【完結】私のことはお構いなく、姉とどうぞお幸せに

曽根原ツタ

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 正体を見破られたペリューシアは、エプロンを手に持ったまま立ち尽くす。

(どうしましょう。何か、うまい言い訳を考えなくては……ネロに叱られてしまうわ)

 ペリューシアだと口にすれば、身体が爆発するとロレッタに脅されている。
 それに、古代魔道具の回収が無事に終わるまで、入れ替わりのことは誰にも言わないように、とネロにも念押しされている。

 ペリューシアはあちらこちらに視線を泳がせて思案したあと、笑顔を取り繕う。

「嫌だわ。何をそんな、薮から棒に……。わたくしはどう見てもロレッタでしょう?」
「でも、ロレッタ様はそんなのんびりした口調でしゃべらないし、一人称も『わたくし』じゃない」
「う……」
「それにこのクッキーの模様。あたしが初めてペリューシアに作ってもらったクッキーの模様と全く同じだわ」
「ううっ……」

 ロゼの指摘に、ペリューシアの顔色がどんどん悪くなっていく。ただロゼやルーシャのことを喜ばせたいがためにしたことが、裏目に出たようだ。

 あわあわとうろたえるペリューシアに対し、今度はルーシャがたたみかける。

「それに……ロレッタ様は普段お菓子作りなどほとんどなさらない方でした。レシピも見ずに感覚だけで材料の量を調節するのは、慣れていないとできないはずです……!」
「…………」

 弁明の余地などなく、すっかり押し黙ってしまうペリューシア。するとルーシャは眉尻を下げ、心配した様子でこちらの両手を握ってきた。

「ねぇ、あなたはペリューシアなのでしょう……?」
「違う、わ」
「あまり……私たちを見くびらないでください。幼いころからずっと仲良くしてきたあなたを、私たちが見抜けないはずないではありませんか! こうしてお話しして、私は確信いたしました。あなたはロレッタ様の見た目をした――私の親友なのだと」
「!」

 彼女の真摯な眼差しに射抜かれ、ペリューシアは息を詰まらせた。

(ふたりが気づいてくれたことが、嬉しい。でも、ネロとの約束が……)

 浅はかだった自分を責めていると、ペリューシアの手を握るルーシャを、ロゼがそっと引き剥がす。ロゼはゆっくりと首を横に振り、ルーシャを諭すように言った。

「無理に言わせるのはやめよう。どうせ、あたしたちの中で結論も出てるんだし」
「……そうですね。ペリューシアにも、何か事情があるのでしょう」

 ロゼがこちらを見据える。

「言いたくないことは言わなくていい。ただ、これだけは覚えといてよ。あたしらはどんなときでも、あんたの味方だって。困ってるなら何でもするしさ」

 ロゼの隣で、ルーシャがうんうんと力強く頷いている。ふたりの思いにすっかり胸を打たれ、熱いものがこみ上げてきた。

(隠さなくてはいけないと分かってる。でも、このふたりになら……)

 ペリューシアはきゅっと唇を引き結び、ネロとの約束を破ってしまうことへの謝罪を心の中で唱える。
 そして、目に涙を浮かべながらロゼに思いきり抱きついた。

「わっ……!? ちょ、何……!?」
「……ありがとう、ありがとう、ロゼ」
「……うん。分かってるよ。泣き虫なのは相変わらずだね」

 彼女はペリューシアの頼りなさげな背中にそっと手を回す。そしてルーシャが、そんなふたりのことを包み込むようにして抱き締めた。

 ペリューシアはロゼの肩に顔を埋めながら、肩を震わせた。

(爆発してしまうかもしれないから、事情を口にすることはできないけれど、何も言わなくてもこのふたりはきっと、わたくしの味方でいてくれる)

 ふたりのことをぎゅっと力強く抱きしめたあと、ゆっくりと身体を離す。そして、唇を開いた。
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