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第一部 人質から始まる物語
第115話 太陽は覚悟を決めた! 大切な者たちを照らすために
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「え? まさか。それはまだないはずだ。だってサナリアの警報の鐘が鳴っていませんよ。ということは僕の脱走には、気づいていないはずなんですよ・・・・ならば誰が僕を探しているのでしょう」
急変した事態でも頭のキレは良し。
ニジェロの母の話を聞いても、それはまだ敵の行動ではないはずだと考えられた。
だからフュンは気になり下に降りる。
「誰でしょうか・・・」
フュンが自分を探している人物を確認した。
「殿下は、ここにいます! ここにいるのは分かっているのです。ですから殿下を出してください。私が来たと言ってくれれば、ゼファーが来たと。そうすれば殿下は必ず・・・・」
「いやいや、殿下なんて人はワシは知らんのですよ。早くお帰りを。ワシの店はもう閉店なんだ」
ニジェロの父とゼファーが言い合いになっていた。
彼の姿をはっきりと見たフュンは言い合いの現場に駆け寄った。
「ゼファー!」
「殿下!? やはりこちらに」
「無事だったのですね。ああ。よかった、よかった。心配してましたよ」
フュンは満面の笑みでゼファーに話しかけた後、ニジェロの父にも話しかけた。
「ニジェロさんのお父さん。僕を守ろうとしてくれて、ありがとうございます。ですがこの人は僕の友人なのです。だから大丈夫。ありがとう」
「え!? もも、申し訳ありません王子。そんな御方とはつゆ知らず、ご無礼を働きました」
「いえいえ。あなたが僕の為にしていること。気にしないでください。ゼファーも気にしてません」
「もちろんでございます。殿下」
ゼファーはすぐにフュンの言いたいことを理解し、ニジェロの父がこれ以上恐縮しないように頭を下げた。
「ニジェロ殿の父君。私もあなたが当然の対応をしたことに腹を立ててはいません。お気になさらずにで、お願いしたいです」
「ああ。ありがとうございます。ありがとうございます。今のご無礼で。もう打ち首ものなのかと冷や汗をかきました……今の王ならすぐに人を殺すので、焦ってしまいました」
「今ので打ち首? すぐに人を殺す!? こんなことで???」
とんでもないことを言ったニジェロの父に、フュンが思わず聞き返した。
「は。はい。実は、ここの店を出している商人の仲間たちもすでに何人か斬られています。お金とかを出せなくてですね。・・・徴収の際に・・・兵士を使って・・首を一気に・・・・ええ、この国はとても恐ろしいのです」
ニジェロの父が話しにくそうにするあたりで、その現場がいかに一般人にとって恐怖であったかを物語っていた。
人が白昼堂々と殺される。そんな異常事態は戦場以外ではない。
母国はあまりにも悲惨な国へとなっていた。
「な!? なんてことだ……ズィーベ。お前は!?・・・・まさか、そんな簡単に民を手にかけるだと……なんたる愚かなことを・・・・許せない。僕はもう許せそうにない。弟だからといってもう容赦はしないぞ」
どうしても無くせなかった。
心の片隅にあった思い。
それは、今のサナリア王が自分の弟であるという思い。
どれだけ仲が悪くとも、血を分けた大切な兄弟。
家族なんだという思い。
だからフュンは国を守るだけじゃなく、弟も守るために、説得して兵を引かせようとしていたのだ。
家族が懸命に訴えれば応じてくれるかもしれないという淡い期待をしてしまった。
その考えが甘かった。
だから、今ここで完全に無くすことにしたのである。
あれはもう弟じゃないと、悪魔の王であると。
自分は弟に対して特別に甘やかしていたわけでも厳しくしていたわけでもない。
これまでも普通に接してきたのだ。
当たり前の事を、当たり前に言ってきただけ。
ちゃんとした人物になりなさいと。
しかしその行為の何もかもが意味がなかった。
あの傲慢さは昔から変わらない。
家族であるはずの自分であっても、奴を指導して正しき道を歩ませるのが不可能であると言える。
ならばもう。あとはもう・・・・やるしかない。
奴は、ただの空虚な怪物なのだから。
「僕は・・・あれを倒さなくてはいけませんね……もう・・・あれは王でもない。弟でもない。人でもない・・・あれを家族とみなすのはやめなければいけませんね。完全なる敵だと、みなさなければね」
静かにそう言い。歯を食いしばったフュンの目つきが変わる。
鋭い眼光が傲慢な顔をしてふんぞり返っている弟だけを映していた。
自分もあなた様に付き従いたいのだと話したいシュガは、初めて見るそのフュンの力強い目にたじろぎながら前に出た。
「…お。王子。自分はシュガと申します。今から王子を護衛したいのです。王都からの脱出の際にも、役に立ってみせます。自分は戦えます」
「んん? シュガ?・・・」
怪物ではなく人を見る時は、フュンの目が元の優しいものに戻った。
シュガの顔を見つめて誰でしょうかと言おうとした瞬間。
「殿下! こちらはシガー様のご子息のシュガ殿です!」
ゼファーがフュンの気持ちを理解して仲介してくれる。
「な!? シガー様の。なんと!? え、しかし。それではシガー様が危ない。シュガ殿が、僕を手伝ったなんて。サナリア側に知られれば・・・かなりまずいですね。事態が悪化するやも」
「そこでなんですが。殿下、シガー様が言うには、シュガ殿は病に伏せって、暇を得ているという話にしているらしく。他の者がシュガ殿を疑うことはないようで。しかも元々シュガ殿はシガー様の元にいる方なので、シガー様周りの人間くらいが顔見知りだそうです。なので、ここはシュガ殿の顔を隠すのはどうでしょうか。まだ我らが脱走したことも分かられていない上に、まだ敵にも見つかっていません。それにサブロウの技で後片付けもしておりますから、しばらくは見つかりませんからさらに好都合かと」
「なるほど。なるほど・・・・・ん、サブロウの技? え? まさか偵察術・・いえ隠密術ですか。あれらも修行していたのですか!?・・まさか、偽装術や変装術も?」
ゼファーの提案に納得したフュンだが、サブロウの技が気になってしまう。
話がそれる。
「はい。殿下を守るには全てに通じなければお守りできません。変装術は……まあほとんどできませんでしたが、偽装術までは少し習いました。私は武人ではありません。殿下の忠実な従者であり、戦士であります。私は殿下を守る。最強の守護者になりたいのです」
「は・・・はぁ。まったく。だから、なかなか里から帰ってこなかったのですね。なんか修行が長いなぁって感じてたんですよね。帰って来てほしいのに!」
「そうですか。私としては、まだまだ修行が足りませんでしたがね。もう少しやりたかったです。はははは」
「えええ。またまたぁ。そんなに修行していたら、僕の所には帰ってきてくれないでしょ。僕はね。あなたがいないと困っちゃいますよ。一番の友なんです。そばにいてくださいよ。あははは」
「そうですか。私もそうしたいのですが。まだ私が弱くてですね。申し訳ないです」
この二人の余裕に周りは驚くばかりであった。
その後。
フュンは今後の指針をゼファーとシュガから聞いた。
なので、とりあえずはフィアーナの村に行って、現王権への反体制派として準備をする事を決めた。
しかし、シガーともフィアーナとも協力するにしても、何とかしてここを脱出しなくては始まらない。
この王都を監視する部隊の目を潜り抜けなければならないのである。
あの東西南北に満遍なく配置されている部隊をだ。
「そうですか……フィアーナ様の村は、北のサナリア山脈の位置にある。ならば、北東方向に逃げますか。王都から斜めに走って、いち早く山に入りましょう。そこからは山の中で身を隠しながらフィアーナ様を探すしかないですね」
「殿下。今の夜半のうちに行きますか」
「そうですね。向こうの目もあまり働かない時間帯ですからね。それにまだ警報が鳴っていない。逃げ出す準備をしましょう」
「では、さっそく」
「そうですね。行きましょうか」
フュンとゼファーが立ち上がる。
続けてシュガも。
そして、他の10名が立ち上がると。フュンは彼らに体を向けた。
「「「私たちも!」」」
「皆さんはここまでにしたいと思います」
「「「でも!!」」」
全員が共に行くと言うがここできっぱりとフュンは断る。
これ以上自分に付き合えば、彼らは命を捨てなくてはならない。
そんなことをフュンが許すわけがないのだ。
「皆さんはここまで。いいですか。皆さんが今、王宮に戻ることができれば、僕の脱出を手伝ったということはわからないはずです。僕らの脱走が見つかってませんからね。それにですね。皆さんには家族がいます。おそらく、僕を逃がしたと今の王に知られたらまずいです。奴はあなたたちの家族すら殺すでしょう。あれは非道でありますからね。それで、皆さんがさらに無事になるために、王宮に戻ったら僕らが脱走したと言いふらして欲しいです」
「「「え!?」」」
「そうすれば、王都内部で大騒ぎが起きます。このまま気付かれずに、逃げるよりも。逆に王宮の中に意識を集中させた方が得策なような気がするんですよ。その方が外を包囲している部隊が王都の中に行ってくれるかもしれません。それが上手くいけば、僕らが逃げるのが簡単になるやもしれません。いいですか。これは皆さんにしかできないんです。むしろ皆さんのおかげで僕らが脱出できると思うのです。それにです。これが皆さんが生き残ることが出来る唯一の手段でもあると思います。そしてですが、皆さんにはだけは宣言しておきます。僕はこの国を潰します」
「「「え!?」」」
「驚くでしょうけど。僕はこんな国は無くなった方がいいと思います。王一人によって民が支配されるなんて絶対に駄目だ。王が民の為に政治が出来ていない。こんな王ならいないほうがマシだ。それにサナリアは、僕との約束を破ったんだ。僕はあの時に……父上にサナリアの民を大切にしてくださいと言いました。それなのに、なんですか、この現状は!! 四天王はいない。民が重税と強制徴収に遭う。それを断れば殺されるだって、ふざけるんじゃない! 僕がどんな思いで、どれだけの思いを背負って、サナリアの王子から帝国の人質になったと思ってるんだ。僕の家族は! この国の大臣たちは!」
人質となった時の悲しい気持ち。悔しい気持ち。
それらを受けても、民の為にフュンは人質となったのだ。
それを無下にされてしまったこの感情は、怒りを通り越しても仕方がない。
フュンの今までの境遇への不満と、そして皆への優しい思いの、その両方が溢れていく。
「僕はあれ以上戦争をしたくなくて、平和を望んだからこそ、帝国の人質になったんだぞ。サナリアの為を思い……民の為を思ってだ。それを・・・何を考えているんだ。父上と弟は!?」
「で、殿下!?」
あまり怒りを表に出さない主の怒りにゼファーも心配になる。
声をかけるがフュンの意思は止まらない。
「そうだ。それにだ。現王が僕との約束を守っていないということは、先代の父上が守らなかったとみていい。だって父上がちゃんとした指導を弟にしていなかったんだから・・・・だから僕は約束を反故にされたんだ。破ったのがそっちなら、僕は暴れてもいいはずだ。それに父上がよくない。僕はあなたも許しません。ズィーベは絶対に許さないとしても、僕は父上も許しません。そして奴を指導したラルハン。そして、その奴らの政策を否定しない大臣たちも。奴を育てた王妃も。そして奴らと共に民を殺した兵士たちもです。奴らには……味わってもらう。今までの民が受けた恨みと苦しみを・・・・・僕が、苦しめられた人たちの思いを背負って、この国を滅ぼしてみせる」
「「「お、王子」」」
皆の心配をよそに、フュンは話し続ける。
「父上! あなたが死んだとしても・・・僕との約束を破ったのはそちらだ。ここで責任を取ってもらおう。あなたが作り上げた国であろうが関係ない。皆の笑顔がない国。これだけはいけない。こんな初歩的なことさえ出来ない国なんて滅んだほうがいいに決まっている。ない方がいいんだ! 僕は決めた!」
フュンの決意は母国の破壊。
父がやっとの思いで建国した国を破壊する。
それは他人から見れば、非道。ろくでなしと叫ばれても致し方ない。
しかしそれでもフュンは親にとって悪魔の子になってでも、民の為に国を壊そうと思った。
この時、フュンは修羅の道に足を踏み入れる決意を固めたのだ。
戦いの道を突き進む決意を!
『アハト王! あなたは、僕が息子であったことを後悔するといい。もう容赦しない。どんな手を使っても僕はこの国を滅ぼす』
この時のフュンはそう思ったのだった。
「僕はサナリアを終わらせる」
優しい王子の冷酷な宣言であった。
急変した事態でも頭のキレは良し。
ニジェロの母の話を聞いても、それはまだ敵の行動ではないはずだと考えられた。
だからフュンは気になり下に降りる。
「誰でしょうか・・・」
フュンが自分を探している人物を確認した。
「殿下は、ここにいます! ここにいるのは分かっているのです。ですから殿下を出してください。私が来たと言ってくれれば、ゼファーが来たと。そうすれば殿下は必ず・・・・」
「いやいや、殿下なんて人はワシは知らんのですよ。早くお帰りを。ワシの店はもう閉店なんだ」
ニジェロの父とゼファーが言い合いになっていた。
彼の姿をはっきりと見たフュンは言い合いの現場に駆け寄った。
「ゼファー!」
「殿下!? やはりこちらに」
「無事だったのですね。ああ。よかった、よかった。心配してましたよ」
フュンは満面の笑みでゼファーに話しかけた後、ニジェロの父にも話しかけた。
「ニジェロさんのお父さん。僕を守ろうとしてくれて、ありがとうございます。ですがこの人は僕の友人なのです。だから大丈夫。ありがとう」
「え!? もも、申し訳ありません王子。そんな御方とはつゆ知らず、ご無礼を働きました」
「いえいえ。あなたが僕の為にしていること。気にしないでください。ゼファーも気にしてません」
「もちろんでございます。殿下」
ゼファーはすぐにフュンの言いたいことを理解し、ニジェロの父がこれ以上恐縮しないように頭を下げた。
「ニジェロ殿の父君。私もあなたが当然の対応をしたことに腹を立ててはいません。お気になさらずにで、お願いしたいです」
「ああ。ありがとうございます。ありがとうございます。今のご無礼で。もう打ち首ものなのかと冷や汗をかきました……今の王ならすぐに人を殺すので、焦ってしまいました」
「今ので打ち首? すぐに人を殺す!? こんなことで???」
とんでもないことを言ったニジェロの父に、フュンが思わず聞き返した。
「は。はい。実は、ここの店を出している商人の仲間たちもすでに何人か斬られています。お金とかを出せなくてですね。・・・徴収の際に・・・兵士を使って・・首を一気に・・・・ええ、この国はとても恐ろしいのです」
ニジェロの父が話しにくそうにするあたりで、その現場がいかに一般人にとって恐怖であったかを物語っていた。
人が白昼堂々と殺される。そんな異常事態は戦場以外ではない。
母国はあまりにも悲惨な国へとなっていた。
「な!? なんてことだ……ズィーベ。お前は!?・・・・まさか、そんな簡単に民を手にかけるだと……なんたる愚かなことを・・・・許せない。僕はもう許せそうにない。弟だからといってもう容赦はしないぞ」
どうしても無くせなかった。
心の片隅にあった思い。
それは、今のサナリア王が自分の弟であるという思い。
どれだけ仲が悪くとも、血を分けた大切な兄弟。
家族なんだという思い。
だからフュンは国を守るだけじゃなく、弟も守るために、説得して兵を引かせようとしていたのだ。
家族が懸命に訴えれば応じてくれるかもしれないという淡い期待をしてしまった。
その考えが甘かった。
だから、今ここで完全に無くすことにしたのである。
あれはもう弟じゃないと、悪魔の王であると。
自分は弟に対して特別に甘やかしていたわけでも厳しくしていたわけでもない。
これまでも普通に接してきたのだ。
当たり前の事を、当たり前に言ってきただけ。
ちゃんとした人物になりなさいと。
しかしその行為の何もかもが意味がなかった。
あの傲慢さは昔から変わらない。
家族であるはずの自分であっても、奴を指導して正しき道を歩ませるのが不可能であると言える。
ならばもう。あとはもう・・・・やるしかない。
奴は、ただの空虚な怪物なのだから。
「僕は・・・あれを倒さなくてはいけませんね……もう・・・あれは王でもない。弟でもない。人でもない・・・あれを家族とみなすのはやめなければいけませんね。完全なる敵だと、みなさなければね」
静かにそう言い。歯を食いしばったフュンの目つきが変わる。
鋭い眼光が傲慢な顔をしてふんぞり返っている弟だけを映していた。
自分もあなた様に付き従いたいのだと話したいシュガは、初めて見るそのフュンの力強い目にたじろぎながら前に出た。
「…お。王子。自分はシュガと申します。今から王子を護衛したいのです。王都からの脱出の際にも、役に立ってみせます。自分は戦えます」
「んん? シュガ?・・・」
怪物ではなく人を見る時は、フュンの目が元の優しいものに戻った。
シュガの顔を見つめて誰でしょうかと言おうとした瞬間。
「殿下! こちらはシガー様のご子息のシュガ殿です!」
ゼファーがフュンの気持ちを理解して仲介してくれる。
「な!? シガー様の。なんと!? え、しかし。それではシガー様が危ない。シュガ殿が、僕を手伝ったなんて。サナリア側に知られれば・・・かなりまずいですね。事態が悪化するやも」
「そこでなんですが。殿下、シガー様が言うには、シュガ殿は病に伏せって、暇を得ているという話にしているらしく。他の者がシュガ殿を疑うことはないようで。しかも元々シュガ殿はシガー様の元にいる方なので、シガー様周りの人間くらいが顔見知りだそうです。なので、ここはシュガ殿の顔を隠すのはどうでしょうか。まだ我らが脱走したことも分かられていない上に、まだ敵にも見つかっていません。それにサブロウの技で後片付けもしておりますから、しばらくは見つかりませんからさらに好都合かと」
「なるほど。なるほど・・・・・ん、サブロウの技? え? まさか偵察術・・いえ隠密術ですか。あれらも修行していたのですか!?・・まさか、偽装術や変装術も?」
ゼファーの提案に納得したフュンだが、サブロウの技が気になってしまう。
話がそれる。
「はい。殿下を守るには全てに通じなければお守りできません。変装術は……まあほとんどできませんでしたが、偽装術までは少し習いました。私は武人ではありません。殿下の忠実な従者であり、戦士であります。私は殿下を守る。最強の守護者になりたいのです」
「は・・・はぁ。まったく。だから、なかなか里から帰ってこなかったのですね。なんか修行が長いなぁって感じてたんですよね。帰って来てほしいのに!」
「そうですか。私としては、まだまだ修行が足りませんでしたがね。もう少しやりたかったです。はははは」
「えええ。またまたぁ。そんなに修行していたら、僕の所には帰ってきてくれないでしょ。僕はね。あなたがいないと困っちゃいますよ。一番の友なんです。そばにいてくださいよ。あははは」
「そうですか。私もそうしたいのですが。まだ私が弱くてですね。申し訳ないです」
この二人の余裕に周りは驚くばかりであった。
その後。
フュンは今後の指針をゼファーとシュガから聞いた。
なので、とりあえずはフィアーナの村に行って、現王権への反体制派として準備をする事を決めた。
しかし、シガーともフィアーナとも協力するにしても、何とかしてここを脱出しなくては始まらない。
この王都を監視する部隊の目を潜り抜けなければならないのである。
あの東西南北に満遍なく配置されている部隊をだ。
「そうですか……フィアーナ様の村は、北のサナリア山脈の位置にある。ならば、北東方向に逃げますか。王都から斜めに走って、いち早く山に入りましょう。そこからは山の中で身を隠しながらフィアーナ様を探すしかないですね」
「殿下。今の夜半のうちに行きますか」
「そうですね。向こうの目もあまり働かない時間帯ですからね。それにまだ警報が鳴っていない。逃げ出す準備をしましょう」
「では、さっそく」
「そうですね。行きましょうか」
フュンとゼファーが立ち上がる。
続けてシュガも。
そして、他の10名が立ち上がると。フュンは彼らに体を向けた。
「「「私たちも!」」」
「皆さんはここまでにしたいと思います」
「「「でも!!」」」
全員が共に行くと言うがここできっぱりとフュンは断る。
これ以上自分に付き合えば、彼らは命を捨てなくてはならない。
そんなことをフュンが許すわけがないのだ。
「皆さんはここまで。いいですか。皆さんが今、王宮に戻ることができれば、僕の脱出を手伝ったということはわからないはずです。僕らの脱走が見つかってませんからね。それにですね。皆さんには家族がいます。おそらく、僕を逃がしたと今の王に知られたらまずいです。奴はあなたたちの家族すら殺すでしょう。あれは非道でありますからね。それで、皆さんがさらに無事になるために、王宮に戻ったら僕らが脱走したと言いふらして欲しいです」
「「「え!?」」」
「そうすれば、王都内部で大騒ぎが起きます。このまま気付かれずに、逃げるよりも。逆に王宮の中に意識を集中させた方が得策なような気がするんですよ。その方が外を包囲している部隊が王都の中に行ってくれるかもしれません。それが上手くいけば、僕らが逃げるのが簡単になるやもしれません。いいですか。これは皆さんにしかできないんです。むしろ皆さんのおかげで僕らが脱出できると思うのです。それにです。これが皆さんが生き残ることが出来る唯一の手段でもあると思います。そしてですが、皆さんにはだけは宣言しておきます。僕はこの国を潰します」
「「「え!?」」」
「驚くでしょうけど。僕はこんな国は無くなった方がいいと思います。王一人によって民が支配されるなんて絶対に駄目だ。王が民の為に政治が出来ていない。こんな王ならいないほうがマシだ。それにサナリアは、僕との約束を破ったんだ。僕はあの時に……父上にサナリアの民を大切にしてくださいと言いました。それなのに、なんですか、この現状は!! 四天王はいない。民が重税と強制徴収に遭う。それを断れば殺されるだって、ふざけるんじゃない! 僕がどんな思いで、どれだけの思いを背負って、サナリアの王子から帝国の人質になったと思ってるんだ。僕の家族は! この国の大臣たちは!」
人質となった時の悲しい気持ち。悔しい気持ち。
それらを受けても、民の為にフュンは人質となったのだ。
それを無下にされてしまったこの感情は、怒りを通り越しても仕方がない。
フュンの今までの境遇への不満と、そして皆への優しい思いの、その両方が溢れていく。
「僕はあれ以上戦争をしたくなくて、平和を望んだからこそ、帝国の人質になったんだぞ。サナリアの為を思い……民の為を思ってだ。それを・・・何を考えているんだ。父上と弟は!?」
「で、殿下!?」
あまり怒りを表に出さない主の怒りにゼファーも心配になる。
声をかけるがフュンの意思は止まらない。
「そうだ。それにだ。現王が僕との約束を守っていないということは、先代の父上が守らなかったとみていい。だって父上がちゃんとした指導を弟にしていなかったんだから・・・・だから僕は約束を反故にされたんだ。破ったのがそっちなら、僕は暴れてもいいはずだ。それに父上がよくない。僕はあなたも許しません。ズィーベは絶対に許さないとしても、僕は父上も許しません。そして奴を指導したラルハン。そして、その奴らの政策を否定しない大臣たちも。奴を育てた王妃も。そして奴らと共に民を殺した兵士たちもです。奴らには……味わってもらう。今までの民が受けた恨みと苦しみを・・・・・僕が、苦しめられた人たちの思いを背負って、この国を滅ぼしてみせる」
「「「お、王子」」」
皆の心配をよそに、フュンは話し続ける。
「父上! あなたが死んだとしても・・・僕との約束を破ったのはそちらだ。ここで責任を取ってもらおう。あなたが作り上げた国であろうが関係ない。皆の笑顔がない国。これだけはいけない。こんな初歩的なことさえ出来ない国なんて滅んだほうがいいに決まっている。ない方がいいんだ! 僕は決めた!」
フュンの決意は母国の破壊。
父がやっとの思いで建国した国を破壊する。
それは他人から見れば、非道。ろくでなしと叫ばれても致し方ない。
しかしそれでもフュンは親にとって悪魔の子になってでも、民の為に国を壊そうと思った。
この時、フュンは修羅の道に足を踏み入れる決意を固めたのだ。
戦いの道を突き進む決意を!
『アハト王! あなたは、僕が息子であったことを後悔するといい。もう容赦しない。どんな手を使っても僕はこの国を滅ぼす』
この時のフュンはそう思ったのだった。
「僕はサナリアを終わらせる」
優しい王子の冷酷な宣言であった。
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