人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

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第二部 辺境伯に続く物語

第142話 フュンの密かな思い

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 帝都のダーレー家の屋敷。

 「シルヴィア。ただいま」
 「おかえりなさい。フュン」
 「ええ。帰ってきましたよ。無事にね」

 一時帝都に戻ってきたフュン。
 激闘続きのサナリアでは、ほぼ休んでいない。
 疲れは相当なものだったが、シルヴィアの満面の笑みを見たら、張り詰めていた緊張感から解放されて、ほっと一安心した。
 彼女がそばにいてくれれば、心が安らぐ。
 フュンにとってシルヴィアはもう必要不可欠な存在となっていた。

 「戻って来たので、一番にあなたに会いに来たのですが。先に用事を済ませたい……ジーク様はいますか?」
 「え? 兄様ですか。ええ、今はお屋敷にいますよ。呼びますね」
 「お願いします」

 シルヴィアは、ザイオンの背中に背負われている人間を見てから、何かがあったのだと察して、兄の呼び出しに急ぎ動きだした。
 彼女が急いだのには理由がある。
 なぜなら、ザイオンの運び方が異常な運び方だったのだ。
 自分の背中と謎の人間の背を合わせて、ザイオン自身とその人間を縄できつく結び付けて、その上で男には目隠しと、猿ぐつわをしていたのだ。
 何をしたらそんなことになるのだろうかと思いながらシルヴィアは急ぐ。

 数分後。

 「フュン君! 大変だったろうによくぞ戻ってきた!」
 「はい。ゆっくりお話ししたい所ですが、ジーク様。緊急の用がありまして。ザイオン、お願いします」
 「ん? ザイオンもいるのか。珍しいな」

 ここにゼファーもいるが、彼は控えめな位置に待機しているので、ジークがあえて無視してあげていた。
 ゼファーのその従者たる動きの邪魔をしちゃ悪いと思ったのだ。

 「おう。これを届けたら、俺は里に行くのよ。シスコン」

 ザイオンは背負っていた人を降ろした。

 「はぁ。お前は俺を呼ぶ時はそればっかだな。で、なんだそれは?」
 「知らん。フュンが運んでほしいと言ったから俺が背負っていた」

 ジークの前に情けない顔をした男が突き出される。

 「フュン君。これはなんだ?」

 男の頭の上からジークが指さす。
 無礼でも物のように扱われているから仕方ない。

 「これはアルルースです。ズィーベの側近でありました」
 「ん? それが? なんでここに?」
 「これが、例の問題に繋がると思います。後は影のお二人にお任せをしたいかと思いましてね。ザイオンに運んでもらいました」
 「そういうことよ。シスコン」

 フュンはシルヴィアを一瞬見てからジークを見た。
 それですぐに察したジークは、無言で頷くと続いて指示を出す。

 「フィックス! ナシュア!」
 「「はい」」

 影から出てきたフィックスとナシュアがアルルースを捕獲した。
 ここからどう動くべきかを理解している二人は、皆の前で影となり消えていった。
 『あれっ』と思うのはシルヴィアだけで、他は何も思わない。
 
 「・・・ん? 今の人はなんですか?」
 「シルヴィアが気にすることではありません」
 「え? どうしてフュン?」
 「ええ。あなたには王道を歩んでほしい。だから僕らはそれをサポートしますからね。心配しないでください。あなたは真っ直ぐ前を見て、自分の道を進めばよいのです」
 「え? なんのことですか?」
 「僕らはそのための仕事をしますからね。安心してください」

 フュンは、愛するシルヴィアには王道を歩んでほしいと思っている。
 人に良くして、人に愛される道を進んでほしい。
 自分はすでにその道から外れたのだ。
 弟を殺し、自国のサナリアの兵を葬り去った罪があるからだ。
 だからこれから起きる戦いでは、あなたには綺麗なままでいてもらわないといけない。
 自分が汚い事に手を染めるのであれば、あなただけは綺麗でいてもらわないと。
 それにここからは彼女を守るためならば、自分はどんな手でも使おうと思っている。

 フュンの心の中には、この密かな思いがあったのだ。

 「え? どういうことですか?」
 「まあ、それはいいだろう。妹よ。フュン君はお疲れなんだから、ミランダの屋敷の方に行ってきなさい。二人で休んできなさい。アイネ君やイハルム殿がいるから、フュン君の心も体も休まるはずだ」
 「・・え、ええ。そうします。いきましょうか。フュン」 
 「そうですね。少しの間、休んできます。ジーク様ありがとうございます」
 「ああ。ゆっくりしなさい。明日か明後日には城から呼ばれると思うからね。それまで休みなさいね」
 「はい」

 フュンはザイオンの方に顔を向けて、指示を出す。

 「ザイオン。ご苦労様です。後はタイムたちにも、僕は無事だと連絡をお願いします。エリナも言ってくれているでしょうけど、あなたからも言ってもらえると、彼らも安心してくれるでしょう」
 「おう。まかせろ。言っとくぜ」
 「はい。お願いします」

 フュンはここでザイオンと別れた。


 ◇

 「「王子!」」
 「ゼファーさん」「ゼファー」

 お屋敷に戻ったフュンたちは、アイネとイハルムと再会する。
 心配していた二人は、事前に主人の事情を聞いているのだが、実際に会うまでは不安だった。
 お怪我がないか等の細かい心配もしていたが、見た目には何事もなく無事である事に、二人は安心した。

 「僕らは無事ですよ。ね。ゼファー」
 「ええ。アイネさん。イハルムさん。ただいまです。殿下と共に帰還しました」
 「よかったですぅ。本当に。ご無事で」

 イハルムが涙を拭っているアイネの肩に手を置いた。
 お屋敷で、帰りを待つことしかない出来ない二人にとっては、この瞬間を待ち望んでいたのだ。

 「そうですねアイネ。本当によかったですよ。王子も。ゼファーも。ご無事で・・ええ。とても心配しましたからね」
 
 二人と再会して、フュンとゼファーの心が軽くなった。
 今までの怒涛の戦いは、心身の芯の部分にまで食い込むような疲れを与えていたようだ。

 「はい。イハルムさん。ああ、あと・・申し訳ない。アイネさん。ハーシェさんが・・・」
 「大丈夫です。私はもう聞いておりますよ。王子、ここは苦しいでしょうが、耐えましょう。私も耐えますからね」
 「ええ・・・そうですね。ありがとうアイネさん」
 「でも王子。これを忘れないでください。私たちはいつでもあなたの為に死ねる覚悟を持っているのです。それ程ですね。皆があなたを愛しているのですよ。私や、ハーシェさん。それにファイア、ネルハ、ミルファもです。全員が同じ気持ちなんですよ。わかってくださいね」
 「はい・・・わかっています・・・でもアイネさん。死んじゃ駄目ですよ。僕よりも長生きしてくださいね」
 「…ええ、必ず」

 と言ったアイネは優しくフュンを抱きしめた。
 子供の頃からこの顔をしたときは寂しい時だと分かっているからだ。
 王子を小さな頃から知っているアイネにとって、フュンとは自分の大切な弟のような存在である。

 「フュン。これからどうするのですか」
 「はい。シルヴィアにも聞いてもらいたいことがありましてね。皆でリビングに行きましょう。これからを話します」

 アイネの顔を覗き込んでから、シルヴィアはフュンを見た。 
 これは家族の抱擁。
 こんな事に嫉妬せずとも良いのに、彼女はついついアイネをガン見していた。
 その目は戦いの時よりも鋭い気がする・・・。

 ◇

 リビングに集まったフュンたち。
 軽い会話のノリのフュンは最初から用件を言う。
 
 「それでは、僕らはここを去ります」
 「「「え!?」」」
 「しばらくの間は僕の屋敷にいきましょう。とりあえず、生活拠点を戻すだけですね」
 「なぜ?」

 悲しそうな顔をするシルヴィアが力強い言葉で聞いた。
 これも当然である。
 ここでなければ気兼ねなくフュンに会えないからだ。
  
 「シルヴィア。そんな顔で言わなくても、僕は君にも会いにいきますからね。心配しないで」
 「え。い・・いや」
 「わかりやすいですね。これから僕と会えないとでも思いましたか。大丈夫。あなたに会うために準備するのです」
 「・・え!?」
 「僕らは結婚するんですよ。だから準備するんです」
 「・・・!?!??!?!?!」

 驚きで言葉にならない。
 シルヴィアは現実感が湧いてこないのと同時に夢心地になった。
 ふわふわと心が浮ついて、体も空に飛びそうである。
 
 「まあ、あなたは話を聞いていてくださいよ。ここからはあなたよりも。こちらのお二人にお願いしないといけないことがあります」

 フュンはアイネとイハルムの方に顔を向けた。
 こちらに顔が向いたので、二人とも顔が引き締まる。

 「僕。シルヴィアと結婚するんですよ」
 「わかってますよ」「ええ。もちろん知っております」

 喜ばしい事であるからこそ二人は笑顔で答えた。

 「それで、僕はダーレー家に入る形になります」
 「「はい」」
 「ということなので、お二人が僕と一緒にいたければ、ダーレーのメイドと執事にならねばならないのですが・・・ここで選択肢があります。サナリアに帰りますか? お二人はですね。サナリアに戻ってもいいのですよ。どうしましょうか?」

 サナリアは幸いにもフュンの領土となる。
 だから、サナリアに帰っても、そこと帝都を行き来することになるフュンの世話は出来るのであった。
 故郷を離れて帝都で暮らすのも良いが、二人の気持ちを優先したいからこそ、フュンがわざわざ二人の意志を聞いたのである。

 「私は王子のおそばにいたいです」
 「私もです」
 「そうですか。でも僕はだいぶ・・・あっちにいることが多くなると思いますよ。それでもいいですか?」
 「「はい!」」「え!?」

 二人は頷いたのに、シルヴィアが驚く。

 「ん? どうしました。シルヴィア?」
 「いや、今・・しばらくあちらにいると・・・」
 「ええ。あちらを立て直さなければなりません。それには数年を要すかと・・ですから、比重はあちらが多いと見ますね。領主代理のシガーがいるとしても、やはり僕がいなければ話にならない部分が出来ます。ええ、それに、いろんな方の力を借りないといけないですね。これから大変ですね・・僕も忙しくなりますね」
 「そ・・そんな・・・これから一緒に・・・」
 「もちろん、これから一緒ですよ。こちらに帰ってくる時はあなたの元に必ず最初に帰ってきますからね。そんなに心配しないでくださいよ。ね。そんな顔しないで」
 「え・・・だって・・」

 新婚になるかもしれないのに・・・。
 離れ離れの生活になりそうであった。

 「わ、私もいきます。一緒にサナリアへ!」
 「無理ですよ。あなたはハスラにいつでもいけるようにしておかないといけません。駄目ですよ。シルヴィア。あなたはダーレーの当主なんですからね。我儘はいけません」
 「・・・あ・・・はい」

 フュンにそう言われたら返事はこう返すしかない。
 しょんぼりする彼女を置いて会話は進む。

 「それじゃあ、アイネさん。イハルムさん。しばらくしたら僕らの御屋敷を売るので、今の内からダーレーのメイドさんや執事さんたちに馴染んでおいてください。あそこで雇ってもらいましょう。お二人ともダーレーに入る形になりましょうか」
 「「わかりました」」
 「ということで。しばらくはここで暮らすんですが、ここで僕はまたサナリアに行かないといけませんからね。ゼファーは僕の従者としてずっとそばにいてもらわないといけませんからね。なのでお二人を守る柱が必要そうなので、ニール。ルージュ」
 「「殿下!!!」」

 元気よく二人が影から飛び出てきた。

 「君たちは、アイネさんとイハルムさんを護衛して欲しい。いいかな? 僕を狙っている奴ら。それが二人を狙わないとは限らないからさ。守って欲しいんだ」
 「わかった」「姉ね」
 「守る」「おじじ」
 「守る」「まかせろ!」
 「「殿下!!」」

 ニールとルージュは、イハルムの事をおじじと呼ぶ。

 「うん。それじゃあ、二人に任せれば安心だ。ゼファー。君は僕についてきてください。しばらくは一緒ですよ。修行は駄目ですよ」
 「はい! 殿下のおそばを離れませんぞ。鍛錬はそばでも出来ます!」
 「あ・・そうですか・・・まあ、いいでしょう。その方があなたらしい」

 どこまで修行するつもりだよと喉までこの言葉が出かかっていた。

 「さてと、後は皆さんで、ゆっくりしましょうか。とりあえず・・・アイネさんのご飯が食べたいですね。僕はやっぱりあなたの料理が好きですからね」
 「はい! ご用意します」
 「ええ。皆さんで食べましょう。今までも家族でしたが、これからはもっと家族ですよ。一緒にいましょうね。皆さん。ハハハ」

 周りに遠慮しない屈託のない笑顔でフュンは、皆に宣言した。
 僕たちは家族であると!

 愛する人たちがそばにいる。
 彼はそれだけで十分幸せなのだ。

 「「「はい!」」」

 この日のフュンたちは、家族として有意義な一日を過ごしたのだった。

 フュンの家族たち。
 それが今のフュンの支えだ。
 苦しい戦いを経て、血を分けた兄弟を失った彼の唯一の支えは仲間なのである。
 いつも、どんな時でも、彼らは自分に良くしてくれる。
 だから寂しい思いや苦しい思いだけに心が支配されることはない。
 フュンのこれまで生きてきた道は決して間違いじゃない。
 彼には共に人生を歩んでくれる人々がいるのだ。
 歩んできた道を間違えていないのならば、進むべき道を間違えることはないのである。
  


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