人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖

文字の大きさ
上 下
55 / 508
第一部 人質から始まる物語

第54話 成長促進会議

しおりを挟む
 翌日。ヒザルスの屋敷にて。

 「タルスコさん・・・じゃなかった。ルイス様は、なぜヒザルス様の執事さんになっていたのですか」
 「ええ。私としてはですね。まあ、隠居生活を楽しく暮らそうとですね。まあ、道楽ですね」
 「そ、そうなんですか」

 フュンが納得すると。
 その隣にいたヒザルスが肩をすくめた。

 「いやはや、ルイス様。普通の道楽にして欲しいです。今の道楽は勘弁願いたいのですよ。私ね。気合いを入れないと出来ないような役柄を務めるのは、まったくもって嫌ですね。この先、続くのも本当に嫌ですね」
 「あははは。なんとなく僕もその気持ちわかりますよ。こんなにも偉い方に、あの命令口調で話さないといけないなんて・・・ヒザルス様・・・針のむしろ。いや、蟻地獄の中にいて、出られないような気分ですね。あははは」

 中々的確な意見を言ってくれたので、ヒザルスの目が輝く。

 「フュン様、あなたは……俺の気持ちを分かってくれるなんて素晴らしい方だ。あのジークの屑がべた褒めするもんだから、てっきり俺はかなり酷い奴なのかなと思ったら、こんなにもお優しい方だったとは……うんうん。あいつ、人を見る目だけはいいですな。目以外は腐ってるけど」
 「ヒザルスさんって、ジーク様と仲が良いのですか? そんなにスラスラと悪口が出るなんて、仲が良い証拠ですよね」
 「え? ありえないありえない。あいつと仲が良いなんてね。あいつと仲良くなるくらいなら、地獄の番人と仲良くなった方がいいですよ」
 「そ、そうなんですか。僕はてっきり・・・仲が良いのかと」

 予想が外れたとがっかりしたフュンに、ルイスが訂正する。

 「フュン様。あなたの想像通り。こやつとジークは仲が良いですよ。ええ」
 「ですよね。あははは」
 
 二人で笑うと、文句を言いたげなヒザルスが片方の眉をあげた。
 言い返したくても相手が偉すぎて、流石のヒザルスでも言い返せないのだ。


 ◇

 「ところで真面目な話になりますが、フュン様はジークに帰順されるのですな」
 「はい。そうしたいですね。それでルイス様は、ダーレー家におられるのでしょうか?」
 「いえいえ。私は今。貴族の地位などではありませんので、どこにも肩入れしておりません」
 「そうなんですか。伝説の方だとお聞きしたんでね。てっきり御三家の誰かに」
 「はははは。伝説じゃありませんよ。ただの普通のジジイです」
 
 軽く爺ジョークを言うと。

 「どこが普通だよ。超人化け物ジジイだよ。この人は」

 誰にも聞こえないような声でヒザルスはぼそっと言ったのに。

 「おい、聞こえておるぞ、ヒザルス。誰が超人化け物ジジイだ」

 思いっきり聞こえていた。

 「・・え?・・・何がでしょう・・・はて?」

 爺の癖に耳が良い。
 地獄耳の爺だと思ったヒザルスは必死にとぼけた。

 「まあよい。話を戻して、フュン様! ダーレー家に帰順するという事は苦難ばかりになりますぞ。それでもよろしいのですかな」
 「ええ。まあ。いいです。僕の事を最初から受け入れていてくれたのはあのお二人ですし、それに僕は、お二人のことが好きですしね。まあ、それで、サナリアが苦境になるかもしれませんがね。僕がなんとかします。御三家最弱でも少しでもお二人の力になって、勝っていけるような陣営になるよう努力しますよ。あははは。不安ですけどね。あははは」

 不安があっても笑う余裕だけはある。
 フュンとはそんな変わった男である。

 「面白い。自信があるのかないのか。分からないのが面白いですな。はははは」
 「まったく、ルイス様の言う通りですね。は~~~はは~~」

 三人の笑顔はしばらく続き。
 もう一度、ルイスから話が始まる。

 「そうですな。では、私はあなたにお仕えしようかな。残り少ない人生。楽しめる人物のそばにいようかと思います」
 「残り少ないって・・・いつ死ぬんだよ、このジジイ」
 「おい、ヒザルス。聞こえているぞ」
 「え? ピューピュー」

 ヒザルスはまたとぼけた。

 「・・・・え?・・・・え?」

 その彼の隣でフュンは、突然のことに脳が処理しきれていなかった。
 
 「今は貴族でもないですが、あなた様の旗下に加わりたい。私はあなたの端の一席にでも座らせてもらえればいいのですよ。私の肩書を上手く利用してくださいな」
 「・・・ふぇ。いやいやいやいや、僕はただの属国の王子で、あなた様は帝国でも伝説の貴族様・・・釣り合いが取れないです・・・」
 「はははは。いいのですよ。そんなに堅苦しく考えずとも、あなたの背中で、私がいると判断してもらえるように立ち回りますから、あなたは、あなたの道を歩めばよいのです。誰にも縛られることはない。それに私が勝手にお守りする形でいますから」
 「・・・そ、それもまた、恐縮する感じが」

 こうして、帝国の伝説の元貴族ルイス・コスタがフュンの背中を守る事となった。
 これは異例中の異例の出来事。
 あの帝国の御三家だって、喉から手が出るほどに欲しい人間なのに、何故かそれを属国の王子如きが手に入れてしまうのでした。
 ルイスとは大局を描く天才で、それはミランダやサブロウの戦争の戦略戦術の天才とは違い、新たな視点を持つ人物。
 だからフュンは、この人物のおかげで大局を見極める力を養うのでした。
 人を支えたいと願う青年は人に支えられて成長していくのです。

 「それでは、畑でもやりますか! フュン様!」
 「ええ。そうですね。それは、ぜひぜひ。一緒にやりましょう!」
 「こちらの話だといい笑顔ですな。まったく面白い人だ。はははは」
 
 フュンはこちらの方の話になるとすぐに元気になった。
 二人並んで畑の作業をして、様々な作物の手入れをして、フュンは残り三日ほどの滞在を楽しんだのでした。

 ◇

 里ラメンテにて。

 「そろそろ本格的に計画性のある訓練を課そうと思うのさ……つうことであんたら、意見くれ。あたしの計画に力を貸してくれ」

 ミランダは、里ラメンテの会議室に、ザイオン。エリナ。サブロウ。ジークを呼んだ。
 彼女が打ち出した計画とは次世代育成プロジェクトである。
 主にフュンとゼファーを軸に、ミシェルや双子などの力も引き上げようとしていた。

 「ほう。俺は面白いから力を貸すけどよ。武のみだぞ。他は無理だぞ。俺はよ」
 「あたいも~~。単純な物しか教えられんわ」
 「そんなこったぁ。わかってるわ。お前らにそれ以上は望まんのさ。そんで、サブロウの許可は得てるからよ。ジークはどうだ?」
 「俺か。まあ、賛成に決まってるよな。俺は彼には辺境伯になってほしいと心から願っている。でもそれよりも、この帝国で絶対に生き残って欲しいという気持ちの方が強いな。そのためには訓練をしっかりしなきゃ、彼は生き残れない。仕方がないが、彼には強くなってもらおう! お前に預けるのは心苦しいがな」
 「そうか・・・うし。ではあたしの計画を・・・って、なんであたしで不安になんだよ!」

 文句たらたらでもミランダは会議室の一番大きい壁に紙をでかでかと貼り付けた。
 どうだと言わんばかりに両手でアピールする。

 「これでどうよ。まず一人一人説明する。最初にミシェル。彼女の武は引き続きザイオンだ。しかし彼女は頭がいい。全てをザイオンに任せんのは駄目だ。アホだからな。もったいねぇ。マジで!」
 「おい、ミラ・・・ぶっとばすぞ」
 「なははは。やってみっか!」

 二人は喧嘩腰になるが、サブロウが入る。

 「そこのアホ二人ぞ。喧嘩しとる暇はないぞ。次の指示ぞ。ミラ」
 「おう。んで、彼女には将たる者として、指揮訓練をやらせたいから、そん時は彼女はあたしんところだ。みっちり鍛えてやる。ちゃんとした副将としてな。んで、もうひとり。エリナんところにいる。えっと、リアリス!」
 「ああ。いるな。あの生意気娘な」

 エリナは煙草をふかしながら答えた。
 頭に浮かぶ彼女の姿は、弓を片手に、ナイフを片手に、山で狩りをしまくる勇ましい姿だ。

 「あいつも副将候補だ。あたしが鍛える。でも武はお前だ! いいな」
 「あいつか・・・ちょいと面倒だな。生意気でな・・・面倒だなぁ」

 エリナが二回も面倒だと言った。
 彼女がそう言う程ならば、よほどの人物なのだ。
 
 「ならお前にちょうどいいだろうが。お前も生意気なんだから」
 「んだと。ミラ! あたいと一戦、やろうってか!」
 
 今度はジークが間に立つ。

 「はぁ。お前らは喧嘩しか出来んのか。相変わらずそこらの野盗と変わらんだろ」
 「てめえ。このシスコン皇子が。てめえも大体にして野盗と変わらんは」
 「俺は隠しても隠し切れない品があるからな。お前らとは出来が違うのよ」
 「がははは。エリナ…シスコンに攻撃がかわされてるぞ」
 
 挑発に乗らないジークにブツブツ文句を言いながらエリナは煙草を吸った。

 「いいか。話が脱線してっけどよ。まだ説明するからさ・・・」

 ちょっと寂しくなったミランダがもう一度話を戻す。

 「ええっと。リアリスまでいったな。次はこいつか。タイムだ。この男は、努力型の真面目な奴だ。だとすると、この里で暮して鍛えても勿体ない。外で鍛える。お嬢の脇にいるハスラの将の隣に立たせてやってくれ。出来るかジーク?」
 「ああ。わかった。その子をハスラに向かわせればいいんだな」
 「ああ。頼んだ」
 「おう。任せとけ」
 
 各人を適正な場所に置こうとしていた。

 「ええっと、あとはカゲロイだな。カゲロイはそのままサブロウでいい。お前の片腕位まで育てろ。シゲマサ並みにしな」
 「・・・んんん。シゲマサ並みか・・・ちと難しいぞ。あいつは優秀だったぞな」
 「まあ。いずれでいいわ。んで、お前の所に双子を送る。カゲロイと同じようにお前の技を仕込んでくれ。あいつらはいずれな。フュンの影にする」
 「おお。なるほどぞ。それは名案ぞな」

 双子の教育はサブロウが担当することとなる。

 「そんでメインだ。まず、ゼファー。こいつを最強格の男にする。あたしらの武以上に仕上げたい。絶対的な強者にしてやんぜ。つうことで、エリナ! ザイオン! サブロウ! この三人とあたしで、たらい回しにして鍛える。地獄の訓練を、あいつには受けてもらうことにする」
 「「なに!?」」

 ザイオンとエリナが驚き、サブロウは黙って頷く。

 「少々無理があろうが、ちょいとハードに仕上げていくことにする。あいつは、何でも吸収できるタイプの人間だ。素直さ。武人気質。負けず嫌い。そして、フュンへの忠誠心。あいつの基礎は完璧だから、それを上塗りするようにベタベタにあたしらの色で塗ってやって、あとはその上に自分の色を自分で塗ってもらおう。要するに早めにあたしらの技を覚えてもらうってことさ」
 「そいつは賛成だ。俺もその方針はありと見る」
 「だろ。ジークは話が早いのさ」

 二人で大きな声で笑っているとサブロウが本題を振った。

 「フュンはどうするぞ。あいつこそがおいらたちの・・・シゲマサの希望ぞ」
 「ああ。あいつはな。あたしとジークとお嬢が鍛える。そんで、あのクソジジイも協力するって言ってきたからな。フュンは今とは全く違う。昔の知り合いが見たらビックリするような男にすんのさ。だから。見てろ。シゲマサ。あたしの計画じゃ・・・大体二年か・・・そこらへん。もうちょいかかるかもしれないが、必ず成長させてみせるぜ。くくくく。ナハハハ」  

 ミランダの高笑いを見て、皆は呆れた顔をした。
 こういう時のミランダは、悪だくみの顔をしているので、皆は心の中でフュンに手を合わせていた。

 【頑張れ。フュン】
  
 と密かに一言で応援していたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

処理中です...