ。たしかにな」
「ええ。でも、もちろんいいですよ。あなたを信頼してますからね」
「ああ。サンキュ」
カルゼンもまた、彼女の友人にふさわしい決断力を持っている人物でした。
しばらくして、騎士団が集まる。
選抜メンバーを集めて、ソフィア様に近しい人を選び、早速作戦通りの動きをしました。
エステロが護衛隊長として、街を移動。
港がある北へと進んで、引き返すころには東側へと言って南の内陸部へ歩く。
そうなると、ラーゼをぐるりと一周するかのような形になりますから、敵の目が集中するはずでした。
それに私が、その移動を影から確認していました。
太陽の技を駆使して、彼らを尾行すると、案の定敵は食らいついていました。
影は五つ。エステロを追いかけていました。
なので、カルゼンの屋敷に戻って、ヒストリアに報告すると。
「そうか。じゃあ、移動しな。バレないように帰るんだぞ」
「うん。ありがとね。ヒストリア」
二人が抱擁した後。カルゼンが頭を下げる。
「・・・ソフィア様。何かがありましたら、ぜひ。こちらを頼りにしてください。ここに来てください。必ずお守りします」
「うん。でも迷惑じゃ」
「いいのです。我らは太陽の人を待つ・・・いつまでも待っているのです。たとえ、私の代ではなくても」
「・・・わかった。そうするね」
「ええ。待っています。ソフィア様」
最後までカルゼンは紳士でした。
彼女を崇拝する気持ちはあっても、無理強いすることもなく引き下がれるのはなかなかできる事ではないでしょう。
「それでは。移動を開始します。ソフィア様いきますよ」
「うん。帰ろうか。あんな場所でもお家みたいだし」
「あんな場所って・・・はぁ。いいでしょう。いきます。では、ありがとうございました。カルゼンさん。ヒストリアさん」
「ええ。また」
「じゃあな。頑張れよ。レヴィ」
「はい。ありがとうございました」
私たちはこうして無事に帰ったと思いました。
皆さんの協力を得て、作戦はバッチリハマったと思ったのです。
現に、エステロの方に出てきた影は、彼によって倒されています。
彼もまた武芸の達人でありました。
かなりの腕前の戦士であったのです。
だから安全だと思ったのです。ですが、私たちは甘かった。
敵は私たちを完璧に捉えていたのでした。
事件は家に……ドノバンに帰ってから起きました。
薄い紫でサラサラ長髪を靡かせた。長身の爽やかな男性が悲惨な現場にやってきた。
そこら中にゴロゴロと転がっている死体に驚く。
「おう。エス! ここに来たのか」
「はい! 何をしていたのですか。いつまでもカルゼン殿のお邪魔に・・・ってなんでこんなに人が死んでいるのですか!」
「それがな。私の友人を殺そうとしてきた奴らがいてよ。返り討ちにしてぶっ殺した」
「え!? え!? いや、なんでですか。その間は取れなかったのですか! 倒すくらいにしてくださいよ。カルゼン殿のお屋敷ですぞ。迷惑極まりない」
「エス、そいつは無理だ! こいつら、生半可な強さで戦っちゃいけない奴らだった。ちゃんと処理せなばならんかったのだ」
「姉上が・・・そこまで・・・・」
ヒストリアのそばにやってきた男性。
それが帝国の紫電。
第一皇子エステロ・タークでした。
彼は、ウインド騎士団副団長で、姉であるヒストリアの片腕でありました。
当時の帝国の二つの柱。
彼女がいて、彼がいる帝国は、このまま突き進めば、確実に安定した帝国になれたのです。
真面目さと冷静な判断力。
彼女を支えるための補助能力に加えて、単体での指揮能力。
そして個人としての戦闘力も抜群の男性がエステロという男で、当時のターク家の当主です。
スクナロも良き武将で、ヌロもある一面では優秀でありますが。
彼と比べてはいけません。
彼はヒストリアに次ぐ天才だったのです。
「さっきの話。エステロにも聞かせることにした。お前は私の片腕。そして大切な弟だ。私と協力してこの国を救わねばならない。いいか。エス。私を支える決意はあるか」
「もちろん。あります。姉上あっての私ですからね」
「ふっ。可愛い弟め。デカい体以外は可愛いぞ」
「そこも可愛いと思ってほしいですな。姉上」
「そうか。じゃあ、そう思うことにする!」
「ええ。そうしてください」
とても仲の良い姉弟でした。
家が違うのに、その違いを感じさせない姉弟だったのです。
◇
先程の話をエステロに聞かせた後。
「そうですか。こちらのソフィア殿がね・・・おそらくその組織が残っていて、その刺客なのでしょう」
「そうみたいなの。困ってるわ。エステロ」
「ええ。そうでしょうね。お困りになるでしょうね」
「うん」
とまあ、なぜ第一皇子様にもため口なのかはわかりません。
本当にソフィア様と言う人は人の懐に入る速度が異常なのです。
「ふふ。でもあなたは面白い方ですね。私はいいとして、姉上とも親し気に会話できるとは」
「そうなの? ヒストリア。友達いないの?」
その一言失礼です。打ち首ものですぞ。
と言いたい私だった。
「ああ。ほぼいないな。孤高のお姫様だからな。カルゼンくらいか。まあ、あとはあいつとあいつくらいかな」
「そうなんだ。じゃあ、私が友達ね」
「ふっ。そうだな。お前も友達だな」
「うん。へへへへ」
二人がそんな会話をしたら、エステロが笑った。
「本当に珍しい方だ。姉上が部下と姉弟以外に心を開くとは・・・それでは、どうしたらいいでしょうかな。護衛をした方がいいですか? それともお家にまで送り届けた方が」
「・・・たしかに。今のような奴らが出て来るとなると。その隠れ住んでいるっていう場所に帰った方がいいだろうな。そこは今まで攻撃を受けたことがないそうだしな」
二人が悩むと。カルゼンが。
「いいえ。私が匿います。太陽の人なのですぞ。お守りせねば、ラーゼの誇りにかけて」
「ええ。そんなのいいよ。カルゼンも好きなことしなって」
「私の好きなことがこれです。あなた様をお守りせねば」
「えええええ。つまんないじゃん。そんなの」
カルゼンは本当に良き心の持ち主でありました。
あれほどの危険な目にソフィア様が会うのであれば、自分がお守りしますと買って出てくれたのだ。
「しかし」
「しかしじゃない! あなたは自分の大切な人生を生きなきゃ。過去の事なんていいんだよ。後ろはいいの。元気に前に歩くのさ! つまんないじゃん。過去に縛られたらさ」
「・・・ですが・・」
カルゼンの後。ヒストリアが出てきた。
「カルゼン。今襲われたんだぞ。ここも危ないんだ。ここに匿う方が逆に危険だぞ」
「そ、それは・・・たしかに」
「な! だから一旦帰るか。ソフィア。家はどこだ? 隠れ住んでいるってところはどこなんだ。たぶんここにいるよりもそっちがいいだろう。ここでは目をつけられているからな。早く離れた方が安全かもしれん」
「・・・う、うん・・・言えないかな・・・・なんかそれだけは禁止事項だった気が・・・」
「それだけじゃありません。あそこから出て行くことも禁止事項でした」
私が冷たい目を向けると、ソフィア様は目を逸らした。
「んんん。小言大魔王」
「いいえ。当たり前の事なので、これは小言ではありません」
「小言じゃん。いちいちネチネチ」
「あなたが言う事を聞かないからでしょ」
「ああ、怒ってるぅ」
「怒りますよ。あなたのせいで、今皆さんに迷惑をおかけしました!」
「んんん。そっか。迷惑だもんね。私がここにいたら」
「そうです。命を狙われる人間がそばにいたら迷惑です」
「・・あなたも」
「私は思いません。私はあなたをお守りするために生まれてきていますから」
「ええ。それはつまんないじゃん。私の為に生まれるなんて」
「つまるつまらないじゃないです。私の使命です」
「・・・おじさんからの」
「いいえ。私の本心からです。私はあなた様が好きですからね」
「・・あ! そうなの。なんだ最初からそう言ってくれればいいのに・・」
ぱっと明るい笑顔になったソフィア様が愛おしい。
そうなのです。
私は使命感から彼女の従者になったのではないのです。
彼女が好きだから、従者になったのです。
妹のように、友達のように、ずっと一緒に育ってきたのです。
何をしても可愛くて仕方がありませんでした。
「私も迷惑ではないですぞ。あなたが姉上の友人ならば、私もお守りしないと・・・近くまでついていきましょう。姉上では、目立つので私が護衛しましょう」
「え? いや、エステロ。あなた。目立つよ」
ソフィア様は、びっくりした顔で言った。
「ん? なぜ???」
「いや、あなた。大きいって。こんなに背が高くてハンサムな人、目立ってしょうがないじゃん。街中の女性の目だって集まっちゃうでしょ。そんなの余計に目立つよ。あなた、自分を見たことないの?」
「ム……確かに背は高いですな・・・顔は知りません」
自分の体の大きさと顔の良さに気付かないエステロだった。
エステロは、美形だったのです。
スクナロとヌロとは顔が違っていて、とても整った顔をしています。
「それじゃあ、ソフィアどうする。私が護衛するか。騎士団で!」
「いや、それだと大事じゃん。ヒストリア。団長なんでしょ!」
「まあ、確かにな。それはまずいか。目立ったら狙われるな……」
「そうだよ。だからコソコソ帰るから大丈夫。二人で帰れば大丈夫よ。ね。レヴィ」
「そうですね。二人で帰りましょうか」
「そうか。んで、どっから帰るんだ? 歩きだとすると、山か? それともあっちの陸地か」
ヒストリアが聞いてきた。
「・・・・船」
言いにくそうにソフィア様が言った。
「「「船!?」」」
当然、三人が驚いた。
「だって船で来たんだもん・・・カルゼン、嘘ついてごめんね」
騙したのが悪いと思ったソフィア様は、口を開けて驚いているカルゼンに謝った。
「はぁ。そうか。良く生きていたな。ここらは海賊どもがいるからな。運が良いわ」
「そうなんだ・・・ヒストリアごめんね」
「ふっ。謝んな。来ちまったものは仕方ない。度胸があるとみて、私は好きだ。そういう度胸と根性がな! こんな奴に騎士団に入って欲しいわ」
ヒストリアは笑っていた。
何回も度胸いいなお前と言って、ソフィア様の頭を撫でた。
その間にエステロが会話の中心になる。
「そうですね。船に乗るのは危険ですね。しかし、船で帰らねばならないのなら、ここらの敵を一掃しておいた方がいい。出来るだけ危険は減らした方がお家に帰れるでしょう」
「ん? どうしたエステロ?」
「姉上。敵を斬り伏せた感じ。強いのですよね」
「ああ。強い。見えないしな」
「見えない?」
「そうだ。レヴィが言うには、敵は影に生きているらしい。姿が消えているんだ」
「そんなのどうやって倒したのですか」
「気配だ。私が戦場で戦う時のように敵の気配で相手をぶった斬った」
「は、はぁ?」
なんて無茶苦茶なと、エステロはため息をついた。
「だから、奴らと戦えるのは、私以外の騎士団だと、お前とユーしかいない。だからウインド騎士団も、盾役くらいにしか役には立たんぞ。どうするか・・・」
「そうですか。今はユーさんはいませんから、私も戦闘をやらねば……少しお時間をください」
エステロがそう言うと、目を瞑り始めた。
一分くらいの時間、頭を整理しているようだった。
「そうなると、これはどうでしょう。姉上」
「何か思いついたか」
「はい」
作戦立案がエステロ。実行と責任を負うのがヒストリア。
それがこの帝国の二大天才の戦いの方式でした。
「姉上。騎士団の中で彼女と背格好が近い人物をお借りします」
「なんでだ」
「彼女の身代わりをしてもらいましょう。私が護衛をして、囮として、港を一周してから、都市の内陸方面に移動をします。そうすることで、彼女たちが無事に逃げられると思います」
「なるほど・・・。囮で敵をおびき出すわけか。一度港に行くところがミソだな。それで釣っていくわけだ」
「そうです。彼女が逃げられるならそれが一番良いかと」
「よし。エス。騎士団の連中をここに呼べ。カルゼンとの緊急での軍事訓練だとしてここに集めろ」
「わかりました。そのようにします」
二人は即断即決型の人間です。思いついてから実行までの速度が速かったのです。
「カルゼン。いいだろ」
「ヒストリア・・・その許可を取る前に、もっと先に私に言うべきことがあるでしょう」
「ふっ。たしかにな」
「ええ。でも、もちろんいいですよ。あなたを信頼してますからね」
「ああ。サンキュ」
カルゼンもまた、彼女の友人にふさわしい決断力を持っている人物でした。
しばらくして、騎士団が集まる。
選抜メンバーを集めて、ソフィア様に近しい人を選び、早速作戦通りの動きをしました。
エステロが護衛隊長として、街を移動。
港がある北へと進んで、引き返すころには東側へと言って南の内陸部へ歩く。
そうなると、ラーゼをぐるりと一周するかのような形になりますから、敵の目が集中するはずでした。
それに私が、その移動を影から確認していました。
太陽の技を駆使して、彼らを尾行すると、案の定敵は食らいついていました。
影は五つ。エステロを追いかけていました。
なので、カルゼンの屋敷に戻って、ヒストリアに報告すると。
「そうか。じゃあ、移動しな。バレないように帰るんだぞ」
「うん。ありがとね。ヒストリア」
二人が抱擁した後。カルゼンが頭を下げる。
「・・・ソフィア様。何かがありましたら、ぜひ。こちらを頼りにしてください。ここに来てください。必ずお守りします」
「うん。でも迷惑じゃ」
「いいのです。我らは太陽の人を待つ・・・いつまでも待っているのです。たとえ、私の代ではなくても」
「・・・わかった。そうするね」
「ええ。待っています。ソフィア様」
最後までカルゼンは紳士でした。
彼女を崇拝する気持ちはあっても、無理強いすることもなく引き下がれるのはなかなかできる事ではないでしょう。
「それでは。移動を開始します。ソフィア様いきますよ」
「うん。帰ろうか。あんな場所でもお家みたいだし」
「あんな場所って・・・はぁ。いいでしょう。いきます。では、ありがとうございました。カルゼンさん。ヒストリアさん」
「ええ。また」
「じゃあな。頑張れよ。レヴィ」
「はい。ありがとうございました」
私たちはこうして無事に帰ったと思いました。
皆さんの協力を得て、作戦はバッチリハマったと思ったのです。
現に、エステロの方に出てきた影は、彼によって倒されています。
彼もまた武芸の達人でありました。
かなりの腕前の戦士であったのです。
だから安全だと思ったのです。ですが、私たちは甘かった。
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旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
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