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第二部 辺境伯に続く物語
第170話 奇才ジュリアン・ビクトニー
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「さっさと出てこい。ジーク!」
ダーレーのお屋敷に勝手に入ってきた女性。
上が白のタンクトップで、下がタイトなデニムパンツの姿をしている。
それが彼女の普段着らしく、機能性重視である。
もちろん工房に入った時は着替えます!
「こ・・これはこれは、ジュ、ジュリアン殿。ようこそ・・」
「ジーク、いるじゃねえか。挨拶はいい! さっさと降りてこい。クソガキ」
エントランス二階の手すりからジークが挨拶をする。
下にいる彼女は、上を見上げてきて目を離すつもりがない。
そこから降りてこなかったら殺すからな!
そんな雰囲気を醸し出していたのだ。
「そ、それで。何の御用でしょうか。ジュリアン殿」
階段を降りながらジークが話しかける。
ジュリアンの機嫌を損なわないようにするのに必死だ。
「オレの。この馬鹿娘がな。おかしなことを言ってきたもんだからよ。ちょっとフュンとかいうガキに会いに来たんだ」
ジュリアンは、自分の娘を肩に担いでいた。
ジークに顔を見せるために、片手で彼女を持ち上げる。
ぐったりした顔のアンは、目の前のジークを見た。
「じ・・ジーク。ごめん。迷惑かけた・・・ご・・めんね」
「あ、アン? ジュリアン殿。アンに何をしたんですか!」
「は!? いいからフュンとかいうのを出せ。その男を匿ってんなら、ここでひと暴れしてもいいんだぜ。オレは、こいつを持って来てるからな。またここを建ててやるから遠慮なくぶっ壊すぞ」
ジュリアンは背負っているハンマーを取り出した。
「わ、わかりました。今、連れてきます」
「いい。オレがそこにいく」
「は、はい。ではこちらへ」
ジークが下手に出ていかないといけない人物。
それがジュリアン・ビクトニー。
ビクトニー工房の会長。
元気はつらつ過ぎて、威圧的に見える人物だ。
今のも別にかなり怒っているわけでもない。
実は、ちょっとだけ怒っている感じである。
皇帝の妻の中で、唯一の一般人。
でも妻らしい事はあまりしていないらしい。
自由奔放な女性がジュリアンなのだ。
◇
部屋に入ると、ジュリアンはすぐにフュンを見つけた。
「てめえがフュンか」
「はい。僕がフュンであります。あなたは?」
「なめてんな。オレらをよ。おい」
ジュリアンは、フュンの胸倉を掴んで椅子から持ち上げた。
黙ってフュンは受けいれた。
「なめている? 何のことでしょうか」
でも堂々と言い返すフュン。
「ほう。ここまでオレに脅されて、何も動じてねえのか。おもしれえ」
二人が睨み合いになると。
「まってください。ジュリアンさん」
「ん。おう。シルヴィか。綺麗になったな。ちゃっかり女になってんじゃねえか。そうか。この男の妻になるんだったな」
シルヴィアが止めようとしても無駄だ。
なぜなら彼女は。
「まあ、お前はそこにいろ。オレの用事は、この男だからな」
話を聞かない。
ジュリアンは、顔をフュンに向け直した。
「そんで。てめえは、なんでオレの会社の金を必要としてるんだ」
「それは僕の都市を発展させるためにです。時間が足りなくて、短縮するには費用がかかります。だからお金はお返しするので、資金を確保したくて、先にお金をお借りしたいのですよ」
「ほう。マジで動じてねえな・・・この男。この感じはひさしぶりだぜ」
「ひさしぶり?」
「ああ。親父にそっくりだ」
「親父?」
「エイナルフに似てんな。お前」
「陛下にですか!?」
フュンの全く動じない姿勢が、若い時のエイナルフと重なっているようで、ジュリアンは笑っていた。
口角が少しだけ右上に上がっていた。
「んで、なんでそんなに急いでんだよ。お前、まだ若けえじゃねえか。馬鹿娘よりも年下だろ。急ぐ必要ねえだろ」
「ええ。それを説明するには、対面でお話してもよろしいでしょうか」
「ん?」
「あなたと二人で話したい。あなたを説得するには・・・納得してもらうには。そちらが方がよいかと」
「ほう! おもしれえ。オレと一対一かよ。タイマン張る気か」
フュンの提案に、ジュリアンは更にニヤッと笑った。
すると二人の後ろにいたジークが。
「やめとけ。フュン君。それはまずい。ジュリアン殿と二人は危険だ!?」
「あ!? ジーク。オレがいいんだよ。お前には聞いてねえ。それにこのガキがいいって言ってんだ。下がれ!」
「で、ですが」
「下がれ! ジーク!!!」
「し、しかし」
「うだうだ言うな! お前らの親代わりであるオレの言う事が聞けねえのか」
「・・そ、それは・・」
二人の母親は幼い頃に死んでいる。
そして、ブライト家の母も早くに亡くなっているために。
ビクトニー家のジュリアンは、サティ、ジーク、シルヴィアの様子をしょっちゅう見てあげていた経緯がある。
それが結構な迷惑ともいえたのだが、それでも心配をしてくれていた女性である。
ちなみに、元貴族のミランダとは息が合う。
ジュリアンも気に入っているのだ。
「僕は大丈夫です。ジーク様。こちらのジュリアン様は、話せばわかってくれる人です。僕にお任せを」
ジュリアンはこの言葉を聞いて、胸倉を掴むのをやめて、ますます口角を上げた。
ここまで面白い男だとは思わなかったのだ。
「そ・・そうか。わかった。それじゃあ、下がるので、隣の部屋を」
「いや、ここでいい。防音なんだろ。ここは」
「まあ、そうですけど・・何をする気ですか。まさかそのハンマーでここを壊す気ですか!?」
その心配が、真っ先に出て来るくらいにジュリアンは暴れん坊である。
「あ? オレがこの部屋をぶっ壊すってか。まあ、こいつにムカついたら、やってもいいぜ。一部屋くらいぶっ壊してもよ」
「や、やめてくださいよ。ですから、隣の部屋の方に・・・その方が駆けつけることが楽で・・・」
ジークが下手に出ても、ジュリアンには話の内容が届いていない。
「いい。ここでいい。今ここで面倒な問答をする気なら、今すぐに暴れてもいいぜ。ジーク!」
「わ、わかりました。このままここを使用してください。下がりますから」
ぞろぞろと部屋の中に居た人物たちが外に出る。
二人きりになると、二人は対面に座り合った。
足をテーブルに置いて座るジュリアンに対して、礼儀正しく座るフュンが話しかける。
「では、あなたの口が堅そうなので、お話します。0からの話です」
「ん? なんでオレが口堅いって分かるんだ? 会ったばっかだぞ」
「僕は一目見れば、その人の大体の性格を掴めます。あなたは求道者。道を極めようとする者に近い」
「は? 何言ってんだお前?」
「あなたは鍛冶の道。建設業。これらを突き詰めるために努力している女性に見えます。それ以外にはあまり興味がないのでしょう」
「ほう。よく分かったな。その通りだ」
「ええ。それに僕はあなたから武人に近しい気配を感じてますからね。下手な嘘をつかない方が、あなたは僕を信用してくれるでしょう」
「・・・はっ。おもしれえ、いいぜ。話してみな」
ジュリアンが親指を立てて、フュンの話を促した。
フュンの話は今までの経緯の全て。
皇帝の密約、計画の流れ、そしてそのために必須のサナリア大都市計画である。
「なるほどな・・・親父を守りたくて、お前は金が必要だと」
「そうです。実は、陛下には味方がいない。そして陛下しか、御三家を止める者がいない。ならば、この僕が陛下の盾となり、矛となるのです。帝国を守るためにです」
「・・・ほう・・・そいつはおもしれえ。こういう考えを持つ奴が現れたのかよ。あいつら以来か。懐かしい。リティス。紫電。ついにやって来たらしいぞ・・・・・・あの頃からじゃ考えられないぜ」
「あの頃?」
「あ。いや、こっちの話だ……王貴戦争の頃の話だな」
「そうですか。ジュリアンさんもあれに参加したんですね」
「そうよ。オレは戦えるからな。バリバリよ」
ハンマーを持ち上げて、強さをアピールしてきた。
たしかに、そんじょそこらの兵ではこの人に勝てそうにないと思うフュンだった。
「んで、今も戦っている」
「?」
「オレは、例の組織を追いかけている。影ながらな」
「え!?」
「だから、工房の方に引っ込んだんだ。貴族は辞めて一般人になって、親父を守らんといけないからな。オレはな」
ジュリアンは陛下の味方であったらしい。
驚きでフュンの思考は止まっていた。
「オレは、帝国の中枢に奴らが居ると思っている。それと各地方にもだ。その中で、一番怪しいのは・・・」
「怪しいのは?」
「ストレイルだな。あそこのガキが怪しい。動きが変なんだぜ。ターク家じゃない行動をいくつかしてる」
「へえ。さすがですね」
「ん?」
「僕もそこは怪しいと思ってます。例の刺青をスカーレット様が持ってました。僕にアピールするかのように見せてきたのです」
「ほう・・・やっぱそうか。でも、なんでお前に見せてきたんだ?」
「それが、良くは分からないのですが、僕は例の組織から命を狙われているようなのです」
「なぜだ?」
「知りませんよ。僕だって聞きたいくらいです」
「そうか。でもまあ、それにしてもお前・・・ずいぶんと余裕があるな」
「ええ。大丈夫。僕には苦楽を共にしてくれる仲間がいますからね。組織と直接戦えるのであれば、勝つのは僕に決まっている。むしろですよ。直接来てほしい位なんです。解決の手間が省けるんですよ。裏で戦うよりも、表で戦って勝った方が楽ですからね」
「クククク・・・カカカカ」
ジュリアンはいきなり笑い出した。
「大胆だぜ。その考え。クソおもしれえ。本当に若い頃の親父に似てんな。大胆なんだか、きめ細かいのか分からない感じが、オレは好きだぜ。気に入った。お前に協力しよう。金は出す。利子はいらん。使った分を半分返せ」
「え? それはさすがに・・・」
「半分と利子は、親父を守ってくれって分だ。オレだけじゃ難しいからな。お前に親父の身の回りを託すぜ。だからガンガン金を借りろ。オレが許可したと部下にも言っておく」
「・・・ありがとうございます。そして、その約定必ずお守りします。僕は元より、陛下も、そしてアン様もお守りする予定です」
「ああ。まかせた。馬鹿娘も頼む。お前に預けるなら大丈夫そうだ。んじゃ、あとでオレの家に来い。最初の金はオレから貸してやる。あとちょっくらオレは用事が出来たから、明日にでも来いや」
「はい。お伺いします」
「おう。あと、そうだ。アンを案内役にするからここに置くわ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあな。また会おう!」
話し合いが終わってから、ジュリアンは堂々と部屋から去っていった。
その後。
「フュン君。大丈夫か!」
「???」
血相変えて心配してきたのはジークだった。
ジュリアンの横暴さを良く知っているので、心配でたまらないのだ。
フュンの体を触って、怪我がないかを確認していた。
「大丈夫ですよ。何にもされていません」
「何の話を」
「ええ。お金を借りる話です」
「お金?」
「ええ。今からサナリアを急速に発展させるには、お金が少々足りなくて困っていたのです」
「そうか・・・でもよく、あのジュリアン殿を説得できたな」
「話をよく聞いてくれるいい人でしたよ」
「・・・・え?」
そんなのは俺の知るジュリアンじゃない!
ジークの頭には、横暴な彼女しか思い浮かばない。
◇
その日の夜。皇帝の自室にて。
「ん。誰だ」
椅子に座って読書をしていた皇帝が、背後の気配に気付いた。
「親父!」
「ジュリか。久しぶりだな。なぜ来た? 呼んでないぞ」
「夫婦なんだから、別に用事がなくてもいいだろ親父。でさ、言いたいことがあってきたんだ。よいしょ」
ジュリアンがソファーの席に深く腰掛ける。
「顔を見せてくれるとは嬉しいな。いつ以来だ」
「んんん。忘れた!」
ジュリアンは、細かいことを覚えない主義である。
「ふっ。相変わらず豪快だな。ジュリよ」
「親父! あんた、面白い奴を仲間にしたんだな」
「面白い奴?」
「ああ。フュンとかいうガキだ。若い頃の親父にそっくりだぜ」
「婿殿のことか。それがどうした?」
「親父を守りたいだってよ。そんでオレの馬鹿娘も守ってくれるそうだ」
「ああ、そうだ。婿殿は余の子らを守る事に全力を注いでおる」
「変わった奴だな。王族か? 本当によ」
「ふっ。王族ではないよな。あのような考えはな。普通のそこらへんにいる男の子と変わりないであろうな」
「だよな・・・ありえねえこと言ってたぜ。夢みたいな事だ・・・でも、面白かったわ。久々に楽しめることをしてくれる奴に出会った。あれは戦の女神と紫電以来の逸材だ! 面白いぜ・・・だから、オレは動くぞ。親父」
「ん?」
ジュリアンが立ち上がる。
白のタンクトップをめくりあげて、左の脇腹を皇帝に見せた。
「我ら『暁を待つ三頭竜』も動こう。あのフュン・メイダルフィアを全力で援護してみるとする。まかせろ親父。オレたちで情報を封鎖してみせよう。帝国のどこにいるか知らん奴らには、あいつの情報は渡さん!」
頭が三つの金色に輝くドラゴン。
それが彼女の体に刻まれていた。
ダーレーのお屋敷に勝手に入ってきた女性。
上が白のタンクトップで、下がタイトなデニムパンツの姿をしている。
それが彼女の普段着らしく、機能性重視である。
もちろん工房に入った時は着替えます!
「こ・・これはこれは、ジュ、ジュリアン殿。ようこそ・・」
「ジーク、いるじゃねえか。挨拶はいい! さっさと降りてこい。クソガキ」
エントランス二階の手すりからジークが挨拶をする。
下にいる彼女は、上を見上げてきて目を離すつもりがない。
そこから降りてこなかったら殺すからな!
そんな雰囲気を醸し出していたのだ。
「そ、それで。何の御用でしょうか。ジュリアン殿」
階段を降りながらジークが話しかける。
ジュリアンの機嫌を損なわないようにするのに必死だ。
「オレの。この馬鹿娘がな。おかしなことを言ってきたもんだからよ。ちょっとフュンとかいうガキに会いに来たんだ」
ジュリアンは、自分の娘を肩に担いでいた。
ジークに顔を見せるために、片手で彼女を持ち上げる。
ぐったりした顔のアンは、目の前のジークを見た。
「じ・・ジーク。ごめん。迷惑かけた・・・ご・・めんね」
「あ、アン? ジュリアン殿。アンに何をしたんですか!」
「は!? いいからフュンとかいうのを出せ。その男を匿ってんなら、ここでひと暴れしてもいいんだぜ。オレは、こいつを持って来てるからな。またここを建ててやるから遠慮なくぶっ壊すぞ」
ジュリアンは背負っているハンマーを取り出した。
「わ、わかりました。今、連れてきます」
「いい。オレがそこにいく」
「は、はい。ではこちらへ」
ジークが下手に出ていかないといけない人物。
それがジュリアン・ビクトニー。
ビクトニー工房の会長。
元気はつらつ過ぎて、威圧的に見える人物だ。
今のも別にかなり怒っているわけでもない。
実は、ちょっとだけ怒っている感じである。
皇帝の妻の中で、唯一の一般人。
でも妻らしい事はあまりしていないらしい。
自由奔放な女性がジュリアンなのだ。
◇
部屋に入ると、ジュリアンはすぐにフュンを見つけた。
「てめえがフュンか」
「はい。僕がフュンであります。あなたは?」
「なめてんな。オレらをよ。おい」
ジュリアンは、フュンの胸倉を掴んで椅子から持ち上げた。
黙ってフュンは受けいれた。
「なめている? 何のことでしょうか」
でも堂々と言い返すフュン。
「ほう。ここまでオレに脅されて、何も動じてねえのか。おもしれえ」
二人が睨み合いになると。
「まってください。ジュリアンさん」
「ん。おう。シルヴィか。綺麗になったな。ちゃっかり女になってんじゃねえか。そうか。この男の妻になるんだったな」
シルヴィアが止めようとしても無駄だ。
なぜなら彼女は。
「まあ、お前はそこにいろ。オレの用事は、この男だからな」
話を聞かない。
ジュリアンは、顔をフュンに向け直した。
「そんで。てめえは、なんでオレの会社の金を必要としてるんだ」
「それは僕の都市を発展させるためにです。時間が足りなくて、短縮するには費用がかかります。だからお金はお返しするので、資金を確保したくて、先にお金をお借りしたいのですよ」
「ほう。マジで動じてねえな・・・この男。この感じはひさしぶりだぜ」
「ひさしぶり?」
「ああ。親父にそっくりだ」
「親父?」
「エイナルフに似てんな。お前」
「陛下にですか!?」
フュンの全く動じない姿勢が、若い時のエイナルフと重なっているようで、ジュリアンは笑っていた。
口角が少しだけ右上に上がっていた。
「んで、なんでそんなに急いでんだよ。お前、まだ若けえじゃねえか。馬鹿娘よりも年下だろ。急ぐ必要ねえだろ」
「ええ。それを説明するには、対面でお話してもよろしいでしょうか」
「ん?」
「あなたと二人で話したい。あなたを説得するには・・・納得してもらうには。そちらが方がよいかと」
「ほう! おもしれえ。オレと一対一かよ。タイマン張る気か」
フュンの提案に、ジュリアンは更にニヤッと笑った。
すると二人の後ろにいたジークが。
「やめとけ。フュン君。それはまずい。ジュリアン殿と二人は危険だ!?」
「あ!? ジーク。オレがいいんだよ。お前には聞いてねえ。それにこのガキがいいって言ってんだ。下がれ!」
「で、ですが」
「下がれ! ジーク!!!」
「し、しかし」
「うだうだ言うな! お前らの親代わりであるオレの言う事が聞けねえのか」
「・・そ、それは・・」
二人の母親は幼い頃に死んでいる。
そして、ブライト家の母も早くに亡くなっているために。
ビクトニー家のジュリアンは、サティ、ジーク、シルヴィアの様子をしょっちゅう見てあげていた経緯がある。
それが結構な迷惑ともいえたのだが、それでも心配をしてくれていた女性である。
ちなみに、元貴族のミランダとは息が合う。
ジュリアンも気に入っているのだ。
「僕は大丈夫です。ジーク様。こちらのジュリアン様は、話せばわかってくれる人です。僕にお任せを」
ジュリアンはこの言葉を聞いて、胸倉を掴むのをやめて、ますます口角を上げた。
ここまで面白い男だとは思わなかったのだ。
「そ・・そうか。わかった。それじゃあ、下がるので、隣の部屋を」
「いや、ここでいい。防音なんだろ。ここは」
「まあ、そうですけど・・何をする気ですか。まさかそのハンマーでここを壊す気ですか!?」
その心配が、真っ先に出て来るくらいにジュリアンは暴れん坊である。
「あ? オレがこの部屋をぶっ壊すってか。まあ、こいつにムカついたら、やってもいいぜ。一部屋くらいぶっ壊してもよ」
「や、やめてくださいよ。ですから、隣の部屋の方に・・・その方が駆けつけることが楽で・・・」
ジークが下手に出ても、ジュリアンには話の内容が届いていない。
「いい。ここでいい。今ここで面倒な問答をする気なら、今すぐに暴れてもいいぜ。ジーク!」
「わ、わかりました。このままここを使用してください。下がりますから」
ぞろぞろと部屋の中に居た人物たちが外に出る。
二人きりになると、二人は対面に座り合った。
足をテーブルに置いて座るジュリアンに対して、礼儀正しく座るフュンが話しかける。
「では、あなたの口が堅そうなので、お話します。0からの話です」
「ん? なんでオレが口堅いって分かるんだ? 会ったばっかだぞ」
「僕は一目見れば、その人の大体の性格を掴めます。あなたは求道者。道を極めようとする者に近い」
「は? 何言ってんだお前?」
「あなたは鍛冶の道。建設業。これらを突き詰めるために努力している女性に見えます。それ以外にはあまり興味がないのでしょう」
「ほう。よく分かったな。その通りだ」
「ええ。それに僕はあなたから武人に近しい気配を感じてますからね。下手な嘘をつかない方が、あなたは僕を信用してくれるでしょう」
「・・・はっ。おもしれえ、いいぜ。話してみな」
ジュリアンが親指を立てて、フュンの話を促した。
フュンの話は今までの経緯の全て。
皇帝の密約、計画の流れ、そしてそのために必須のサナリア大都市計画である。
「なるほどな・・・親父を守りたくて、お前は金が必要だと」
「そうです。実は、陛下には味方がいない。そして陛下しか、御三家を止める者がいない。ならば、この僕が陛下の盾となり、矛となるのです。帝国を守るためにです」
「・・・ほう・・・そいつはおもしれえ。こういう考えを持つ奴が現れたのかよ。あいつら以来か。懐かしい。リティス。紫電。ついにやって来たらしいぞ・・・・・・あの頃からじゃ考えられないぜ」
「あの頃?」
「あ。いや、こっちの話だ……王貴戦争の頃の話だな」
「そうですか。ジュリアンさんもあれに参加したんですね」
「そうよ。オレは戦えるからな。バリバリよ」
ハンマーを持ち上げて、強さをアピールしてきた。
たしかに、そんじょそこらの兵ではこの人に勝てそうにないと思うフュンだった。
「んで、今も戦っている」
「?」
「オレは、例の組織を追いかけている。影ながらな」
「え!?」
「だから、工房の方に引っ込んだんだ。貴族は辞めて一般人になって、親父を守らんといけないからな。オレはな」
ジュリアンは陛下の味方であったらしい。
驚きでフュンの思考は止まっていた。
「オレは、帝国の中枢に奴らが居ると思っている。それと各地方にもだ。その中で、一番怪しいのは・・・」
「怪しいのは?」
「ストレイルだな。あそこのガキが怪しい。動きが変なんだぜ。ターク家じゃない行動をいくつかしてる」
「へえ。さすがですね」
「ん?」
「僕もそこは怪しいと思ってます。例の刺青をスカーレット様が持ってました。僕にアピールするかのように見せてきたのです」
「ほう・・・やっぱそうか。でも、なんでお前に見せてきたんだ?」
「それが、良くは分からないのですが、僕は例の組織から命を狙われているようなのです」
「なぜだ?」
「知りませんよ。僕だって聞きたいくらいです」
「そうか。でもまあ、それにしてもお前・・・ずいぶんと余裕があるな」
「ええ。大丈夫。僕には苦楽を共にしてくれる仲間がいますからね。組織と直接戦えるのであれば、勝つのは僕に決まっている。むしろですよ。直接来てほしい位なんです。解決の手間が省けるんですよ。裏で戦うよりも、表で戦って勝った方が楽ですからね」
「クククク・・・カカカカ」
ジュリアンはいきなり笑い出した。
「大胆だぜ。その考え。クソおもしれえ。本当に若い頃の親父に似てんな。大胆なんだか、きめ細かいのか分からない感じが、オレは好きだぜ。気に入った。お前に協力しよう。金は出す。利子はいらん。使った分を半分返せ」
「え? それはさすがに・・・」
「半分と利子は、親父を守ってくれって分だ。オレだけじゃ難しいからな。お前に親父の身の回りを託すぜ。だからガンガン金を借りろ。オレが許可したと部下にも言っておく」
「・・・ありがとうございます。そして、その約定必ずお守りします。僕は元より、陛下も、そしてアン様もお守りする予定です」
「ああ。まかせた。馬鹿娘も頼む。お前に預けるなら大丈夫そうだ。んじゃ、あとでオレの家に来い。最初の金はオレから貸してやる。あとちょっくらオレは用事が出来たから、明日にでも来いや」
「はい。お伺いします」
「おう。あと、そうだ。アンを案内役にするからここに置くわ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあな。また会おう!」
話し合いが終わってから、ジュリアンは堂々と部屋から去っていった。
その後。
「フュン君。大丈夫か!」
「???」
血相変えて心配してきたのはジークだった。
ジュリアンの横暴さを良く知っているので、心配でたまらないのだ。
フュンの体を触って、怪我がないかを確認していた。
「大丈夫ですよ。何にもされていません」
「何の話を」
「ええ。お金を借りる話です」
「お金?」
「ええ。今からサナリアを急速に発展させるには、お金が少々足りなくて困っていたのです」
「そうか・・・でもよく、あのジュリアン殿を説得できたな」
「話をよく聞いてくれるいい人でしたよ」
「・・・・え?」
そんなのは俺の知るジュリアンじゃない!
ジークの頭には、横暴な彼女しか思い浮かばない。
◇
その日の夜。皇帝の自室にて。
「ん。誰だ」
椅子に座って読書をしていた皇帝が、背後の気配に気付いた。
「親父!」
「ジュリか。久しぶりだな。なぜ来た? 呼んでないぞ」
「夫婦なんだから、別に用事がなくてもいいだろ親父。でさ、言いたいことがあってきたんだ。よいしょ」
ジュリアンがソファーの席に深く腰掛ける。
「顔を見せてくれるとは嬉しいな。いつ以来だ」
「んんん。忘れた!」
ジュリアンは、細かいことを覚えない主義である。
「ふっ。相変わらず豪快だな。ジュリよ」
「親父! あんた、面白い奴を仲間にしたんだな」
「面白い奴?」
「ああ。フュンとかいうガキだ。若い頃の親父にそっくりだぜ」
「婿殿のことか。それがどうした?」
「親父を守りたいだってよ。そんでオレの馬鹿娘も守ってくれるそうだ」
「ああ、そうだ。婿殿は余の子らを守る事に全力を注いでおる」
「変わった奴だな。王族か? 本当によ」
「ふっ。王族ではないよな。あのような考えはな。普通のそこらへんにいる男の子と変わりないであろうな」
「だよな・・・ありえねえこと言ってたぜ。夢みたいな事だ・・・でも、面白かったわ。久々に楽しめることをしてくれる奴に出会った。あれは戦の女神と紫電以来の逸材だ! 面白いぜ・・・だから、オレは動くぞ。親父」
「ん?」
ジュリアンが立ち上がる。
白のタンクトップをめくりあげて、左の脇腹を皇帝に見せた。
「我ら『暁を待つ三頭竜』も動こう。あのフュン・メイダルフィアを全力で援護してみるとする。まかせろ親父。オレたちで情報を封鎖してみせよう。帝国のどこにいるか知らん奴らには、あいつの情報は渡さん!」
頭が三つの金色に輝くドラゴン。
それが彼女の体に刻まれていた。
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かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。
当然のようにパーティは壊滅状態。
戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。
俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ!
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【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました
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