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二章
〈33〉類は友を呼ぶ(1)
しおりを挟むアリーシャの編入を数日後に控えた日。ロベリアはユーリと学園内のカフェで食事をとっていた。
ロベリアが注文したのはブロッコリーとトマトのオイルパスタ。ガーリックと唐辛子の辛味に、トマトのさっぱりした酸味が絶妙な味わいだ。ユーリはというと、たっぷりのホイップクリームに、濃厚なベリーソース、更に雪のような粉砂糖がかかったふわふわの厚焼きパンケーキを頬張っている。
(甘いもの好きって……乙女みたいね)
半年の付き合いで、彼がかなりの甘党というのことが分かった。いかにも女子に好まれそうなメルヘンチックなカフェで、ロベリアに特大パフェを注文させ、彼一人で平らげたこともあった。
ユーリは丁寧な所作でパンケーキを口に運びながら、こちらに尋ねた。
「それで? アリーシャに会ってみてどうだった?」
「……はにかみ屋で物静かな、普通の女の子だったわ。とても、半年後に人を殺してしまうような人には見えなかった」
「そう。……心を患い、追い詰められた人っていうのは、いかようにも変貌するということだね」
「ええ。彼女、かなり感情を内に抑え込むタイプなの。今は私たちが敏感に理解してあげて、外に感情を表現できるようになればいいのだけれど」
アリーシャの性質を理解しているのはもちろん、小説『瑠璃色の妃』の知識によるものだ。
「大丈夫。少しずつ変わっていけるさ。ここは物語ではなく現実の世界なんだ。未来の可能性は一つでなく無数にある」
「そうね。焦らずゆっくり進めるわ。……ああ、そうだ。来月の休日にアリーシャさんとピクニックに行くことになったの」
「へぇ、凄いね」
「どこかいい場所知らない? せっかくなら素敵な場所に連れて行ってあげたいのだけれど、私、この辺りには詳しくなくて」
「それなら僕に任せて。一箇所いいところを知っている。イチョウ並木と、湖がある公園だ」
「イチョウなら、今の時期は綺麗でしょうね。湖畔のピクニックも素敵だわ。ありがとう、ユーリ様」
「どういたしまして」
ロベリアは、ピクニックの場所が決まり、すっかり良い気分だった。器用にパスタをフォークで巻いていると、彼が言う。
「……君はどうして、そんなに他人のために尽くせる? 普通はそうそうできることじゃない」
「ただの気まぐれよ」
「……そっか」
ユーリはそれ以上深く聞いてこなかった。
(私は多分、他人より"苦しい"とか"辛い"という感情をよく知っている。誰も代わってくれなくて、一人きりで暗闇を彷徨う地獄を……。過去の人生の記憶が、今の私を突き動かしている。でも、過去は過去。改めて話すようなことでもないわ)
ロベリアは、決して聖人ではない。それでも、他人のために尽くさずにいられなくなったのは、前世が関係している。
人はきっと、どん底まで打ちのめされ、苦しみを味わって初めて、他人への慈悲の心が芽生えるものではないだろうか。苦しんでいる人の痛みが心から分かるからこそ、手を差し伸べられるのではないか。少なくとも、ロベリアの場合は――そうだった。
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