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二章

〈32〉アリーシャから見たロベリア(2)

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 ロベリアは優しい笑顔で、アリーシャのか細い声を受け取り、答えた。

「まぁ、素敵ね。最近は暑さも和らいで涼しくなってきたものね。体調に問題がなければ、よかったら私と一緒に行かない?」
「えっ……!   ロベリア様が、わざわざ私とですか……?   で、でも……お父様やお母様がお許しになりません。きっと」
「私も一緒にお願いするわ。私、上手いのよ?   土下座」
「土下座ですか……!?」

 まるで過去に何度かしてきたような口ぶりに困惑する。

「ふ。冗談よ。……とはいえ、ご両親もきっと、あなたがやりたいことを伝えたら、喜んでくださるわ」

 彼女はにこりと微笑み、手帳を取り出してスケジュールを確認し始めた。そして、カレンダーをこちらに見せながら言う。

「この辺りなら空いているんだけど、どうかしら?   返事はよく検討してからちょうだい。断ってくれても全然構わないから、気負わないでね」
「い、行きます……!   行きたいです、ロベリア様と、ピクニック……!」

 アリーシャが間髪入れずに前のめりになりながら答えると、彼女は少し驚き、けれどすぐに優しく目を細めた。

「ふふ、嬉しいわ。とても楽しみね」
「は、はい……!   ……あ、お姉様も、一緒に……」

 友人である姉を差し置いて、自分がロベリアと二人で外出していいはずがない。正直、姉とは反りが合わないし、一緒にいると自分らしく振る舞うことができない。しかし、ナターシャを蔑ろにするようなことはここではできないだろう。

「ううん、私は行かない。アリーシャちゃん、私がいると遠慮しちゃうでしょ?   これはアリーシャちゃんとロベリア様が親睦を深めるための機会なんだから」
「……お姉様」

 ナターシャなら、食い気味に話に乗るものとばかり思っていた。だから、引き下がる意を示した彼女が意外だった。ロベリアは、手帳を見ながら、あっ、と言った

「アリーシャさん、来週うちの学園に編入よね?」
「は、はい」
「そう。なら、ピクニックより先ね。学園であなたに会えるのを楽しみに待っているわ」
「…………」

 社会から隔絶された日々を過ごしてきたアリーシャは、編入に対して不安があった。アリーシャの学年は既に最終学年。人間関係はこれまでの期間ですっかり出来上がっているだろうし、きっと自分の居場所はどこにもない。

「大丈夫よ。アリーシャさん」
「……え?」
「不安はあるでしょうけど、私や私の友人たちが必ずあなたの力になるわ。期間はそう長くはないけれど、楽しい思い出を沢山作りましょう」
「……!」

 彼女の言葉に、鼻の奥がツンと痛くなる。かつて、こんな風に優しくしてくれた人がいただろうか。

(どうしてこのお方は、私の欲しい言葉ばかりくださるのでしょう。自分勝手で、いいところなしの私なんかにも、好意的にしてくださる……。人の感情の機微に聡くて、朗らかな方。……お姉様が言っていた通り、とても素敵なご令嬢です。……仲良くなれたら、きっと夢みたいに幸せでしょう)
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