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第一部 人質から始まる物語
第96話 サナリア武闘大会での出来事
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フュンが皇帝陛下から戦争勝利の立役者として感謝を述べられていた頃。
サナリア王国では武闘大会が開催されていた。
大会主催者は王で、大会運営委員はサナリアの四天王。
シガーとラルハンは審判になり。
ゼクスとフィアーナは貴賓席にて大会を見守る役割をしていた。
二人は隣同士に座って見学している。
現在は大会が終了していて、青年部門の優勝者のズィーベと四天王のラルハンによるエキシビションマッチが開かれている。
ズィーベの剣技は、師であるラルハンと同じ太刀筋だ。
二人が同じ剣技で火花を散らしているかのように、この場の一般兵や民たちには見えている。
だがしかし、それは残念な事に間違いであるのだ。
達人であればその戦いの本質を見抜くことが出来る。
貴賓席にいるフィアーナは、この二人の戦う様子がとにかく気に食わないどころじゃなく、こんなものを見せられるくらいなら、最初からやらんでもいいわと思っていた。
「チッ。糞だ。つまんねぇ。こんな試合を見るために、こんないい椅子に座ってんのか。あたし、ここにいるのがあほらしいわ……ああ、なんで、あんな屑を・・・あたしは後継者にしちまったんだ」
「これ、フィアーナ。何を言って。あそこには王もいるのだぞ。少し落ち着け」
「んじゃ、お前はこれが面白い試合だって、胸張って言えるのか。ああ。武人が喜ぶ強い愛に見えんのかって話なんだよ。なあ、ゼクス!」
ゼクスの名前を呼んだ瞬間だけフィアーナは大きな声になった。
「・・・わ、我は・・・・」
「ほらな。お前はな。国の為に。王の為にと。立派な臣下となろうと思ってもな。根が武人なんだよ。だから、こんな糞試合を評価することが出来ねえんだよ。お前も結局あたしと一緒なんだよ。ああ、クソが。もう、こんな糞試合は犬にでも食わせてろ」
なぜ彼女がこんなにも不満なのかというと。
この戦いで、ラルハンが完全に手を抜いているのだ。
エキシビジョンだと言っても、真剣に戦わない四天王がそこにいる。
それが無性に腹が立つ上に、そんな糞野郎相手に戦って、満足そうにしているズィーベのあの表情にもムカついてる。
サナリアで育った武人なら真剣に戦え。
この一言に尽きるのだ。
どうでもいい戦いの打ち合いを数撃見てから、フィアーナが疑問に思う。
「おい。気になるんだが」
「なにがだ」
「王はよ。目が見えてるのか?」
「ん?」
ゼクスはフィアーナに言われて王を見た。
たしかに、おかしい部分がある。
王の目が、ズィーベたちの移動した先を追っていなかった。
二人の動きが止まってから目が追い付いていたのだ。
「確かに変だな。目が合っていない」
「ああ。おかしいんだぜ。だってこんな糞試合でよ。あの王がブチ切れないことだっておかしいぜ。王は王。でも武人なんだ。アハトは戦いで手を抜くのを一番に嫌うはずだぜ」
「確かに……そうだ……王もこういう試合は気に入らないはず。では王は本当に目が見えていないのか・・・まさか、王は体調が悪いのか」
「そうみたいだな。にしてもこの試合はひでえわな。クソだ」
「おい、声を落とせ、王に聞こえたら大変だぞ」
彼女を懸命に宥めているゼクスにだって不満はあった。
二人は同じことを思っている。
それは近場で審判をしながら見ているシガーも同じかもしれない。
三人は、ズィーベにはまだ四天王に及ばぬ実力であるのだと、ラルハンが知らしめてやらねばならないのではと思っている。
本物の武人の強さを弟子に見せて、あえて彼が持っているプライドをへし折って、まだまだあなたには精進が必要だ。
上には上がいるのだと知らしめてあげるのが武人の優しさではないのか。
三人は、ラルハンの指導法に疑問を持っていた。
それに負けることを通じて成長させるというプロセスが必要だと思う。
まだ16のズィーベには、負けることが必要だ。
なにせ武人とは、幾度もの負けを経験してから、立ち上がる者のことを指す。
四天王の三人は戦いを見てそう思った。
もうこの現状の全てが気に食わないフィアーナは、席を立った。
「帰る。これ以上見てもつまらん。ムカつくだけだし。それにこいつは時間の無駄というものだぜ」
「ま、待て! フィアーナ。それはやめろ。せめてトイレに行って頭でも冷やしてこい」
「…おまえ・・・・それを女のあたしに言う言葉かよ。デリカシーのない堅物だぜ」
「しかしだな・・・我はお前を思って・・・立場が大変に」
「・・・チッ。わ~ったよ。便所に行ってくるから、誰かに聞かれたら、そう言っておいてくれ」
「そうか。かたじけない」
「なんで、あたしが便所行って、お前に感謝されなきゃいかんのよ。まあいいわ。いってくっからさ。あとは頼んだぞ」
「了解した」
「ああ。堅物、そうしておいてくれ」
こうして、フィアーナは長めのトイレに行った。
頭が冷えたかどうかわからないが彼女は会場から消えたのである。
◇
【ボーン、ボン、ボーン】
銅鑼が鳴り、戦いが終わる。
結果はズィーベの勝ちだった。
勝者となり、満足そうな顔をしている王子に、負けているのに嬉しそうなラルハン。
それをそばで見るシガーの苦い顔。
そして満面の笑みで拍手をする王と王妃。
会場の地鳴りのような拍手も、今のゼクスにはとても不快であった。
これを見ていれば、長いトイレへと向かったフィアーナもさぞかし不満に思って、もしかしたら暴れる狂うかもしれない。
いなくてよかったと思う反面、一体誰がズィーベに指導してやれるのだとも思う。
「我はやはり、王子が・・・・・サナリアにはフュン様が・・・必要だったのでは」
ゼクスは、弟子フュンの優しい顔を思い出していた。
どんなに訓練で負けていようが、次に勝とうと努力する姿も同時に思い出していた。
あの王子ならば、手を抜かれていることに気づけばすぐにでも怒るであろう。
当然である。彼にも武人としての血の片鱗があったのだ。
目の奥に光が、燃え滾る炎のような力強さがあったのだ。
でもズィーベは違うのである。
強い。確かに強い。
でも彼には勝ち癖しかついていない。
幼いころから兄に勝ち、そばにいる人間たちにも苦労せず勝てていた。
何をしても優秀で比べるべき者が他にいない。
そんな成長期を過ごしてしまっている。
彼には壁がない。
成長するための高い壁が・・・。
そして、ズィーベは今でも他の者に比べて頭一つ抜けて強い。
現に実力で大会を勝ち抜いている。普通に戦ってもすでに強いのである。
でも四天王に比べればまだ弱い。
だからこそ、まだあなたの実力ではここには及ばないとしておかないと、ズィーベは一体どんな成長をしてしまうのだろうか。
負けないということが、あの王子にどんな影響を及ぼすのであろうか。
ゼクスは心配していた。
今のこの優越感にどっぷり浸って、成長を止めてしまうのではないか。
自分の実力がまだ目標には足りないのだと自覚して、未来へ向かって努力をする気持ちが湧かないのではないか。
ゼクスはそう思いながら目を閉じた。
サナリア王国では武闘大会が開催されていた。
大会主催者は王で、大会運営委員はサナリアの四天王。
シガーとラルハンは審判になり。
ゼクスとフィアーナは貴賓席にて大会を見守る役割をしていた。
二人は隣同士に座って見学している。
現在は大会が終了していて、青年部門の優勝者のズィーベと四天王のラルハンによるエキシビションマッチが開かれている。
ズィーベの剣技は、師であるラルハンと同じ太刀筋だ。
二人が同じ剣技で火花を散らしているかのように、この場の一般兵や民たちには見えている。
だがしかし、それは残念な事に間違いであるのだ。
達人であればその戦いの本質を見抜くことが出来る。
貴賓席にいるフィアーナは、この二人の戦う様子がとにかく気に食わないどころじゃなく、こんなものを見せられるくらいなら、最初からやらんでもいいわと思っていた。
「チッ。糞だ。つまんねぇ。こんな試合を見るために、こんないい椅子に座ってんのか。あたし、ここにいるのがあほらしいわ……ああ、なんで、あんな屑を・・・あたしは後継者にしちまったんだ」
「これ、フィアーナ。何を言って。あそこには王もいるのだぞ。少し落ち着け」
「んじゃ、お前はこれが面白い試合だって、胸張って言えるのか。ああ。武人が喜ぶ強い愛に見えんのかって話なんだよ。なあ、ゼクス!」
ゼクスの名前を呼んだ瞬間だけフィアーナは大きな声になった。
「・・・わ、我は・・・・」
「ほらな。お前はな。国の為に。王の為にと。立派な臣下となろうと思ってもな。根が武人なんだよ。だから、こんな糞試合を評価することが出来ねえんだよ。お前も結局あたしと一緒なんだよ。ああ、クソが。もう、こんな糞試合は犬にでも食わせてろ」
なぜ彼女がこんなにも不満なのかというと。
この戦いで、ラルハンが完全に手を抜いているのだ。
エキシビジョンだと言っても、真剣に戦わない四天王がそこにいる。
それが無性に腹が立つ上に、そんな糞野郎相手に戦って、満足そうにしているズィーベのあの表情にもムカついてる。
サナリアで育った武人なら真剣に戦え。
この一言に尽きるのだ。
どうでもいい戦いの打ち合いを数撃見てから、フィアーナが疑問に思う。
「おい。気になるんだが」
「なにがだ」
「王はよ。目が見えてるのか?」
「ん?」
ゼクスはフィアーナに言われて王を見た。
たしかに、おかしい部分がある。
王の目が、ズィーベたちの移動した先を追っていなかった。
二人の動きが止まってから目が追い付いていたのだ。
「確かに変だな。目が合っていない」
「ああ。おかしいんだぜ。だってこんな糞試合でよ。あの王がブチ切れないことだっておかしいぜ。王は王。でも武人なんだ。アハトは戦いで手を抜くのを一番に嫌うはずだぜ」
「確かに……そうだ……王もこういう試合は気に入らないはず。では王は本当に目が見えていないのか・・・まさか、王は体調が悪いのか」
「そうみたいだな。にしてもこの試合はひでえわな。クソだ」
「おい、声を落とせ、王に聞こえたら大変だぞ」
彼女を懸命に宥めているゼクスにだって不満はあった。
二人は同じことを思っている。
それは近場で審判をしながら見ているシガーも同じかもしれない。
三人は、ズィーベにはまだ四天王に及ばぬ実力であるのだと、ラルハンが知らしめてやらねばならないのではと思っている。
本物の武人の強さを弟子に見せて、あえて彼が持っているプライドをへし折って、まだまだあなたには精進が必要だ。
上には上がいるのだと知らしめてあげるのが武人の優しさではないのか。
三人は、ラルハンの指導法に疑問を持っていた。
それに負けることを通じて成長させるというプロセスが必要だと思う。
まだ16のズィーベには、負けることが必要だ。
なにせ武人とは、幾度もの負けを経験してから、立ち上がる者のことを指す。
四天王の三人は戦いを見てそう思った。
もうこの現状の全てが気に食わないフィアーナは、席を立った。
「帰る。これ以上見てもつまらん。ムカつくだけだし。それにこいつは時間の無駄というものだぜ」
「ま、待て! フィアーナ。それはやめろ。せめてトイレに行って頭でも冷やしてこい」
「…おまえ・・・・それを女のあたしに言う言葉かよ。デリカシーのない堅物だぜ」
「しかしだな・・・我はお前を思って・・・立場が大変に」
「・・・チッ。わ~ったよ。便所に行ってくるから、誰かに聞かれたら、そう言っておいてくれ」
「そうか。かたじけない」
「なんで、あたしが便所行って、お前に感謝されなきゃいかんのよ。まあいいわ。いってくっからさ。あとは頼んだぞ」
「了解した」
「ああ。堅物、そうしておいてくれ」
こうして、フィアーナは長めのトイレに行った。
頭が冷えたかどうかわからないが彼女は会場から消えたのである。
◇
【ボーン、ボン、ボーン】
銅鑼が鳴り、戦いが終わる。
結果はズィーベの勝ちだった。
勝者となり、満足そうな顔をしている王子に、負けているのに嬉しそうなラルハン。
それをそばで見るシガーの苦い顔。
そして満面の笑みで拍手をする王と王妃。
会場の地鳴りのような拍手も、今のゼクスにはとても不快であった。
これを見ていれば、長いトイレへと向かったフィアーナもさぞかし不満に思って、もしかしたら暴れる狂うかもしれない。
いなくてよかったと思う反面、一体誰がズィーベに指導してやれるのだとも思う。
「我はやはり、王子が・・・・・サナリアにはフュン様が・・・必要だったのでは」
ゼクスは、弟子フュンの優しい顔を思い出していた。
どんなに訓練で負けていようが、次に勝とうと努力する姿も同時に思い出していた。
あの王子ならば、手を抜かれていることに気づけばすぐにでも怒るであろう。
当然である。彼にも武人としての血の片鱗があったのだ。
目の奥に光が、燃え滾る炎のような力強さがあったのだ。
でもズィーベは違うのである。
強い。確かに強い。
でも彼には勝ち癖しかついていない。
幼いころから兄に勝ち、そばにいる人間たちにも苦労せず勝てていた。
何をしても優秀で比べるべき者が他にいない。
そんな成長期を過ごしてしまっている。
彼には壁がない。
成長するための高い壁が・・・。
そして、ズィーベは今でも他の者に比べて頭一つ抜けて強い。
現に実力で大会を勝ち抜いている。普通に戦ってもすでに強いのである。
でも四天王に比べればまだ弱い。
だからこそ、まだあなたの実力ではここには及ばないとしておかないと、ズィーベは一体どんな成長をしてしまうのだろうか。
負けないということが、あの王子にどんな影響を及ぼすのであろうか。
ゼクスは心配していた。
今のこの優越感にどっぷり浸って、成長を止めてしまうのではないか。
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ゼクスはそう思いながら目を閉じた。
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