【完結】小公爵様、死亡フラグが立っています。

曽根原ツタ

文字の大きさ
上 下
33 / 51
二章

〈33〉類は友を呼ぶ(1)

しおりを挟む
 
 アリーシャの編入を数日後に控えた日。ロベリアはユーリと学園内のカフェで食事をとっていた。

 ロベリアが注文したのはブロッコリーとトマトのオイルパスタ。ガーリックと唐辛子の辛味に、トマトのさっぱりした酸味が絶妙な味わいだ。ユーリはというと、たっぷりのホイップクリームに、濃厚なベリーソース、更に雪のような粉砂糖がかかったふわふわの厚焼きパンケーキを頬張っている。

(甘いもの好きって……乙女みたいね)

 半年の付き合いで、彼がかなりの甘党というのことが分かった。いかにも女子に好まれそうなメルヘンチックなカフェで、ロベリアに特大パフェを注文させ、彼一人で平らげたこともあった。

 ユーリは丁寧な所作でパンケーキを口に運びながら、こちらに尋ねた。

「それで?   アリーシャに会ってみてどうだった?」
「……はにかみ屋で物静かな、普通の女の子だったわ。とても、半年後に人を殺してしまうような人には見えなかった」
「そう。……心を患い、追い詰められた人っていうのは、いかようにも変貌するということだね」
「ええ。彼女、かなり感情を内に抑え込むタイプなの。今は私たちが敏感に理解してあげて、外に感情を表現できるようになればいいのだけれど」

 アリーシャの性質を理解しているのはもちろん、小説『瑠璃色の妃』の知識によるものだ。

「大丈夫。少しずつ変わっていけるさ。ここは物語ではなく現実の世界なんだ。未来の可能性は一つでなく無数にある」
「そうね。焦らずゆっくり進めるわ。……ああ、そうだ。来月の休日にアリーシャさんとピクニックに行くことになったの」
「へぇ、凄いね」
「どこかいい場所知らない?   せっかくなら素敵な場所に連れて行ってあげたいのだけれど、私、この辺りには詳しくなくて」
「それなら僕に任せて。一箇所いいところを知っている。イチョウ並木と、湖がある公園だ」
「イチョウなら、今の時期は綺麗でしょうね。湖畔のピクニックも素敵だわ。ありがとう、ユーリ様」
「どういたしまして」

 ロベリアは、ピクニックの場所が決まり、すっかり良い気分だった。器用にパスタをフォークで巻いていると、彼が言う。

「……君はどうして、そんなに他人のために尽くせる?   普通はそうそうできることじゃない」
「ただの気まぐれよ」
「……そっか」

 ユーリはそれ以上深く聞いてこなかった。

(私は多分、他人より"苦しい"とか"辛い"という感情をよく知っている。誰も代わってくれなくて、一人きりで暗闇を彷徨う地獄を……。過去の人生の記憶が、今の私を突き動かしている。でも、過去は過去。改めて話すようなことでもないわ)

 ロベリアは、決して聖人ではない。それでも、他人のために尽くさずにいられなくなったのは、前世が関係している。

 人はきっと、どん底まで打ちのめされ、苦しみを味わって初めて、他人への慈悲の心が芽生えるものではないだろうか。苦しんでいる人の痛みが心から分かるからこそ、手を差し伸べられるのではないか。少なくとも、ロベリアの場合は――そうだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...