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 ペリューシアとロレッタは一歳違いの姉妹だが、見た目も性格も真逆だった。

 ペリューシアは素朴な容姿をしているのに対し、ロレッタは誰もが息を飲むくらい華があって美しい。
 また、ペリューシアがおっとりしていて内向的なのに対し、ロレッタはせっかちで外交的だった。

 姉は勉強ができて、刺繍や馬術なども修めており、なんでもそつなくこなした。姉と比べればペリューシアは凡庸で、得意なことと言えばお菓子作りくらい。けれど姉は、完璧であるがゆえにプライドが高く、高慢で横柄。他人のことを見下し、自分が一番でないと気が済まない性格だった。

 そして、屋敷の中でペリューシアのことを虐げていた。

「あんたみたいな取り立てて褒めるようなところもない妹を持って恥ずかしいわ」
「みんな言うのよ。姉は美人なのに妹は冴えないって」
「あんたは私の引き立て役に過ぎないのよ。それなのに、どうして――」

 姉がこんなにもペリューシアを毛嫌いするのには、理由がある。

「――どうして、あたしじゃなくてあんたが、公爵家の後継者なのよ!?」

 それは彼女が、正妻ではなく――愛人の子だということ。どんなにペリューシアより優秀であっても、ラウリーン公爵家の後継者にはなれない。純粋な血を引く妹のペリューシアがいる限りは。

 そんな背景があって、ロレッタに度々馬鹿にされたり、嫌味を言われることがあった。

「後継問題はわたくしにはどうすることもできないけれど……せめて、お姉様の足を引っ張らないように気を付けるわ」

 ペリューシアは面倒事が苦手な平和主義者だった。
 だから、波風を立てないようにひどいことを言われても言い返さず、にこにこと笑って受け流していた。

 そんな姉妹は――同じ青年を好きになる。

 それが、当時公爵家の令息だったセドリックだった。三人は同じ王立学園に通っており、ペリューシアが一年生、ロレッタとセドリックは二年生だった。

 セドリックは容姿端麗、文武両道、おまけに性格まで良いということで、王立学園内で評判だった。多くの女子生徒たちが彼に憧憬の眼差しを送り、自分こそがその妻の座を掴もうと躍起になった。

「セドリック様はなんで素敵なのかしら……! あんな方と結婚できたらみんなに自慢できるわ。王立学園にいる娘の中だったら、あの方にふさわしいのはあたしくらいじゃない? ねぇ、ペリューシアもそう思うでしょう?」
「え、ええ。……お姉様とセドリック様はきっとお似合いになるわ」
「ふふ、当然ね」

 ペリューシアは対立を避けるために自分の恋心を隠し、姉のことを応援していた。しかし、セドリックが数多くいる乙女の中から選んだのは――ペリューシアだった。

 だが、セドリックがラウリーン公爵家の令嬢に求婚したことは、別に驚かれるようなことではなかった。

 王家の分家であり、歴史あるラウリーン公爵家には、跡継ぎとなる男子がおらず、公爵は婿養子を迎えることを切望していた。将来が決まっていない貴族令息からすれば、次期公爵の座は喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 なかなか父のお眼鏡にかなうに花婿候補が見つからない中、突如現れた――社交界での評判も良く有能なセドリックを、ラウリーン公爵家は歓迎した。ひとりを除いて。

「どうして……!? どうしてセドリック様がペリューシアを選んだのよ! あたしよりこの子なんかのどこがいいっていうの……!?」

 なんでもペリューシアより優秀だったロレッタは、初めて敗北感を味わい、ペリューシアのことを逆恨みした。姉の想い人を奪うのは忍びなかったので、縁談を辞退したいと父に相談したものの、彼は家督の存続のために積極的に縁談を推し進めたのだった。




 ◇◇◇




 ペリューシアは重い身体を引きずるように、自室へと戻った。自室……とはいっても、本来であればロレッタの部屋である。派手な装飾が施されていて、派手な調度品ばかりが並んでいる。控えめなペリューシアには落ち着かない部屋だ。

 ペリューシアが使っていた部屋は、身体を乗っ取ったロレッタが我が物顔で使っているため、入ることもできなくなっている。

 よろよろと鏡台の前まで歩き、そっと椅子を引いて腰を下ろす。鏡には、姉のロレッタの美貌が写っていた。

(お姉様はわたくしを羨むけれど……望んで後継者になった訳でもないし、セドリック様がわたくしを選んだのは――)

 遠い日の回想から意識を現実に引き戻したペリューシアは、鏡に映るロレッタの肌をそっと片手で撫でる。
 きめ細やかでシミもない、精巧な陶器のような肌。

「――単に、わたくしが扱いやすかったのと、公爵家の爵位を手に入れたかったから」

 ぽつりとそう呟いたのと、部屋の扉が開いたのは――ほぼ同時だった。


「ねぇ、身体を奪われて、家まで追い出されることになってどんな気分?」


 ばたんっと乱暴に開け放たれた扉の向こうに立っていたのは――ペリューシアの姿をしたロレッタだった。
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