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第二部 辺境伯に続く物語

第167話 サナリアの新たな仲間たち

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 「王子。おひさ~~」
 「あ! ウルさん。なぜこちらに? 里は?」
 
 サナリアの執務室にウルシェラがやってきた。
 明るい笑顔の彼女は、フュンの貴重な友人の一人だ。

 「それがね。王子。フュン親衛隊のこと、覚えてる。最近さ。王子、里に帰ってこないじゃん」
 「……ああ、それは申し訳ない。忘れてはいませんが、こちらで忙しくてね。手が回らない感じです」
 「だと思ったのよ。だから、あたしたちの方がこっちに来たってわけ」
 「たち!? ウルさん以外も来たんですか?」

 ウルシェラ一人の訪問かと思ったら、大勢がやってきたようだ。

 「うん。表にね。親衛隊四十九名連れてきたのよ。あたし入れてちょうど五十名ね」
 「え? そんなに!? なんでです???」
 「それがね。ミラからの連絡で、王子の考えを理解できるメンバーが必要だってさ。人海戦術で人を見極めろってさ」
 「人海戦術で人を見極めろ??・・・・ああ、なるほど。それはありがたいです。さすがはミラ先生だ。納得しました」
 「んで。何をするの? なんかそれをミラが詳しく教えてくれなかったんだよね」
 「そうですね。親衛隊の皆さんをこちらの・・・駄目だな。会議室を開けるので、そちらに来てください。やってもらいたいことを教えます」
 「そう。じゃあ。そうするね」
 
 ウルシェラがウインクして答えた。

 「ウルさん。シェンさんは? いないのですか?」
 「うん。あいつはあっちで親衛隊を育ててるよ」
 「へ? 育ててる??」
 「うん。隊の人たちってまだ増やす方向なんだ。今は二百名近くが親衛隊にいるんだよ。今連れてきたのは隊の中でもベテラン勢だから、王子の考えを深く理解しているメンバーなんだよ。たぶん仕事できるから安心してよ」
 「そうですか・・・それはありがたいですね」
 
 自分の部隊が増えていくのを知らないフュンであった。
 里にほとんどいないのに慕われているのは、彼の人徳によるものだろう。

 「では。ウルさん。お願いします。皆さんに移動の指示を」
 「おっけ!」

 軽い調子の彼女を見ると、フュンも安心する。
 自分の友人は、いつまでも普通の友人でいてくれる安心感があるのだ。
 

 ◇

 会議室。
 集まった人は、ウルシェラと親衛隊。
 そして、フュン。ミランダ。ルイス。タイム。クリス。サブロウ。サティ。アンである。
 シガーらには別な仕事を与えたために、幹部はこの八名になった。

 会議はフュンから始まる。

 「ミラ先生」
 「ん?」
 「さすがです。ありがとうございます」
 「あ? なんのこと?」
 「いや、ウルさんたちを呼んでくれてありがとうございます。僕の仕事の負担を軽くするためですね」
 「ああ。それか。まあな。あたしらだけじゃ、あの仕事は出来んだろ」
 「はい。僕の想定以上の数になりましたからね。僕の仕事を理解してくれる人たちがこれだけいると助かりますね」

 フュンは会議室の端にいる親衛隊の面々を見た。
 自分の事を信頼してくれていて、彼らの眼差しが輝いて見える。

 「では皆さん。僕から皆さんにやってもらいたいことがあります。今からサナリアは面接を行うのです。そこでは人の適性を見極めてもらうので、皆さんにはそれぞれマニュアルをお見せします。皆さんには面接官の仕事をしてもらいます。職のないサナリアの民と、元賊の一人一人を斡旋していきます。クリス。頼みます」
 「はい」

 クリスが立ち上がり、親衛隊に紙を配る。
 一人一枚は、数が厳しいので、五人で一つの紙を見てもらった。
 クリスが自分の席に戻るとそのままクリスが説明に入る。

 「これに書かれていることが、それぞれの分野の面接時の質問です。今回、人を見極めると言っても、あらかじめ振り分けをしています。フュン様の指示の元に私とタイム殿が一人一人を得意分野に分けているつもりなので、大体がそちらの職業に合っている方だと思っています。ですが、万が一でも適性が違っていたり、どうしても本人が別な仕事をしたいと言った場合には、保留という名の後回しをして頂きたい。あとでフュン様と私が、その人物の仕事を確定させます。なので、あなたたちにお願いするのは、第一次面接試験官です」

 親衛隊の人々はすぐに話を理解して頷き、クリスの目をしっかりと見る。
 その規律性は、里ラメンテの他の部隊にはない。
 動きの同一性がある。
 
 「おそらく皆様ならすぐにこちらの仕事に慣れてくれると思うので、早速幾人かで練習しましょう。スムーズに本番を迎えられるはずです。よろしくお願いします」
 「「「お願いします!」」」

 挨拶もしっかり揃っている。これは里にはない事象である。

 「すげえ規律だな。あたしの部隊よりも凄くねえか」
 「まあ、ミラ先生。ウォーカー隊はウォーカー隊でいい面がありますでしょ」
 「まあな。あいつらはあいつらで地力があるからな」
 「ええ。彼らの強さは泥臭さです。あれこそ理想の兵士だと思いますがね。僕は並の兵士じゃない彼らのその点が好きです。一人一人が荒々しいのも好きですよ」
 「はっ。やっぱお前もさ。武人なのさ。心の根の部分が武人なのさ」
 「そうみたいですね。僕もここで育ってますからね」

 サナリアで育つと武人となる。
 戦いが基準の民であるがゆえの弊害でもあり、良き面でもある。

 「では、皆さんと共に面接を開始しましょう。三日後。全体で一次面接。その次には僕が二次面接をして、振り分けを確定させます。人を増員させて、都市を発展させましょう。いいですね。皆さん」
 「「「了解です。領主様」」」

 都市を発展させるために民の職業選択の時が来たのである。
 

 ◇

 三日後。フュンの宣言通りに一次面接が行われた。
 幹部八名も面接官となり、個人の話も聞きながらの面接をした。
 総勢3万人の面接。
 事前アンケートと性格診断をもとに、面接時間を短縮できたとしても一人五分で行なう予定なので、一時間で詰め込んでも十二名分だけしか出来ない。
 それを五十名の親衛隊と八名の幹部で行なっても、一時間で七百名前後しか面接が出来ない。
 途方もない面接の嵐に、疲弊したのは面接官の方だった。

 一週間弱の時間をかけて一次面接を終了して、フュンらは振り分けを開始。
 アンの土木。サナリアの兵士、又は影。サティの内政方面の仕事と、多岐に渡る振り分けが開始され、一番多く振り分けられたのは、土木である。
 国の基礎となるのは、建物や道となるために、人手が絶対に必要なところなのだ。
 
 そして、一次では判断がつかなかった者、又はあえてもう一度面接をした方が良いと思ったものをいくつかピックアップして、フュンを中心に第二次面接が行われた。

 ◇

 「えっと・・・あなた。お名前を・・・」
 「おおおおおおおおおお。俺の名はゲインズだあああああああああああ」

 面接部屋に、爆音で流れるゲインズの声。
 目と鼻の先とは言わないけど、割と近い位置で面接しているのに、『なぜ大声で話すの?』と思うフュンは耳が痛くなった。

 「えっとゲインズさん。なぜあなたは、こちらに来たのです? あなたならば、別な場所で兵士にでもなれるでしょうに。あなたはまあまあ強そうですよ」
 「まあまあだと!? ふざけるな。俺は強いぞ」
 「ええ。まあまあです。あなたの力はただの筋力のみ。体がしなやかじゃありませんから、それではおそらく攻防に優れません。弱くはない。ですが強くもないです」

 フュンはハッキリ言った。
 この大胆さが、今のフュンである。

 「なんだとお前! 勝負しろ。この野郎」
 「単純な方ですね・・・それでは兵士には向いてないのでは?」
 「お前ええええええ!!!」

 椅子に座るゲインズが、フュンに飛び掛かろうと足に力を溜めた瞬間、動けなくなった。
 金縛りにでもあったかのようにそこから一歩も動けない。

 「な、なんだ・・・なに!?」

 ゲインズが、椅子に座った状態から隣を見上げると、さっきまでフュンの後ろにいたゼファーが自分の肩を押さえていた。
 両手じゃなく、片手で自分の体を拘束できる力。
 力自慢の自分が、この片腕を外すことが出来ない。
 次第にその事態が恐怖へと変わる。
 ゲインズは、圧倒的実力差の敗北感によって、体が震えてきた。

 「な!?」
 「貴様、殿下に何をしようとした」

 ゼファーの顔を見上げるゲインズ。
 ゼファーの顔が恐ろしく、次の一言が出てこない。

 「ぐっ」
 「死にたいのか。貴様」
 「・・・」

 言葉と力の圧力に負け、無言となったゲインズは首を横に振った。

 「こらこら、ゼファー。何もそこまで怒らなくてもいいですよ。今のは僕でも対処できるのです。なにも、ここであなたが動かなくてもいいのですよ」
 「駄目です。殿下。こういう場面で、私が動かねば。殿下。私は従者であります。殿下の守護者であります。御身の危険は私の恥です」
 「はぁ。お堅いですね。なんか最近、ますますゼクス様に似てきましたね。本当に・・・嬉しいですけどね。でも、下がりなさい。ゼファー。こちらに戻ってきなさい。ゲインズさんの面接が終わってません」
 「はっ。殿下。下がります」

 化け物が優男に指示される。
 素直に言う事を聞くのは、この男がよほど強い奴なのか。
 単純なゲインズはフュンの事をじっくりと見た。

 「ふふっ。あなたも不思議そうな顔をしない。僕がゼファーに命令出来るのが不思議なのですね」
 「・・そうだ。お前は弱そうだぞ。こいつは強い。バケモノだ」
 「ええ。ゼファーはとても強いですよ。おそらく帝国でも最強格の一人です。彼に一対一で勝てる者は早々いませんよ」
 「なに!? 本当か!」

 フュンは、今の言葉のやりとりで、ゲインズがゼファーに憧れたように感じた。
 ゼファーへ向ける眼差しが輝いて見える。

 「ええ。あなたは強さを求めているのですね」
 「当り前だ。弱い奴は食われる。強い奴しか生き残らない」
 「そうですね。それは正しい。良い意見です」
 「そうだろ」
 「でも、それは体の強さだけですか?」
 「ん?」
 「頭の良さとか。人脈の強さとか。その他の強さは? 人としての強さは認めていませんか?」
 「なんだそれは。そんなもの・・・強さに入るのか・・・」

 拒否をさせない。
 フュンは被せるように話す。

 「ゲインズさん。その考えはいけませんよ。その考えでは真の意味では強くならない」
 「なに!? 本当か」
 「ええ。ですので、強くなりたいなら、ゼファーの部隊に入りますか?」
 「この男の?」
 「ええ。あなたはもっと心を鍛えた方がいい。体も鍛えるのは当然ですが、心が最も重要です。ですからゼファーから学びましょう。武人ではなく兵となり。大きく成長していきましょう。どうですか。それで頑張れますか?」
 「・・・・わかった。そうすれば、お前の強さも知れるということだな」

 ゲインズは真っ直ぐフュンを見て言った。
 強さの基準を知ろうとする男だった。

 「そうかもしれませんね。ええ、でも僕が強いかはわかりませんよ。僕でもわかりませんからね」
 
 フュンは軽く笑って、ゲインズの面接を終えたのだった。

 ゲインズは単純であるが、根が綺麗だった。
 フュンは彼の心を見てから、ずっと柔らかな態度を貫いていたのだ。
 歳はすでに25歳とフュンよりも上だが、このゲインズはまるで大きな子供の様で、フュンは可愛い人だと思っていた。
 ズィーベのような傲慢さはない。
 でも彼に近しい思想の印象がある。
 しかし彼には素直な面があることで、まだ正しい道を歩むことが出来るのだ。
 人はいつでもやり直せるものだとフュンは思っているから彼に手を差し伸べたのだった。
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