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第一部 人質から始まる物語

第62話 王子はまた気付く

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 「今の状況では、誰が殺していてもおかしくない状況だと思ってます。シンドラかもしれないし、もしかしたら村の中に犯人がいるかもしれません」
 「・・・そうだね。でもなぜシーラの村人が、村長を殺す必要があるんだ。さすがにこの現状では村長殺しはおかしいよな。でもシンドラの可能性もまたないに等しい・・・」
 「いや、それもまだわかりませんよ。シンドラ側かもしれませんし、シーラ村かもしれません。僕はまだ可能性だけに留めるのがいいと思います。どの可能性もあるという点に留めるのです」
 「ああ。俺もそう思うね。どんな可能性もあるしね・・・ただ、俺は嫌な予感がするな。まさか・・・なぁ」

 ジークの想定は、フュンの考えよりも重い。
 それは、御三家問題までいくかもしれないからだ。
 フュンの中では、村と属国の問題であると思うかもしれないが。
 ジークの中では、村の支配者であるダーレー家と、シンドラを直属支配する王家のターク家との問題となるのでは? 
 ダーレー対タークの戦いになるのではないか? 
 と悪い方向に考えていたのだ。

 でも、ここで疑念点がある。
 ターク家がこういう罠を仕掛けるとは思えない事だ。
 ヌロならば実行するかもしれないが、武人気質のスクナロがこういう細かい罠を仕掛けるとは考えられない。
 それと、もしヌロが仕掛けるならば、どこかに穴があるはずなのだ。
 巧妙に隠すことなどできない。
 あまり頭がよくないあいつに、自分を出し抜けるとは考えられないのだ。
 だからこの事故には裏があるとジークは思っていた。
 フュンとしては事件を解決したいなくらいの軽い気持ちでも、ジークにとっては御三家問題として戦う事になる重要案件になったのだ。
 まさか。ここまで根深い問題になるとは考えていなかった。
 事故をどう処理するのかの問題じゃなくなった。

 「まあ、手をこまねいていても、しょうがない。とりあえず行ってみようか」
 「え?どこへです?」 
 「村役場の会議場だよ。話し合いをここ数日は続けているらしいんだ。俺たちもいって、話し合いに参加した方が良さそうだ。向こうの出方がどうなるか分からないから警戒は忘れずにね。皆、血気盛んになってるからね。フュン君」
 「わかりました。いってみましょう」

 フュンの返事の後、ジークは別な方を見た。

 「それじゃあ、アイネ君はそばにいない方がいいから、サイラス!」

 サイラスが影から出てきて、すぐに跪く。
 
 「ジーク様。なんでしょうか」
 「アイネ君を守ってくれ。今から何が起こるか分からないから、村にいる間、彼女を死守だ。いいな。俺はフュン君を守るから、お前はアイネ君の護衛だ」
 「はい。承知しました」
 「ああ。頼んだぞ」

 サイラスはまた影に消えた。

 ◇

 村の集会所に人が集まっていた。
 穏健派30名に対して、武装蜂起派20名。
 中央に線を引いたようにパッキリと別れて立つ。

 「いい加減にしろ、ふざけるなバッカス! 武器を置け。落ち着くんだ」
 「うるさい。ハーベント。お前は悔しくないのか。村長は殺されたんだ」

 二人の男が言い争う。

 「殺されたかどうかは分からないだろう。事故だって先方は言っていたんだ」
 「お前は馬鹿か。向こうの言い訳に決まっている。殺したんだよ。村長が取引の価格交渉になかなか応じないからさ」
 「だから、そんな事で殺すと思うか。短絡的過ぎるぞ。バッカス」

 ハーベントたち穏健派は農具を持って話し合いをしている。
 それに対して、バッカスたち武装蜂起派は武器を持っていた。
 どこから買い付けてきたのかは分からないが、各々が武器を所持していて、鞘から剣を取り出して穏健派たちに刃先を向けていた。
 一触即発の状況である。

 「そうだぞ。冷静になりたまえ。君たち」

 そこにジークが現れる。
 フュンと共に中央に立った。
 武器を持つ武装蜂起派の前にジークが出ている形である。
 いざという時はこの村人たちを斬るつもりだ。

 「お前は・・・いや、あなた様はジーク様では」
 「お! ハーベントか。よかったぜ。お前は説得してくれる方だったか」
 「はい。こいつらが言う事を聞かなくて困っていました」
 「なんだと!? お前の方が」
 「待て待て、話し合いをしているんだ。喧嘩腰にならないでくれ」
  
 ジークにそう言われたら、バッカスも下がらざるを得ない。

 「バッカス。それで下がってもいいのか。お前は見せつけてやるんじゃなかったのか?」
 
 バッカスの隣にいる男性が言った。

 「答えを急ぐな。待てよ。ジャッカル。俺はまだ諦めてねえ」

 との小さな声でのやり取りをフュンは聞き逃していなかった。
 彼の五感は発達している。
 ちょっとの声くらいでは、耳を澄ませば聞こえるのだ。
 
 「それで、武装蜂起は諦めてくれないのか。えっと、君は誰だ。あまり見かけないな」
 「俺は、バッカスだ」 
 「酪農のカスランの息子です。最近継いだのでジーク様はご存じないのです」
 
 後ろからハーベントが説明を加えてくれた。

 「そうか。それで息巻いているのか。価格を交渉されちゃ困るものな。酪農は特にな」

 ジークが答えた。

 「そうだ。村長は価格を下げるのに反対してくれていたんだ。シンドラは安値で買おうとしていて、村長がいつもその交渉を突っぱねてくれたから、価格が据え置きだったんだよ。だから殺されたんだ。村長が邪魔だからな。そんでひ弱なハーベントみたいなのと交渉するつもりだったんだろ。向こうはさ」
 「バッカス! 誰が、ひ弱だと。俺だって、価格交渉は反対だ。これ以上安くするつもりはない」
 「だったら、なんで武装蜂起して反対しないんだよ。向こうの商会どもが来た時には武器で倒すんだよ。これ以上くんなよってな!」
 「そんなことして、何になるんだ。戦争でも起こす気か。こんな小さな村が!」
 「構わない。気概を見せるんだ。気概を!」

 話の方向が少しばかり戦闘寄りだと感じるフュンが、この場で一言も話さないのはこの場の全員を観察しているからだ。
 一人一人の目を見て、心を探っている。

 大体の人が、自分の思想が正しいと思っているくらいに真っ直ぐな心だ。
 自分の意志を信じている人たちである。
 だが、この中で心が見えないのが二人。
 それがバッカスとジャッカルだ。
 特にジャッカル。
 バッカスの方は五月蠅いという印象止まりだが、ジャッカルから感じる雰囲気が怪しい。
 フュンは彼の方を警戒していた。

 「何の気概かな。戦うってことかい」
 
 ジークが交渉説得を始める。

 「あ。当たり前です。俺たちは絶対にシンドラなんかには負けない」
 「まあ。それは当たり前だね。誰だって負けたくはない」
 「そうでしょう。ジーク様。ジーク様も戦いましょう」
 「うん。何と戦うのかな?」
 「え。それは、シンドラですよ。シンドラ。あいつらの好き勝手にはさせませんよ。属国如きに」
 「属国如き? それはないでしょ」
 「え・・・」
 「属国は如きじゃない。帝国の一部だ。貴重な仲間となってくれる人たちのことを言うんだよ」
 「し、信じられない。ジーク様がそんなことを言うなんて。だってあいつら、好き勝手のさばるつもりだから、俺たちの事を馬鹿にしてるんだ」
 「馬鹿にしてる? それはどこで感じるんだい?」
 「それは、強引に価格を交渉しようとしてるからですよ!」
 「だったらなんで、村長は招待されたのかな?」
 「え。はい?」

 ジークの舌戦は穏やかだった。
 自分の立場が立場だけに、村人には優しめでの話し方である。
 これがヌロならばもっと嫌味たらしく攻めるはずだ。

 「シンドラは、シーラ村との価格交渉をずっと続けるのではなく。彼ら一家をね。一度シンドラに招待して懇談会を開こうとしたんだよ。だから、これのどこが、村の事を軽視しているように思えるのかい?」
 「そ・・・それは」
 「人となりから交渉をしようとするシンドラはさ。俺は誠実だと思うんだよね。それに・・・今回、村長一家。彼らだけじゃなくて、あっちの商会の男性も一人。亡くなっているんだよ。もし、君たちの言う通りに事故じゃなくて事件であるならば、彼は亡くならないと思うんだよね」

 それはフュンも思っていた事だ。
 殺人事件として村長一家を狙っていたのであれば、一家以外の人物が亡くなるのは少々おかしい。
 そして、こちらの名産品で、事件が起きている疑いもおかしい。
 この二点が謎であるのだ。

 「そ・・・そんなことは」
 「いいのか。バッカス。言い負かされていても。戦う意思を捨てる気か」

 バッカスの隣にいるジャッカルが耳元で語りかけている。

 「俺は戦うんだ。何が何でも。いくんだぁ。みんな!!! 俺たちは立ち上がるんだ!!!」

 叫び出したその時。
 フュンが前に出た。

 「少し待ってください。僕の話を聞いてもらえませんか」

 フュンはまた何かに気付いていたのである。
 戦い説得はジークからフュンに変わるのだった。
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