13 / 397
第一部 人質から始まる物語
第12話 茶会開催
しおりを挟む
謁見後の夜、茶会は開催された。
城の脇にある大きな会場で王族が主催する一大行事。
それが茶会。
王族と貴族と豪商が一堂に会するのである。
現皇帝以前は晩餐会などと呼ばれていた催し物だ。
帝国の王族又はそれに準ずる者が開催する茶会は、互いの親睦を深めたり、相手の現在の立ち位置を把握したりする場で、参加する各人には様々な目的がある。
皇帝は、王家のパワーバランスを探るため。
王家としては、貴族たちの管理を目的にして。
貴族らは、自分たちと親しくなる商人を探すために。
そして、商人らは得意の取引先を開拓するために参加するのである。
このようにして、茶会開催の理由と参加する理由は様々なのだ。
さらにこれらに加えて、帝国にはサナリア以外にも属国を持っているので、その国らをこの行事で監視するという役割も含まれている。
だからフュンは、たまたま茶会に出席できたのではなくて、この日までには必ず帝国に来るようにというお達しがあったのだ。
とりあえず、この場に間に合ってよかったと暢気に思うフュンはゼファーを連れてきていた。
「殿下。これは何とも、広い会場でありますね」
「そうですね。こんな広い場所はサナリアにはありませんね。特にあのサイズのステンドグラスとかはね。素晴らしいものばかりだ」
フュンは、大きく煌びやかなステンドグラスを指さした。
「たしかに見たことがないです。殿下、綺麗ですね」
「ええ。綺麗ですよね。来てよかったですね。ゼファー殿」
「…はい。殿下のおかげです」
珍しい物ばかりの会場で、二人がキョロキョロしていると後ろから声を掛けられる。
「あらぁ。あなたたちは初めて見る顔でございますわ。あれがそんなに珍しいとは、どこの田舎者なのかしら」
「ヒルダ、やめなさい。君たち、申し訳ない。この子は口が悪いのです。許してもらえると嬉しいです」
「な、タイロー。何を失礼な。私は口が悪くありません。思ったことが口に出るだけです」
「それをやめなさいと言っています」
黒の礼服に身を包んだタイローが、黒の手袋をしている手で、女の子の手を握りしめた。
彼女の口を塞ぐことが出来ないから、手で言葉を止めようとしていた。
気の強そうな女の子は、それでも止まらない。
なぜなら彼の手を振り払おうとしているからだ。
フュンは、二人に失礼のないように先に名乗り上げる。
「私はフュン・メイダルフィアと申します。辺境にあるサナリア王国の第一王子です。以後お見知りおきを」
「ああ。その名は噂のですね。では貴方があの田舎のボンクラ王子ですわね」
ゼファーがものすごい顔で威嚇しようとしたがフュンが彼の顔の前に手を出して止めた。
彼女とは違い、彼の方は大人しく引き下がる。
「こら。ヒルダ。君はまったく」
タイローはヒルダを叱責した後。
フュンに丁寧に頭を下げた。
「私はタイローです。タイロー・スカラと申します。あなたと同じ立場で、北の属国ラーゼ国からの人質であります。同じ立場であるので仲良くしていただけると嬉しいです」
「あ、同じ立場で。そうですかぁ。ではタイローさん。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
フュンも丁寧に頭を下げた。
「ほら。ヒルダも。君も同じでしょ」
「…いいわよ。やればいいんでしょ。私はヒルダ・シンドラ。南の属国シンドラ国の第二王女よ。タイローと私。そしてあなたは同じ立場。人質よ。でも私の国は田舎ではないし、私はボンクラな人間でもないわ。優秀だもの」
「君って人は・・・まったくもう。子供みたいに・・・」
彼女の態度が改まらず、タイローは頭を抱えた。
「あははは。ヒルダさん、よろしくお願いします」
「なに。今の会話であなたが笑う要素がどこにあったのよ」
「いや、ヒルダさんがあまりにも正直な方で面白いと思ったのですよ。笑ってしまい失礼しました」
フュンは満面の笑みで謝った。
「はぁ~。何を言っているの? どういう事よ。タイローわかる?」
「私にもわかりません。どういうことですか? フュン殿?」
フュンは真面目な顔になって答えた。
「僕は、瞳を見れば大体その人の心が分かるのです。なので、あなたの目を見れば、本当にあなたが言っていることに嘘がない事が分かります。あなたの根はとても良い人です。言葉は悪くても正直が一番であります。人質という立場で正直に生きられていて、僕は格好良いなと思ったのですよ」
「な!?」
驚いたヒルダは耳を真っ赤にして立ち去ろうとする。
かなりの照れ屋であった。
「あなたに言われなくてもそんなことわかってるわ。プン」
「あ。待ってくださいよ。ヒルダ。ごめんなさい。フュン殿、また」
「はい。また会いましょう。タイローさん!」
「ええ。失礼します」
タイローは、慌ててヒルダを追いかけた。
「殿下! あいつは失礼な奴ですよ。なぜお怒りにならないのですか」
「あははは。あれくらいでは怒りませんよ。それよりもゼファー殿。もう少し感情のコントロールをしましょうよ。冷静さは戦闘でも役立つはずですよ。自分を律しておくのです。いちいち怒っていたら冷静に物事を判断できなくなりますからね」
「は、はい。申し訳ありません殿下」
「いえいえ。そんなに恐縮しないでください。今の僕はね。全然ゼファー殿を怒ってませんよ。あなたが僕の為に怒ってくれようとしているのはもちろん分かっていますよ。そんなに僕はあなたから大切に思ってもらえて、僕としてはとっても嬉しいんです。ですけど、ゼファー殿も感情をコントロールしていって、こういう場所を冷静に乗り切りましょうって話をしたかっただけですよ。あははは」
「わ、わかりました」
優しいフュンはここでも怒らずにいる。
どんな時も感情はフラットに持っていこうとするのがフュンという男である。
これは母の教えを子供の頃から守っている証でもあった。
◇
茶会が中盤に差し掛かったあたりで、主催の挨拶が始まった。
此度の主催者はターク家の当主、第三皇子スクナロであったのだが。
茶会前にスクナロに緊急の用事が出来てしまったので、挨拶はヌロが代わりを務めることになった。
彼の挨拶は、順調なスタートをきって、中盤辺りまではとんとん拍子でよかったのだが、終盤で事件が起きた。
「それで、今回の人質は辺境のサナリア王国の第一王子フュン・メイダルフィアであります。こちらにどうぞ。田舎の王子」
「あ。はい。どうもです」
馬鹿にされていることは重々承知。
だけど、そこを気にしてはいけない。
フュンは、ここが半分は正式な場であることを理解している。
誰からも笑われておけば、上手く切り抜ける道があると、フュンは極めて冷静にヌロの隣に登壇した。
「どうですか。皆さん。今度の人質は、この田舎臭い匂いが取れない者ですよ。どうでしょう」
「「ははははは」」
だしに使われているな。
と思うフュンはヌロの隣で一緒になって笑っていた。
「よく笑っていられるな。何か言う事はないのか。貴様は」
ヌロの問いに、フュンは平気な顔で答える。
「え? そうですね。人質でありますが仲良くしてもらえると嬉しいですね。フュンです。みなさん、よろしくお願いします」
「な!? なに」
嫌がらせを受けても平然と挨拶が出来るフュンにヌロが驚く。
そしてその軽い挨拶で、ここの貴族らは笑い出した。
掴みは完璧だった。
見世物のようになっているフュンを見て、憤りを隠せぬほどに怒っているゼファー。
持っているグラスを叩き割ってこの場で全員殺して暴れ回ろうかと思ったが、フュンの顔を見たら全てが収まった。
冷静になれと言っていたのを思い出したのだ。
そもそも腹を立てているのは馬鹿にされ続けている当事者であろうと自分に良く言い聞かせて、心を落ち着かせていた。
でも、心の底は怒りには満ちている。
食いしばりすぎてゼファーの歯が折れそうなくらいになっていた。
「それでですね。皆さんもご存じの通り。こちらの人物はあの噂のボンクラで愚鈍な王子です。私はその片鱗を先程の謁見で見たのですよ。なんと、我らの皇帝陛下に謁見するのに、ボロボロのみすぼらしい格好で来ましてね。しかも農民の様に泥付きな恰好でしてね。それは酷いあり様でしたよ。それだけでも酷いのに、さらには遅刻までしましてね。失礼極まりない男です。皆さんも注意しましょうね。もしかしたら、皆さんとなにかを約束すれば、遅れてくるかもしれません・・・いえ。来ないかもしれませんぞ」
「「ははははは」」
惨めな思いをさせる為だけの演説。
陰湿ないじめでフュンは会場中の笑いものになる。
会場の雰囲気は完全にヌロの独壇場。
何も気にしないことで有名なフュンですら、この場にいたくないような空間を作り上げていく。
どのタイミングで会話に切り込んでいけば、これを終わらせることが出来るのか。
会話の流れを読むことに長けているフュンでも分からなかった。
そんな最悪の雰囲気の会場の扉が勢いよく開いた。
茶会に招いていた者の中で、最も来場しないであろうと言い切れる人物がこの場に現れたのである。
その人物はお気楽、道楽、気まぐれの男で、帝国の貴族の間でも最も有名な不真面目男だ。
歩くたびに揺れる銀のポニーテールの髪。
美しさが溢れる顔立ちの男性は、何故か邪悪な笑みを振りまきながら、フュンたちのそばまで歩いてきた。
「皆さん! 兄上が言う事がもし本当ならさぞ可笑しい話ですよね。ほんと、ほんと」
銀髪の男性は皆の方からヌロにも話しかけた。
「兄上。そちらの御仁をボンクラと称したのですか? 本当に? いや~。まさかね。どうでしょう、言いました?」
「…あ、ああ、言ったとも」
ヌロは、銀髪の男性が醸し出す謎の圧力に狼狽えて答えた。
「おお! まさか・・・そんなことを言ってしまうのですね。兄上ぇ~。ならば、今すぐにでも病院に行かれたほうがよろしいかと思いますよ。兄上の目は腐っているのやもしれませんぞ。大変だこりゃ・・・」
男性はヌロの顔に近づいた。
腐っているぞその目はと、目を指さす。
「いやいや、病院にいかなくてもですね。医者は呼んだほうがよろしいかもしれませんぞ! 今すぐに目をお取り換えした方がよろしいですよ。絶対に………ええ、ええ。そんな節穴の目は今後のターク家にとってよろしくないことですぞ。スクナロ兄上のご迷惑となりましょうに。ほらほら、お早めに換えにいきましょうね、お帰りになられた方が良い。ヌロ兄上ぇ!」
ヌロを堂々と挑発をする男の名を。
ガルナズン帝国第六皇子「ジークハイド・ダーレー」
そして、またの名を。
風来の商人「ジーク」であった。
城の脇にある大きな会場で王族が主催する一大行事。
それが茶会。
王族と貴族と豪商が一堂に会するのである。
現皇帝以前は晩餐会などと呼ばれていた催し物だ。
帝国の王族又はそれに準ずる者が開催する茶会は、互いの親睦を深めたり、相手の現在の立ち位置を把握したりする場で、参加する各人には様々な目的がある。
皇帝は、王家のパワーバランスを探るため。
王家としては、貴族たちの管理を目的にして。
貴族らは、自分たちと親しくなる商人を探すために。
そして、商人らは得意の取引先を開拓するために参加するのである。
このようにして、茶会開催の理由と参加する理由は様々なのだ。
さらにこれらに加えて、帝国にはサナリア以外にも属国を持っているので、その国らをこの行事で監視するという役割も含まれている。
だからフュンは、たまたま茶会に出席できたのではなくて、この日までには必ず帝国に来るようにというお達しがあったのだ。
とりあえず、この場に間に合ってよかったと暢気に思うフュンはゼファーを連れてきていた。
「殿下。これは何とも、広い会場でありますね」
「そうですね。こんな広い場所はサナリアにはありませんね。特にあのサイズのステンドグラスとかはね。素晴らしいものばかりだ」
フュンは、大きく煌びやかなステンドグラスを指さした。
「たしかに見たことがないです。殿下、綺麗ですね」
「ええ。綺麗ですよね。来てよかったですね。ゼファー殿」
「…はい。殿下のおかげです」
珍しい物ばかりの会場で、二人がキョロキョロしていると後ろから声を掛けられる。
「あらぁ。あなたたちは初めて見る顔でございますわ。あれがそんなに珍しいとは、どこの田舎者なのかしら」
「ヒルダ、やめなさい。君たち、申し訳ない。この子は口が悪いのです。許してもらえると嬉しいです」
「な、タイロー。何を失礼な。私は口が悪くありません。思ったことが口に出るだけです」
「それをやめなさいと言っています」
黒の礼服に身を包んだタイローが、黒の手袋をしている手で、女の子の手を握りしめた。
彼女の口を塞ぐことが出来ないから、手で言葉を止めようとしていた。
気の強そうな女の子は、それでも止まらない。
なぜなら彼の手を振り払おうとしているからだ。
フュンは、二人に失礼のないように先に名乗り上げる。
「私はフュン・メイダルフィアと申します。辺境にあるサナリア王国の第一王子です。以後お見知りおきを」
「ああ。その名は噂のですね。では貴方があの田舎のボンクラ王子ですわね」
ゼファーがものすごい顔で威嚇しようとしたがフュンが彼の顔の前に手を出して止めた。
彼女とは違い、彼の方は大人しく引き下がる。
「こら。ヒルダ。君はまったく」
タイローはヒルダを叱責した後。
フュンに丁寧に頭を下げた。
「私はタイローです。タイロー・スカラと申します。あなたと同じ立場で、北の属国ラーゼ国からの人質であります。同じ立場であるので仲良くしていただけると嬉しいです」
「あ、同じ立場で。そうですかぁ。ではタイローさん。こちらこそ、今後ともよろしくお願いします」
フュンも丁寧に頭を下げた。
「ほら。ヒルダも。君も同じでしょ」
「…いいわよ。やればいいんでしょ。私はヒルダ・シンドラ。南の属国シンドラ国の第二王女よ。タイローと私。そしてあなたは同じ立場。人質よ。でも私の国は田舎ではないし、私はボンクラな人間でもないわ。優秀だもの」
「君って人は・・・まったくもう。子供みたいに・・・」
彼女の態度が改まらず、タイローは頭を抱えた。
「あははは。ヒルダさん、よろしくお願いします」
「なに。今の会話であなたが笑う要素がどこにあったのよ」
「いや、ヒルダさんがあまりにも正直な方で面白いと思ったのですよ。笑ってしまい失礼しました」
フュンは満面の笑みで謝った。
「はぁ~。何を言っているの? どういう事よ。タイローわかる?」
「私にもわかりません。どういうことですか? フュン殿?」
フュンは真面目な顔になって答えた。
「僕は、瞳を見れば大体その人の心が分かるのです。なので、あなたの目を見れば、本当にあなたが言っていることに嘘がない事が分かります。あなたの根はとても良い人です。言葉は悪くても正直が一番であります。人質という立場で正直に生きられていて、僕は格好良いなと思ったのですよ」
「な!?」
驚いたヒルダは耳を真っ赤にして立ち去ろうとする。
かなりの照れ屋であった。
「あなたに言われなくてもそんなことわかってるわ。プン」
「あ。待ってくださいよ。ヒルダ。ごめんなさい。フュン殿、また」
「はい。また会いましょう。タイローさん!」
「ええ。失礼します」
タイローは、慌ててヒルダを追いかけた。
「殿下! あいつは失礼な奴ですよ。なぜお怒りにならないのですか」
「あははは。あれくらいでは怒りませんよ。それよりもゼファー殿。もう少し感情のコントロールをしましょうよ。冷静さは戦闘でも役立つはずですよ。自分を律しておくのです。いちいち怒っていたら冷静に物事を判断できなくなりますからね」
「は、はい。申し訳ありません殿下」
「いえいえ。そんなに恐縮しないでください。今の僕はね。全然ゼファー殿を怒ってませんよ。あなたが僕の為に怒ってくれようとしているのはもちろん分かっていますよ。そんなに僕はあなたから大切に思ってもらえて、僕としてはとっても嬉しいんです。ですけど、ゼファー殿も感情をコントロールしていって、こういう場所を冷静に乗り切りましょうって話をしたかっただけですよ。あははは」
「わ、わかりました」
優しいフュンはここでも怒らずにいる。
どんな時も感情はフラットに持っていこうとするのがフュンという男である。
これは母の教えを子供の頃から守っている証でもあった。
◇
茶会が中盤に差し掛かったあたりで、主催の挨拶が始まった。
此度の主催者はターク家の当主、第三皇子スクナロであったのだが。
茶会前にスクナロに緊急の用事が出来てしまったので、挨拶はヌロが代わりを務めることになった。
彼の挨拶は、順調なスタートをきって、中盤辺りまではとんとん拍子でよかったのだが、終盤で事件が起きた。
「それで、今回の人質は辺境のサナリア王国の第一王子フュン・メイダルフィアであります。こちらにどうぞ。田舎の王子」
「あ。はい。どうもです」
馬鹿にされていることは重々承知。
だけど、そこを気にしてはいけない。
フュンは、ここが半分は正式な場であることを理解している。
誰からも笑われておけば、上手く切り抜ける道があると、フュンは極めて冷静にヌロの隣に登壇した。
「どうですか。皆さん。今度の人質は、この田舎臭い匂いが取れない者ですよ。どうでしょう」
「「ははははは」」
だしに使われているな。
と思うフュンはヌロの隣で一緒になって笑っていた。
「よく笑っていられるな。何か言う事はないのか。貴様は」
ヌロの問いに、フュンは平気な顔で答える。
「え? そうですね。人質でありますが仲良くしてもらえると嬉しいですね。フュンです。みなさん、よろしくお願いします」
「な!? なに」
嫌がらせを受けても平然と挨拶が出来るフュンにヌロが驚く。
そしてその軽い挨拶で、ここの貴族らは笑い出した。
掴みは完璧だった。
見世物のようになっているフュンを見て、憤りを隠せぬほどに怒っているゼファー。
持っているグラスを叩き割ってこの場で全員殺して暴れ回ろうかと思ったが、フュンの顔を見たら全てが収まった。
冷静になれと言っていたのを思い出したのだ。
そもそも腹を立てているのは馬鹿にされ続けている当事者であろうと自分に良く言い聞かせて、心を落ち着かせていた。
でも、心の底は怒りには満ちている。
食いしばりすぎてゼファーの歯が折れそうなくらいになっていた。
「それでですね。皆さんもご存じの通り。こちらの人物はあの噂のボンクラで愚鈍な王子です。私はその片鱗を先程の謁見で見たのですよ。なんと、我らの皇帝陛下に謁見するのに、ボロボロのみすぼらしい格好で来ましてね。しかも農民の様に泥付きな恰好でしてね。それは酷いあり様でしたよ。それだけでも酷いのに、さらには遅刻までしましてね。失礼極まりない男です。皆さんも注意しましょうね。もしかしたら、皆さんとなにかを約束すれば、遅れてくるかもしれません・・・いえ。来ないかもしれませんぞ」
「「ははははは」」
惨めな思いをさせる為だけの演説。
陰湿ないじめでフュンは会場中の笑いものになる。
会場の雰囲気は完全にヌロの独壇場。
何も気にしないことで有名なフュンですら、この場にいたくないような空間を作り上げていく。
どのタイミングで会話に切り込んでいけば、これを終わらせることが出来るのか。
会話の流れを読むことに長けているフュンでも分からなかった。
そんな最悪の雰囲気の会場の扉が勢いよく開いた。
茶会に招いていた者の中で、最も来場しないであろうと言い切れる人物がこの場に現れたのである。
その人物はお気楽、道楽、気まぐれの男で、帝国の貴族の間でも最も有名な不真面目男だ。
歩くたびに揺れる銀のポニーテールの髪。
美しさが溢れる顔立ちの男性は、何故か邪悪な笑みを振りまきながら、フュンたちのそばまで歩いてきた。
「皆さん! 兄上が言う事がもし本当ならさぞ可笑しい話ですよね。ほんと、ほんと」
銀髪の男性は皆の方からヌロにも話しかけた。
「兄上。そちらの御仁をボンクラと称したのですか? 本当に? いや~。まさかね。どうでしょう、言いました?」
「…あ、ああ、言ったとも」
ヌロは、銀髪の男性が醸し出す謎の圧力に狼狽えて答えた。
「おお! まさか・・・そんなことを言ってしまうのですね。兄上ぇ~。ならば、今すぐにでも病院に行かれたほうがよろしいかと思いますよ。兄上の目は腐っているのやもしれませんぞ。大変だこりゃ・・・」
男性はヌロの顔に近づいた。
腐っているぞその目はと、目を指さす。
「いやいや、病院にいかなくてもですね。医者は呼んだほうがよろしいかもしれませんぞ! 今すぐに目をお取り換えした方がよろしいですよ。絶対に………ええ、ええ。そんな節穴の目は今後のターク家にとってよろしくないことですぞ。スクナロ兄上のご迷惑となりましょうに。ほらほら、お早めに換えにいきましょうね、お帰りになられた方が良い。ヌロ兄上ぇ!」
ヌロを堂々と挑発をする男の名を。
ガルナズン帝国第六皇子「ジークハイド・ダーレー」
そして、またの名を。
風来の商人「ジーク」であった。
131
お気に入りに追加
463
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる