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しおりを挟む「父上。どうか今一度お考え直しを……!」
「いいや、考えを変えるつもりはない。王位継承順位第1位は――イーサンに与える」
ウェンディにもう会いに来るなと言われた直後の、王宮の謁見の間。エリファレットは国王の前で跪き、頭を下げて懇願していた。
国王から告げられた言葉に、下唇を噛む。
(……ついにこの日が来たのか。クソっ……)
3人の王子は、イーサンが王太子になるという旨を伝えられた。イーサンはその意向に驚き、どうしてカーティスではなく自分なのかと目を見開いている。
問題を起こしたエリファレットから、第2王子に王位継承権を渡し、王太子に即位させるはずだった。しかし、国王は当初から、イーサンに王位を継がせる意思があったのだ。――なぜなら、イーサンこそ、この国で唯一の正統な王位継承者の血筋だから。
その事実はこの場で、国王とエリファレットしか知らない。
何も知らないカーティスが、なぜなのかと尋ねる。
「王妃を含め、そなたたちはイーサンを随分と軽んじて参ったな。……婚外子だからと」
「……ですが、国教において不貞は穢れとされます。イーサンが世に出るべきではなかったというのは……王家の総意です」
「では――世に出るべきではなかったのは、そなたたちの方ということになる。エリファレット、カーティス」
「……! 一体、それはどういう……」
国王は長い髭をしゃくりながら語った。なぜ国王が、周囲の反対を押し切ってまでイーサンを廃位せずに、王子としていたのか……。
「イーサンは不貞でできた子ではない。正統なこの国の王子だ。しかしそなたら2人は……私の子ではなく――死んだ王弟の子だ」
「ま、まさか、母上が不貞を犯したとでもおっしゃるのですか!?」
「ああ、そうだ」
国王と王妃ルゼットの間に、子どもができることはなかった。ルゼットには別の想い人がおり、国王を避けていたからだ。
その想い人、愛人が今は亡き王の弟だった。国王の子を産むのは拒んだのに、王弟の間に双子を授かった。それが、エリファレットとカーティスだった。
国王は、妃と弟が不義理を働いていたことを嘆いた。けれど、2人の名誉を守るために、双子を自分の子どもとして育てることにした。
しかし、ルゼットは悪びれもせずに長い間国王を避け続けた。正統な自分の血を引く世継ぎがほしかった国王は、ルゼットには言わずに第2妃を迎い入れた。第2妃はイーサンを授かったが、自分の子が王位を継ぐものと思っていたルゼットは、彼女が跡継ぎを授かったことに激昂した。
自分と王弟の子どもを王にしたいという野心があったルゼットは、第2妃に毒を盛って殺しかけた。しかし証拠が見つからず、ルゼットを処断することができなかったが、再び第2妃が狙われるかもしれないと危惧した国王は、第2妃を病死したことにして王宮の外に逃がして子を産ませた。
そして第2妃は、毒で体が弱っていたためか、イーサンを産んですぐに他界した。
「……では私は……娼婦の子ではなかったのですか」
「そうだ。そなたは……余と死んだ第2妃の子だ」
イーサンは隣で絶句している。
第2妃が死んだ数年後、イーサンは国王と娼婦の間にできた婚外子として王宮に連れ戻された。国王はルゼットからイーサンを守るために離宮に追いやり、ルゼットに息子が冷たく扱われることを黙認していた。
ルゼットは、イーサンが第2妃の子であることに気づいていた。しかし、王位継承順位1位は依然として自分の子どもにあったので油断し、殺さずに放任していたのだ。
エリファレットは固く拳を握り締めた。
(王位なんて誰が継ごうとどうでもいい。……俺はただ……あいつを守れたらそれで……)
エリファレットは何も知らないカーティスと違い、自分が半分偽物ということも、イーサンが正統な王位継承者ということも全て知っていた。だから、イーサンのことが気に食わなかったし、忌まわしい血を引く自分がのうのうと王座に据わることも嫌だった。
だから好き勝手生きて、自分以外の誰かに王位継承権が移ればいいと思っていた。
しかし、頭の中にラティーシナの姿が思い浮かんで、エリファレットは唇を引き結んだ。
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