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第二部 辺境伯に続く物語

第160話 そこから計画を整える 全員の考え編

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 「こんな感じです。どうでしょう。意見とかありますかね? 僕一人で考えた事なので、皆さんの意見が聞きたいです」

 フュンは全員に意見を求めた。
 力を合わせることが基本。それがフュンの統治のやり方である。

 「そうですね。ではいいでしょうか」

 サティが手を挙げた。

 「あ。ありがとうございます。サティ様。どうぞ」 
 「はい。それでは……フュン様、元手は? 今のサナリアの財政では、到底できないものに感じます。お金が足りないとかのレベルではないと思います。無理ですよ」
 
 いきなりの厳しい指摘だった。
 今のサナリアは、ボロボロになっている財政状況を立て直すだけでも大変なのに、そこから大規模工事をするなど不可能である。

 「はいそうです。でもそこはですね。最初の投資をしたいと思ってます」 
 「最初の投資?」
 「はい。ロイマンの村。あそこにあるサナリア草に加えて。大規模農場では、農作物よりも先に、急ピッチでサナリア草を作ります。サナリア草は年中いけますからね。あとそれと、三カ月ほどで成長して完成してくれますから。ここで大量に確保していきます。もちろん並行して農作物も作りますよ。でも一旦はサナリア草を大量に作り、傷薬と化粧品を作っていきましょう。サナリアの運用資金の確保です。それに僕、この間ですね。帝都で聞いたんですよ。サティ様。メイフィアの化粧品。足りないんですよね?」
 「ええ。足りないと言われれば・・・たしかにそうでしょう。しかし、あれが最高の提供数です。もうルーワ村での生産能力は限界なのですよ。あれらが提供限度数と言ってもいいです」

 フュンが帝都城にいるメイドに話を聞いた通りに、商品の用意に限界が来ていた。
 用意できるものに限りがある中で必死にやりくりしていたサティである。

 「それならば、ここで僕らも作っていきます。ここはルーワ村とは違い、土地に限界がない。なので商品をここで作り、メイフィアに買い取ってもらう形はどうでしょう」
 「・・・なるほど。私たちの会社に商品の流通を任せて、お金を稼ぐのですね」
 「そうです。そうなれば、三カ月で軌道には乗ります。最初の三カ月が来るまではロイマンの村で生産し、そこからはロイマンとこちらの大規模農場で生産し、こちらの財政にしていきます」
 「しかし、それらが成功しても、こちらを開拓する資金には足りませんよ」
 「はい。ですから、最初の投資先はサナリア草と厩舎です。元々いる馬たちを帝国に売りつけながら、僕らは馬を育てます。大軍に適した馬の数を生み出しますよ。これらをするにも、僕のお金を出します。僕は、サティ様から頂いたお金をほとんど使ってません。この二つくらいは投資できるはずだ」
 「まさか・・・そんなにお金を使っていなかったのですか!?」
 「…?」
 「いえ。それ程大量のお金をポンと出せるのであれば、ほとんどお金を使わずにこの四年程を過ごしていたのですか!?」
 「ええ。まあ、そうですね。最低限のお金があれば、僕は生活できますからね」

 皆が驚く中で、ロイマンだけは笑っていた。
 相変わらず、何も変わらない人であるのだなと。
 子供の頃からお金を持っていても、何も使わずに人の為に使う男なのは変わらないのだと。

 「フュン様」
 「ん? クリスどうしました?」
 「その計画と同時並行で、王都の税をさらに減らしませんか?」
 「ん?」
 「今の王都の税は重税に近いです。それは前王よりかは遥かに良くなっているのですが、それでも彼らにとってはまだ高い。これを継続すると民は死ぬしかありません。ここで税を軽くして、生活ができるという安心感を得てもらいましょう。そして、今の計画をどんどんやっていき、サナリア全体の景気を上げる事で税を増やすという策はどうでしょうか。税金をあげると景気は上がりません。財布の紐が固くなります。それが以前のサナリアでしたから実証済みです。だから、逆にここは下げる。それも前の水準よりもです。どうせここは王宮ではなくなり、維持管理の費用は小さくなります。しかも王宮の代わりとなる刑務所もそんなに費用は掛かりません。民からの視線付きでの警備がありますので。警備の兵も最小限の人員でよいのです。だから、それほど維持には困らないと思います」
 「なるほど・・・たしかに。それはよさそうな・・・ルイス様。サティ様。このクリスの案はどうでしょう?」

 フュンは統治者として、自分よりもベテランで優秀な二人に聞いた。
 話は年長者のルイスから。

 「私はその案に賛成ですな。しかし、一度に税を下げすぎると、民の心にぬるさが生まれますぞ。だから、前のサナリアの水準の少し下にするのが一番だと思います。これで、景気が上がるのであれば、逆に油が乗り切ってから、もう一度下げるという手が打てます。こちら側の税収が下がらない状態を維持していけるのです。これで民たちが豊かになる可能性も出てきます。豊かになれば、また税が増えます。我らの懐を増やすのは、逆にして考えるべきでありますからね。民を搾ることで金を増やすのではなく、民が豊かになって税が増えてくれることを期待した方がいい。そちらの方がここに住まう人々が幸せであります」
 「私もルイス様の意見に賛成ですね。今は民の安定が欲しいでしょう。それも心の安定です。結局のところ、経済は不安から停滞しますから、先に不安を解消しましょう。今は生活が出来る。これが最初の心の安定となり。そして次がこれよりも豊かになるのかも。と思わせていくのですよ。少しずつ気持ちが明るくなるようにこちらが調整していくのです」
 
 二人はほぼ同じ意見だった。

 「なるほど……わかりました。それではその細かい税の内訳は、三人にお任せします。その際、マルフェンさんが雑務をしてください。マルフェンさん、色々押し付けてすみませんね」
 「いいえ。フュン様。私は生涯あなたの執事のようなものなのです。こんな事は押し付けにも入りません。お仕事をありがとうございます」
 「いえいえ。いつも助かってますよ。本当にありがとうございます」

 三人の議事録などを作成する係に、マルフェンがなった。

 「フュン君!」

 今日も元気一杯のアンが手を挙げた。

 「はい。なんでしょう?」
 「それじゃあ、ボク。その農場を作ればいいのかな? ルーワ村みたいに?」
 「はい。そうですね。アン様のお仕事の一番最初がそれですね」
 「じゃあさ。じゃあさ。う~んと。安定しているルーワ村から技術者を派遣してもいいかな。今、あっちはさ。補修とかの仕事にシフトチェンジしてたんだよね。だから、暇してんの。いいかな?」
 「それは逆にこちらが助かりますね。経験者の方から農業も学べますし」
 「そっか。じゃあ、連れて来るね。あと、ここの解体作業。ボクのビクトニー工房の職人を連れてくるよ。サナリアの職人さんと一緒に技術交換をしよう。ボクらの力とここの人たちの力を融合させよう。もっと交流してさ」
 「……ああ。それはありがたいです。アン様。ぜひお願いします」
 「そう。じゃあ、そんな感じにするね。ボクも楽しみだな。サナリアの人たちってどんな建築するんだろ。この王宮も珍しい形だしさ」

 アンはサナリア周辺の一通りの建築物を見ていたらしい。
 自分たちにはない技術にワクワク感があったようだ。

 「それじゃあ、色々決まって来てますが。他にはどうですか。気になる点は?」
 「殿下。兵はどうしますか。その財政状況で兵の維持は大変では?」

 ゼファーが質問してきた。
 意外にもしっかりとした質問である。

 「ゼファーそうなんです。よく気付きましたね。そこはですね。今の兵には酪農をしてもらいます。今は同時並行で体を鍛える形です。戦争はまだないと思うのでね」
 「酪農?」
 「ええ。南東エリアには厩舎と牛舎、それに元々ある兵士訓練所。この三つが置かれます。サナリアは騎馬民族。馬の扱いは慣れていますが、牛は別です。なので、そこも牛を扱うことが出来る人たちと協力して育てていきましょう。ルイス様。牛の手配。出来ますでしょうか?」 
 「うむ。いいでしょう。私のコネを使って幾分か牛を買い付けに行きましょう」
 「ありがとうございます。これで上手くいけば、兵士たちは自分たちでお金を稼げます。ただ、これは兼業であるので、一時的なものにします。サナリアが軌道に乗れば、兵たちは専業の兵になってもらいますよ。いずれは帝国で一番の軍になってもらう予定です。ゼファー。シガー。フィアーナ。頼みますよ。サナリア一じゃありません。帝国で一番です!」
 「はい。殿下。必ずやそうしてみせます」
 「私もです。そのようになるように努力します」
 「マジか。一番か・・・いいな。それ、面白そうだぜ。クッソ。歳とって、こんなにワクワクするとはな。フュン、ありがとな。昔とは違うワクワク感だぜ」
 「いえいえ。三人には頑張ってもらいますよ。大変ですからね。覚悟してください」

 三人は大きく頷いた。
 この三人は、のちにサナリアでは『三大将』と言われる。
 不動のシガー。飛将のフィアーナ。鬼神ゼファーである。
 サナリアの四天王よりも、大陸に名が轟くことになる三人である……。
 
 会議の最後にフュンが立ち上がった。

 「ではでは。細かい分野はその都度、調整しましょう。何かが起こった際に僕は皆さんと会議を開きますし、何かが起こらなくても疑問が出た際は僕やクリスに相談してください。ここからは、僕も皆さんもよく話し合って、サナリアを良くしていきましょう。僕らはどんな時も協力していくのですよ。一人の力ではなく皆の力で前へ進みましょう。これから走っていきますよ。皆さん。息切れせずに頑張りましょう!」

 フュンが拳をあげると。

 「「「おおおおおおおおおおおお」」」

 皆も続いて声と手をあげた。

 サナリアはここから進む。
 前にだけ。決して後ろへは行かない。
 もう二度とあの暗黒な世界には足を踏み入れない。
 ただただ光の道を突き進むのだ。
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