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第一部 人質から始まる物語
第78話 真に恐ろしきは第一王子の方
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帝国歴517年4月20日。
「さてと……」
ネアルは、都市ババンの城壁を見上げる。
現在ネアル軍はババンを包囲中で、自軍四方の兵で、完璧な布陣を敷いてババンを封鎖。
ここから誰も逃げられないようにしていた。
ネアル軍の本陣は、とても優雅な天幕を設置していて、ネアルが相手をじっくり観察できるようになっていた。
天幕の外でイスに腰かけるネアルは、ブルーが入れてくれた紅茶を飲んだ。
「不肖の弟だな・・・まったく」
ネアルはゆっくり視線を下げる。
持っている紅茶のカップを見て、ブルーを見る。
「ブルー。これは美味しいな。いつも美味しいがこれは……いつもと違うな。別ものかな」
「はい…ババンの紅茶です」
「…ふっ。ブルー、皮肉か」
「いえ。これは飲み干してしまえという意味です」
「ああそうか・・・まったく。全く血気盛んな女だな。ブルーは! ハハハ」
「いいえ」
言葉少なくブルーは下がる。
主に飲ます紅茶に意味を込める女なんてと、ネアルは恐ろしいなと苦笑いする。
ババン野戦は三週間ほど前の戦い。
そこから四方に軍を配置して籠城させているので、敵もだが、その民も三週間もの長い間外に出ていない。
城壁の内側には穀倉地帯がない。
城壁の外、今ネアルがいる場所が穀倉地帯で都市の食料を賄う場所だ。
ということは、兵糧攻めの状態が現在続いている。
季節は春。
今が種をまく時だが、外に出られない状態では難しい。
ババンは王国きっての大都市。
中は大荒れになること間違いないのだ。
有象無象の貴族共に怒り狂った市民たちを止める術はあるのか。
そういう深い部分も考えずに反旗を翻すとは我が弟ながら情けないと。
ネアルは何回ため息をついたか分からない。
「ネアル様。戦いはいいのか。しないなら帰りたい」
「はははは。お前はそう言うと思ったぞ。パールマン」
パールマンの素直な感想でやや機嫌を持ち直したネアル。
今は戦う時ではないとしているので、彼を説得はした。
『わかった』と言った割には口が尖っているのが面白い。
「うちは。楽できる~。書類作業よりこっちがいい」
「ふっ。たんまりと残っているぞ。王都に帰ればな」
「げっ・・・いやだぁ・・ネアル様がやってくださいよ。あれめんどくさいんですよ」
「私が? あれはお前の仕事だからな。アスターネがやりなさい」
「ええ、じゃあうちも今から帰りたいなぁ。ここにいる期間が長いと溜まるんでしょ」
「ああ、わかった。わかった。手伝ってやるから機嫌を直せ」
「はい! ネアル様優しい~~」
「ふっ」
アスターネはこういう時は駄々っ子になる。普段は周りのフォローに回る分のツケが発揮される様だ。
「では王子。どうしましょうか。あれは」
「うむ」
ブルーが指さしたのは、目の前にまで連れてこられたジャイルであった。
「ジャイル。貴様は何故弟側に? 私の元に来る気はなかったのか」
「・・・な、なぜこちらの蜂起を・・・読んでいたいのだ」
「そんな事、お前たちが集まる前から知っていたわ。質問に答えろ。低レベルな会話をするな。無能将軍」
ジャイルは上級大将。
貴族出身ではないがそこまで出世した人物である。
ターレス。グルドンは大将格。
どちらも貴族出身でゴアは、貴族だけを自分の手元に置いて貴族ではない一般人から出世した人物であるジャイルを最初に選択したらしい。
狡いマネだな。
そもそもお前が軍を率いよ。
と思っているネアルはジャイルを睨んだ。
「貴様を生かすのは、あいつらとの取引の為ではない」
「?」
「一人一人消えていくというのを味わってもらうためだ」
「は?」
「あいつの周りには人がいなくなるからな。見ていろ。私は都市の治安が崩れてきたら、あるお触れを出す」
「お触れだと」
「南の出口に脱出場所を作るとな、民を逃がす場所を作る」
「なに!?」
「市民の命だけは。私は絶対に守る。これだけは王子としてやらねばな。民無くして王はいない。無駄に散らせても良い命ではないからな。貴族共とは違って」
ネアルはテーブルに頬杖をして言った。
「ま・・・まさか」
最後の一言でジャイルは気付いた。
「ほう。気付いたか」
「こ、殺す気なのだな。貴族の方たちを。中には由緒正しい名門貴族もいるのだぞ」
「名門? そんなもの。この王国にあったか。どうだブルー」
「ありませんね。奴らは塵屑ですからね。生ゴミは家とは言えません」
冷酷な物言いだった。
「だそうだぞ。貴様は感じないのか。ゴミだと」
「だ。誰がそう感じるか。自分を取り立ててくれた方たちだ」
「そうか。それが本心であれば残念だな・・・それにしても、貴様は捨て石だったのだぞ。それでもよいというのか」
「捨て石だと」
「よく考えろ。なぜゴアが自ら攻めてこない。お前が指揮した軍は、ゴア軍だろ?」
「そ・・そうだ」
「ならばなぜお前が最高指揮官として最終決戦である王都決戦をした。なぜ奴がそれをやらないのだ?」
「そ。それは・・・安全を図られたのではないのか?」
「安全? 王になりたい男がか? 自分の命を懸けて戦うという意思がない王に、貴様は従うのか」
「ム……」
ジャイルが負け始める。忠誠心が揺らいでいた。
「しかし、お前も戦場に出ていないではないか」
「そうだ。それは奴も出ないことが分かっていたからな。それに私は、ブルーとアスターネ、そしてパールマンだけでも圧倒的に勝つと信じているからな。出る必要がない」
仲間の三人は頬が緩んだ。
「そして、私が出る幕もない戦争であるのも残念だな。あいつは弱すぎる。さてと・・・どうなるか。まずは一か月。民がどう出るかだ」
ネアルは大都市ババンをまた見つめた。
戦場は、外じゃない。
中であると・・・・。
◇
帝国歴517年5月3日。
ババンの内部が不遜な雰囲気になる。
それは、ババンの城の中の話ではなく、ババンの城下町からである。
大都市の食糧倉庫はまだあったのに、段々と減り始め、そして段々と城に食料が増えていった。
兵が飢えれば戦いに負けると判断した貴族又はゴアの指示により、平民の食糧は盗られていったのだ。
そして、この事が不満爆発の予兆となり、城の至る所でボヤ騒ぎが起きて、抗議運動が始まった。
城の前にて、市民は戦争を中断せよとのデモをしていたのである。
その情報は、ネアル王子にも届き、不満は爆発する寸前であるなと彼はニヤリと笑った。
そこで次なる手は・・・もちろん。
正午過ぎ。
南の城壁の前にネアルが立った。
城壁の上にいる兵士たちは一目で彼が王子だと分かる。
なぜなら光輝く太陽のように眩しいのだ。
「聞け! ババンの民よ。私は、イーナミア王国第一王子ネアル・ビンジャーである」
ネアルの言葉が都市のどこまで届くか分からない。
でも彼は喉が枯れても、市民へ伝えたい思いがある。
「この都市で我が不肖の弟は籠城を続ける。そうなると君たちはこのままでは餓死だ! 現に自分たちの食糧が徐々に尽き果てていくのに気付いているだろう。それは危険だぞ。餓死への入り口に足を突っ込んでいる」
ざわざわとした声がババンから聞こえた。
おそらく中で聞いてくれた人々の話し声だ。
「だから、それは避けねばならん。私は王族としての責務を果たす。よいか。皆の者。民を飢えさせる王族など恥である! そこで、私はこの南の門にて君たちを待つ。我がネアル軍は市民を受け入れよう。都市から逃げ出したい者はこちらへ来い。私たちが身柄を保護する。それだけを伝えたかったのだ。今より、我らは南で君たちを待つ!」
これを最後の言葉として残して、ネアルは本陣まで引いていった。
静まり返るババンの都市。
そこに火種は置いてきた。
後は勝手に火の粉は各地で燃え上がるだろう。
火種は火の粉へ、火の粉は業火へ。
ネアル自らが都市に手を出さずとも、ゴアは窮地に立たされたのだ。
本陣に戻ったネアルは呟く。
「だから甘いのだ。ゴアよ。私に勝つのに、民を使うのはいかんぞ。やるならば正々堂々と私と戦いをすればよかったのだ。一対一が無理ならば、せめて自らが軍を率いて、私に挑め。弟よ」
◇
ネアルの宣言から数時間後。
その日の夜から都市は荒れる。
これはネアルの想像を超えた現象だった。
ネアル自身は、数日後くらいで不満が噴き出るだろうと予想していたのだが、思った以上に民たちは不満を抱え込んでいたらしい。
漆黒の夜が明るい。
燃え盛る火の勢いが空を明るく照らしていた。
「もう反乱か・・・早いな」
「ええ。それほど不満だったのですね。市民は」
「そうだな。ではブルー。南に陣を敷き、市民を選別しろ」
「え? 選別ですか?」
「そうだ。中に紛れるはずだ。薄汚い貴族がな。そこで、そいつらは吊るし上げる。それをしてくれ。あとそれと、おそらく門が開けば・・・」
「わかっております。それも対処します」
「うむ。やってくれ」
「はっ」
最後の指示を、口に出さなくてよかったとネアルは思った。
優秀なブルーの支えに満足して、ネアルは本陣で待つこととした。
◇
いくつもの火の粉が見える南の門。
争っている声が門の外にも聞こえる。
これは、中で城門を開ける戦いが起きているのだろう。
市民の生き残りをかけた、兵士の使命をかけた。
互いの誇りをかけた戦いが繰り広げられている。
城門の前に立つブルーは身構えた。
城門から異音がしたのだ。
「門が開きます! 皆さん、市民がまず来ますから、一旦あちらに退避させてください。そして兵は殺しますよ。市民を守るためにです!」
そうネアルとブルーの予想は市民が勝つことではなく、市民が逃げる際に兵が市民を殺すことである。
市民をいくつか殺し、それを見せしめにして逃げだす者を減らそうとするだろうと、予測していたのだ。
ゴアならば、貴族に言われたらそれを容認するかもしれないと。
「ごおおおおおおおおおお」
「ぎゃああああああああ」
なだれ込むようにして前に進んでくる市民。
その後ろでは悲鳴が聞こえる。それは予測通りの虐殺だ。
「アスターネ。あなたの隊で退避を手伝って。パールマン。兵を殺しなさい。民を守るのです」
ババン野戦よりも難しい。
そう感じる三人は守りながら戦う事に苦戦していた。
市民たちが必死に逃げ惑う中で、後ろの市民が殺されていく。
中々許されることじゃないとパールマンは城門スレスレの位置から、城門が空いた場所で蓋をした。
市民を守るために壁になったのだ。
「ここから逃げろ。俺たちが助ける」
「邪魔だどけ」
敵兵にそう言われると、こめかみが切れる音がした。
「貴様ら、彼らは一般人だぞ。相手を見ろ! 俺たちが敵だ!!!」
兵ではない者を斬るなど、パールマンの矜持に反することだった。
怒りに満ちた彼はこの後、追いかけまして殺す兵を皆殺しにしていった。
◇
その後。
「あなたは・・貴族ですね。あなたもです」
逃げてきた市民たちを匿うネアル軍はブルーを中心に選別していた。
ブルーの資料と、ブルー自身の勘により、薄汚い貴族を捕まえていく。
匂いが違う。
どんなに市民の振りをしていても、汚い事に手を染める者の匂いはすぐにわかるものなのだ。
「ブルー。選別は完了か」
「・・・はい。30名いました」
「そうか……ん。そういえばだ。貴族の全体数はどれくらいだ?」
「人数で言うと分かりませんが、家単位だと、50家だと思います。大小ありますでしょうが、そのくらいかと」
「そうか。ならば、この者共の首を刎ねて、送れ。中の弟にな」
「はい。そうします」
ブルーは命令を実行し、首は敵に届けられた。
その後、数日のうちに敵は意気消沈。
市民たちは、一日一回南の門を開けて脱走。
次第に兵もそのおかげで少なくなり、市民が完全にいなくなり始めると、ネアルは次に包囲を解いた。
北側全面の包囲を解き、第二王子ゴアたちを逃げ出せるようにしたのだ。
しかし、これらをするには訳がある。
それは・・・・。
「こうやって、あいつらが逃げ込む場所全てをこのようにして叩くぞ。奴らが悪。我らが正義。そういう風に民に示さなければな。私が王になった時に役立つだろう。よし、やるぞ。ブルー。アスターネ。パールマン。このまま北上することになるだろうが、しょうがない。内戦を終わらせねばな」
人心掌握が付属した内乱はまだ始まったばかりであった。
「さてと……」
ネアルは、都市ババンの城壁を見上げる。
現在ネアル軍はババンを包囲中で、自軍四方の兵で、完璧な布陣を敷いてババンを封鎖。
ここから誰も逃げられないようにしていた。
ネアル軍の本陣は、とても優雅な天幕を設置していて、ネアルが相手をじっくり観察できるようになっていた。
天幕の外でイスに腰かけるネアルは、ブルーが入れてくれた紅茶を飲んだ。
「不肖の弟だな・・・まったく」
ネアルはゆっくり視線を下げる。
持っている紅茶のカップを見て、ブルーを見る。
「ブルー。これは美味しいな。いつも美味しいがこれは……いつもと違うな。別ものかな」
「はい…ババンの紅茶です」
「…ふっ。ブルー、皮肉か」
「いえ。これは飲み干してしまえという意味です」
「ああそうか・・・まったく。全く血気盛んな女だな。ブルーは! ハハハ」
「いいえ」
言葉少なくブルーは下がる。
主に飲ます紅茶に意味を込める女なんてと、ネアルは恐ろしいなと苦笑いする。
ババン野戦は三週間ほど前の戦い。
そこから四方に軍を配置して籠城させているので、敵もだが、その民も三週間もの長い間外に出ていない。
城壁の内側には穀倉地帯がない。
城壁の外、今ネアルがいる場所が穀倉地帯で都市の食料を賄う場所だ。
ということは、兵糧攻めの状態が現在続いている。
季節は春。
今が種をまく時だが、外に出られない状態では難しい。
ババンは王国きっての大都市。
中は大荒れになること間違いないのだ。
有象無象の貴族共に怒り狂った市民たちを止める術はあるのか。
そういう深い部分も考えずに反旗を翻すとは我が弟ながら情けないと。
ネアルは何回ため息をついたか分からない。
「ネアル様。戦いはいいのか。しないなら帰りたい」
「はははは。お前はそう言うと思ったぞ。パールマン」
パールマンの素直な感想でやや機嫌を持ち直したネアル。
今は戦う時ではないとしているので、彼を説得はした。
『わかった』と言った割には口が尖っているのが面白い。
「うちは。楽できる~。書類作業よりこっちがいい」
「ふっ。たんまりと残っているぞ。王都に帰ればな」
「げっ・・・いやだぁ・・ネアル様がやってくださいよ。あれめんどくさいんですよ」
「私が? あれはお前の仕事だからな。アスターネがやりなさい」
「ええ、じゃあうちも今から帰りたいなぁ。ここにいる期間が長いと溜まるんでしょ」
「ああ、わかった。わかった。手伝ってやるから機嫌を直せ」
「はい! ネアル様優しい~~」
「ふっ」
アスターネはこういう時は駄々っ子になる。普段は周りのフォローに回る分のツケが発揮される様だ。
「では王子。どうしましょうか。あれは」
「うむ」
ブルーが指さしたのは、目の前にまで連れてこられたジャイルであった。
「ジャイル。貴様は何故弟側に? 私の元に来る気はなかったのか」
「・・・な、なぜこちらの蜂起を・・・読んでいたいのだ」
「そんな事、お前たちが集まる前から知っていたわ。質問に答えろ。低レベルな会話をするな。無能将軍」
ジャイルは上級大将。
貴族出身ではないがそこまで出世した人物である。
ターレス。グルドンは大将格。
どちらも貴族出身でゴアは、貴族だけを自分の手元に置いて貴族ではない一般人から出世した人物であるジャイルを最初に選択したらしい。
狡いマネだな。
そもそもお前が軍を率いよ。
と思っているネアルはジャイルを睨んだ。
「貴様を生かすのは、あいつらとの取引の為ではない」
「?」
「一人一人消えていくというのを味わってもらうためだ」
「は?」
「あいつの周りには人がいなくなるからな。見ていろ。私は都市の治安が崩れてきたら、あるお触れを出す」
「お触れだと」
「南の出口に脱出場所を作るとな、民を逃がす場所を作る」
「なに!?」
「市民の命だけは。私は絶対に守る。これだけは王子としてやらねばな。民無くして王はいない。無駄に散らせても良い命ではないからな。貴族共とは違って」
ネアルはテーブルに頬杖をして言った。
「ま・・・まさか」
最後の一言でジャイルは気付いた。
「ほう。気付いたか」
「こ、殺す気なのだな。貴族の方たちを。中には由緒正しい名門貴族もいるのだぞ」
「名門? そんなもの。この王国にあったか。どうだブルー」
「ありませんね。奴らは塵屑ですからね。生ゴミは家とは言えません」
冷酷な物言いだった。
「だそうだぞ。貴様は感じないのか。ゴミだと」
「だ。誰がそう感じるか。自分を取り立ててくれた方たちだ」
「そうか。それが本心であれば残念だな・・・それにしても、貴様は捨て石だったのだぞ。それでもよいというのか」
「捨て石だと」
「よく考えろ。なぜゴアが自ら攻めてこない。お前が指揮した軍は、ゴア軍だろ?」
「そ・・そうだ」
「ならばなぜお前が最高指揮官として最終決戦である王都決戦をした。なぜ奴がそれをやらないのだ?」
「そ。それは・・・安全を図られたのではないのか?」
「安全? 王になりたい男がか? 自分の命を懸けて戦うという意思がない王に、貴様は従うのか」
「ム……」
ジャイルが負け始める。忠誠心が揺らいでいた。
「しかし、お前も戦場に出ていないではないか」
「そうだ。それは奴も出ないことが分かっていたからな。それに私は、ブルーとアスターネ、そしてパールマンだけでも圧倒的に勝つと信じているからな。出る必要がない」
仲間の三人は頬が緩んだ。
「そして、私が出る幕もない戦争であるのも残念だな。あいつは弱すぎる。さてと・・・どうなるか。まずは一か月。民がどう出るかだ」
ネアルは大都市ババンをまた見つめた。
戦場は、外じゃない。
中であると・・・・。
◇
帝国歴517年5月3日。
ババンの内部が不遜な雰囲気になる。
それは、ババンの城の中の話ではなく、ババンの城下町からである。
大都市の食糧倉庫はまだあったのに、段々と減り始め、そして段々と城に食料が増えていった。
兵が飢えれば戦いに負けると判断した貴族又はゴアの指示により、平民の食糧は盗られていったのだ。
そして、この事が不満爆発の予兆となり、城の至る所でボヤ騒ぎが起きて、抗議運動が始まった。
城の前にて、市民は戦争を中断せよとのデモをしていたのである。
その情報は、ネアル王子にも届き、不満は爆発する寸前であるなと彼はニヤリと笑った。
そこで次なる手は・・・もちろん。
正午過ぎ。
南の城壁の前にネアルが立った。
城壁の上にいる兵士たちは一目で彼が王子だと分かる。
なぜなら光輝く太陽のように眩しいのだ。
「聞け! ババンの民よ。私は、イーナミア王国第一王子ネアル・ビンジャーである」
ネアルの言葉が都市のどこまで届くか分からない。
でも彼は喉が枯れても、市民へ伝えたい思いがある。
「この都市で我が不肖の弟は籠城を続ける。そうなると君たちはこのままでは餓死だ! 現に自分たちの食糧が徐々に尽き果てていくのに気付いているだろう。それは危険だぞ。餓死への入り口に足を突っ込んでいる」
ざわざわとした声がババンから聞こえた。
おそらく中で聞いてくれた人々の話し声だ。
「だから、それは避けねばならん。私は王族としての責務を果たす。よいか。皆の者。民を飢えさせる王族など恥である! そこで、私はこの南の門にて君たちを待つ。我がネアル軍は市民を受け入れよう。都市から逃げ出したい者はこちらへ来い。私たちが身柄を保護する。それだけを伝えたかったのだ。今より、我らは南で君たちを待つ!」
これを最後の言葉として残して、ネアルは本陣まで引いていった。
静まり返るババンの都市。
そこに火種は置いてきた。
後は勝手に火の粉は各地で燃え上がるだろう。
火種は火の粉へ、火の粉は業火へ。
ネアル自らが都市に手を出さずとも、ゴアは窮地に立たされたのだ。
本陣に戻ったネアルは呟く。
「だから甘いのだ。ゴアよ。私に勝つのに、民を使うのはいかんぞ。やるならば正々堂々と私と戦いをすればよかったのだ。一対一が無理ならば、せめて自らが軍を率いて、私に挑め。弟よ」
◇
ネアルの宣言から数時間後。
その日の夜から都市は荒れる。
これはネアルの想像を超えた現象だった。
ネアル自身は、数日後くらいで不満が噴き出るだろうと予想していたのだが、思った以上に民たちは不満を抱え込んでいたらしい。
漆黒の夜が明るい。
燃え盛る火の勢いが空を明るく照らしていた。
「もう反乱か・・・早いな」
「ええ。それほど不満だったのですね。市民は」
「そうだな。ではブルー。南に陣を敷き、市民を選別しろ」
「え? 選別ですか?」
「そうだ。中に紛れるはずだ。薄汚い貴族がな。そこで、そいつらは吊るし上げる。それをしてくれ。あとそれと、おそらく門が開けば・・・」
「わかっております。それも対処します」
「うむ。やってくれ」
「はっ」
最後の指示を、口に出さなくてよかったとネアルは思った。
優秀なブルーの支えに満足して、ネアルは本陣で待つこととした。
◇
いくつもの火の粉が見える南の門。
争っている声が門の外にも聞こえる。
これは、中で城門を開ける戦いが起きているのだろう。
市民の生き残りをかけた、兵士の使命をかけた。
互いの誇りをかけた戦いが繰り広げられている。
城門の前に立つブルーは身構えた。
城門から異音がしたのだ。
「門が開きます! 皆さん、市民がまず来ますから、一旦あちらに退避させてください。そして兵は殺しますよ。市民を守るためにです!」
そうネアルとブルーの予想は市民が勝つことではなく、市民が逃げる際に兵が市民を殺すことである。
市民をいくつか殺し、それを見せしめにして逃げだす者を減らそうとするだろうと、予測していたのだ。
ゴアならば、貴族に言われたらそれを容認するかもしれないと。
「ごおおおおおおおおおお」
「ぎゃああああああああ」
なだれ込むようにして前に進んでくる市民。
その後ろでは悲鳴が聞こえる。それは予測通りの虐殺だ。
「アスターネ。あなたの隊で退避を手伝って。パールマン。兵を殺しなさい。民を守るのです」
ババン野戦よりも難しい。
そう感じる三人は守りながら戦う事に苦戦していた。
市民たちが必死に逃げ惑う中で、後ろの市民が殺されていく。
中々許されることじゃないとパールマンは城門スレスレの位置から、城門が空いた場所で蓋をした。
市民を守るために壁になったのだ。
「ここから逃げろ。俺たちが助ける」
「邪魔だどけ」
敵兵にそう言われると、こめかみが切れる音がした。
「貴様ら、彼らは一般人だぞ。相手を見ろ! 俺たちが敵だ!!!」
兵ではない者を斬るなど、パールマンの矜持に反することだった。
怒りに満ちた彼はこの後、追いかけまして殺す兵を皆殺しにしていった。
◇
その後。
「あなたは・・貴族ですね。あなたもです」
逃げてきた市民たちを匿うネアル軍はブルーを中心に選別していた。
ブルーの資料と、ブルー自身の勘により、薄汚い貴族を捕まえていく。
匂いが違う。
どんなに市民の振りをしていても、汚い事に手を染める者の匂いはすぐにわかるものなのだ。
「ブルー。選別は完了か」
「・・・はい。30名いました」
「そうか……ん。そういえばだ。貴族の全体数はどれくらいだ?」
「人数で言うと分かりませんが、家単位だと、50家だと思います。大小ありますでしょうが、そのくらいかと」
「そうか。ならば、この者共の首を刎ねて、送れ。中の弟にな」
「はい。そうします」
ブルーは命令を実行し、首は敵に届けられた。
その後、数日のうちに敵は意気消沈。
市民たちは、一日一回南の門を開けて脱走。
次第に兵もそのおかげで少なくなり、市民が完全にいなくなり始めると、ネアルは次に包囲を解いた。
北側全面の包囲を解き、第二王子ゴアたちを逃げ出せるようにしたのだ。
しかし、これらをするには訳がある。
それは・・・・。
「こうやって、あいつらが逃げ込む場所全てをこのようにして叩くぞ。奴らが悪。我らが正義。そういう風に民に示さなければな。私が王になった時に役立つだろう。よし、やるぞ。ブルー。アスターネ。パールマン。このまま北上することになるだろうが、しょうがない。内戦を終わらせねばな」
人心掌握が付属した内乱はまだ始まったばかりであった。
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転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
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私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
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カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
無能なので辞めさせていただきます!
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