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第一部 人質から始まる物語

第83話 ササラ港海賊襲撃事件の真実 Ⅲ

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 「なるほどぞ。海岸線沿いの入り組んだ場所の洞窟ぞ。これじゃあ、東の航路からは見えないぞな」

 サブロウは海賊の拠点がアーリア大陸のどこにあるのかを確認していた。
 ここはおそらく、ユーラル山脈でいう中盤あたりの場所だと、崖になっている壁を見上げた。

 「ここだぞなっと。ミラよ。この煙幕でここに気付けぞ。ほい」

 サブロウは煙幕弾を使用。黒い煙を東の海に向けて放った。
 これが目印となり、現在航海中のササラの軍船がここを発見するだろう。

 サブロウはもう一度、洞窟内に戻る。
 その道中。
 
 「な、なんだ!? この煙は! まさか。敵がいるのか。このアジトの中に」
 「そんな事よりもまずいですわね。軍が来ているとのことですわ。居場所がわかられてしまいますわ。こちらも準備を徹底しなければ」

 現場に駆けつけてきたリーダー格の男女が狼狽えながら言った。
 その横をサブロウは気配断ちで通り過ぎる。

 『こいつら・・・意外と統率が取れているぞ。ただの海賊じゃないぞ』

 戦いの舞台は海に行く。

 ◇

 アーリア大陸東の海を航行中のミランダは、黒い煙が目の前で、真横に伸びているのに気付く。
 ここを辿れば本拠地かとミランダは微笑んだ。
 
 「おお! サブロウか。フュンたち成功してんのさ」
 「そうみたいですね」
 「そうだな・・・ってピカナ。お前がここにいてもいいのか。戦場じゃ、役に立たんだろ」
 「ええ。ですが、僕もササラの領主ですよ。こういう場面では役に立つでしょ。いるだけでも。ハハハ」
 「まあな。お前のおかげでこの海軍を使えるわな」

 ミランダが指揮を執るが、やはり軍たるもの長が必要である。
 その長はピカナが務めた方がササラの軍にとってはやる気に繋がるのだ。

 「よし、ササラの軍よ。敵の船が近づいたら例の物を頼んだぞ」
 「「「「了解です」」」」

 ミランダはとある指示を出していた。

 ◇

 開戦の始まりは海賊の方から、小型船10隻が勢いよくササラの大型船に突っ込んできた。
 海賊たちの戦いの基本は、船で高速移動しながら、火矢を放ち、船を焼く。
 基本中の基本戦術でも、統率力のある船での行動によって、ササラの軍よりも良い規律を見せるのだ。
 
 「これは、海賊の方が船での動きが良すぎるのさ。これは元海軍の兵かもな」
 「ミランダ。それはどういうことですか?」
 「もしかしたらこいつらの前は、帝国の海軍だったって事さ。お前のササラは軍が陸軍がメインでさ。海軍は漁師あがりくらいだろ。純粋な海兵はいないよな。だからこいつらの練兵具合に比べりゃな。圧倒的に負けるわな」
 「そうですか。こちらの方が熟練の兵士ということですね」
 「そういうこったな。んじゃ、例の出すぞ。いけ!」

 ミランダの掛け声と共に、兵士らが大砲を発射。
 大型船間近に迫っていた十隻の船らは、動きを速くして大砲を回避しようとするも、砲弾じゃない物が飛び出てきて驚く。
 大砲から出てきたのは、網だった。

 「サブロウお手製の鉄の網だぞ! そいつは動き出すのにムズいだろ!」

 驚いて動きの止まった船に、ササラの軍は火矢を放った。
 陸上戦闘の方が得意なササラの軍。
 火矢は正確に敵の十隻の船に届く。

 「ほれほれ。逃げた方がいいのさ。燃えて死んでしまうのさ」

 海賊たちは船を捨て、洞窟の方に泳いでいった。

 「これでどうでるのさ。敵の大将は」

 ◇

 洞窟の入り口から海戦を見守っていた二人。
 赤いハチマキに赤のリストバンドをしている男性は、目の前の景色に驚愕していた。
 
 「なに!? 船がやられた」

 金髪カールヘアーの優雅な佇まいの女性は、隣にいる赤い男性に聞く。

 「ヴァン。どうしますか」
 「ララ。こいつはやべえぞ。ここは防衛ラインを洞窟にしよう。奴らを洞窟の中で倒すんだ」
 「そうですわね。こうなると仕方ありませんわね・・・ではヴァン、その指示を出していてください。ワタクシは、気になることを片付けますわ」
 「気になる事?」 
 「ええ。ヴァンも来ますか?」
 「ああ。じゃあ、モルダウにここの守備を任せる」
 「ええ。そうしてくださって」

 ヴァンはモルダウにここの死守を任せて、洞窟の内部に入っていった。

 ◇

 救護室で懸命の介護を続けるたフュンたちは、あと残り20名ほどの介護となるまで順調にこなしていた。
 総勢20名で、100名を超える者に食事を食べさせる。
 これはかなりの重労働である。

 「いやぁ。だいぶよくなってきました。顔色も良い。ということで、皆さん、踏ん張りどころです。頑張りましょう」
 「「「はい!」」」

 フュンの指揮の元。皆の結束力は素晴らしかった。
 とそこに。

 「やはり、ネズミがいましたわ。だからあの黒い煙が」
 「そういう事かよ。お前のせいで俺たちが」

 二人の男女がこちらにやってきた。
 相手が話しかけてきているが、フュンは生返事をする。

 「はい。ですが。待ってください。ここが正念場なんです。あなたたちはその後!」
 「な!? 何言ってんだ。お前。俺たちの敵だ。お前は!」
 「黙ってなさい! ここは病人がいる場所です! 大声を上げない。下がりなさい」
 「ぐっ・・・なんだお前は」
 
 フュンは力強く宣言をして、相手を一歩後ろに引かせた。
 怒気を帯びている声だけで相手を畏怖させたのだ。 

 「ヴァン。ララ。ごめん。でもフュンさんの言うとおりにして。ここはあと少しなんだよ」
 「頼む二人とも。今、皆が料理を食べてくれているんだ。生きてくれるかもしれないんだ。だから下がっててくれ」

 メルンとソルベがフュンを擁護したことで、ヴァンとララは下がらざるを得なくなった。
 二人は部屋の前で待機することになった。

 その後。
 フュンが全員の体調を確認し、大丈夫な者と、要観察の者に振り分けていった。
 要観察者の元には交代制で救護班をつける。

 「よいですか。もし、具合が悪くなった方がいたら、僕を呼んでください。僕が診察をするので、ここは頑張りましょう。皆さんもお疲れでしょうが、ここを乗り切れば、きっとこの人たちも元気になりますからね。ええ。それでは、いってきます」

 とフュンは、部屋から出て行った。


 ◇

 「それで、あなたたちは。何の用ですか」
 「それはこっちのセリフだ。お前。何好き勝手やってんだよ。ここをどこだと思ってるんだよ」
 「ええ。なぜ。ここでこんなことをしているのですか。あなたは!」
 「そんなの決まってます。苦しんでいる人が目の前にいるのです。それが海賊であろうが僕には関係が無い。生きてほしいですよ。それだけです」
 「お前・・・・俺たちの事を知ってて。待てよ。こいつを人質にすれば、奴らの仲間なんだろ。どうせ」
 「そうですわね。私たちの身の安全を図れるかも」

 ヴァンとララはフュンを人質にすることで、表の戦いを終わらせようとした。
 海軍の先行部隊だと思ったのだ。
 ある意味、それで合っていますが、フュンにはそのつもりがありません。
 見学しに来たつもりくらいの軽い気持ちでありますから。

 「しょうがないですね。あなたたちは。物事を短絡的に捉えてはいけませんよ。もっと広い視野でみるべきです・・・ということで引いてはくれません・・・よね? 無理ですよね」
 「あ、当たり前だ」
 「そうですわ。こちらだって・・・なぁ。生死がかかってんだよ」

 ララの優雅な喋り口調が荒々しくなる。
 戦闘モードへ移行した様だ。

 「はぁ。ニール。ルージュ。二人はあっちの男性を。僕は彼女と戦います。殺してはいけませんよ」
 「うむ」「任された」
 「では、戦いますか」

 フュンは説得が困難だと判断した。
 長らくここでごたごたになるよりも、早く決着を着けて、こちらにいる人々の救護に回りたい。
 それがフュンの本音である。

 ◇

 「では、どうぞ。そちらの女性の方」

 フュンがララにそう言っている間に。

 「なんだこのガキは!? 速い!!」
 
 ヴァンは青と赤の閃光に押され始めた。
 左右を移動する二人の速度は目で追えない。
 ヴァンと双子を対決させたのは理由がある。
 フュンはヴァンがバランス系の戦闘員だと即座に理解したからだ。
 彼の持つ盾、それと片手斧は、バトルスタイルとして標準。
 だから双子であれば余裕で戦えるはずだ。


 そして、フュンが彼女を選んだ理由は。

 「いくぞ。あたしの斧に、血を吸わせろ。この野郎」

 荒々しい物言いで迫るララは超大型の斧。
 自分の体の二倍くらいの斧を振り回してくる。

 「はい。そういうわけにはいきませんよ」

 フュンは、双子の弱点を見抜いていた。
 それはパワー系の敵と対峙した時のラッキーパンチに注意しなければならない事だ。
 彼らは一撃でも喰らってしまえば、一瞬でやられてしまうだろう。
 それは前回のバルタイとの戦いのときにも見受けられた弱点だ。
 でもそれは彼らの体がまだ小さいから、いずれ成長すれば克服できるものでもある。

 「では、あなたの弱点も。つきますよ」
 「あたしの弱点? そんなもの、薙ぎ払えば全てが終わりだ」
 「ええ。薙ぎ払えればですよ」

 フュンは横払いの重たい一撃が自分の元に来る前に、彼女の懐に潜り込む。
 女性との顔の距離が鼻先になるまでに近づく。

 「ほら。君の攻撃は素晴らしいけど、君に近い位置だとどうするの」
 「む!? こ、これは」
 「そう。君はこの回転攻撃を一度出したら止められない。横払いを出すために、体を回転させているからね。今までの相手にはそれでもよし。なぜなら、君の攻撃力に相手はビビっていたのでしょう。でも僕は違うよ。あの時のバルタイって人の攻撃に比べればまだ怖くないからね。ララだったね。君もパワー系統ならより一層冷静に戦わないといけないよ。ほら」
 「いたっ・・な、なに」

 フュンは女性を傷つけるわけにはいかないと、武器の持ち手に剣の柄を当てた。
 ララはその痛みで武器を落とす。

 「それじゃあ、この重たい斧は没収」

 フュンは落ちた斧を蹴飛ばして、女性の首にやむなく剣を置いた。
 
 「はい。僕の勝ちだよ。とりあえず言う事を聞いてほしいな。そっちの君も」
 「いででででで。なんだこの双子は動きが異常だ!?」
 「殿下」「捕まえたぁ」
 「はいご苦労様。それじゃ、ニール。ルージュ。この二人を縛ってください。この先、少々面倒になるので交渉をします」

 海賊のリーダー格。
 ヴァンとララを捕まえたことで事件は終結に向かって行くのだった。
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