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第二部 辺境伯に続く物語
第179話 ラーゼの希望もまた太陽の人
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カルゼンのお屋敷に戻った私たち。
接待部屋に案内された私、ソフィア様、ヒストリアで、カルゼンをしばらく待っていると。
「なあ。なんであんなにカルゼンはソフィアにご執心なんだ。なんか知ってるか?」
出窓の部分に腰かけて座るヒストリアが私に向かって話しかけてきました。
「知りませんよ。私に聞かれても」
ソフィア様ではらちが明かないと思ったのでしょう。
ヒストリアは、正確に話すことが出来る私を頼りにしてきました。
「そうか。お付きのあんたでも知らないなら、こっちは当然・・・」
ソフィア様を疑うヒストリアは顔を動かさずに目だけ動かして、彼女を見た。
すぐに気づいたソフィア様は怒り出す。
「なによ。私には分からないのが当然だって言いたいわけ」
「じゃあ、分かるのか?」
「全然!!! わからない!!!」
「なんだよこの問答。無駄だ。お前に聞いた意味がない。時間の無駄だ。ハハハハ」
「そうだよね。ハハハ」
この二人、どこか似ているのかもしれない。
笑いどころとタイミングが全く同じでした。
「失礼します。ソフィア様」
カルゼンがノックして部屋に入ってきた。
正装している彼は、真剣な表情だった。
「ねえ。なんか嫌だわ。カルゼン。何でソフィア様なの。友達じゃないの。私たち?」
「と、友達など・・滅相もない。ソフィア様は太陽の人。私では友達など無理です」
「えええええ? 友達がいいのになぁ」
不満そうな顔をしたソフィア様に慌てているのがカルゼンだった。
今までの彼ならば、笑顔で対応してくれているのに、急に態度が変わったのだ。
「では、お聞きしたい。なぜそのような態度に変わったのですか? 丁寧すぎます」
私が聞くと、逆にカルゼンは冷静になった。
「レヴィさんは、自分たちがどのような人間であるか。ご存じないのですか」
「はい、知りません。私はともかく。ソフィア様はただの里のお姫様です。こちらのお偉い方に頭を下げてもらうくらいの大層な人間ではありません。ソフィア様はただの我儘娘ですから」
「あ、なによそれ。私の事、馬鹿にしてるでしょ」
「馬鹿にしてません!!! 正直に、ありのままをお伝えしただけです」
「あああ。普段から馬鹿にしてるんだぁ」
「話が進まないので、黙っててください。ソフィア様!」
「ムスッ!!!」
と自分で言ってソフィア様は膨れっ面になった。
ヒストリアのそばに行って、よしよしと頭を撫でられて機嫌を整えていた。
「事情を知らないようなので、お話します。我々に伝わる話です・・・・しかしここで、あなた様ではなく。ヒストリア様、あなたに聞かないといけない。今からする話をあなたもお聞きしますか? これを聞くと、あなたも後戻りできない」
「どういうことだ?」
ソフィア様の頭を撫でながら、ヒストリアは答える。
「あなたは、皇帝となる御覚悟がありますか? それなくして、話せない」
「は? どういうことだ」
「ありますか。ヒストリア!」
「・・・ああ、あるよ。カルゼン」
お二人は、ご友人でした。
幼い頃に出会っているそうで、友人関係であったそうです。
親しい態度と、公の態度が混じる会話でした。
「ならば、これを聞けば、あなたは皇帝とならねばならない。そして、こちらの太陽の人を、信じないといけません。保護しないといけません」
「ん? ソフィアをか」
「はい。そうです。あなたの立場では、今もあるかどうかしりませんが、あるとしたら敵組織からも守らないといけない・・・」
「ん? 敵組織だと……」
「ええ。そうです」
「わかった。いいだろう。カルゼン。話せ」
「わかりました」
カルゼンは、私たちに対して色々説明してくれました。
「私の国。ラーゼは、太陽の人を待つ国です。それはかつて、この地にあったロベルトという地域からの願いであります。希望であります」
「ロベルト・・・なんか聞いたことがあるな」
「はい。あなたもその昔、帝都で勉強したでしょう。私と一緒にその授業にはいたはずだ」
「……んん。忘れた!」
「はぁ。まあいいでしょう。かつての帝国にあったロベルトは一瞬の地域でした。一時現れた都市として、一部の学者の間では有名であります。その期間は五年ほどだったとされています。そして具体的には年数くらいの記録しかおそらく残っておらず、教科書などにも、その程度しか書かれておりませんので、一般人はこの五年くらいの知識しか知りません。なので一部の学者だけが、その地の事を勉強するのです。分からないことが気になりますからね」
「なんで? そんなに知られてないの?」
軽い返事でありましたが、ソフィア様も話を真剣に聞いていました。
「それはですね。この歴史だけは表に出さないでおこうとする当時の皇帝陛下の配慮があったのです」
「ふ~ん」
「ロベルトを支配していたのは、ソルヴァンスです。最初にこの地に現れた。太陽の人、ソルヴァンスです。ご存じありませんか。ソフィア様」
カルゼンはソフィア様に聞いてきた。
「・・ソルヴァンスね・・・誰だっけ。聞いたことあるような名前だわ」
「はぁ。ソフィア様。我々の里長の初代の方ですよ。あなた様の先祖です」
「へぇ。そんな名前だっけ。ソルヴァンスね……」
「そうですよ。今はあなた様で11代目。3代目以降はいいとして、初代の名前くらい覚えておいてくださいよ」
ソフィア様は、過去のものとかには興味がありますが、なぜか歴史には興味がありませんでした。
勉学が嫌いだったのでしょうね。全く困った方でした。
「それならばやはり、あなた様が太陽の人であるのは確定だ! よかった。この話をして、全く違う人に教えるのはよくありませんからね」
「ふ~ん。そうなんだ。それで話の続きは」
「ええ。それで、ソルヴァンスは、当時の帝国で最強の都市を作り上げてしまいました。それは、ワルベント大陸の人間を中心に、様々な技術が混ざり合った結果でした。発展したロベルトは帝国一の大都市になってしまったのです」
「なんか、それじゃあ駄目みたいな言い方だよね」
「ええ。そうなんです。そのせいで帝国中から圧力を受ける形になりました。ソルヴァンスを始めとする家臣、民らにも嫌がらせが始まったのです。帝国からの執拗な嫌がらせは、彼らを苦しめ、最終的にはソルヴァンスも苦しんだのです。それで彼は決断したのです。当時の皇帝と親友のような関係だったソルヴァンスは、自分が作った都市を分解しました。帝国人として生きていきたい者は、帝都や他の都市へ。ソルヴァンスについていきたい者はいずこかへ。そして、ソルヴァンスが皇帝の為に置いたのが、自身の力です。とある組織を配置したのです。正しい判断を下したと思われたソルヴァンスでありましたが。しかし、それらの中で帝国を恨む者が現れてしまったのです」
この説明は、ここで初めて聞いたことでした。
これらは先程、フュン様にお伝えした内容と同じものですが、この内容をですね。
この時期の私たちが知らなかったのは、ソフィア様がまだ当主ではなかったからと、私がまだ正式な太陽の戦士ではなかったからです。
太陽の戦士に選ばれると最初にこの授業を受けるらしいのです。
そして、カルゼンが知っていた理由は、第一王子という立場であって正統後継者だったからこそ知るお話でした。
なのでカルゼンの弟はこの話を知りません。
それと、皇帝候補のヒストリアも同様です。
帝国の皇帝陛下は代々この話を知ります。
ただ、この話が皇帝のみになるのは、広く皇帝の子らに知られるわけにはいかないからです。
傍系にまで伝わると、秘密が漏れて敵方にも情報が入るからです。
だから、ここまで厳重だったのは、太陽の人を守るためでもあります。
どこかで生きてくれるのであればそれでいい。
太陽の人の命を守りたい。
そう考えたのが、ガルナズン帝国皇帝フィシャーの友人としてのせめてもの罪滅ぼしなのだそうです。
彼と親友になったフィシャーの願いでもあるからこそ、歴代の皇帝たちはこの事実を黙っていました。
そして、これが律儀であるところは、我らドノバンの民を知らずにしてガルナズン帝国はこの秘密を守ってくれているという事です。
彼らは、太陽の人が今も続いているかどうかも分からないのに、私たちの為に黙っていてくれているのでした。
「そして敵の組織をナボルと言うそうです」
「なんだ。詳しくは知らんのか」
ヒストリアが聞いた。
「ええ。知りません。最初のナボルとの戦いだけが、私たちの国の歴史にあるだけなので。あとは歴史の表には出てこないために。今もあるかどうかわからない組織。闇の組織となっています」
そうです。
この時は敵組織がいまだに存続しているのかを知りませんでした。
「ほう。戦っているのか。お前たち」
「ええ。建国して三年後に戦っているそうです」
「勝ってるのか?」
「そうらしいです。撃退という文字だけが、ラーゼ王家の秘密の古文書にあります」
「そうか・・・それ、いつだ?」
「220年前と言われています。正確な日付が残ってません」
「わかった。結構前だな。大体でもいいだろう。勝ってるという歴史が大切だ」
ラーゼとナボルは戦っていた。
それも大きな戦でもあったらしいです。
「今から話を戻しますと、ラーゼの建国理由。それがあなた様なのです。ソフィア様」
「私?」
「ええ。太陽の人が、この国に帰って来てもいいように、太陽の人と別れたロベルトの民が集まって作った国。それがラーゼであります。なので、建国理由は太陽の人の帰りを待つです。だから我々の国旗は黄金竜で、空を見上げているのです。太陽を待っているからです」
今の説明で、私たちはラーゼの通りにあった国旗の意味がわかりました。
太陽の人に帰ってきてほしい。
その願いが至る所に込められていたのだと思いました。
「そんな理由で国を作った? え、でもだって私は・・・あんなところに居たのに・・・ねえ。レヴィ」
「ええ。そうですね。我々は狭い場所にいました。これは長に、話を聞かねばなりませんね。私たちはただ別大陸から来た俗世から離れた人種なのかと思っていました」
私とソフィア様は、混乱してました。
一度に聞かされた情報として、量が多すぎて脳が処理できなかったのです。
「そうですか。では、ここでマメ知識を話しましょう。ラーゼの兵力。これが強いのにも理由があります。ヒストリア。君も知っていますでしょ。ラーゼが強い事は」
「ああ、この国の奴らとはな。私のウインド騎士団の数が少ない場合は戦っちゃいけないんだわ。ということはだ。ここの力は、帝国最強クラスの力さ」
ヒストリアの言葉を逆にすると、自分の戦力こそが、帝国で最も強いと言っているのと同じだった。
あと、それで彼女の持つ力とラーゼが同等ならば、ラーゼもまた最強なのだと思いました。
「そうでしょう。そして、バルナガン。あそこに鍛冶師が多くいるのが不思議じゃありませんか?」
「ん。ああ、いい鉄が取れて職人が多いからじゃないのか。別に不思議に思う程じゃ」
「それも意見として正しいですが、実はそれだけじゃないんです。鉄が取れるだけであそこに職人が多いのは違います。あそこには、ロベルトの職人たちが住んだから、腕の良い職人が集まっているのです。だから、彼らの先祖も太陽の人たちと同じく別大陸の人であります。その事を彼らが知っているかは知りませんがね」
「そうなのか・・・じゃあ、別大陸の住民が、帝国を発展させてきたのか」
「そうとも言えます。こちらのラーゼの薬学も、ワルベント大陸から来た人間の研究の成果とも言われていますからね。だから全ては太陽の人のおかげなのです」
「そうか。じゃあ、その人達を大切にしなかった帝国が糞だな。まずい国だな」
「ええ。そうです。ですが、全ては当時の事ですから、彼らの意志が分からない限りは、そこは何とも言えません。240年ほど前の話ですからね。詳しく知る者などいませんよ」
「そうだろうな。そこまで生きてたらバケモンだ。ハハハ。ジジイとババアすぎるな」
ヒストリアは一人で笑っていた。
余裕な態度を貫き通す。
急に伝えられる情報にも動揺せず、いつもの状態の女性だった。
「そして、話を戻しますと。色々あった太陽の人は、歴史の裏に引っ込んでしまいました。しかし、どこに行ったのかもわからずとも私たちは、太陽の人が生きていると信じ、待ち続けていたのです。ラーゼの王と、その後継者は、太陽の人がこちらにお帰りになるまでの王だと思い続けて、ソルヴァンス様の思いを守ろうとしていたのですよ。彼から受け継いだ意志の元に国を作りましたから」
「そうなんだ。大変だったね」
カルゼンとソフィア様には温度差がありました。
カルゼンにはこの話に対する情熱がありましたからね。
「ええ。ですが、こうして太陽の人がお帰りになられたのならば、玉座をお返しして」
「いらない。私、王様なんて嫌! つまんない」
「え?」
「だって知らないよ。二百年以上の前の話なんて。それに私たちの長から話聞いてないし。事情が違うでしょ。こっちだってさ! あなたたちは、そういう思い。でも私たちがそんな思いのなのかは分からないでしょ! なら、無理くり王様にしようなんて駄目よ。それじゃあ、駄目。人には意思があるのよ。過去の思いもあるけど。今を生きる人の意思もあるの!」
「・・・そうですね。それは正しい・・・過去もあるけど、今もあるか・・・」
カルゼンは、ソフィア様の言葉で止まってしまった。
てっきり、王様になるまでは強引に話を進めるのかと思ったら、カルゼンはソフィア様を尊重していました。
「そうだよな。過去の奴らの思いは大切だけど、私らだって大切だぜ。だから私は、この無意味な内戦を終わらせたいんだ。意味ないことはしたくない! 私は必ず一つの帝国にするんだ!」
「そうよ! 頑張れ。ヒストリア!」
「おう。頑張るよ。やってやるわ!」
「「ハハハハハハ」」
我々についての話だったのが、なぜか二人の方が意気投合した話となったのでした。
ここで、盛り上がって楽しくなったヒストリアとソフィア様が、肩を組んで鼻歌を歌っていると・・・。
私と、ヒストリアが同時に気付いた。
「誰か来たな!」
「ええ、そうですね・・・この動きは裏の動きです。それも雑な影となっている・・・これは太陽の技ではありませんね・・・」
「影? 太陽の技? なんだそれ。でも気配が変だ。結構いるな」
ヒストリアは武芸の達人として、影の力を感じました。
だから、彼女は戦いの大天才であったのです。
接待部屋に案内された私、ソフィア様、ヒストリアで、カルゼンをしばらく待っていると。
「なあ。なんであんなにカルゼンはソフィアにご執心なんだ。なんか知ってるか?」
出窓の部分に腰かけて座るヒストリアが私に向かって話しかけてきました。
「知りませんよ。私に聞かれても」
ソフィア様ではらちが明かないと思ったのでしょう。
ヒストリアは、正確に話すことが出来る私を頼りにしてきました。
「そうか。お付きのあんたでも知らないなら、こっちは当然・・・」
ソフィア様を疑うヒストリアは顔を動かさずに目だけ動かして、彼女を見た。
すぐに気づいたソフィア様は怒り出す。
「なによ。私には分からないのが当然だって言いたいわけ」
「じゃあ、分かるのか?」
「全然!!! わからない!!!」
「なんだよこの問答。無駄だ。お前に聞いた意味がない。時間の無駄だ。ハハハハ」
「そうだよね。ハハハ」
この二人、どこか似ているのかもしれない。
笑いどころとタイミングが全く同じでした。
「失礼します。ソフィア様」
カルゼンがノックして部屋に入ってきた。
正装している彼は、真剣な表情だった。
「ねえ。なんか嫌だわ。カルゼン。何でソフィア様なの。友達じゃないの。私たち?」
「と、友達など・・滅相もない。ソフィア様は太陽の人。私では友達など無理です」
「えええええ? 友達がいいのになぁ」
不満そうな顔をしたソフィア様に慌てているのがカルゼンだった。
今までの彼ならば、笑顔で対応してくれているのに、急に態度が変わったのだ。
「では、お聞きしたい。なぜそのような態度に変わったのですか? 丁寧すぎます」
私が聞くと、逆にカルゼンは冷静になった。
「レヴィさんは、自分たちがどのような人間であるか。ご存じないのですか」
「はい、知りません。私はともかく。ソフィア様はただの里のお姫様です。こちらのお偉い方に頭を下げてもらうくらいの大層な人間ではありません。ソフィア様はただの我儘娘ですから」
「あ、なによそれ。私の事、馬鹿にしてるでしょ」
「馬鹿にしてません!!! 正直に、ありのままをお伝えしただけです」
「あああ。普段から馬鹿にしてるんだぁ」
「話が進まないので、黙っててください。ソフィア様!」
「ムスッ!!!」
と自分で言ってソフィア様は膨れっ面になった。
ヒストリアのそばに行って、よしよしと頭を撫でられて機嫌を整えていた。
「事情を知らないようなので、お話します。我々に伝わる話です・・・・しかしここで、あなた様ではなく。ヒストリア様、あなたに聞かないといけない。今からする話をあなたもお聞きしますか? これを聞くと、あなたも後戻りできない」
「どういうことだ?」
ソフィア様の頭を撫でながら、ヒストリアは答える。
「あなたは、皇帝となる御覚悟がありますか? それなくして、話せない」
「は? どういうことだ」
「ありますか。ヒストリア!」
「・・・ああ、あるよ。カルゼン」
お二人は、ご友人でした。
幼い頃に出会っているそうで、友人関係であったそうです。
親しい態度と、公の態度が混じる会話でした。
「ならば、これを聞けば、あなたは皇帝とならねばならない。そして、こちらの太陽の人を、信じないといけません。保護しないといけません」
「ん? ソフィアをか」
「はい。そうです。あなたの立場では、今もあるかどうかしりませんが、あるとしたら敵組織からも守らないといけない・・・」
「ん? 敵組織だと……」
「ええ。そうです」
「わかった。いいだろう。カルゼン。話せ」
「わかりました」
カルゼンは、私たちに対して色々説明してくれました。
「私の国。ラーゼは、太陽の人を待つ国です。それはかつて、この地にあったロベルトという地域からの願いであります。希望であります」
「ロベルト・・・なんか聞いたことがあるな」
「はい。あなたもその昔、帝都で勉強したでしょう。私と一緒にその授業にはいたはずだ」
「……んん。忘れた!」
「はぁ。まあいいでしょう。かつての帝国にあったロベルトは一瞬の地域でした。一時現れた都市として、一部の学者の間では有名であります。その期間は五年ほどだったとされています。そして具体的には年数くらいの記録しかおそらく残っておらず、教科書などにも、その程度しか書かれておりませんので、一般人はこの五年くらいの知識しか知りません。なので一部の学者だけが、その地の事を勉強するのです。分からないことが気になりますからね」
「なんで? そんなに知られてないの?」
軽い返事でありましたが、ソフィア様も話を真剣に聞いていました。
「それはですね。この歴史だけは表に出さないでおこうとする当時の皇帝陛下の配慮があったのです」
「ふ~ん」
「ロベルトを支配していたのは、ソルヴァンスです。最初にこの地に現れた。太陽の人、ソルヴァンスです。ご存じありませんか。ソフィア様」
カルゼンはソフィア様に聞いてきた。
「・・ソルヴァンスね・・・誰だっけ。聞いたことあるような名前だわ」
「はぁ。ソフィア様。我々の里長の初代の方ですよ。あなた様の先祖です」
「へぇ。そんな名前だっけ。ソルヴァンスね……」
「そうですよ。今はあなた様で11代目。3代目以降はいいとして、初代の名前くらい覚えておいてくださいよ」
ソフィア様は、過去のものとかには興味がありますが、なぜか歴史には興味がありませんでした。
勉学が嫌いだったのでしょうね。全く困った方でした。
「それならばやはり、あなた様が太陽の人であるのは確定だ! よかった。この話をして、全く違う人に教えるのはよくありませんからね」
「ふ~ん。そうなんだ。それで話の続きは」
「ええ。それで、ソルヴァンスは、当時の帝国で最強の都市を作り上げてしまいました。それは、ワルベント大陸の人間を中心に、様々な技術が混ざり合った結果でした。発展したロベルトは帝国一の大都市になってしまったのです」
「なんか、それじゃあ駄目みたいな言い方だよね」
「ええ。そうなんです。そのせいで帝国中から圧力を受ける形になりました。ソルヴァンスを始めとする家臣、民らにも嫌がらせが始まったのです。帝国からの執拗な嫌がらせは、彼らを苦しめ、最終的にはソルヴァンスも苦しんだのです。それで彼は決断したのです。当時の皇帝と親友のような関係だったソルヴァンスは、自分が作った都市を分解しました。帝国人として生きていきたい者は、帝都や他の都市へ。ソルヴァンスについていきたい者はいずこかへ。そして、ソルヴァンスが皇帝の為に置いたのが、自身の力です。とある組織を配置したのです。正しい判断を下したと思われたソルヴァンスでありましたが。しかし、それらの中で帝国を恨む者が現れてしまったのです」
この説明は、ここで初めて聞いたことでした。
これらは先程、フュン様にお伝えした内容と同じものですが、この内容をですね。
この時期の私たちが知らなかったのは、ソフィア様がまだ当主ではなかったからと、私がまだ正式な太陽の戦士ではなかったからです。
太陽の戦士に選ばれると最初にこの授業を受けるらしいのです。
そして、カルゼンが知っていた理由は、第一王子という立場であって正統後継者だったからこそ知るお話でした。
なのでカルゼンの弟はこの話を知りません。
それと、皇帝候補のヒストリアも同様です。
帝国の皇帝陛下は代々この話を知ります。
ただ、この話が皇帝のみになるのは、広く皇帝の子らに知られるわけにはいかないからです。
傍系にまで伝わると、秘密が漏れて敵方にも情報が入るからです。
だから、ここまで厳重だったのは、太陽の人を守るためでもあります。
どこかで生きてくれるのであればそれでいい。
太陽の人の命を守りたい。
そう考えたのが、ガルナズン帝国皇帝フィシャーの友人としてのせめてもの罪滅ぼしなのだそうです。
彼と親友になったフィシャーの願いでもあるからこそ、歴代の皇帝たちはこの事実を黙っていました。
そして、これが律儀であるところは、我らドノバンの民を知らずにしてガルナズン帝国はこの秘密を守ってくれているという事です。
彼らは、太陽の人が今も続いているかどうかも分からないのに、私たちの為に黙っていてくれているのでした。
「そして敵の組織をナボルと言うそうです」
「なんだ。詳しくは知らんのか」
ヒストリアが聞いた。
「ええ。知りません。最初のナボルとの戦いだけが、私たちの国の歴史にあるだけなので。あとは歴史の表には出てこないために。今もあるかどうかわからない組織。闇の組織となっています」
そうです。
この時は敵組織がいまだに存続しているのかを知りませんでした。
「ほう。戦っているのか。お前たち」
「ええ。建国して三年後に戦っているそうです」
「勝ってるのか?」
「そうらしいです。撃退という文字だけが、ラーゼ王家の秘密の古文書にあります」
「そうか・・・それ、いつだ?」
「220年前と言われています。正確な日付が残ってません」
「わかった。結構前だな。大体でもいいだろう。勝ってるという歴史が大切だ」
ラーゼとナボルは戦っていた。
それも大きな戦でもあったらしいです。
「今から話を戻しますと、ラーゼの建国理由。それがあなた様なのです。ソフィア様」
「私?」
「ええ。太陽の人が、この国に帰って来てもいいように、太陽の人と別れたロベルトの民が集まって作った国。それがラーゼであります。なので、建国理由は太陽の人の帰りを待つです。だから我々の国旗は黄金竜で、空を見上げているのです。太陽を待っているからです」
今の説明で、私たちはラーゼの通りにあった国旗の意味がわかりました。
太陽の人に帰ってきてほしい。
その願いが至る所に込められていたのだと思いました。
「そんな理由で国を作った? え、でもだって私は・・・あんなところに居たのに・・・ねえ。レヴィ」
「ええ。そうですね。我々は狭い場所にいました。これは長に、話を聞かねばなりませんね。私たちはただ別大陸から来た俗世から離れた人種なのかと思っていました」
私とソフィア様は、混乱してました。
一度に聞かされた情報として、量が多すぎて脳が処理できなかったのです。
「そうですか。では、ここでマメ知識を話しましょう。ラーゼの兵力。これが強いのにも理由があります。ヒストリア。君も知っていますでしょ。ラーゼが強い事は」
「ああ、この国の奴らとはな。私のウインド騎士団の数が少ない場合は戦っちゃいけないんだわ。ということはだ。ここの力は、帝国最強クラスの力さ」
ヒストリアの言葉を逆にすると、自分の戦力こそが、帝国で最も強いと言っているのと同じだった。
あと、それで彼女の持つ力とラーゼが同等ならば、ラーゼもまた最強なのだと思いました。
「そうでしょう。そして、バルナガン。あそこに鍛冶師が多くいるのが不思議じゃありませんか?」
「ん。ああ、いい鉄が取れて職人が多いからじゃないのか。別に不思議に思う程じゃ」
「それも意見として正しいですが、実はそれだけじゃないんです。鉄が取れるだけであそこに職人が多いのは違います。あそこには、ロベルトの職人たちが住んだから、腕の良い職人が集まっているのです。だから、彼らの先祖も太陽の人たちと同じく別大陸の人であります。その事を彼らが知っているかは知りませんがね」
「そうなのか・・・じゃあ、別大陸の住民が、帝国を発展させてきたのか」
「そうとも言えます。こちらのラーゼの薬学も、ワルベント大陸から来た人間の研究の成果とも言われていますからね。だから全ては太陽の人のおかげなのです」
「そうか。じゃあ、その人達を大切にしなかった帝国が糞だな。まずい国だな」
「ええ。そうです。ですが、全ては当時の事ですから、彼らの意志が分からない限りは、そこは何とも言えません。240年ほど前の話ですからね。詳しく知る者などいませんよ」
「そうだろうな。そこまで生きてたらバケモンだ。ハハハ。ジジイとババアすぎるな」
ヒストリアは一人で笑っていた。
余裕な態度を貫き通す。
急に伝えられる情報にも動揺せず、いつもの状態の女性だった。
「そして、話を戻しますと。色々あった太陽の人は、歴史の裏に引っ込んでしまいました。しかし、どこに行ったのかもわからずとも私たちは、太陽の人が生きていると信じ、待ち続けていたのです。ラーゼの王と、その後継者は、太陽の人がこちらにお帰りになるまでの王だと思い続けて、ソルヴァンス様の思いを守ろうとしていたのですよ。彼から受け継いだ意志の元に国を作りましたから」
「そうなんだ。大変だったね」
カルゼンとソフィア様には温度差がありました。
カルゼンにはこの話に対する情熱がありましたからね。
「ええ。ですが、こうして太陽の人がお帰りになられたのならば、玉座をお返しして」
「いらない。私、王様なんて嫌! つまんない」
「え?」
「だって知らないよ。二百年以上の前の話なんて。それに私たちの長から話聞いてないし。事情が違うでしょ。こっちだってさ! あなたたちは、そういう思い。でも私たちがそんな思いのなのかは分からないでしょ! なら、無理くり王様にしようなんて駄目よ。それじゃあ、駄目。人には意思があるのよ。過去の思いもあるけど。今を生きる人の意思もあるの!」
「・・・そうですね。それは正しい・・・過去もあるけど、今もあるか・・・」
カルゼンは、ソフィア様の言葉で止まってしまった。
てっきり、王様になるまでは強引に話を進めるのかと思ったら、カルゼンはソフィア様を尊重していました。
「そうだよな。過去の奴らの思いは大切だけど、私らだって大切だぜ。だから私は、この無意味な内戦を終わらせたいんだ。意味ないことはしたくない! 私は必ず一つの帝国にするんだ!」
「そうよ! 頑張れ。ヒストリア!」
「おう。頑張るよ。やってやるわ!」
「「ハハハハハハ」」
我々についての話だったのが、なぜか二人の方が意気投合した話となったのでした。
ここで、盛り上がって楽しくなったヒストリアとソフィア様が、肩を組んで鼻歌を歌っていると・・・。
私と、ヒストリアが同時に気付いた。
「誰か来たな!」
「ええ、そうですね・・・この動きは裏の動きです。それも雑な影となっている・・・これは太陽の技ではありませんね・・・」
「影? 太陽の技? なんだそれ。でも気配が変だ。結構いるな」
ヒストリアは武芸の達人として、影の力を感じました。
だから、彼女は戦いの大天才であったのです。
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不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
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そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
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主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
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