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第二部 辺境伯に続く物語

第159話 フュンの基本計画

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 サナリアでの演説直後から、皆の熱がサナリアの王都を包んでいく。
 民たちの気持ちは、初めて一つへと向かっていた。
 それはサナリア統一の時よりも、気持ちが一つになったのだ。

 彼らが自宅へと帰る際。
 誰も何も話さずに歩く人々の表情は、引き締まった良い顔だった。
 恩も恨みも、全ての感情を乗り越えた先で、彼らが思うのは、覚悟。
 それもとびきりの覚悟である。
 あんな辛い思い。あんな苦しい思い。
 自分たちが味わった負の思いは、絶対に次世代には残したくない。

 民たちはここで戦うことを決意したのだ。
 自分自身と・・・そして帝国とだ。
 今まで漠然としていて、知らなかった。
 帝国が本当は恐ろしい国で、王すらも簡単に殺すことが出来た宗主国であったことをだ。
 だから初めて向き合えたのだ。
 彼らは、フュン・メイダルフィアのおかげで、気付いたのである。
 帝国との付き合い方を・・・。

 ◇

 「殿下ぁ。何たるご立派なお姿・・・・私は感動で前が見えません」

 そばにいたゼファーは誰よりも号泣していた。
 フュンの演説に心を奪われたようだ。

 「なぜあなたが、そんなに泣いているのです?」 
 「殿下。私はあなたにお仕えできて幸せであります」
 「そ。そうですか!? ま、まあ、僕もあなたがそばにいて嬉しいですからね。幸せですよ。これからもよろしくお願いしますよ」 
 「はい・・・・お願いし・・・・ます」

 泣きすぎて言葉につっかえているゼファーの全身は熱く燃え滾っている。
 フュンの言葉の力により、勝手に覚醒したような状態になっていた。

 それに対して、彼以外の他の家臣たちもまた体中に熱を帯びていた。
 彼らはまだ静かに、力を蓄えているような状態だった。

 今からのサナリアは、帝国で一番。
 アーリア大陸で一番を目指す。
 それを民に宣言したからには、自分たちもやりきるしかないと。
 体中が炎に包まれながら、皆の心はやる気で漲っていたのだ。
  

 ◇
 
 そこから四日後。
 重要人物たちがサナリアに集結したことで、会議が開かれた。
 いつもの場所でフュンが中央に座ると皆が着席する。
 今回はシガーとクリスにも席に座ってもらった。

 「では、皆さん。よろしくお願いします」

 頭を下げると皆が一斉に下げる。

 「最初に役職と自己紹介をしたいと思います。まず、僕が招聘した。アン様。サティ様。この両名がサナリアの大臣になってくれます。では、アン様から」
 
 フュンはアンから紹介した。
 年長者である彼女は元気に挨拶をする。

 「は~い。ボク! アン・ビクトニー。フュン君からお願いされてさ。可愛い義弟のためだからさ。ボクはド~ンと仕事を引き受けたよ。よろしくね。みんな!」

 彼女の挨拶が終わると、皆が深々と礼をした。

 「次にサティ様。お願いします」
 
 サティが優雅に立ち上がる。

 「皆様。私の名前は、サティ・ブライトであります。妹の旦那様となるフュン様からのお誘いを受けて、こちらの経済関連の大臣となります。これから皆様には厳しくいくかもしれませんが、よろしくお願いしますわ」

 アンとは対照的な挨拶に、皆は緊張した。
 礼節があるタイプには戸惑うのがサナリアの者たちである。
 元新興国家ならではと言えるだろう。

 「こちらのお二人の役職は、経済大臣としてのサティ様と、技術大臣としてのアン様となってます。それで皆さんもよろしくお願いしますね。これらの関連の仕事は必ずお二人に相談してください。続いて、紹介していきます」

 フュンは役職紹介をするようで、紙を読み上げた。

 「まず。領主が僕です。これは当然ですよね。あははは」

 フュンのわざとらしい笑顔を見て、皆は『それはそうだろう』と思う。
 でもこれのおかげで、皆の緊張感が無くなった。
 堅苦しい雰囲気がここで消えたのだ。
 これがフュンの狙い通りの動きだった。
 皆の顔色が良くなったから、フュンは続けて話し出す。

 「それじゃあ、続いて。シガーが領主代理です。前と同じですね」
 「はい」
 「ええっと。次に。フィアーナとゼファー。二人が大将です。シガーと一緒になって戦闘関連は考えましょうね」
 「了解だぜ」「承知しました」

 二人が返事を返した。

 「続いて。マルフェンさんが、雑務関連で総務です。全体のカバーをお願いしたい。ほとんどの内政部分をサティ様がやってくれると思いますが、その中で漏れが生じてくると思うので、そのカバーの仕事を頼みます。まあ、つまりは執事の延長線上のお仕事です」
 「はい。わかりました」

 マルフェンの仕事内容は執事の延長のようなものだった。
 そこは配慮しているフュンである。

 「続いて。ロイマン」
 「はい。領主様」
 「あなたは地方官です。基本は中央にいてもらいますが、あなたのフーナ村。そしてもう一つ作る予定の村の管理をお願いします。村長というよりは管理者となってもらいます」
 「もうひとつ?」
 「ええ。そのお話は次にやりますので、地方官。これになってもらってもいいですか?」
 「はい。領主様のご命令通りに」
 「ええ。お願いしますね」

 ロイマンは地方官となり、中央との連携を取る役職となった。

 「続いて。ミラ先生とサブロウ」
 「あたしらもか」「おいらもぞ」
 「ええ。僕の中ではお二人の存在を出す際には、教官で行きたいです。兵の訓練の教官がミラ先生。影の指導の教官がサブロウです。よいですね」
 「おう」「いいぞ」
 
 二人が頷き。フュンも頷く。
 
 「それとサブロウ。例の件はどうなりました?」
 「まだだぞ。あれらは修行が必要ぞ。だからまだ表には出せないぞな。でも飲み込みは良い方だから、まあそうだぞな。二か月くらいはかかるかもしれんぞ」
 「そうですか・・なら、二か月後の職業斡旋の時までに、間に合わせてくれると助かります。その時にまた人事をいじります」
 「了解ぞ。まかせておけぞ」

 サブロウは別件の仕事があるらしい。
 間に合わせなければいけない何かがあるようだ。

 「それじゃあ、最後にですね。クリス」
 「わ、私ですか」
 「ええ。あなたは、僕の片腕になってください。あなたがこれからなる役職は宰相兼軍師です。あなたには戦争についても学んでもらいます」
 「え!?」
 「僕の師。ミラ先生に色々教えてもらってください。それと、あちらにいる僕の大切なお師匠様の一人。ルイス様にも指導をもらいましょう」
 
 小さな巨人ルイスは、フュンの依頼を二つ返事もせずに了承して、ここに来ていた。
 フュンのお願いしますの『お』も言わせなかったと言われている。
 ここが遠く離れた地であるというのに、彼にとっては頼られたことが嬉しい出来事あったらしい。

 「わ、私が!? お二方に!?」
 「ええ。ルイス様には顧問という役職になってもらいましたから、皆さんを指導する立場となってもらいました。そうですよね。ルイス様」

 フュンがルイスを見た。
 するとルイスは嬉しそうに微笑む。

 「そうですな。フュン様から直々に頼まれごとをされたとなれば、すぐにでも返事を返さねば、失礼というものですよ」
 「いえいえ。ルイス様。感謝しますよ。こんな辺境の地にまで来てもらって、ご自分が暮らし慣れている場所の方がよいでしょうに。申し訳ありません」
 「いいえ。あなたが暮らしていた場所に住まうのも。これまた一興ですな」
 「フフフ。そう言ってもらえると嬉しいですね。助かります」

 ルイスは実に楽しそうであった。
 一人。ヒザルスを置いてサナリアに住む事を決意したルイスはマルフェンらのサポートを受けて生活することになっている。

 「それで。どうでしょう。君が嫌ならば、僕は無理強いしません。別なお仕事を任せます。これは、大変なお仕事になると思うのですよ。だから、あなたの決意が重要になります。無理強いが出来ません。思いが無いとやっていけないと思いますからね」
 「・・・や、やりましょう。やってみたいです」
 「そうですか。それはよかった。では、ミラ先生。ルイス様。クリスをお願いします。彼は非常に優秀な人物なので、すぐに色々な事を吸収してくれると思います。お願いしますね」
 「わかったのさ」「わかりましたフュン様」
 
 二人が承諾した。
 
 「でも、あたしがクソジジイと同じような立ち場かよ」

 酷い物言いのミランダが、テーブルに頬杖をついて言った。

 「これ、生意気娘。口の聞き方を直しなさい。元貴族だろ」

 ルイスが指摘する。

 「んじゃ。ルイスの爺さん。なんでまだ元気なんだ? あんた、一体いくつまで生きる気なんだよ」

 ほぼ態度は変わらない。
 クソジジイがルイスの爺さんに変わっただけだ。

 「私はフュン様が大成なさるまでは死ねん。この世にしがみつくつもりだ」
 「げっ。マジかよ。じゃあ100以上も生きる気じゃんかよ」
 「はははは。それほど時間はかからんだろう。フュン様だぞ。あと数年でとんでもない事をするだろう」
 「・・・だな。それはありえそうだな。爺さんの言う通りだ」

 ルイスとミランダは納得した。
 フュンならば何かしでかす。
 今までも色々な事をしてきたのだ。
 これからも何かをしないわけがない。

 「なんですか。それは!! 僕がとんでもない男みたいな感じですよ」
 「あ? そりゃ、お前はとんでもない男になるのさ。なんて言ったってあたしの最高の弟子だからな。単純な奴に育てた覚えはないのさ」
 「・・・んんん。僕はあまり変わってませんがね」
 「いんや、変わってる。あたしの考えを超える策を。今も実行しているしな」
 「そうですか。あれがそうだといいですね」

 雑談が一通り終わると。
 フュンは、皆にこれからを提案した。

 「それでは、皆さん。あと追加でこちらに数人参加する予定ですが、僕の理想のメンバーが一通り集まったので、これから何をするのかを発表します」

 フュンは咳払いをしてから話を続ける。

 「まず。最初の政策は、以前言った通りに賊を引き入れます。それにより、都市人口を増やします。その上で、細かい村々を吸収していきます。そこでロイマンと共に僕が連携をしていきますね。村の再編も視野に入れます。今現在、サナリアにある地方はどの程度ですか。僕のいた頃だと、10はあったと思います」
 
 フュンの質問にシガーが答える。

 「今は12です。ロイマンの村を合わせると13です」
 「そうですか。それぞれの村は小規模ですよね。ロイマンの村程の規模じゃないはず」
 「そうです。大小はありますが、どれをとっても、フーナ村よりは小さなものです」
 「それではいけませんね。集めます。サナリアを強固にするために、この王都。そして、中央に新たに作る大都市。そして、ロイマンの村。この三点を結ぶだけではバランスが悪い。よってロイマンたちの技術を使い、ユーラル山脈にも村を作ります」
 「「!?!?!?」」
 
 皆から疑問が飛び出た。一斉に顔に出ていた。

 「先刻、クリスが言ったとおりに産業を生み出すのが、今のサナリアとなっています。そこで、僕の考えを地図から言います。これを見てください」

 フュンはサナリアの地図を拡大した物を壁に広げた。
 皆に分かりやすいように指を指しながら説明する。

 「まずは現在。サナリア平原の東にある王都。こちらを第二都市とします。ここは、戦争犯罪人とその取り巻きの監視に人を使いながら、狩人部隊の技術継承をする都市として存在することになります。そして、サナリアの中央。ここを中心として大都市を築きます。ここが中継地点ともなります」
 
 そしてフュンは、地図を指差してブロックを言い出した。
 サナリア平原に作ることになる新都市を中心にして三つに分けて、西ブロック、北東ブロック、南東ブロックとした。

 「ここからですね。僕らの新都市を中心に置いて、ブロックを分けます。まず北東ブロック。ここを農業エリアにします! サナリア平原北東を大規模農業地帯にしていきます。今までの細かい村の各々で作っていた食料生産をやめて、ここで食料を大量に生産していきます。サナリアでも余るくらいに作る予定です。余ってしまえば帝都に売ればいいだけですからね。じゃんじゃん生産するのですよ」

 フュンの計画は、まだある。

 「次に、南東ブロックです。ここは酪農と軍施設を置きます。元々、こちらにあるズィーベが隠していた兵士訓練所を改築し、その隣に牛を飼いたいのです。そこで肥料等も作成できるようにします。牛糞からの肥料が欲しいですね。そうなると。農業の方の土壌も、これで強化が可能となり、相乗効果で良くなるはずです。それとここには厩舎も作り、馬も作っていきます」

 産業と同時に戦力も鍛える。
 南東の計画は二重にあった。

 「そして中央に大都市。北西のサナリア山脈側にロイマンの村。南西のユーラル山脈側に新しい村を作ります。こちらの村は、猪を飼います。猪と木こりの村にしますよ。この村から、サナリアの木の管理をしましょう。何も考えずに山の木を伐採してはいけません。サナリアでは土砂崩れのような災害は滅多に置きませんがね。でも、そういう事を考えながら植林していかないといけません。なので産業は林業も視野に入れていきます! それでこちらの林業の村は募集を掛けます。一度、こちらの王都に集まってもらった人たちの中で、やっぱり山で暮らしたいんだって人が出てくるでしょう。そう言う人に暮らしてもらいましょう」

 人の気持ちにも寄り添っていた政策である。

 「それで、これらの中継地点としての大都市を作っていきましょうね。そこで大都市の大まかなものが出来上がれば、後は道を作ります。第二都市との道。ここの二つの村の間への道。そして帝都までの道を仕上げていきます。これらの都市を繋いで、移動時間を短くして、出来るだけ僕らは動きやすくしていきますよ。皆さん、僕らは大陸一の大都市を作るのです! それに必要なものをどんどん用意していきましょう。よいですね!」
 「「「はい。領主様。そのようにします」」」
 
 皆からいい返事をもらい、フュンは笑顔で答える。

 「それでは、大変革を迎える事になるサナリアを、皆で盛り上げていきましょう!」

 これからのサナリアは大きく変わる。
 それはフュン・メイダルフィアを中心としてだが、彼の配下の者たちの力によっても大きく変わっていくのであった。

 
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