68 / 346
第一部 人質から始まる物語
第67話 新たな仲間は副将候補
しおりを挟む
翌日の早朝。
5時に起きていられた者は、312名だった。
試験開始当初の五分の一の数にまで減少したことで、フュンが課した試練がとても難しかったことが証明された朝の事。
ここまで乗り越えた者の中には、顔色が悪く疲労状態の者もいたりする。
フュンは彼ら一人一人の前に立って、目を診せてもらい、舌を出してもらった。
健康チェックをしてから、全体に話しかける。
「それではいきますよ。皆さん、このバッジを左胸につけてください」
フュンの指示通りに挑戦者たちはバッジをつけた。
「ルールを説明します。とにかく今から、お昼までの間にこのバッジを持っていた人が最終試験に挑戦できます。これ以外のルールはなんでもありですよ~。試験会場はテースト山全体です。ここにいてくれれば、後はもう何が起きても自由です。お昼になったら皆さんがいるかどうかをバッジで確認するので、この二次試験、戦い抜きましょう。では、試験までの準備をしてください。ここから一斉スタートするのは、この場が戦場になっちゃうと思うので、三十分後くらいに花火を打ち上げますから、それが開始の合図ですよ。あとお昼も花火をあげるのでそれが終了の合図です。最後まで残っていた人たちが最終試験挑戦者ですよ。では、皆さんばらけてください。合図出しますからね」
「「「は~~~い」」」
と軽い返事から始まるこの試験にも意図がある。
三十分後。
花火が上がったと同時にミランダとフュンは高台の上で会話に入った。
「フュン。何の試験だ。これ?」
「はい、ミラ先生。この試験は、僕の話を聞いているかと柔軟性の試験です。あれ見ててください。ほら、あそこ」
フュンが指さしたのは、里の外れでバッジをつけた者同士が戦っている場面だ。
「戦ってんな」
「ええ。戦ってますよね。変ですよね」
「ん?? どういうこった??」
「彼らはなんで戦っているんでしょう?」
「あ? そりゃお前から戦場になるって聞かされたからじゃないのか。先制攻撃でもした方が有利になるとでも思ったんじゃ? それと相手を不合格にしようと、蹴落とそうとしてる奴もいるかもな」
「…ええ、そうですよね。僕がそう言いましたからね。そう勘違いする人も出ますよね」
「勘違い?」
「ええ。でもミラ先生、僕はこの試験のルールをなんて言いましたか?」
「・・・このバッジを時間まで持っていろ。あとはなんでもいいって言ってたか」
「そうです。ということはですよ」
「ナハハハ。お前は・・・よく分かってんな人間をさ。話を最後まで聞いて、そして最初の大事な部分は覚えておけっつうことか」
ミランダは不敵に笑う。
親衛隊試験に挑戦する者たちは、バッジをつけろと最初に伝えられたことで、バッジをつけなくてはならないと勘違いしている。
だから左胸についている者たちの事をライバルだと認識しているのだ。
「僕は別に戦えって言ってないんですよね」
「ああ。そうだな。戦場にはなるとは言ったがな」
「ええ。そうなんです。そしてもう一つ、僕は何人合格になるかを言ってないんですよね。だから全員が合格しても良いのですよ」
「ああ。そうなのさ。だからこの試験・・・」
「そうです。お昼まで何もしないが正解なんです。彼のように!」
フュンは、高台の上から里の朝の商店の前にいる青年を指さした。
朝ごはんを選んでいる途中で、店主の人と笑顔で会話している。
「バッジも外してもいいんだよな。お前のあの言い方だと」
「そうです。ルールは、なんでも良いと言いましたからね。それと最初につけろとは言いましたが、バッジについては持っていれば良いと後から言ったのですよ。ポケットなんかに隠し持っていても良いのです。だから皆さんには、もっと柔軟に考えてほしいのです。戦うことだけが正解じゃない。僕の親衛隊の人には、それを感じ取ってほしい。理解してほしい。僕という人間をです。あははは」
「ふっ。お前はやはり……あたしの最高の弟子になる男だ。な!」
ミランダはフュンの頭を鷲掴みにして、髪をもみくちゃにした。
戦いを軸に置いているラメンテの戦士たちにとって、フュンの意図を理解出来る者は少ない。
戦場になるかもしれないのたったの一言で、自分のバッジが奪われるかもしれないという思いになり、奪われるくらいなら先に奪ってしまえの考えに至ってしまう。
それが元野盗やチンピラ連中の考えであるのだ。
だからフュンは、別の新たな考えを持ってほしくて、この試験を作り上げた。
新しい世代も加わって来ているラメンテの新たな意識。
これからのラメンテの在り方になっていってほしいとのフュンの願いでもあった。
「それにしても彼は素晴らしいですね。身体能力は普通ですが、冷静です。頭がいい。それと器量もよさそうだ。あそこで里の人たちに溶け込んでご飯を食べてますね。試験を受けているようには思えないほどに普段通りです。ミラ先生は彼を知ってますか?」
「ああ。知ってる。いいかフュン。あれはお前の親衛隊には入れねえぞ」
「え? どうして」
ミランダは青年の儚く繊細な薄紫の花のような髪を指さした。
「あいつは、未来のウォーカー隊の隊長になる男だからな」
「彼が!?」
「そうだ。奴の名はタイム。お前がいずれウォーカー隊を率いる時の隊長となる男なのさ。あいつ普通だろ」
「ええ。僕が見た感じでは、戦いもそんなに得意ではないように見えますね。僕と一緒ですね。あははは」
彼が自分に似ていると思ったのでフュンは嬉しそうに笑った。
周りの人物たちが異常に強く、彼に親近感を持つのは当然のことだった。
「ああ。そうだ。あいつは戦闘能力で特筆すべき点はない。だが、あいつは堅実なんだ。策も動きもな。そういうのが今のあたしらに必要。ザイオン、エリナ、サブロウ。この三人はド派手だろ。わっかりやすい能力でさ」
「そうですね。突進力のザイオンさん。調整のエリナさん。策士のサブロウさんですもんね。それぞれの能力は非常に高いです」
「ああ。そうさ。そんで、そこからの次世代もさ。同じなのさ。ゼファー。ミシェル。リアリス。カゲロイ。皆、能力が高い……だがあいつは違う。普通だ。だから兵に規律を生むことが出来る。たぶんあいつの力で、ウォーカー隊は少し変わると思うのさ。あいつはお嬢の所で育てたから、今はだいぶそういう人を変える点も育てたぞ」
「なるほど。ハスラで修行をしていたのですね。ふむふむ。たしかに。彼ならば隊を軍に出来るかもしれませんね」
「そういう事よ。あたしらの荒々しさを無くすわけじゃない。でも規律は重要だ。いずれ、お前があたしの跡を継ぐときにはな」
「・・・ミラ先生の跡を継ぐ?」
「おう。お前がウォーカー隊を継いでくれ。お嬢には出来ないからな」
「…わかりました。頑張ります」
「ああ。まかせたのさ」
ミランダとフュンはお昼になるまで、この高台の上で過ごしたのだった。
試験に挑んでいる者たちは、戦う者もいるし、タイムのように休んでいる者もいる。
あとは、彼の友達のウルシェラとマーシェンも現場にはいた。
二人で何かお茶をして話して待っている。
自分の考えを理解してくれたんだと、友達に分かってもらえている喜びをフュンは感じていた。
◇
正午ごろ。
花火が三つ上がる。試験終了の合図だ。
「終わりましたよ。皆さん! 元気ですか」
「「「・・は~い」」」
「う~ん。おかしいですね。元気がありませんか。それじゃあ、バッジを見せてください。僕の所まで一人で来てくださいね」
残った人数は83名。
フュンは、彼らのバッジを確認してから、一人一人の体調を診て、最初の頃と同じ目と舌を診ていった。
312名の体調を全て覚えているフュンは、この午前中の間に体調が変化しているかどうかを診ることが出来るのだ。
「はい。合格です」「駄目ですね。残念です」
「あなたはいいですよ」「んん。駄目ですね」
と振り分けること一時間。
残った人数は32名だった。
合格者の余裕がある状態を許せない不合格者から文句が出る。
「なんで俺が駄目なんだ」「そうよ。私だって」
自分は戦って生き残ったのに、平気な顔して悠々としている奴らが合格など許せないと思う者が不合格者の中で多数だった。
「はい。そこは秘密ですよ。次回もやるとミラ先生が言っていたのでね。合格ラインは内緒にしないといけません。それで、なぜあなたたちが不合格で、こちらの方たちが合格なのかはよく考えてくださいね。でも一つだけ言いますよ。あなたたちが弱いから不合格なのではありません。むしろ強いですよ。でも僕の親衛隊になりたいのなら、強さだけが重要じゃないことを覚えておいてください。力は、戦闘力だけを指すのではないのです。では、またの機会を。それじゃあ、合格の人は会議室に来てください。最終試験を言います」
フュンは丁寧に不合格者を諭していった。
◇
会議室について早々。
フュンは皆に向けて拍手した。
「皆さんは合格なんですよ。おめでとうございますね。一緒に頑張りましょう」
30名は隣の人物の顔を見たりして喜んだ。
本当にフュンの親衛隊に入りたい者たちだったらしい。
「僕の意図を正確に理解した方たちですからね。合格なんですよ。そこでですね。僕は質問したい方がいまして。君! 君が最優秀者なのですけど。君は何を考えていましたか? 僕は君の考えを聞きたい」
合格者の中で最優秀者は特筆すべき点のないタイムだった。
31名の合格者たちにも、印象に残っていないようで、誰だこいつみたいのような顔をした。
彼が圧倒的な成績を収めているわけではないからだ。
耐久走も先程のバッジ争奪戦も特に目立ったことをしていないのである。
「ぼ。僕が!? 僕が一番なのですか? えええ」
「はい。そうですよ。あなたが一番です」
「ほほほ、本当でしょうか。何かの間違いじゃ」
「いえいえ。間違いじゃないですよ。あなたが一番僕の考えを理解してくれました。あなたが考えていたことを僕たちに教えてほしい」
「わ・・・わかりました。王子」
タイムは恐縮しながら話しだした。
自分みたいな者が一番になるなんて思ってもいない事。
謙遜する性格のようなのだ。
「僕はただ王子の話を聞いていただけで、最初の試練の時も二日で南に行けでしたから、東西ルートを軽く走り、南北ルートを一定の速度で、二日かけて無理せずに走っただけです。次の日の三日目の試験があるので、疲れを均等にすることが大切だと思ったのです」
タイムの考えは、この試験でフュンがして欲しかった事と同じだった。
「そして走りきったらすぐに夜から移動すると。しかも次の日、朝の五時が試験だと王子がおっしゃっていたので、これは体力管理試験なのだと思い。なおさら無理をしないことを徹底しました」
フュンだけは『うんうん』と頷いていた。
「そして今朝。王子がバッジをつけろと言い。でもその次にはルールはなんでもよくて、お昼までバッジを持っていろとおっしゃっていたので、僕は内ポケットにバッジをしまって待機してました。僕はこの試験も体力管理の試験なんだと思ったんです。王子が本当に指示したい言葉は、戦闘をするタイミングを間違えない。これだと思いましたね。はい。いざ戦う時に体力のない状態でいてほしくない。これが王子の考えかと思っただけです。でもこれで、僕が最優秀者なんですか? 何もしてないんですが」
「いいえ。素晴らしいです。あなたが一番だ。タイム君」
「え? 僕の名前を」
「はい。ミラ先生から聞いてます。あなたはこの試験を突破しても」
「はい。そうです。僕は入りたかったんですけど、王子の親衛隊には入れないらしいです。副隊長試験を受けないといけないらしいのですよ。僕、弱いのに・・・・はぁ」
自信なさげなタイム。
不安そうな顔もしているのだが、フュンとミランダは笑っていた。
「いいえ。君なら出来ますよ。きっと素晴らしい隊長にもなるでしょう。自信を持ってください。それと僕も同じです。僕も弱いのに隊長にされちゃうらしいんですよ。あははは」
「そ。そうなんですか。王子は十分お強いのに」
「いえいえ。僕はまだまだ弱い。でも頑張って強くなりますよ。だからタイム君。君も頑張りましょう。応援してます。それとここでは一位ですからね。自信をもって次の試験に挑んでください。きっと突破できますからね」
「……は、はい。ありがとうございます。王子。頑張ります」
タイムは晴れやかな表情に変わる。
王子に褒められてうれしそうに笑った。
タイムはハスラ防衛戦争時にエリナの下についていた人物。
フュンとの関わり合いは直接なかったが、当時の戦争記録を読み返していく内にフュンに興味が湧いた人物なのだ。
彼に一回会ってみたいという思いで努力をして、エリナの指導の元でバランス型の戦士として成長してから、ハスラの軍で規律を学んだラメンテの中では指揮官型の戦士である。
成長を果たすフュンの元には頼もしき仲間たちが育っていた。
ゼファー。ミシェル。リアリス。カゲロイ。タイム。
のちに、彼らは英雄フュン・メイダルフィアの将となる者たちである。
偉業を成すには力がなくてはならないのに、フュンにはその力がない。
だけど、フュンには素晴らしい仲間たちがいたのだ。
大陸の英雄には一人でなった訳ではない。仲間たちと共になったのである。
5時に起きていられた者は、312名だった。
試験開始当初の五分の一の数にまで減少したことで、フュンが課した試練がとても難しかったことが証明された朝の事。
ここまで乗り越えた者の中には、顔色が悪く疲労状態の者もいたりする。
フュンは彼ら一人一人の前に立って、目を診せてもらい、舌を出してもらった。
健康チェックをしてから、全体に話しかける。
「それではいきますよ。皆さん、このバッジを左胸につけてください」
フュンの指示通りに挑戦者たちはバッジをつけた。
「ルールを説明します。とにかく今から、お昼までの間にこのバッジを持っていた人が最終試験に挑戦できます。これ以外のルールはなんでもありですよ~。試験会場はテースト山全体です。ここにいてくれれば、後はもう何が起きても自由です。お昼になったら皆さんがいるかどうかをバッジで確認するので、この二次試験、戦い抜きましょう。では、試験までの準備をしてください。ここから一斉スタートするのは、この場が戦場になっちゃうと思うので、三十分後くらいに花火を打ち上げますから、それが開始の合図ですよ。あとお昼も花火をあげるのでそれが終了の合図です。最後まで残っていた人たちが最終試験挑戦者ですよ。では、皆さんばらけてください。合図出しますからね」
「「「は~~~い」」」
と軽い返事から始まるこの試験にも意図がある。
三十分後。
花火が上がったと同時にミランダとフュンは高台の上で会話に入った。
「フュン。何の試験だ。これ?」
「はい、ミラ先生。この試験は、僕の話を聞いているかと柔軟性の試験です。あれ見ててください。ほら、あそこ」
フュンが指さしたのは、里の外れでバッジをつけた者同士が戦っている場面だ。
「戦ってんな」
「ええ。戦ってますよね。変ですよね」
「ん?? どういうこった??」
「彼らはなんで戦っているんでしょう?」
「あ? そりゃお前から戦場になるって聞かされたからじゃないのか。先制攻撃でもした方が有利になるとでも思ったんじゃ? それと相手を不合格にしようと、蹴落とそうとしてる奴もいるかもな」
「…ええ、そうですよね。僕がそう言いましたからね。そう勘違いする人も出ますよね」
「勘違い?」
「ええ。でもミラ先生、僕はこの試験のルールをなんて言いましたか?」
「・・・このバッジを時間まで持っていろ。あとはなんでもいいって言ってたか」
「そうです。ということはですよ」
「ナハハハ。お前は・・・よく分かってんな人間をさ。話を最後まで聞いて、そして最初の大事な部分は覚えておけっつうことか」
ミランダは不敵に笑う。
親衛隊試験に挑戦する者たちは、バッジをつけろと最初に伝えられたことで、バッジをつけなくてはならないと勘違いしている。
だから左胸についている者たちの事をライバルだと認識しているのだ。
「僕は別に戦えって言ってないんですよね」
「ああ。そうだな。戦場にはなるとは言ったがな」
「ええ。そうなんです。そしてもう一つ、僕は何人合格になるかを言ってないんですよね。だから全員が合格しても良いのですよ」
「ああ。そうなのさ。だからこの試験・・・」
「そうです。お昼まで何もしないが正解なんです。彼のように!」
フュンは、高台の上から里の朝の商店の前にいる青年を指さした。
朝ごはんを選んでいる途中で、店主の人と笑顔で会話している。
「バッジも外してもいいんだよな。お前のあの言い方だと」
「そうです。ルールは、なんでも良いと言いましたからね。それと最初につけろとは言いましたが、バッジについては持っていれば良いと後から言ったのですよ。ポケットなんかに隠し持っていても良いのです。だから皆さんには、もっと柔軟に考えてほしいのです。戦うことだけが正解じゃない。僕の親衛隊の人には、それを感じ取ってほしい。理解してほしい。僕という人間をです。あははは」
「ふっ。お前はやはり……あたしの最高の弟子になる男だ。な!」
ミランダはフュンの頭を鷲掴みにして、髪をもみくちゃにした。
戦いを軸に置いているラメンテの戦士たちにとって、フュンの意図を理解出来る者は少ない。
戦場になるかもしれないのたったの一言で、自分のバッジが奪われるかもしれないという思いになり、奪われるくらいなら先に奪ってしまえの考えに至ってしまう。
それが元野盗やチンピラ連中の考えであるのだ。
だからフュンは、別の新たな考えを持ってほしくて、この試験を作り上げた。
新しい世代も加わって来ているラメンテの新たな意識。
これからのラメンテの在り方になっていってほしいとのフュンの願いでもあった。
「それにしても彼は素晴らしいですね。身体能力は普通ですが、冷静です。頭がいい。それと器量もよさそうだ。あそこで里の人たちに溶け込んでご飯を食べてますね。試験を受けているようには思えないほどに普段通りです。ミラ先生は彼を知ってますか?」
「ああ。知ってる。いいかフュン。あれはお前の親衛隊には入れねえぞ」
「え? どうして」
ミランダは青年の儚く繊細な薄紫の花のような髪を指さした。
「あいつは、未来のウォーカー隊の隊長になる男だからな」
「彼が!?」
「そうだ。奴の名はタイム。お前がいずれウォーカー隊を率いる時の隊長となる男なのさ。あいつ普通だろ」
「ええ。僕が見た感じでは、戦いもそんなに得意ではないように見えますね。僕と一緒ですね。あははは」
彼が自分に似ていると思ったのでフュンは嬉しそうに笑った。
周りの人物たちが異常に強く、彼に親近感を持つのは当然のことだった。
「ああ。そうだ。あいつは戦闘能力で特筆すべき点はない。だが、あいつは堅実なんだ。策も動きもな。そういうのが今のあたしらに必要。ザイオン、エリナ、サブロウ。この三人はド派手だろ。わっかりやすい能力でさ」
「そうですね。突進力のザイオンさん。調整のエリナさん。策士のサブロウさんですもんね。それぞれの能力は非常に高いです」
「ああ。そうさ。そんで、そこからの次世代もさ。同じなのさ。ゼファー。ミシェル。リアリス。カゲロイ。皆、能力が高い……だがあいつは違う。普通だ。だから兵に規律を生むことが出来る。たぶんあいつの力で、ウォーカー隊は少し変わると思うのさ。あいつはお嬢の所で育てたから、今はだいぶそういう人を変える点も育てたぞ」
「なるほど。ハスラで修行をしていたのですね。ふむふむ。たしかに。彼ならば隊を軍に出来るかもしれませんね」
「そういう事よ。あたしらの荒々しさを無くすわけじゃない。でも規律は重要だ。いずれ、お前があたしの跡を継ぐときにはな」
「・・・ミラ先生の跡を継ぐ?」
「おう。お前がウォーカー隊を継いでくれ。お嬢には出来ないからな」
「…わかりました。頑張ります」
「ああ。まかせたのさ」
ミランダとフュンはお昼になるまで、この高台の上で過ごしたのだった。
試験に挑んでいる者たちは、戦う者もいるし、タイムのように休んでいる者もいる。
あとは、彼の友達のウルシェラとマーシェンも現場にはいた。
二人で何かお茶をして話して待っている。
自分の考えを理解してくれたんだと、友達に分かってもらえている喜びをフュンは感じていた。
◇
正午ごろ。
花火が三つ上がる。試験終了の合図だ。
「終わりましたよ。皆さん! 元気ですか」
「「「・・は~い」」」
「う~ん。おかしいですね。元気がありませんか。それじゃあ、バッジを見せてください。僕の所まで一人で来てくださいね」
残った人数は83名。
フュンは、彼らのバッジを確認してから、一人一人の体調を診て、最初の頃と同じ目と舌を診ていった。
312名の体調を全て覚えているフュンは、この午前中の間に体調が変化しているかどうかを診ることが出来るのだ。
「はい。合格です」「駄目ですね。残念です」
「あなたはいいですよ」「んん。駄目ですね」
と振り分けること一時間。
残った人数は32名だった。
合格者の余裕がある状態を許せない不合格者から文句が出る。
「なんで俺が駄目なんだ」「そうよ。私だって」
自分は戦って生き残ったのに、平気な顔して悠々としている奴らが合格など許せないと思う者が不合格者の中で多数だった。
「はい。そこは秘密ですよ。次回もやるとミラ先生が言っていたのでね。合格ラインは内緒にしないといけません。それで、なぜあなたたちが不合格で、こちらの方たちが合格なのかはよく考えてくださいね。でも一つだけ言いますよ。あなたたちが弱いから不合格なのではありません。むしろ強いですよ。でも僕の親衛隊になりたいのなら、強さだけが重要じゃないことを覚えておいてください。力は、戦闘力だけを指すのではないのです。では、またの機会を。それじゃあ、合格の人は会議室に来てください。最終試験を言います」
フュンは丁寧に不合格者を諭していった。
◇
会議室について早々。
フュンは皆に向けて拍手した。
「皆さんは合格なんですよ。おめでとうございますね。一緒に頑張りましょう」
30名は隣の人物の顔を見たりして喜んだ。
本当にフュンの親衛隊に入りたい者たちだったらしい。
「僕の意図を正確に理解した方たちですからね。合格なんですよ。そこでですね。僕は質問したい方がいまして。君! 君が最優秀者なのですけど。君は何を考えていましたか? 僕は君の考えを聞きたい」
合格者の中で最優秀者は特筆すべき点のないタイムだった。
31名の合格者たちにも、印象に残っていないようで、誰だこいつみたいのような顔をした。
彼が圧倒的な成績を収めているわけではないからだ。
耐久走も先程のバッジ争奪戦も特に目立ったことをしていないのである。
「ぼ。僕が!? 僕が一番なのですか? えええ」
「はい。そうですよ。あなたが一番です」
「ほほほ、本当でしょうか。何かの間違いじゃ」
「いえいえ。間違いじゃないですよ。あなたが一番僕の考えを理解してくれました。あなたが考えていたことを僕たちに教えてほしい」
「わ・・・わかりました。王子」
タイムは恐縮しながら話しだした。
自分みたいな者が一番になるなんて思ってもいない事。
謙遜する性格のようなのだ。
「僕はただ王子の話を聞いていただけで、最初の試練の時も二日で南に行けでしたから、東西ルートを軽く走り、南北ルートを一定の速度で、二日かけて無理せずに走っただけです。次の日の三日目の試験があるので、疲れを均等にすることが大切だと思ったのです」
タイムの考えは、この試験でフュンがして欲しかった事と同じだった。
「そして走りきったらすぐに夜から移動すると。しかも次の日、朝の五時が試験だと王子がおっしゃっていたので、これは体力管理試験なのだと思い。なおさら無理をしないことを徹底しました」
フュンだけは『うんうん』と頷いていた。
「そして今朝。王子がバッジをつけろと言い。でもその次にはルールはなんでもよくて、お昼までバッジを持っていろとおっしゃっていたので、僕は内ポケットにバッジをしまって待機してました。僕はこの試験も体力管理の試験なんだと思ったんです。王子が本当に指示したい言葉は、戦闘をするタイミングを間違えない。これだと思いましたね。はい。いざ戦う時に体力のない状態でいてほしくない。これが王子の考えかと思っただけです。でもこれで、僕が最優秀者なんですか? 何もしてないんですが」
「いいえ。素晴らしいです。あなたが一番だ。タイム君」
「え? 僕の名前を」
「はい。ミラ先生から聞いてます。あなたはこの試験を突破しても」
「はい。そうです。僕は入りたかったんですけど、王子の親衛隊には入れないらしいです。副隊長試験を受けないといけないらしいのですよ。僕、弱いのに・・・・はぁ」
自信なさげなタイム。
不安そうな顔もしているのだが、フュンとミランダは笑っていた。
「いいえ。君なら出来ますよ。きっと素晴らしい隊長にもなるでしょう。自信を持ってください。それと僕も同じです。僕も弱いのに隊長にされちゃうらしいんですよ。あははは」
「そ。そうなんですか。王子は十分お強いのに」
「いえいえ。僕はまだまだ弱い。でも頑張って強くなりますよ。だからタイム君。君も頑張りましょう。応援してます。それとここでは一位ですからね。自信をもって次の試験に挑んでください。きっと突破できますからね」
「……は、はい。ありがとうございます。王子。頑張ります」
タイムは晴れやかな表情に変わる。
王子に褒められてうれしそうに笑った。
タイムはハスラ防衛戦争時にエリナの下についていた人物。
フュンとの関わり合いは直接なかったが、当時の戦争記録を読み返していく内にフュンに興味が湧いた人物なのだ。
彼に一回会ってみたいという思いで努力をして、エリナの指導の元でバランス型の戦士として成長してから、ハスラの軍で規律を学んだラメンテの中では指揮官型の戦士である。
成長を果たすフュンの元には頼もしき仲間たちが育っていた。
ゼファー。ミシェル。リアリス。カゲロイ。タイム。
のちに、彼らは英雄フュン・メイダルフィアの将となる者たちである。
偉業を成すには力がなくてはならないのに、フュンにはその力がない。
だけど、フュンには素晴らしい仲間たちがいたのだ。
大陸の英雄には一人でなった訳ではない。仲間たちと共になったのである。
38
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。
しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹
そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる
もう限界がきた私はあることを決心するのだった
異世界転移して5分で帰らされた帰宅部 帰宅魔法で現世と異世界を行ったり来たり
細波みずき
ファンタジー
異世界転移して5分で帰らされた男、赤羽。家に帰るとテレビから第4次世界大戦の発令のニュースが飛び込む。第3次すらまだですけど!?
チートスキル「帰宅」で現世と異世界を行ったり来たり!?
「帰宅」で世界を救え!
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
異世界に行ったら才能に満ち溢れていました
みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。
異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる