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第二部 辺境伯に続く物語
第171話 防御陣形
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臨時でお金を調達したフュンは、アンと共にサナリアに戻っていた。
もちろんシルヴィアは、帝都に置いてきている。
帰りたくないといつまでも文句を言っていた彼女を無視して、フュンはあとの事をジークに任せて帰った。
まあ彼女のその後は・・・・大体誰でも想像がつくだろう。
ジークの苦労が瞼の裏に映し出されるようだ。
◇
「さて、最後の二人が揃ってますかね」
フュンがサナリアの会議室に到着すると、二人の男女がサブロウの前にいた。
お目当ての人物の前で、フュンは笑顔でいた。
「フュンぞ。完成したぞ。ほれ」
サブロウから挨拶が始まると。
「この度は、申し訳ないことをした。感謝です。ありがとうございました」
青い髪の男性が深く頭を下げる。
「私もです。フュン様。命をありがとうございます」
そばかすの女性も同じくらいに頭を下げた。
「いえいえ。お二人のおかげで、僕は倒すべき人を見つけましたからね・・・お二人のおかげですから、そんなに低姿勢にならずともよいのですよ。ハハハ」
軽く笑いながらフュンも頭を下げた。
「それでお二人に名がないのはよくないので。今からお二人に名を与えます。ここ、サナリアの地では、あなたはレイエフで。あなたはナタリア。これになりきってください。偽装術も完璧だと聞きました。だからなりきれるでしょう。ですからレイエフとナタリアとして、これからよろしくお願いしますね」
「「はい領主様」」
再び頭を下げた。
「では、役職も与えます。レイエフさんは、バランサーになってもらいます。内政調整役です。上手くいかない部分をマルフェンさんと共に補強してください。お得意ですよね?」
「はい。お任せを」
「ありがとうございます。次にナタリアさんは、情報部の長になってもらいます。シガーが領主代理になったので、あそこのポストが空いてしまったのでね。あなたの得意分野です。あなたにやってもらいたい。いいでしょうか?」
「了解しました」
「それとですね。負けたくないでしょう。お二人とも。夜を彷徨う蛇なんかにね。影の人物となっても負けないでいきましょうよ。奴らは僕らの力で倒しましょう! 一緒に倒しましょう!」
ニヤリと笑いながらフュンが言った。
「当り前です。やってやります」
「必ずやりかえします。この命を懸けても・・・刺し違えてもです」
レイエフとナタリアは力強く返事を返した。
「ええ、そうでしょう。だから今度は、僕らがやり返しますよ。あっちの思うつぼにはならない。思いもよらない一撃をお見舞いしてやりましょう。夜を彷徨う蛇は、徹底的に潰します。帝国にいらない組織でありますからね。お二人とも、一緒に帝国を守りましょう」
「「はい!」」
フュンが組織するサナリアに新たな仲間が加わった。
レイエフとナタリア。
どこかで見たことがあると、シルヴィアが感じた二人。
それがなぜ、彼女がそういう風に思うのかは、今後の出来事で知ることになるだろう。
でも今はまだ、ただのレイエフとナタリアだ。
二人の男女は、フュンを信頼し、夜を彷徨う蛇を倒すその時まで、影に隠れて生きて、死力を尽くすことを決意している。
その固い決意。
それがなぜかもいずれは分かる事だろう・・・。
◇
帝国歴520年11月3日。
「フュン」
「お!」
お昼休みの中。
執務室で昼食を取っていたフュンの背後にカゲロイが立った。
「どうしました。カゲロイ」
「影も育ってきたぞ。完成しているのがチラホラいる」
「え? まだ、三か月ですよ。早くないですか?」
「ああ。元々さ。才能がある奴だけを並べて育てたからな。呑み込みが早いのよ」
「そうですか。ならば、今から配置しましょう。カゲロイ。準備をお願いします」
「ん? 配置」
「ええ。今の夜を彷徨う蛇は、僕らのサナリアの事を警戒しているとは思えない。ですが、ここから爆速で成長していけば、ここを無視できないと思うのでね。僕は奴らが入ってくるルートの全てを封鎖しようと思います」
フュンの中では、元より敵の部隊をサナリアの地に入れない計画があったのだ。
「サナリアの関所。ここはもう僕らが管理しても良い場所にしてもらいましたからね。あそこに影部隊を置きます。関所。そこが第一段階の場所です。相手の影を見抜きます」
実は、この時の為に関所の管理をサナリア側に求めていたのだ。
夜を彷徨う蛇がいなければ、別に帝都の兵士が関所を管理してもよかったのだが、夜を彷徨う蛇が帝国のどこかに潜んでいるので、こちら側が管理するしかないのである。
フュンは抜け目なくこの関所の管理を要求していたのだ。
「そして、あそこから移動できないと敵が悟った場合。山脈から移動してくると予想します。なので、ロイマンが管理する二つの村に影部隊を置きます。サナリア山脈とユーラル山脈にある村です。これで三方向からの侵入を防ぎます」
実はこれも前から予定していた事。
村をそこに作る予定だったのは、敵の侵入を防ぐ意味合いもあったのだ。
影部隊をそこに常駐させて、警戒網を常に張り続けることとするためだ。
「そして、滅多に来ないと思いますが、東からの侵入だけは中々防げないので、元王都。ここに影部隊を置いて、僕らの大都市にだけは敵を近寄らせません。相手はまさか影部隊が各方面にいるとは思わないでしょう。僕らは情報を相手に与えませんよ。カゲロイ。この仕事。サブロウではなくあなたに任せたい」
「俺に?」
「はい。君はもう。フィックスさんやナシュアさん並みに強い影です。それと、サブロウの後を継ぐ者として、この重大な任務を任せたい。後継者はあなたです。それに、本格的に僕の影になってもらいますよ。ニールとルージュと同じように」
「・・・わかった。やるぞ」
「ええ。お願いしますよ。頼りにしてますカゲロイ」
「ああ。任せておけ」
気合いの入ったカゲロイは、サナリアを守るための影部隊を編成し始めた。
◇
サナリアの関所。
サナリアの地を見回りに来たフュンとカゲロイは、最初の訪問場所を関所にした。
ここがサナリアの正面玄関の様な場所だからである。
「これはフュン様」
「あ!? イールさん!!」
「ええ。お元気そうですね。フュン様」
「もちろんですよ。それにイールさんも顔色がいいですね。よかった! あと、こちらの任務に就いてくれたのですね」
「そうです。ここは最初の関門ですよね。余計な人間は通しませんよ!」
「って、そんな人はあんまり来ないですよ。張り切って、商人さんたちに許可しないで通さないのはいけませんからね」
「もちろんわかってますよ。冗談ですよ」
イールたち。
関所の兵士たちは、帝都などから来る商人たちの許可をすればよいだけの仕事だと、シガーから聞かされているのだ。
でもここは、影が来たら、一番最初に撃退しなければならない地である。
だからこそ、カゲロイの部下を配置しようとしているのだ。
イールとの談笑が終わったので、フュンとカゲロイはそこから少し離れた。
「カゲロイ。何人配置しましたか」
「5だ」
「十分ですね。交代しながら、体調を万全にして敵を見極めるようにしてください。相手よりもコンディションを保つのです。そうなればこちらの影が負けることはないでしょう」
「わかった。次に行くのか」
「ええ。いきます。次はロイマンの村です」
二人は移動を開始した。
◇
サナリアの新都市から北西『フーナ村』
ロイマンが形式上の村長ではあるが、ほぼこの村にはいないために代理が置かれている。
それが。
「ジャイキさん!」
「ああ。王子。よくお越しで。ありがとうございます」
「ありがとう???」
「ええ。サナリア草での事業。前よりも安定してますよ。あの化粧品のお手伝いが出来ているからですよね」
「ああ。それですか。そうなんですよ。こっちもジャイキさんたちのおかげで、助かってます。臨時でお金を稼げるのは助かりますからね。こちらが多くお金を取っていますしね。助かってますよ」
「いえいえ。そちらにお金を回しても、前よりも稼げてますからね。俺たち村人は大変満足してるんですよ。それに皆喜んでますよ。恩人に恩返しできるってね」
「そうでしたか。それならよかったですよ。うんうん。それで、ジャイキさんにだけはお伝えしますので、こちらの五名を村に受け入れてください」
「ん?」
カゲロイの背後から五つの影が姿を現した。
突然出てきた人にジャイキが驚く。
「こちらが、影と呼ばれる人たちです。この村にも、もしかしたら敵が潜伏する可能性があるので、僕はここを警戒したくて、彼らを配置させてもらってもいいでしょうか?」
「も、もちろん。いいですよ。ですが敵とは?」
「ジャイキさん。あなたにはお伝えします。ただ、村人さんたちには伝えないでください。余計な不安を抱いて欲しくないですからね。それと、その敵は僕が必ず撃滅します。だから不安に思わないでくださいと、それを付け加えてお伝えしますよ。ハハハハ」
「・・・そこまで・・・あなた様が言うのなら、俺は信じます・・・」
ジャイキは言われたとおりに村人たちには言わないことにした。
敵の正体も空想上に近い感じだなと思い。
それに実際に見たことがない敵なので、余計な不安を与えるのもおかしい話かもしれないと判断してくれたのだ。
「ではカゲロイ。影の皆さんに、ここを守る計画を」
「うし。まかせとけ」
カゲロイが村を視察し、監視強化する場所などを地図上で作成していった。
その後。五人を配置して、フュンたちは。
「次は新しい村に行きます。ジャイキさんたち。ではまた会いましょう~」
ジャイキたちに挨拶をして去っていった。
◇
サナリアの新都市から南西。
フュンは、ユーラル山脈に作られる予定の村に到着する。
「アンジーさん。サヌさん」
「お! 王子だ」
「お久しぶりです」
アンジーとサヌが元気よく返事を返してくれた。
「ええ。お久しぶりです。お二人はこちらに来てくれたんですね」
「ええ。まあ、こっちは元ロイマン殿がいた村に近いですから、土地勘があります」
「そうです。それで、護衛が出来ますからね」
二人はロイマンがいた村のおかげで、こちらに派遣されたようだ。
適材適所で人を配置できるシガーはやはり冷静に事態を把握できる人物なようだ。
「こちらはどの程度、進捗しましたか。ロイマンはいますか?」
「いえ。今はいません。王都の方で資材を調達して、こちらの村の作成に力を注ぐところですね」
アンジーが答えた。
「そうですか。でも建物はいくつかありますね」
「はい! あとは、こっちで木こりになりたい人を募集するところですよ。徐々に人も増やしていくみたいですよ」
サヌが答えた。
「いいですね。順調ですね。それでは、お二人がここの護衛の責任者であれば、こちらも加えてください。カゲロイ」
「うっす。出てきていいぞ」
カゲロイの合図とともに、影から人が五人出てきた。
「うわ!?」「な、なんだ!」
アンジーとサヌが驚く。
影移動を初めて見た人間の反応である。
「こちらの人たちが、お二人と共にこの村を護衛することになります。仲良くやってもらえると嬉しいです」
「「え?」」
「こちらの人々は通常とは違う形の護衛が出来るので、普段は変な動きをするかもしれませんが、お二人と同じくこのサナリアを守るために動いてくれますから、ご安心を」
フュンが二人に頭を下げると、後ろにいる五つの影も頭を下げた。
「わ、わかりました」「よろしくお願いします」
アンジーとサヌが挨拶をすると、五つの影は無言で頷いて軽く頭を下げた。
「よし。では、カゲロイ。五つの影と共に警戒するべき場所を作成してください」
「おう。まかしとけ」
こうしてフュンは、完璧な防御陣形をサナリアに構築し始めた。
育成した一流の影たちで、周りを固め。
重要な新都市を敵から守る。
相手に情報を与えない。
これがフュンの第一の目標である。
暗躍するには、こちらの情報を見せないのが吉であるからだ。
フュンは、サナリアに引っ込んでいる振りをしながら、着実に力をつけていたのだ。
もちろんシルヴィアは、帝都に置いてきている。
帰りたくないといつまでも文句を言っていた彼女を無視して、フュンはあとの事をジークに任せて帰った。
まあ彼女のその後は・・・・大体誰でも想像がつくだろう。
ジークの苦労が瞼の裏に映し出されるようだ。
◇
「さて、最後の二人が揃ってますかね」
フュンがサナリアの会議室に到着すると、二人の男女がサブロウの前にいた。
お目当ての人物の前で、フュンは笑顔でいた。
「フュンぞ。完成したぞ。ほれ」
サブロウから挨拶が始まると。
「この度は、申し訳ないことをした。感謝です。ありがとうございました」
青い髪の男性が深く頭を下げる。
「私もです。フュン様。命をありがとうございます」
そばかすの女性も同じくらいに頭を下げた。
「いえいえ。お二人のおかげで、僕は倒すべき人を見つけましたからね・・・お二人のおかげですから、そんなに低姿勢にならずともよいのですよ。ハハハ」
軽く笑いながらフュンも頭を下げた。
「それでお二人に名がないのはよくないので。今からお二人に名を与えます。ここ、サナリアの地では、あなたはレイエフで。あなたはナタリア。これになりきってください。偽装術も完璧だと聞きました。だからなりきれるでしょう。ですからレイエフとナタリアとして、これからよろしくお願いしますね」
「「はい領主様」」
再び頭を下げた。
「では、役職も与えます。レイエフさんは、バランサーになってもらいます。内政調整役です。上手くいかない部分をマルフェンさんと共に補強してください。お得意ですよね?」
「はい。お任せを」
「ありがとうございます。次にナタリアさんは、情報部の長になってもらいます。シガーが領主代理になったので、あそこのポストが空いてしまったのでね。あなたの得意分野です。あなたにやってもらいたい。いいでしょうか?」
「了解しました」
「それとですね。負けたくないでしょう。お二人とも。夜を彷徨う蛇なんかにね。影の人物となっても負けないでいきましょうよ。奴らは僕らの力で倒しましょう! 一緒に倒しましょう!」
ニヤリと笑いながらフュンが言った。
「当り前です。やってやります」
「必ずやりかえします。この命を懸けても・・・刺し違えてもです」
レイエフとナタリアは力強く返事を返した。
「ええ、そうでしょう。だから今度は、僕らがやり返しますよ。あっちの思うつぼにはならない。思いもよらない一撃をお見舞いしてやりましょう。夜を彷徨う蛇は、徹底的に潰します。帝国にいらない組織でありますからね。お二人とも、一緒に帝国を守りましょう」
「「はい!」」
フュンが組織するサナリアに新たな仲間が加わった。
レイエフとナタリア。
どこかで見たことがあると、シルヴィアが感じた二人。
それがなぜ、彼女がそういう風に思うのかは、今後の出来事で知ることになるだろう。
でも今はまだ、ただのレイエフとナタリアだ。
二人の男女は、フュンを信頼し、夜を彷徨う蛇を倒すその時まで、影に隠れて生きて、死力を尽くすことを決意している。
その固い決意。
それがなぜかもいずれは分かる事だろう・・・。
◇
帝国歴520年11月3日。
「フュン」
「お!」
お昼休みの中。
執務室で昼食を取っていたフュンの背後にカゲロイが立った。
「どうしました。カゲロイ」
「影も育ってきたぞ。完成しているのがチラホラいる」
「え? まだ、三か月ですよ。早くないですか?」
「ああ。元々さ。才能がある奴だけを並べて育てたからな。呑み込みが早いのよ」
「そうですか。ならば、今から配置しましょう。カゲロイ。準備をお願いします」
「ん? 配置」
「ええ。今の夜を彷徨う蛇は、僕らのサナリアの事を警戒しているとは思えない。ですが、ここから爆速で成長していけば、ここを無視できないと思うのでね。僕は奴らが入ってくるルートの全てを封鎖しようと思います」
フュンの中では、元より敵の部隊をサナリアの地に入れない計画があったのだ。
「サナリアの関所。ここはもう僕らが管理しても良い場所にしてもらいましたからね。あそこに影部隊を置きます。関所。そこが第一段階の場所です。相手の影を見抜きます」
実は、この時の為に関所の管理をサナリア側に求めていたのだ。
夜を彷徨う蛇がいなければ、別に帝都の兵士が関所を管理してもよかったのだが、夜を彷徨う蛇が帝国のどこかに潜んでいるので、こちら側が管理するしかないのである。
フュンは抜け目なくこの関所の管理を要求していたのだ。
「そして、あそこから移動できないと敵が悟った場合。山脈から移動してくると予想します。なので、ロイマンが管理する二つの村に影部隊を置きます。サナリア山脈とユーラル山脈にある村です。これで三方向からの侵入を防ぎます」
実はこれも前から予定していた事。
村をそこに作る予定だったのは、敵の侵入を防ぐ意味合いもあったのだ。
影部隊をそこに常駐させて、警戒網を常に張り続けることとするためだ。
「そして、滅多に来ないと思いますが、東からの侵入だけは中々防げないので、元王都。ここに影部隊を置いて、僕らの大都市にだけは敵を近寄らせません。相手はまさか影部隊が各方面にいるとは思わないでしょう。僕らは情報を相手に与えませんよ。カゲロイ。この仕事。サブロウではなくあなたに任せたい」
「俺に?」
「はい。君はもう。フィックスさんやナシュアさん並みに強い影です。それと、サブロウの後を継ぐ者として、この重大な任務を任せたい。後継者はあなたです。それに、本格的に僕の影になってもらいますよ。ニールとルージュと同じように」
「・・・わかった。やるぞ」
「ええ。お願いしますよ。頼りにしてますカゲロイ」
「ああ。任せておけ」
気合いの入ったカゲロイは、サナリアを守るための影部隊を編成し始めた。
◇
サナリアの関所。
サナリアの地を見回りに来たフュンとカゲロイは、最初の訪問場所を関所にした。
ここがサナリアの正面玄関の様な場所だからである。
「これはフュン様」
「あ!? イールさん!!」
「ええ。お元気そうですね。フュン様」
「もちろんですよ。それにイールさんも顔色がいいですね。よかった! あと、こちらの任務に就いてくれたのですね」
「そうです。ここは最初の関門ですよね。余計な人間は通しませんよ!」
「って、そんな人はあんまり来ないですよ。張り切って、商人さんたちに許可しないで通さないのはいけませんからね」
「もちろんわかってますよ。冗談ですよ」
イールたち。
関所の兵士たちは、帝都などから来る商人たちの許可をすればよいだけの仕事だと、シガーから聞かされているのだ。
でもここは、影が来たら、一番最初に撃退しなければならない地である。
だからこそ、カゲロイの部下を配置しようとしているのだ。
イールとの談笑が終わったので、フュンとカゲロイはそこから少し離れた。
「カゲロイ。何人配置しましたか」
「5だ」
「十分ですね。交代しながら、体調を万全にして敵を見極めるようにしてください。相手よりもコンディションを保つのです。そうなればこちらの影が負けることはないでしょう」
「わかった。次に行くのか」
「ええ。いきます。次はロイマンの村です」
二人は移動を開始した。
◇
サナリアの新都市から北西『フーナ村』
ロイマンが形式上の村長ではあるが、ほぼこの村にはいないために代理が置かれている。
それが。
「ジャイキさん!」
「ああ。王子。よくお越しで。ありがとうございます」
「ありがとう???」
「ええ。サナリア草での事業。前よりも安定してますよ。あの化粧品のお手伝いが出来ているからですよね」
「ああ。それですか。そうなんですよ。こっちもジャイキさんたちのおかげで、助かってます。臨時でお金を稼げるのは助かりますからね。こちらが多くお金を取っていますしね。助かってますよ」
「いえいえ。そちらにお金を回しても、前よりも稼げてますからね。俺たち村人は大変満足してるんですよ。それに皆喜んでますよ。恩人に恩返しできるってね」
「そうでしたか。それならよかったですよ。うんうん。それで、ジャイキさんにだけはお伝えしますので、こちらの五名を村に受け入れてください」
「ん?」
カゲロイの背後から五つの影が姿を現した。
突然出てきた人にジャイキが驚く。
「こちらが、影と呼ばれる人たちです。この村にも、もしかしたら敵が潜伏する可能性があるので、僕はここを警戒したくて、彼らを配置させてもらってもいいでしょうか?」
「も、もちろん。いいですよ。ですが敵とは?」
「ジャイキさん。あなたにはお伝えします。ただ、村人さんたちには伝えないでください。余計な不安を抱いて欲しくないですからね。それと、その敵は僕が必ず撃滅します。だから不安に思わないでくださいと、それを付け加えてお伝えしますよ。ハハハハ」
「・・・そこまで・・・あなた様が言うのなら、俺は信じます・・・」
ジャイキは言われたとおりに村人たちには言わないことにした。
敵の正体も空想上に近い感じだなと思い。
それに実際に見たことがない敵なので、余計な不安を与えるのもおかしい話かもしれないと判断してくれたのだ。
「ではカゲロイ。影の皆さんに、ここを守る計画を」
「うし。まかせとけ」
カゲロイが村を視察し、監視強化する場所などを地図上で作成していった。
その後。五人を配置して、フュンたちは。
「次は新しい村に行きます。ジャイキさんたち。ではまた会いましょう~」
ジャイキたちに挨拶をして去っていった。
◇
サナリアの新都市から南西。
フュンは、ユーラル山脈に作られる予定の村に到着する。
「アンジーさん。サヌさん」
「お! 王子だ」
「お久しぶりです」
アンジーとサヌが元気よく返事を返してくれた。
「ええ。お久しぶりです。お二人はこちらに来てくれたんですね」
「ええ。まあ、こっちは元ロイマン殿がいた村に近いですから、土地勘があります」
「そうです。それで、護衛が出来ますからね」
二人はロイマンがいた村のおかげで、こちらに派遣されたようだ。
適材適所で人を配置できるシガーはやはり冷静に事態を把握できる人物なようだ。
「こちらはどの程度、進捗しましたか。ロイマンはいますか?」
「いえ。今はいません。王都の方で資材を調達して、こちらの村の作成に力を注ぐところですね」
アンジーが答えた。
「そうですか。でも建物はいくつかありますね」
「はい! あとは、こっちで木こりになりたい人を募集するところですよ。徐々に人も増やしていくみたいですよ」
サヌが答えた。
「いいですね。順調ですね。それでは、お二人がここの護衛の責任者であれば、こちらも加えてください。カゲロイ」
「うっす。出てきていいぞ」
カゲロイの合図とともに、影から人が五人出てきた。
「うわ!?」「な、なんだ!」
アンジーとサヌが驚く。
影移動を初めて見た人間の反応である。
「こちらの人たちが、お二人と共にこの村を護衛することになります。仲良くやってもらえると嬉しいです」
「「え?」」
「こちらの人々は通常とは違う形の護衛が出来るので、普段は変な動きをするかもしれませんが、お二人と同じくこのサナリアを守るために動いてくれますから、ご安心を」
フュンが二人に頭を下げると、後ろにいる五つの影も頭を下げた。
「わ、わかりました」「よろしくお願いします」
アンジーとサヌが挨拶をすると、五つの影は無言で頷いて軽く頭を下げた。
「よし。では、カゲロイ。五つの影と共に警戒するべき場所を作成してください」
「おう。まかしとけ」
こうしてフュンは、完璧な防御陣形をサナリアに構築し始めた。
育成した一流の影たちで、周りを固め。
重要な新都市を敵から守る。
相手に情報を与えない。
これがフュンの第一の目標である。
暗躍するには、こちらの情報を見せないのが吉であるからだ。
フュンは、サナリアに引っ込んでいる振りをしながら、着実に力をつけていたのだ。
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